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クラフトジンのブームから、熟成焼酎の未来を見る|蒸留酒のグローバルトレンド #01

コラム

クラフトジンのブームから、熟成焼酎の未来を見る|蒸留酒のグローバルトレンド #01

Text : Jason Morgan
Translation : SHOCHU NEXT
Photo : SHOCHU NEXT

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ジンの人気は今に始まったことではないけれど(なぜってジンは1600年代からあるわけだし)、現在の“クラフトジン”という特別な呼び名は、ごく最近出てきた流れ。単なるジンではなく“クラフトジン”が世界を席巻したのはなぜなのか? ブーム再燃について、ジンの歴史を振り返るところから考察してみます。そのストーリーには、世界を目指す焼酎にも生かせそうな点がいくつも見つかるはず。熊本市内でブック&クラフトビールバー『Voyager』を営み、日本のお酒にも精通するアメリカ出身のジェイソン・モーガンによる寄稿です。

ジンとジュネヴァ

ジンの起源は、オランダやベルギー辺りでつくられていた“ジュネヴァ”(Jenever, Genever)という蒸留酒まで遡る。ジュネヴァは、大麦やライ麦などの穀物のみを蒸留し、ジュニパーベリーやほかのボタニカルでフレーバーをつけたお酒。これが17世紀初めにイギリスへと伝わり、穀物に限らずさまざまな種類の蒸留酒を原料につくる「ジン」となった。そうしてこの「ジン」、税率の低い粗悪な銘柄が目立ち、これがロンドンの貧しい層に安酒として大人気に……。結果的にこの頃のジンは、アルコール中毒患者を多く輩出し、貧困地域の死亡率を引き上げたお酒という悪評を得てしまうのだ。この汚名はなんと未だに面影を残していて、たとえば“gin-soaked(ジンびたり)”という表現は、やっかいな酔っぱらいを表す言葉だ。

ジンとジュネヴァの興味深い違いがもう一点。ジンは基本的には熟成しないが、ジュネヴァはさまざまに熟成されていたことだ。木樽で熟成したジュネヴァは、ウッディなアロマとモルト感のあるフレーバーを伴い、まろやかな蒸留酒としてウイスキーとしばしば比較される。この点は熟成焼酎とも共通するのではないだろうか。

新興のクラフトジンメーカーが「ジュネヴァ」を生産することも珍しくない。写真は、ジュネヴァ発祥のスキーダム(オランダ)に拠点を構えるBOBBY’Sのジュネヴァ(右)とドライジン(左)。撮影協力:グローバル・ジン・ギャラリー

“クラフト”の誕生

それからジンは流行りすたりを繰り返し、ビーフイーターやボンベイサファイヤといった大手ブランドが市場を独占する数十年を経て、近年の再流行へとたどり着いた。とりわけ、小規模蒸留所を中心とした「クラフトジン」の市場の成長には目を見張るものがある。

ところで、そもそも「クラフトジン」とは何だろう? お酒を語る際の“クラフト”という単語は、1970~80年代のクラフトビールやマイクロブリュワリーのブームとともに広く使われるようになった。厳密な定義がないままの“クラフト”ビールは、基本的には小さな醸造所がつくる、素材や醸造法にこだわったビールを意味するものとして認識されてきた。当時世間に浸透していた大量生産のラガービールとの差別化も意図してのことだろう。

「クラフトジン」が指すのも、基本的にはこれと同様のこと。つまり、小規模な蒸留所が少量つくる、個性的あるいは珍しいボタニカルや、フレーバー豊かなベーススピリッツ、革新的な製造工程といったものが特徴のジンのことだ。一方でクラフトビールとの大きな違いもあって、クラフトビールの場合、大規模醸造所によるクラフトビールもどきの商品は不誠実な商品として相手にされなかったが、クラフトジンのファンの間では、タンカレー の〈マラッカ〉やサントリーの〈六〉など、比較的大手メーカーによる少数限定販売の商品も、高い評価を得ている(ときにはプレミアム価格で売られてすらいる!)。

東京・神田にある「グローバル・ジン・ギャラリー」は、世界各国の何百種類もの銘柄を扱うクラフトジン専門のリカーショップ。世界を席巻するクラフトジンブームを実感できるお店だ。撮影協力:グローバル・ジン・ギャラリー

クラフトジンの成長

クラフトジンのニーズの発端は、2000年代中ば頃のクラフトカクテルのブームだ。ブームを牽引したのは、19~20世紀初頭のクラシックカクテルの再発見に熱心な、世界中の若いバーテンダーたち。そういったクラシックカクテルには、オールド・トム・ジンやプリマス・ジンといった絶滅しかけていたジンが必要になる。カクテルが人気となることで、オールドスタイルのジンへの需要も新たに高まってきたというわけだ。一方ではバーテンダーたちが新しい素材やテクニックを駆使して昔のレシピにたどり着こうとする。その一方で、蒸留所は新しいボタニカルを使ったジンで彼らバーテンダーのニーズに応えようとした、というわけだ。その結果、ジンのバラエティは爆発的に広がり、ヘンドリクス、モンキー47、ボタニストといった新ブランドが誕生したり、プリマスやヘイマンズ・オールド・トムなどといった一時の弱小メーカーによるジンが世界中のバーに置かれるようになったりしていった。

私たちはいまジンの大量消費を目の当たりにしている。イギリスでは、2018年にジンの売上がウイスキーを大きく超え、その差はますます広がるばかりだ。

参考記事:
10年でウイスキーの市場規模を上回ったジン市場、急成長を支える「自由な製造環境」(DIAMOND SIGNAL)

クラフトジンにおけるトレンド

バーボンやウォッカ、ワインと比べると、ジンの定義はかなり緩い。基本的にはジュニパーベリーで香りづけした蒸留酒であればいいというだけ。これは、ベースのスピリッツとボタニカルの組み合わせが無限大であることを意味するし、さらにこれらのジンが熟成されれば、可能性はさらに広がるだろう。

中でも著しい成長を見せるのが、ほかでもない日本におけるジン市場だ。世界中から探しまわった外国産のハーブやスパイスをブレンドし個性的であることをアピールする他国のクラフトジンと違って、日本の蒸留所は緑茶(抹茶)、ショウガ、ゆず、山椒など、地元でとれる伝統的な素材で個性を出しているのが特徴といえる。

海外での大きな需要を初めに見出したのは京都蒸留所〈季の美〉。これがジャパニーズジンの道を切り拓き、サントリー〈六〉や本坊酒造の〈ワビジン〉など大手蒸留所が続いていく。ジャパニーズジンに共通する成功パターンは、焼酎をベーススピリッツとして使用し、〈KOMASA GIN〉や〈ヒナタジン〉のように、さらにもう一段階、個性的なレベルへ引き上げたものといえるだろう。

クラフトジンにおけるもう一つのトレンドが、熟成ジン。熟成したジンのバリエーションが増加傾向にあるのだ。いくつものクラフトジンの蒸留所が、ジンの先祖であるジュネヴァを手本にしながら、さまざまな種類の樽で熟成したジンに挑み始め、いくつかの面白い結果を出している。

たとえばウイスキーづくりも行うシカゴの蒸留所FEW。彼らの〈BARREL GIN〉というウイスキー色をしたジンは、アメリカンオークや古いウイスキー樽でジンを18カ月熟成させたものだ。こういった試みは大手蒸留所でも行われていて、ヘイマンズ社の〈Gently Rested Gin〉はスコッチウイスキーの樽で3カ月寝かせているし、ビーフィーター社の〈Burrough’s Reserve〉は、ボルドーワイン樽で寝かせているという。

ジャパニーズクラフトジンの代名詞となった京都蒸留所の〈季の美〉(写真中央)。撮影協力:グローバル・ジン・ギャラリー

熟成ジンと熟成焼酎を比較する

一見すると、熟成ジンと熟成焼酎にはとてもよく似た点があるのだが、背景にある文化や歴史は異なり、それぞれに異なった飲まれ方がある。もっとも大きな違いは、ジンはカクテルに使われるお酒として認識されているのに対し、焼酎はストレートか水割りで飲まれるのが大半という点だろうか。

しかしジンも、熟成することでウイスキーのようなフレーバーやアロマが備わり、ストレートやロックで楽しめる側面が強くなってくる。これとは逆に、樽熟成によってより強いフレーバーを得た熟成焼酎は、ほかのお酒と混ざることにも耐える個性を得る。ジンの代わりにカクテルに使って存在感を発揮することもできるはずだ。

本格焼酎は、熟成によって独特のフレーバーとアロマ、そして強い個性を持つようになる。熟成焼酎のこれからを考えるとき、だから、いろいろな飲み方を試してみるのもひとつの手ではないか? 既存のリキュールやスピリッツと自由にミックスしてみることで、きっと新しい発見につながり、世界の誰もが知る「ジントニック」のようなカクテルが見つかるかもしれない! その発見の種はもうすでに、どこかの蔵元の樽や甕・タンクの中に眠っているはずだ。


ジンの代わりに熟成焼酎をつかった、おすすめカクテルレシピ

最後に、ジンや熟成ジンを使ってつくるカクテルを参考にしながら、熟成焼酎を使ったカクテルレシピを2つほど考えてみた。

注意したいのは度数。ジンの一般的な度数は40~45度で、ネイビーストレングスジンという度数の高いカテゴリーのものは57度もある。かたや本格焼酎は、25~30度が一般的で、原酒でも約40度。この違いは、ジントニックやチューハイといったロングカクテルではさほど問題ではないが、マティーニやネグローニなどの強いカクテルでジンの代わりに25度の焼酎を使う場合は、水っぽくなったりバランスが崩れたりするので注意してほしい。

自分好みのコンビネーションを見つけるためにも、異なるタイプの熟成焼酎をいろいろと試してみることをお薦めしたい。

熟成焼酎のマルチネス

「マルチネス」は、ファンも多いマティーニの先祖ともいえるカクテル。マティーニは、オレンジビターズの代わりに、ドライベルモットを使用する。マルチネスで使うジンは、甘みのあるオールドトムジン。この代わりに熟成焼酎を使う場合、スイートベルモットとの相性がよさそうだ。

材料
熟成焼酎 45ml (アルコール度数40%前後)
スイートベルモット 45ml
マラスキーノリキュール 5ml
オレンジビターズ 2滴
レモンピール

つくり方
1 熟成焼酎、ベルモット、マラスキーノリキュール、オレンジビターズをミキシンググラスに入れる。
2 氷を加え、しっかりと冷えるまでかき混ぜる。
3 濾しながらグラスに注ぐ。
4 グラスの上でレモンの皮を絞り、皮はそのままグラスの中へ。

(熟成焼酎とスイートベルモットの割合は、自分の好みの味が見つかるまで試してみてほしい。いくつかのレシピでは、2:1を勧めているけど、伝統的なレシピは1:1の割合。)

熟成焼酎のトムチューハイ

いわゆる“チューハイ”は、ジンに砂糖を少し加えるトムコリンズと呼ばれるカクテルととてもよく似ている。このカクテルは、まろやかな熟成焼酎にレモンタルトのようなアクセントが加わって、焼酎の繊細なフレーバーを損なうことなく、飲みやすいカクテルとなっている。

材料
熟成焼酎 60ml もしくは原酒 45ml
ソーダ 90ml
レモンの絞り汁 15ml

つくり方
1 グラスいっぱいに氷を入れ、グラスが冷えるまでかき混ぜる。水が出たら捨てる。
2 熟成焼酎とレモンの絞り汁を入れ、しっかり冷えるまでかき混ぜる。
3 ソーダを慎重に注ぎ、ステアスプーンで上下に数回かき混ぜる。

(レモンのほかにも、ゆずやカボス、シークワーサーなど異なる柑橘類を試してみよう!)


撮影協力:
グローバル・ジン・ギャラリー
東京都千代田区神田紺屋町27 神崎ビル1階
13:00~22:00 不定休
http://www.gin-gallery.com/

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