芋焼酎と一言でいっても、蔵や銘柄によって味わいはさまざま。その味の違いに大きく影響を与えるのが、原料のサツマイモだ。現在の芋焼酎で使われるサツマイモのタイプは大きく分けて4つ。白芋タイプ、紅芋タイプ、オレンジ芋タイプ、紫芋タイプで、それぞれの芋の色(品種)によって香りが異なる。これらを原料に醸造、蒸留することで生まれる原酒はその時点で風味のバリエーションが驚くほど違う。これが貯蔵・熟成の工程を経るとさらに変化する。芋の個性がさらに深まり、バランスのとれたまろやかで上質な酒質へと変化していくのだ。時が醸す魔法によってどのタイプがどんな香りを醸していくか……。知っておくと熟成焼酎の世界がさらに面白くなるはず!
芋焼酎の9割はこのサツマイモ! コガネセンガン。
コガネセンガン
市場に出回る芋焼酎の約90%の原料が、白っぽい果皮のコガネセンガン。芋焼酎=コガネセンガンになったのは1980年代のこと。芋焼酎の原料の安定生産を図るため、どんな芋が原料に適しているのかと焼酎蔵や行政が何度も議論を行って、数ある芋の品種からコガネセンガンに白羽の矢が立ったというわけ。1966年にでんぷんの原料として開発されたコガネセンガンは、でんぷん含有率が高いためにアルコール量がとりやすく、生産農家が多く安定した収穫量が見込めるのがその理由。多くの蔵が使っているからこそ、蔵の個性を知るうえでわかりやすい原料だともいわれる。
コガネセンガンを使った焼酎
(紫色は熟成焼酎)
- 〈天使の誘惑〉 鹿児島県・西酒造
- 〈萬膳〉 鹿児島県・万膳酒造
- 〈ちらんほたる〉 鹿児島県・知覧酒造
- 〈村尾〉 鹿児島県・村尾酒造
- 〈さつま白波〉 鹿児島県・薩摩酒造
など。
白芋
芋の表皮も果肉も白い。コガネセンガンもこのタイプだが、白芋らしい香りがさらにしっかり出るのが、主にジョイホワイトやダイチノユメ、サツママサリといった品種。なかでもジョイホワイトは1994年に芋焼酎の味のバリエーションを広げようと開発された焼酎専用芋だ。白芋はグレープフルーツのような柑橘やラベンダーのような花、青々とした草や青リンゴのような果実といった香りが特徴。これはリナロールと呼ばれる成分を多く含むためで、癒しの効果があるともされる。
白芋を使った焼酎
(紫色は熟成焼酎)
- 〈3年貯蔵 純芋〉 鹿児島県・国分酒造(サツママサリ)
- 〈貯蔵熟成 久耀〉 鹿児島県・種子島酒造(シロセンガン)
- 〈鶴見〉 鹿児島県・大石酒造(シロユタカ)
- 〈利八ジョイホワイト〉 鹿児島県・吉永酒造(ジョイホワイト)
- 〈夏のまんねん〉 宮崎県・渡邊酒造場(ダイチノユメ)
など。
紅芋
スーパーマーケットや青果店でいちばん目にするのがこのタイプだろう。果肉は白色や黄色だが果皮はが赤い紅芋。サツマイモの生産量の約40%以上を占め、加熱すると甘みが強くなるため食用(焼き芋)や製菓用として目にすることが多い。ベニハルカ、ベニアズマ、シルクスィートなど品種も多様だ。
紅芋はリンゴのような甘酸っぱさや洋梨のような華やかさ、ビスケットや干し芋の蜜のような深み、キャラメルのような香ばしさなどさまざま甘さを感じる品種。熟成によってこの複雑な甘みが増していく。ここ数年、紅芋の品種を使う蔵も多くなっている。
紅芋を使った焼酎
(紫色は熟成焼酎)
- 〈黒麹仕込松露〉 宮崎県・松露酒造(ミヤザキベニ)
- 〈池の露 紅はるか〉 熊本県・天草酒造(ベニハルカ)
- 〈杜氏潤平〉 宮崎県・小玉醸造(ミヤザキベニ)
- 〈軸屋 シルクスイート〉 鹿児島県・軸屋酒造(シルクスイート)
- 〈紅小牧〉 鹿児島県・小牧醸造(ベニサツマ)
など。
仕込み中も色鮮やか、オレンジ芋に紫芋。
オレンジ芋
アヤコマチ、ハマコマチ、タマアカネなど、果肉がニンジンのように鮮やかなオレンジ色をしているサツマイモ。二次仕込みの際のもろみの色は、かぼちゃスープ⁉︎ と見紛うような鮮やかな色になる。
香りも独特で、アールグレイの紅茶やバラ、マンゴーやアプリコットといったトロピカルフルーツ、ニンジン、オレンジピールなどを感じる。これはオレンジ芋だけに含まれるβ-イオノンという成分によるもの。ラベンダーやベルガモットなどにも含まれるリナロールや甘い成分のβ-ダマセノンも多く含み、これらが出会うことで甘酸っぱさとフローラルな香りが楽しめる味わいに。芋焼酎のなかでも特に華やかで、「芋っぽすぎるのが苦手……」という人にこそぜひ試してほしいところ。
オレンジ芋を使った焼酎
- 〈伊佐小町〉 鹿児島県・大口酒造(ハマコマチ)
- 〈千本桜 熟成 ハマコマチ〉 宮崎県・柳田酒造(ハマコマチを熟成)
- 〈茜霧島〉 宮崎県・霧島酒造(タマアカネ)
- 〈謳歌 タマアカネ〉 宮崎県・黒木本店(タマアカネ)
など。
紫芋
こちらの果肉もとても色鮮やか。ぶどうのような濃い紫色で、ブルーベリーに含まれるポリフェノールのひとつ、アントシアニン色素をたっぷり含む。焼酎の原料として使われるのはアヤムラサキやムラサキマツリ、パープルスイートロードなどで、もろみ段階ではさらに鮮やかなワインレッドの色となる。
サツマイモのなかでもこの紫芋だけが持つジアセチルという成分には、赤ワインやヨーグルトの香りを強くイメージさせるものがあり、梅やプラムといった酸味を感じることもある。
紫芋を使った焼酎
- 〈赤猿〉 鹿児島県・小正醸造(パープルスイートロード)
- 〈くじらのボトル 綾紫黒麹〉 鹿児島県・大海酒造(アヤムラサキ)
- 〈紫〉 鹿児島県・種子島酒造(種子島ムラサキ)
- 〈本格焼酎 正木〉 鹿児島県・知覧醸造(パープルスイートロード)
など。
番外編にして要注目!! 熟成した芋の可能性。
熟成芋
ここ数年、焼酎好き界隈で話題なのが“熟成芋”。蔵によって扱う芋の品種は異なるが、生の芋を、蔵それぞれの独自の方法で熟成・糖化させたもので仕込む。熟成した芋は香りも華やかで甘さも深い。香り成分にはモノテルペンアルコールのライチ系のものやβ-ダマセノン由来のオレンジやアプリコット、バナナ、純度100%のハチミツ系などがある。原料段階で熟成を取り入れた熟成芋は、今、黎明期を迎えている。これから各蔵の日々の研鑽に注目したい。
熟成芋を使った焼酎
- 〈つるし八千代伝〉鹿児島県・八千代伝酒造(ベニハルカ)
- 〈DAIYAME〉鹿児島県・濱田酒造
- 〈フラミンゴオレンジ〉鹿児島県・国分酒造(サツママサリ)
など。