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木村硝子店・木村祐太郎さんに聞く、楽しい焼酎のグラス選びのススメ

インタビュー

木村硝子店・木村祐太郎さんに聞く、楽しい焼酎のグラス選びのススメ

Text : Sawako Akune
Photo : SHOCHU NEXT

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焼酎ってどんなグラスで飲んでます? 飲食店で気をつけて見ていると、ぽってりとした陶器や、どっしり・しっかりのグラスなどが主流のようだけど、家にそうそうあるグラスでもないし、かといって買ったところで焼酎専用グラスになるのも場所をとるし。家飲みで何を使ったものか、ちょっと迷いませんか……? 

樽熟成タイプなら、ワイングラスで香りを感じながら飲むのも楽しい気はするけれど、お湯割りなら耐熱グラスかな、じゃあロックは、水割りは……? なんとなくそれっぽいのを選ぶものの、「これでいいのかな?」がいつも付きまとうんです。これはプロにお伺いすべし! と木村硝子店を訪ねました。 1910年創業で、自社デザインのグラスを国内外のガラス工場の職人との協働でつくり続ける木村硝子店。飲食店からも絶大の信頼を寄せられるこの老舗の四代目、木村祐太郎さんに話を伺います。

木村硝子店のラインナップから、焼酎だけでなく、さまざまな使い方ができそうな2種類をセレクト。左から、ワイングラスの「ベッロ」シリーズXMサイズ240ccとMサイズ155cc、「プラチナ」シリーズの9ozオールド、6ozオールド。

食事と楽しむお酒・焼酎ならではのグラスがいい

――焼酎はどんなグラスで飲むのがいいんだろうと、ぼんやりとした疑問を持ち続けているんです。最近ひとつあるのが、ワイングラスで飲むという提案。私たち「SHOCHU NEXT」でも、今っぽい食卓に合う飲み方として、ワイングラスで飲む焼酎の写真を撮ったりしているんですが……。

木村祐太郎(以下木村) 「ワイングラスで飲む」ことが特段前に出ちゃうのはどうなのかなあ。ワイングラスの業界が、とてもロジカルにこのワインならこのグラスといった形をつくり上げてしまったので、ほかのお酒の方々が憧れてしまうのは分かるんです。ワイングラスで飲むとスタイリッシュにも見えるのだろうし。たとえばソムリエの方などがテイスティングする時には、もちろんワイングラスは向いていると思います。でも、消費者の方が普段の暮らしで焼酎を飲むときは、ストレートよりは、水やソーダで割ることの方が多いんじゃないですか? 水割りをワイングラスで飲むと、水くささがボディの中に溜まってしまう気がする。僕は個人的には、香りを閉じ込めてしまうようなワイングラスよりは、小ぶりのグラスでシュッと飲むほうがいいんじゃないかな、なんて思ったりするんですよね。

日本酒界隈でも最近、ワイングラスで飲むのを薦めていたりするようです。でも、日本酒はワインと比べるとネガティブな香りが一気に出てくるので、果たして本当にワイングラスでいいのかな? と思う面もある。ひと口飲んでグラスの内側を日本酒が通る。それを置いたまま数分経つと、酢酸の香りがグラスの中に充満してくるんです。テイスティングとは違い、ちびちび時間をかけて飲むような、ごく普通の飲み方には、ワイングラスはあまり向いていない気がしますね。ぐい呑は、そういう意味では日本酒のありようによく合っている。

――おっといきなりパンチを食らってしまいました……! 焼酎はワイングラスに向いていない?

木村 うーん、すっと一口テイスティングするだけのソムリエの方ならば、味や香りを分解することもできるワイングラスで飲むのは楽でしょうけど、ワインのテイスティングのロジックが焼酎の良し悪しに必ずしもフィットするわけではないと思うんです。僕はむしろ懐疑的。何しろ焼酎は蒸留酒ですから、どういう風に飲んでもそこまで大きく状態が変化することはないと思うんですよね。無理にワイングラスに行くのとは違うアプローチはありえないのかな? たとえば焼酎は伝統的に陶器の「じょか」を用いて盃で飲むことが普通でしたよね。これは、早い時期の食器向けのガラス産業が未成熟で、ガラスの酒盃があまり存在していなかったためだと思います。今の技術でならばそれはできるので、「じょか」で焼酎を楽しむことを、ガラスという素材も検討しながらブラッシュアップして、新しい提案ができたら面白いかもしれませんね。

木村硝子店四代目・木村祐太郎さん。今回のインタビューには収録できなかったが、グラスの歴史にも本当に造詣が深い!

前のめりになって楽しく飲めるグラスで飲もう!

――なるほど、現代的な「じょか」や酒盃は気になります! でも焼酎の世界も、原料はもちろん、麹や酵母の違い、熟成の有無や方法などでかなり味わいの多様性があると思うんです。それぞれのお酒や、飲み方に合わせてグラスを変えられたりしたら楽しいかなとは思うのですが……。

木村 まさしくそこのところがまだ世間で整理されていないと思うんです。芋や麦、米などの原料の違いによる味わいに加えて、黄麹、白麹、黒麹など麹による味わいの違い、酵母による香りの違い、どういう熟成をするとそれらはどうなるのか……といったことが、ワインでいうならばピノ・ノワールとブルゴーニュ、ボルドー、ソーヴィニョン、シャルドネの違いといった感じに整理できるとして、かつそれが世間に共有されていれば、この焼酎にはこのグラス、というようなやり方がありうるのかもしれません。でも僕自身は、ワインも含めて、グラスは自分が前のめりで飲めるグラスであれば、それがいちばんおいしいと思うんですよね(笑)!

――えっ、ワインも含めてですか? 木村硝子店でも、相当な種類のワイングラスをつくっていますよね? 

木村 そうですね、ウチのワイングラスをご購入いただく方からも、リーデルロジック的な、どのブドウならどのグラスといった指標が欲しいというお問い合わせはかなりあるんです。でも、ウチが今さらそういう指標を提示したところで、リーデルの二番煎じでしかないし、ヨーロッパのようなワイン文化圏の会社でもないので、そこに興味はない。僕はそのお酒自体を飲みに飲んで好きになって、こういう風に飲みたい、ああいう風に飲みたいというのが出てきて、それをグラスのデザインに落とし込んでいくタイプです。赤ワイン用、白ワイン用とかいうつくり方は根本的にはしていないんですよね。自分が覚えておきたくてたとえばRD、WH、CHといった記号をつけることがあっても、手にした方がどう使ったって全くかまわない。ピノ・ノワールひとつとっても、銘柄やボトルによって、あるいはその日の温度や湿度によっても感じ方は全く違う。完全にこれが正解! というグラスはないと思うんですよ。

僕はどんなレストランに行っても、ほぼペアリングは断ります。ソムリエの方が言っているからおいしいんだろうと自分を納得させながら飲むよりは、同じ値段でちょっといいボトルを頼んだ方がよっぽど前のめりな気持ちで楽しめる。そして1本をじっくり飲みながら、グラスを変えてもらったりします。たとえば最初に出してもらったグラスとは違う、ちょっとふくよかな形のグラスで飲みたい、とか。

脚がなく、上に向かってやさしく開く有機的な形が特徴の「ベッロ」シリーズ。

日本人特有の味のつかみ方に合ったグラスとは

――グラスを変えながら飲む……?!  木村さんのグラスとの付き合い方自体がものすごく勉強になります。木村さんご自身がデザインなさった「ベッロ」シリーズは、木村硝子店のオンラインショップではワイングラスに分類されていますが、脚がなく、S、M、XM、Lというサイズ別の展開。とても興味深いグラスだなと思います。

木村 「ベッロ」シリーズは、日本人の味の感じ方はかなり独特だな、という思いが始めにあってデザインしたグラスです。お酒や水分などの飲み物以外の、お味噌汁やスープのような液体を、お皿に直接口をつけて飲むのって、先進国では基本的に日本だけ。欧米はもちろん、同じアジア圏であっても、中国や韓国ではスプーンを使います。だから、日本人は味のつかみ方が少し独特なのではないかと思ったんです。まず香り、というよりは、味をしっかり口の中に含んでから、辺りに漂う香りをふわっと感じるのではないかな? と。とはいえ、先が開いていて液面にかなり顔が近づくので、最初から香りを取れないわけじゃない。辺りに穏やかに漂う香りを楽しめるといいのかなと思ったりしながら考えた形です。飲み口を含めてどこにも角がないデザインなのは、この方が口の中にもツルツルツルって入ってくるんじゃないかなと。

――「ベッロ」シリーズは確かに、液面も広く、ふわりと漂う香りを楽しめるので、焼酎にもよさそうな気がします。大きさ違いで揃えて、たとえばS(60ccサイズ)ならストレートをキュッと。M(155ccサイズ)やXM(240ccサイズ)なら水割り、ソーダ割りにといった使い分けもできそう! スタッキングできるのも普段使いにはありがたいです。

木村 スタッキングできるのは、実はたまたまなんですけど(笑)。従来のワイングラスが脚つきで、飲むときに脚を持つのは、元をたどるとワインが、僕らアジア人より平均体温の高い欧米人の文化だったからこそ。1℃程度は彼らの方が体温が高いと言いますから、グラスに熱が伝わってテイスティングしている途中で味が変わったりするんですよね。でも僕自身は、普段の暮らしで楽しく飲むならば、温度が上がって味が変わっていくことをむしろ楽しんだ方がいいし、楽に持てるところを持った方がいいと思う。だから「ベッロ」には脚をつけていません。

「ベッロ」Mサイズ。お茶を飲むのにもよさそう。

お湯割りも好きなグラスで飲んでいい!

――脚がないことで日本の普段の食卓でも、肩肘はらずに楽しめるように思います。もうひとつ、焼酎に特徴的なのが“お湯割り”という飲み方です。どうしても陶器とか、お決まりの耐熱ガラスを使いがちで、もうちょっと違うものはないかなあと思っているのですが……。

木村 日本では家庭用品品質表示法で表示が義務づけられている「耐熱ガラス」。この表示のあるグラスだけが熱に耐えるという認識が根づいてしまっていますが、実はちょっと違うんです。ガラスは熱による膨張収縮が激しい素材。熱くなると膨張するため、ガラスが分厚いと割れることがあるけれど、とても薄いと膨張・収縮に耐えるほどの弾力性が出てくる。「耐熱ガラス」でなくとも、うまく付き合えば熱いものを入れることはできるし、僕らはお客様にはそう説明しています。気をつけなくてはいけないのは温度差なんですよ。温度差は50℃程度までと意識していただければ、実はたいていのグラスは100%割れることはありません。

木村硝子店のショールームでは、お客様にお茶を淹れる際、薄いグラスにポットから直接90℃のお湯を注ぎ、ティーバッグを入れます。このとき室温が15℃だとすると温度差が75度。普通ならば割れてしまう可能性が高いのですが、薄いガラスなので弾力性があり、その温度差に耐えうると考えられます。普通のガラスの場合は、これだけの温度差を一気に与えると壊れてしまう可能性が高いので、最初は熱い湯を10〜20滴くらい垂らすイメージで注ぎ、グラスがほどほどに温まったあとは普通に注いでしまえば問題ありません。

お茶に関しては、通常80℃ほどで淹れ、急須から注ぐときの温度は70℃を下回ると考えられます。ですので温度差は55℃程度。ゆっくり注ぐことを前提にすれば、どんなグラスを使っても、ほぼ問題ないと考えられる範囲の温度差なんですよ。

(ガラス先進国でもある)ヨーロッパだと、熱々のグラスに冷たいものを入れちゃだめ、冷たいグラスに熱いものを入れちゃだめというのは、誰でも必ず家で親から教わっている常識。日本でも、そういう付き合い方をしていただけるとうれしいですね。

――今日は木村さんが口を開く度に目からウロコの連続で……。何よりうれしいのは、「前のめりな気持ちになれる好きなグラスで飲め」というお言葉です。焼酎をいろいろ飲むうちに、逆に「ワイングラスでおしゃれに飲まなきゃ」という強迫観念にはまってしまいそうになっていたかもしれないです……。

木村 焼酎にとって、香りや味の要素を分解して飲むのが果たして正しいのかということも、考えた方がいいと思います。権威のある方が「このグラスで飲め」「あのグラスで飲め」と言わなくたって、お酒は好きだったらおいしいし、好きじゃなかったら飲まなければいいんだから。焼酎は特に、食事中に飲むお酒として定着しているし、その文化を続けていくならば、あんまり薀蓄に走らない方がいいと思いますね。そこに注ぐ中味があってこそグラス。コップ屋が言うなよという感じかもしれませんけど、正直コップなんて、穴さえ空いていなければなんでもいいんです。穴の一個ぐらいなら塞げるし(笑)!

グラスの老舗に伺うとあって、どんな焼酎をどんなグラスで飲むべし! というような厳しいご指南があるに違いないと思っていた私たちの目論見が、気持ちよく覆された木村硝子店・木村祐太郎さんのお話、いかがでしたか? 好きな酒を好きなグラスで飲めばうまい、全くその通り。感情移入できるグラスで飲むお酒はおいしいですよね……。ちなみに私は「ベッロ」S、M、XMと、「プラチナ」シリーズの9ozオールド、6ozオールドを自腹買いしました! 

自腹買いした私の“前のめりグラス”はこちら!


スタンダードなタンブラータイプの「プラチナ」シリーズの9ozオールド、6ozオールドは、映画を見たりしながら、お酒だけをじっくり飲みたい時に最適。底の部分の厚みもあって、樽熟成タイプの色がついた焼酎を注ぐときれいなんですよね……。ロックやストレートが気分です。
そして「ベッロ」は本当に万能! 焼酎だけでなく、ワインや日本酒、それから日々のお茶もその時々の好きなサイズで飲んでいます。サイズ違いを入れ子式にスタッキングすると、全然場所をとらないのもうれしい。朝から晩まで付き合えるグラスに出会いました。

グラス探しは「前のめり」をキーワードに! あなたのお気に入りのグラス、ぜひ見つけてみてください。


木村祐太郎 
Yutaro Kimura/木村硝子店代表取締役専務、グラスデザイナー・プランナー。木村硝子店の4代目。創業時より工場を持たないいメーカーとして、数々の自社デザインのグラスをつくる木村硝子店。オリジナルグラスの製造に加え、海外からも数々のアイテムをセレクト。

木村硝子店
東京都文京区湯島3-10-7
Tel: 03-3834-1782
オンラインショップ https://glas.jp

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