クラフトスピリッツを再発見するWEBマガジン

ラベルから見る熟成焼酎 | 酒と法律 #01

コラム

ラベルから見る熟成焼酎 | 酒と法律 #01

Text : Atsuko Kudo
Illustration : Akemi Saito

  • Twitterでシェア
  • Facebookでシェア
  • Lineで送る

はじめまして。弁護士&弁理士の工藤温子(あつこ)と申します。お酒大好き、焼酎大好き、美味しい飲食でホッとするために、日々働いております。

さて、こちらのコラムでは法律の観点を絡めてわかりやすくお酒の世界を解説していきます。第1回は、本格焼酎に必ずついている「ラベル」を取り上げてみたいと思います。

まず、その前に、弁護士らしく身近な法律のお話を! 私たち日本人の一人一人にも、その成り立ちがわかる“ラベル”に似たものがありますよね……そう、戸籍です。実はこの戸籍、いくつかの種類があるのをご存知ですか? 皆さんが婚姻届を提出したり、パスポートを取得する際に役所に取りに行って出てくる戸籍は「現在戸籍」のこと。これとは少し異なり、出生から現在までの戸籍の変遷をたどれる「改製原戸籍」というものが存在します。この「改製原戸籍(はらこせき)」の出番が多いのは、相続が発生したとき。相続人を確定させるために取り寄せて、不動産の登記名義を変更したり、銀行の預貯金口座を解約したりするために必要なのです。そして、相続手続きの際に故人の「改製原戸籍」を見て、初めて隠し子がいたことが明らかになることも……。「あの真面目なお父さんがまさか!」と慌てて相続人を探し始める、なんてドラマのようなケースも、実際のご相談に少なくないのです。

おっと話がそれました。さて、みなさんが何気なく目にしている焼酎のラベル。ここにも実はたくさんの情報が詰まっています。少し法律の視点も含めながら、ラベルの世界を探検してみましょう!


そもそも焼酎って何だろう?

まずはじめに、そもそも焼酎って何でしょうか?酒税法という法律により、以下の二つが焼酎として定義づけられています。ちなみに、法律上では「焼酎」は「しょうちゅう」と表記されます。「酎」の字が常用漢字ではないからです。でもここでは、普段使われる「焼酎」と記載させていただきますね。

(1)連続式蒸留焼酎:連続式蒸留機で蒸留させ、アルコール度36%以下にしたもの

(2)単式蒸留焼酎:単式蒸留機で蒸留させ、アルコール度45%以下にしたもの

本来ラベルには、種類の種類(品目)として、「連続式蒸留焼酎」あるいは「単式蒸留焼酎」と表示するのですが、それに代わる表示も認められており、「連続式蒸留焼酎」であれば、たとえば「焼酎甲類」と表示できます。また、「単式蒸留焼酎」であれば、たとえば「焼酎乙類」、「本格焼酎」と表示できます。

酒税法改正前は、焼酎甲類、焼酎乙類という種類分けをしていたので、改正後もその名前を使えるように配慮しているのです。連続式蒸留焼酎は、その名の通りに連続して複数回蒸留する焼酎。蒸留を重ねて無味無臭の焼酎になり、居酒屋などで割りものとしてよく使われるのがこちら。レモンサワーを割るために使われたりします。一方の単式蒸留焼酎は一回きりの蒸留つくる焼酎。世界の蒸留酒を見ても、一回の蒸留で完成するお酒はなかなかないんです! 原材料の風味が残る、味わい深いものが多くなります。

「本格焼酎」「スピリッツ」「リキュール」の違い

さてそれでは、皆さんのお手元に焼酎があれば、ちょっとご覧ください。「本格焼酎」と書かれたものがありますか? 実はこの「本格焼酎」の文字、一定の条件を満たさなければ表示することができません。単式蒸留焼酎のうち、砂糖等の添加物が少ないもの等 に限り、「本格焼酎」を名乗ることができます。こちらについても、酒税法によって規定されています(酒税法第3条第10号イからホまでに掲げるものにあっては「本格焼酎」と表示することができる)。
ちなみに「スピリッツ」とは、清酒からウイスキー類までのいずれにも該当しない酒類でエキス分が2%未満のものを指します。英語で蒸留酒を“Spirits”とも言いますからちょっと紛らわしいですよね……。

さらに種別としてあるのが「リキュール類」。こちらは、酒類と糖類等を原料とした酒類のうち、エキス分が2%以上のものを指します。焼酎に梅を漬け込んだ梅酒の銘柄も、このリキュールとして販売されるケースが多いですね。 熟成焼酎の場合、熟成によってついた美しい色を抜きたくないという銘柄で、2%以上の食物繊維(味に変化をもたらさない)を添加し、あえて「リキュール」にすることで、色がついたまま出荷するという手段をとることもあります。こちらの色については、いろいろな議論もあるようで、また次回以降にお話しできればと思います。

熟成焼酎に肝心な「古酒」、「長期貯蔵」とは

焼酎のラベルには、表示が義務づけられているものがあります。たとえば、製造業者、アルコール度数、酒類の種類(品目)、原材料などです。

一方で、義務づけられていないものの、表示を認められているものもあります。「古酒」や「長期貯蔵」といった表示がそれ。ウリとなりうる項目を、条件を満たせば表示してよいというわけです。その表示条件は、表示に関する公正競争規約によって定められています。公正競争規約(正式には、景品表示法第31条に基づく協定又は規約)とは、景品表示法第31条の規定により、公正取引委員会及び消費者庁長官の認定を受けて、事業者や事業者団体が表示又は景品類に関する事項について自主的に設定する業界のルールです。つまり厳密には法律ではないのですが、法律を適用するために、実用的にわかりやすく示したルールといえます。

「長期貯蔵」とは、3年以上貯蔵したものがブレンド後の総量の50%を占めるものをいいます。泡盛で表示のある「古酒」とは、全量を3年以上貯蔵したもの。以前は、3年以上熟成させた泡盛が、全量の50%を超えていれば「古酒」と表記してよいことになっていましたが、平成25年10月10日に「泡盛の表示に関する公正競争規約」の一部改正が行われ、平成27年8月1日より、泡盛の「古酒」表示について、このような規定になりました。なお「泡盛」は、沖縄県の伝統的な焼酎。黒麹菌でつくる米麹のみを原料としているため、香味成分が多く濃醇な味わいがあります。

義務表示「原材料」から分かること

原材料はラベルの義務表示。ここからもいろいろな情報が読み取れます。

まず、「本格焼酎」を名乗るためには、穀類(米、麦など)、芋類、清酒粕、黒糖以外には、以下の49種類のみが原料として認められています。

1あしたば、2あずき、3あまちゃづる、4アロエ、5ウーロン茶、6梅の種、7えのきたけ、8おたねにんじん、9かぼちゃ、10牛乳、11ぎんなん、12くず粉、13くまざさ、14くり、15グリーンピース、16こならの実、17ごま、18こんぶ、19サフラン、20サボテン、21しいたけ、22しそ、23大根、24脱脂粉乳、25たまねぎ、26つのまた、27つるつる、28とちのきの実、29トマト、30なつめやしの実、31にんじん、32ねぎ、33のり、34ピーマン、35ひしの実、36ひまわりの種、37ふきのとう、38べにばな、39ホエイパウダー、40ほていあおい、41またたび、42抹茶、43まてばしいの実、44ゆりね、45よもぎ、46落花生、47緑茶、48れんこん、49わかめ
 
ちなみに、原材料に使用できないものには、麦芽などの発芽させた穀類(ウィスキーと区別するため)、果実(ブランデーと区別するため)、砂糖、ハチミツなどの含糖物質(ラムと区別するため)などがあります。

どうですか? ラベルの世界、楽しいでしょう? 酒屋さんでラベルとにらめっこしながら味を想像したくなりますよね!
今日のご案内はラベルでした。まだまだこちらは入り口ですので、焼酎の奥深い世界へ次回もご一緒できたらと思います。
ここまでお読みいただいて、本当にありがとうございました♬

Share

  • Twitterでシェア
  • Facebookでシェア
  • Lineで送る