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米国による容量規制緩和が実現。一升瓶が世界に⁉

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米国による容量規制緩和が実現。一升瓶が世界に⁉

Text & Photo : SHOCHU NEXT

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暗い一年の終わりに届いたうれしい知らせ

暗く悲しいニュースの続いた2020年の暮れも暮れ、もう人々が年越しそばやお年玉のことを考えている頃。SHOCHU NEXTの編集長から、グループチャットに、興奮気味のメッセージが入ってきました。涙マークにびっくりマーク、絵文字を多用した少々読みづらいその内容は、「焼酎の規制緩和が叶い、アメリカで焼酎がたくさん売れるようになる」とのことでした。海外の酒税法や輸入規制に疎い編集スタッフが詳しく尋ねると(無知の人の質問は世界を分かりやすくするのが世の常です)、「アメリカでも焼酎の一升瓶を堂々と売ることができるようになった」と。……。だから、どういうことですか?

国内で使っているボトルのままで輸出が可能に

国内では見慣れた一升瓶(1800ml)や四合瓶(720ml)の焼酎ボトル。実はあれ、世界では自由に販売できないサイズであることをご存知でしょうか? 各国では、蒸留酒輸入の際に容量についての規制が設けられています。日本の国内品を輸出する際には、それぞれの地域で指定されている容量に詰め替えなくてはいけないというわけです。

アメリカの場合、これまで流通が認められていたのは50ml、100ml、200ml、375ml、750ml、900ml、1L、1.75Lの8種類。これが今回の規制緩和によって新たに700ml、720ml、900ml、1.8Lの4種類が認められたのです。

元々認められてた1.75Lと750mlなら一升瓶や四合瓶の容量に近いじゃん、そんなに大騒ぎすること? と思うかもしれません(実際に僕もそうでした)。でも、このわずかな分量の違いのためにボトルを変更しなくてはならないのが肝。そう、ボトルをつくるのにコストとリスクがつきまとうのです。

ひとつの銘柄を年間に何十万、何百万本と生産する蔵はほとんどありません。それぞれの銘柄のためにオリジナルのボトルをつくって見合う量をつくることは皆無といっていいため、多くの場合、焼酎ボトルは既製品のバリエーションから選ばれています。そのバリエーションのなかに、海外向けの規格外のボトルもないことはないのですが、種類が少ないためにオリジナリティは出しにくい。さらに、イレギュラーなだけに国内サイズに比べて高くつくこともあります。つまるところ家族経営・小規模の蔵元からしてみれば、海外向けにオリジナルボトルをつくることは夢のまた夢、海外サイズの既製品に詰め替えるだけでも億劫になってしまうのです。

多くの焼酎メーカーにとっては、この容量規制は大きな悩みのタネのひとつでした。だからこそ、今回の規制緩和はとても明るいニュース。編集長のうれし涙もようやく合点がいきます。

SAKEに続け。焼酎の輸出に追い風

ちなみに、焼酎の海外輸出先としては、アメリカは全輸出量のうちのおよそ1/4を占める大得意先。2018年には対ヨーロッパでも同内容の規制緩和が行われましたが、今回はその衝撃を大きく上回ります。蔵元の皆さん、本当におめでとうございます!

さて。ここまで読んで、アメリカで一升瓶を見たことあるけどな、という読者もいらっしゃいますよね? 実はおっしゃる通り。この容量規制、そもそも日本酒には適用されていないのです。だから日本酒の銘柄は、日本で売っているほぼそのままの姿で海外へと渡っています。さすがのSAKEブランドですね。焼酎好きとしては、ずるいな日本酒と思ってしまいますが、清酒は醸造酒、焼酎は蒸留酒。全く異なるお酒なのですから、恨み言はやめておきましょう。

とはいえ、ひとつここで浮かび上がるのが、新たな課題。もしあなたがアメリカ人だとして。近所のリカーストアで一升瓶を見かけたらどう思うでしょう? きっと「SAKEが売ってるぜ」と思いませんか? それで、買って家で飲んでみて、SAKEじゃなかったらがっかりしますよね……。そんな懸念も抱いてしまうのです。焼酎や泡盛を、日本の蒸留酒として世界にアピールするのならば、容量以前に、蒸留酒らしいフォルムのボトルでのアピールも必要なのかもしれません。ワインやウイスキーにも、ひと目でわかるボトルのかたちというものがありますね。

よくよく考えると、今回の規制緩和はこれからの焼酎業界にとっての試金石のひとつにもなるのかもしれません。世界の酒類消費量が伸び、日本酒や日本産のワイン、ウイスキーなどが輸出量を伸ばす中、焼酎は10年以上も横ばいのまま。今回、大きな障壁のひとつが取り除かれたことで、待ったなしの状況へと近づきました。つくること、伝えること、何度も味わってもらうこと……。それぞれの現場が密接であることが現在は強く求められます。どのような焼酎が世界に羽ばたくのか、これからが楽しみです。

日本の酒類の海外輸出金額のグラフ(単位:億円)。2007年と2019年で清酒、ウイスキーともに飛躍的に伸びているが焼酎の輸出金額に変化はない。[出典:財務省貿易統計]©SHOCHU NEXT

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