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先入観を持たず、アジアのバーシーンで焼酎の突破口を探せ。バーオーナー・金高大輝さん|NEXT 焼酎人 #03

インタビュー

先入観を持たず、アジアのバーシーンで焼酎の突破口を探せ。バーオーナー・金高大輝さん|NEXT 焼酎人 #03

Text : Sawako Akune

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好調な経済を背景に、欧米とアジアのハブとしてどんどん発展しているシンガポール。ナイトライフの選択肢の豊富さと楽しさはつとに有名で、バーシーンもとても華やか。ファッショナブルな若者たちにも、バーでカクテルを嗜む習慣が根づいている様子だ。そのバーシーンを牽引する一人が日本人なのを知っているだろうか? 本格焼酎の未来を切り拓く鍵を持つ人々=”NEXT SHOCHU”人を訪ねる連載の第3回は金高大輝さん。

銀座のバーで修行した後に中国で独立。2014年にシンガポールに開いたバー「D.Bespoke」が、2021年まで6年連続で“Asia’s 50 Best Bar”にてノミネートされるなど、アジア全体のシーンを引っ張る人物だ。実は金高さん、2018年にレコードとカクテル、そして日本の焼酎をテーマにしたバー「RPM by D.Bespoke」をシンガポールにオープン。球磨焼酎の蔵元もしばしば訪ね歩くなど、本格焼酎への知識も相当に深い。シンガポールで、アジアで、焼酎はどのように飲まれているのか、これから何を目指していくべきなのか……? オンラインでインタビューを行った。

シンガポールの「RPM by D.Bespoke」。金高さんがコレクションしてきたレコードの音楽を楽しみながら焼酎が進む! 写真提供:RPM by D.Bespoke

シンガポールの若者が焼酎カクテルを楽しむレコードバー

はじめまして! まずは読者のためにも自己紹介をお願いできますか。今いらっしゃるバーについても教えてください。

僕は銀座のオーセンティックバーで長く修行をした後、2008年に北京で独立しました。現在は拠点としているシンガポールのほか、北京とジャカルタで、合計5店舗のバーを展開しています。コロナウイルスの感染拡大もあって少し止めていたシンガポールでのもう1店舗と、ベトナムの店舗のプロジェクトがそろそろ動き始めそうなところです。今いるシンガポールの店舗は「RPM by D.Bespoke」。レコードが8000~9000枚ほどあるミュージックバーです。個人的に集めてきたレコードの置き場がなくなってきたので開いた、趣味の店でもありますね(笑)。お酒の中心は焼酎で、常時200~300銘柄を揃えています。

シンガポールといえばナイトライフがとても賑やかなイメージです。コロナウイルスの感染拡大で現在は少し様子が違うかもしれませんが、お客さんはどんな層が多いのでしょう?

僕がいつもいる「D.Bespoke」は30~50代の方が中心ですが、この「RPM by D.Bespoke」は20代が多いですね。どの店舗もお客様は圧倒的にローカルの方で、日本人のお客様はほとんどいないです。ここは初めて、カジュアルなお店をと思ってつくったお店。とはいえ約150㎡に25席程度なのでゆったりとしたつくりではあります。「D.Bespoke」はこの倍の面積でほぼ同じ席数ですから、さらにラグジュアスな印象だと思います。

写真提供:D.Bespoke

薦める側に知識と確信があれば、焼酎の魅力は伝わる

――金高さんは、修行をなさった銀座のバーはもちろん、これまでオープンされてきたバーでは主に洋酒を扱われてきたと思います。「RPM by D.Bespoke」であえて焼酎にスポットを当てたのはなぜですか?

ひとつには焼酎がほかのスピリッツより安いこと。原価を抑えることで、カクテルの値段も下げられるのがバーのコンセプトにも合います。そしてもちろん、僕自身が焼酎を元々好きだったのも大きいですね。僕が大学生の頃は焼酎ブームで、それこそ〈魔王〉〈村尾〉〈森伊蔵〉が“3M”なんて言われて、モテるお酒だった(笑)。ブームの後に生活に組み込まれていったワインのような道を、焼酎もたどっていくのかと思いきやそうはならず、当時の飲み手と一緒に年を重ねてすっかり“お父さんのお酒”になってしまって……。なんだか悲しいなあという気持ちがあるんです。カクテルにして提供したり、知識と熱意を持って提供すれば売れる、という確信はありました。

――焼酎だけで200~300銘柄とは相当な数です。どんな銘柄を揃えているんですか? 

幅広いですが米焼酎は相当数あります。コロナ以前は、球磨焼酎の蔵元を年に2~3回訪ねるほどで、知人も多いんです。芋焼酎や麦焼酎は、少なくとも日本国内の飲み手ならばある程度の知識やイメージがあるけど、米焼酎は、素材が同じ日本酒に押されてか、全く知られていないのが現状。でもうちのバーではとてもよく出ますよ! シンガポールの若いお客さんがよく飲んでくれています。

大石酒造場や高田酒造場の樽熟成ものはウイスキーを好きな層にもバシッとハマります。それから寿福酒造の〈武者返しや林酒造場の〈極楽〉などのような常圧蒸留のどっしりとした銘柄、またそれとは反対に、松下醸造所の〈最古蔵〉のような、減圧蒸留で吟醸香のある華やかな銘柄も人気ですね。

焼酎はカクテルにしても味のボリュームがしっかりと残るので、そこは強みだと思います。ほかについ最近海外用に発売された濵田酒造の〈DAIYAME 40〉や、国分酒造の〈フラミンゴ オレンジ〉など、いわゆるフルーティーな芋焼酎もよく出ています。

総じて、味がわかりやすいものがよく出るのかな。吟醸香の強いもの、しっかりと芋っぽいもの……と、違いを理解しながら飲んでいただけます。要は僕ら売る側が上手に薦めればいいんだとは思いますね。逆に薦め方が悪かったら、誰も飲まない。モノはいいのですから、売る側の人間が知識と確信を持って適切かつ魅力的に薦めれば飲まれるんですよ。

写真提供:RPM by D.Bespoke

水割り、ロックではなく、焼酎カクテルから入る

――バーにいらっしゃるシンガポールの若い層に、焼酎はどのくらい知られていますか? 

全然知らないですね。日本国内の方が想像している以上に知らない。今、各蔵元も、海外での認知度を高めるために努力されていますが、最初のうちは「本当に売れないものなんだ」と覚悟していないと、続かないと思います。イメージの上では韓国のソジュとの区別もついていない人がほとんど。だから僕らにしたって、ただ焼酎を集めただけでは売れないんですよ。知らないお酒にトライしてもらえるように、僕らはスペシャリティであるカクテルでまず入ってもらいたいと考えています。このバーはさらにレコードバーにすることで入りやすいですし。

カクテルは、スタンダードなものをベースに、使うスピリッツを焼酎に置き換えることが多いです。ギムレットやマティーニ、ネグローニといった普段飲んでいるカクテルとの違いが分かりやすいから。いきなり水割り、ロックではなくカクテルから入るのがいいと思います。

そうやって一度飲んでもらえると反応はいいんです。焼酎って面白いと思ってくださる。原料の種類の多さ、味わいのバラエティ……。「同じ焼酎なのにそれぞれでなぜこんなに味が違うんだ?!」という感想は多いです。興味がそこまでいけば、同じ米焼酎でも違うタイプを試してみたりと深堀りしてもらえますね。そうやって色々な興味を引き出すには、10本やそこら揃えているだけじゃなだめなんです。200、300と違う銘柄があってこそ、毎回初めて出会う焼酎がある、という状態になるのかなと。

写真提供:RPM by D.Bespoke

現状では日本国内にすら、そこまでの数の焼酎を揃えたバーは多くありません……。ましてカクテルで提供してくれるバーとなると、本当に片手の指で足りる程度ではないかと思います。

むしろ「日本だから」ないんでしょうね。日本人は日本のいいところを探すのが本当に苦手。伝統工芸にしても、いろんな技術にしてもそうで、海外で評価されて初めて気づくようなところがあります。それはかなりもったいないと僕自身は思うけれど。

同様に、日本のバーテンダーの多くが焼酎に興味を持っていないことが、焼酎を扱うバーがないことの最大の理由だと思います。「バックバーに日本の酒なんてありえない」という固定観念が邪魔をするのでしょうね。でも国内でインバウンドを意識する時も、そして海外でバーテンダーとして勝負する時にも、焼酎を含めた日本のお酒を知っていることは大きな強みになる。

海外に出るバーテンダーは僕や後閑信吾くん(SG Group創立者)やゴトウ・ケンタ(NY「Bar Goto」オーナー)、Aki Eguchi(シンガポール Jigger &Ponyグループ所属)といった面々のあとについて、興味を持って活躍する若手がどんどん増えていくかと思っていましたが、一向に増えませんね。日本にいるよりは埋もれないし、評価を得やすいとは思うんですけど…。

諦めないとか、同じことをずっと続けて道を究めていく日本人らしいメンタリティは、海外で戦うときに大きな武器だと思うんです。そこに焼酎・日本酒の知識が加わればとても強い。でも、今すでに目端の効く海外のバーテンダーは、焼酎をカクテルに使い始めていますから、うかうかしている場合じゃないんだけどなあ(笑)。海外の若手の有名バーテンダーたちは、常に新しいお酒を探している。そういう状況は今も続いています。

写真提供:D.Bespoke

各都市のバーを攻略して海外での活路を見出す

――海外での焼酎の認知を高めよう、輸出に力を入れようという意識を持った蔵元が増えてきています。それぞれにいろんな試みをされていますが、金高さんからアドバイスはありますか?

そうですね…「国に頼るな」かな(笑)。もちろん最初の第一歩を踏み出すときに、国の助成金などはとても助かる。でも一年なら一年という期間で助成金は終わるし、その先をどうしていくかは完全に自分たちにかかってくる。一年で成果が出るとも限りませんし。

僕は個人的にはデパートの催事などはあまり意味がない気がしています。もちろん売り上げは上がるけれど、買いにくるのは現地の日本人の方が多いので認知度の向上には繋がりづらい。それから大きなメッセなどでやる展示会も疑問符ですね。出展にかなりのお金がかかるわりには、相応の集客が見込めないケースが多いのではないかな。共同ブースの中で埋もれてしまったり、同じ日本のお酒でも、より有名な日本酒のブースにお客さんが流れていってしまったり…(笑)。焼酎の場合、それよりはバーを攻めた方がいいと思います。現地の有名バーテンダーにコンタクトをとって、焼酎を使ったカクテルを出すセミナーをやってもらうとか。

バーならば、お酒を薦める人間に知識があって、そのお酒を売るつもりがあれば、必ず飲んでもらえます。そこを意識したコミュニケーションをとってみるといいのではないでしょうか。カクテルベースとしての伸び代はまだまだあると思いますよ。

そのためにも蔵元の方々は、一度海外のバーで焼酎が並んでいる様子を見てみるのはいいかもしれません。おそらく、まだまだ海外で認知を高まるとはどういうことか、海外のバーに並ぶってどんな感じかといった実感が、作り手自身にないんだと思うんです。実際に、何本かでも焼酎を置いているバーは海外の各都市に出てきていますから、それを見てある種の成功体験を得るといい。どういうバーテンダーがバックバーに置いているか、それを飲むのはどういうお客さんなのかを見てみることで、意識がかなり変わると思います。

そうやってバーを狙うとなれば、現地のディストリビューターが今までのところだけでいいか、といった課題にも気づくはずです。既存の代理店の多くは、現地の日本食店や居酒屋が主な卸先です。レストランに強いディストリビューターと、バーに強いディストリビューターははっきりと分かれます。これまでのディストリビューターだけでいいのか、改めて判断する必要もあると思います。

焼酎の世界展開はまだまだスタート地点よりずっと前のところにある。そのことは認識しつつ、強みを適切な方法で適切な場所に発揮していってほしいと願います。


写真提供:D.Bespoke

かねたか・だいき/ バーテンダー。銀座で修行の後2008年北京で独立。2014年よりシンガポールに拠点を移し「D.Bespoke」を立ち上げ。“日本以上に日本らしいBAR”をコンセプトにして、日本の伝統工芸の職人、レストラン、ファッションブランド、ミュージシャンなどの他業種とのコラボレーションを数々手がけ続ける。「D.Bespoke」は2021年までAsia’s 50 Best Bar にて6年連続ノミネート。2017年にはジャカルタに「D.Classic」を立ち上げる。2018年にはライフワークでもあるレコード収集が高じて“Vinyl  × Cocktail × Japanese Shochu ”をコンセプトとした「RPM by D.Bespoke」を開店。コロナ終息後にはまた違った角度から新たなBAR空間を表現する試みとして「Next to Silence 」をオープン予定。

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