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熟成焼酎カクテルの世界へようこそ。|ミクソロジスト・南雲主于三インタビュー

インタビュー

熟成焼酎カクテルの世界へようこそ。|ミクソロジスト・南雲主于三インタビュー

Text : SHOCHU NEXT
Photo : Kosuke Tamura, Yoshikazu Shiraki, SHOCHU NEXT

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さて質問です。焼酎を使ったカクテルといえば? ……酎ハイ、お茶割り、それから、梅干しを入れた水割り……? “カクテル”と言い切るにはちょっと覚束ない、連続式蒸留焼酎(いわゆる甲類焼酎)を使ったそれら数種類しか出てこないとしたら、これからのお酒シーンに乗り遅れることになる。そう思わせるのが、現在都内に5つのバーを展開するミクソロジスト・南雲主于三(なぐもしゅうぞう)さんの動きだ。南雲さんといえば、フルーツやハーブなどフレッシュな素材をスピリッツなどと組み合わせてカクテルをつくる「ミクソロジー」が、まだ全く日本に浸透していなかった頃からミクソロジストの肩書きを背負って、人々の心に刻まれるカクテルの数々を提供してきた人物。その彼が、数年前から着目するのが本格焼酎や泡盛だ。現在経営するバーのひとつ、銀座「PLUSTOKYO」内にある「MIXOLOGY SPIRITS BANG(K) 」には、本格焼酎や泡盛のほか、ジン、ウィスキーなど国産のスピリッツだけが並ぶ。焼酎を使ったカクテルのバリエーションと美しさ、そして味わいにただ驚かされるばかりだ。

その南雲さんに、私たち「SHOCHU NEXT」が依頼したのは、ほかでもない熟成焼酎を使ったカクテルの考案。15の蔵元から集めた個性豊かな熟成焼酎を使って焼酎の可能性を切り開いてほしい! 無茶ぶりともいえるそんなリクエストに応えて、南雲さんが見せてくれた世界は想像以上にワクワクさせてくれるもの。15種の熟成焼酎カクテルは、今後このサイト内とYouTubeチャンネルで詳しく紹介していく予定だ。

熟成焼酎は世界の蒸留酒のなかでどんな立ち位置にあるのか、トップバーテンダーとして熟成焼酎のどこに可能性を感じるか……。連載スタートにあたって、まずは南雲さんにロングインタビューを敢行した。


南雲さんの経営するバーのひとつ虎ノ門「memento mori」にて。SHOCHU NEXTのYouTubeチャンネルでは、熟成焼酎のテイスティングの様子も公開する。

日本のカルチャーとしてのクラフトスピリッツ=焼酎を伝える

南雲さんは「MIXOLOGY SPIRITS BANG(K) 」を始めとするご自身のバーで本格焼酎や泡盛を扱っていたり、宮崎の本格焼酎の蔵元とバーがコラボする「MIX UP SHOCHU」をプロデュースしたりと、焼酎関連の動きがとても活発です。そもそも焼酎との出会いはいつ頃だったのですか?

もちろん以前にも、甲類乙類問わずいろいろな焼酎を飲んできましたが、仕事として本格的なきっかけがあったのは2017年。この年の初めにオープンした銀座の複合商業施設「GINZA SIX」に、茶葉を使ったカクテルを提供するバー「Mixology Salon」を出店したんです。その店が“和”をテーマにしていたこともあり、日本酒をもう少し勉強して日本酒を使ったカクテルをつくりたいと思っていたんですよね。それで同じ「GINZA SIX」内にある酒店「いまでや」さんに、日本酒について教えてほしいとお願いしたら、もちろん何でも教えるけれど、その代わりに本格焼酎のことで協力してほしいとご依頼をいただきまして(笑)。それで「いまでや」さんが主催するイベントで、焼酎カクテルを考えてふるまったのがそもそもの最初です。その時に考えたカクテル自体は、バーテンダーの世界からするとさほど目新しいものではなかったのですが、すごく反応がよかったんです。それで、ああつまり、これまでそれほどに焼酎を使ったカクテルがつくられてこなかったのだなと実感しました。ならばもっと勉強して、本格焼酎・泡盛をカクテルに使っていく道を考えてもいいのではないかと。

銀座「MIXOLOGY SPIRITS BANG(K) 」のバックバー。焼酎ボトルがずらりと並ぶ。

本格焼酎や泡盛についてとても深い知識をお持ちなので、もっと長く関わっているのかと思っていました! とはいえ、本格焼酎・泡盛をはじめ、ウイスキーやジンなど国産のスピリッツに特化したバー「MIXOLOGY SPIRITS BANG(K) 」がオープンしたのは2018年の末。そこから相当勉強されたんですね。

ええ、焼酎に関してはすごく幸運なご縁が続いたなと思います。「MIXOLOGY SPIRITS BANG(K) 」は、銀座の「PLUSTOKYO」内にあります。最先端の東京のカルチャーを発信していく場所にバーをというご依頼をいただいて、それならば日本のお酒カルチャーを発信できるバーがいいだろうと。それで日本の蒸留酒に特化したバーをつくったんです。そこからさらにどんどん学んでいき、2019年には自社で「CSC(Craft Japanese Spirits & Cocktail Convent)」という日本のクラフトスピリッツ=本各地焼酎のイベントの主催も始めました。海外のミクソロジストイベントによくある、セミナーと試飲会を同時に開催するスタイルで、初回は〈なかむら〉の中村酒造場、〈宝山〉の西酒造、〈豊永蔵〉の豊永酒造、〈泰明〉の藤居酒造など10蔵をお招きして開催。イベント後にはお越しいただいたすべての蔵を、お礼を兼ねて訪ねて回りました。そうやって実際の蔵元の現場のことや関わる人たちのお話を聞いて……と、機会が広がっていきました。これまでに、複数回訪れた蔵も含めて40蔵以上は回っているかと思います。

SHOCHU NEXTでは、南雲さんと南九州の6蔵を訪ねる旅にも出かけた。旅の様子は順次公開予定。写真は熊本県「寿福酒造場」にて。

カクテルベースとして扱いやすい焼酎、難しい焼酎

実際に現場まで足を運び、つくり手の方々とも対話を重ねてきているからこそ、蔵元からの信頼も厚いのですね。数々のカクテルを編み出すバーテンダーである南雲さんの目から見て、本格焼酎はどういうお酒ですか?

本格焼酎や泡盛を使ったカクテルについて研究を重ねてきて思うのは、まず、すべての焼酎がカクテルに向くわけではないということ。それから、単体では強いと思っていたフレーバーが、カクテルベースとするときには実は弱いというケースも多いんです。たとえば、芋焼酎は「くさい」とか「いや、だからこそ個性的でクセになる」といった言い方をされますが、カクテルベースとして考えると、実はそうでもないですね。むしろ芋は、焼酎のなかでいちばんデリケートで、味も香りも優しく繊細だと思います。逆にお酒としての強度が強いのは米・麦・胡麻焼酎辺り。たとえていうなら、芋焼酎は水彩画的、米・麦・胡麻焼酎の特に熟成したものは油絵。誰もが親しみのある欧米のカクテルはきわめて油絵的です。リキュールを含め、味が濃く、強く、しっかりとしている。絵の具同士が混ざってもそれぞれ個性が残ります。そういうカクテルに負けないのはやっぱり油彩画っぽい強さを持った焼酎ですね。油彩のパレットに水彩絵具を混ぜてもかき消されますよね? それと同じで、芋焼酎の個性を生かしながらカクテルにする時には、従来のカクテルづくりとは違う心づかいが必要だと感じました。

カクテルをつくる南雲さんの丁寧かつ素早い手際は、プロはもちろん、一般の視聴者にも発見が多いはず。

今回、「SHOCHU NEXT」のために、各地の蔵元の芋・麦・米・黒糖・胡麻の熟成焼酎15種を使ったカクテルをつくっていただきました。試作を重ねていただき、現場で調整をする場面があったりとたくさんの労力を割いていただきましたが、実際につくられてみていかがでしたか?

ジンにせよ、ウイスキーにせよ、世界には数えきれないほどの銘柄がありますよね? それぞれの銘柄ごとにカクテルをつくるなんて考えたことあります? 今回の「SHOCHU NEXT」さんからのご依頼はまさにそれなんですよ(笑)! ”本格焼酎”という大きな括りではなく、それぞれの熟成焼酎の味わいに合わせたつくり分けをせよ、というオーダーなので、正直言ってとても苦労しました! とはいえ、とても気づきが多く、楽しかったのも事実です。せっかくやるならば、プロの方にもヒントになるようなものにしたかったのですが、それを成し遂げられたかな、と。ほかの蒸留酒ではなく、熟成焼酎にしか出せない味わいや、原料による味の出方の違いなど、いろんなことを学べましたね。

ここだけの話、いちばん苦労したのってどの熟成焼酎ですか?

うーん、どれもそれなりに悩みましたが(笑)、泡盛の古酒は、まだまだ研究が必要かもなと感じます。芋焼酎と一緒で、泡盛の古酒は意外なほど味の骨格が優しいことを今回知りました。ただ飲みやすくしてしまうと泡盛ならではのカクテルにならなくなってしまうし、かといって個性を残しすぎたものでは、泡盛をそのまま飲んだ方がいいってことになる(笑)。今のところ個人的には、泡盛の古酒はバニラのような柔らかさと甘さを兼ね備えたお酒と定義してもいいかなと思っています。今回は、山川酒造の〈珊瑚礁 10年〉、宮里酒造所の〈春雨 5年〉など比較的ハイクラスの熟成古酒を使っていますが、あの辺りのレベルのものが使いやすいかもしれません。泡盛らしさは残しながら、カクテルの味わいもリッチになる。

熟成焼酎のポテンシャルを発揮するために、光量規制の見直しを!

私たち『SHOCHU NEXT』は今、特に熟成焼酎にフォーカスを当てて本格焼酎・泡盛の世界を掘り下げています。今回お使いいただいたのもすべて熟成焼酎ですが、焼酎の熟成の現状についてはどうお考えですか?

タンク熟成のものに関しては、タンクからの影響は最小限で、純粋に酒質内での変化なので、成分が水となじんでまろやかになっているという点に尽きます。熟成を重ねた先に新しい成分が出てくるということはほとんどないものの、4~5年熟成したもので、よいものがあるなと思います。焼酎にとっていちばん古い貯蔵方法である甕の場合はもう少し期間長く、15~16年辺りまでは甕から出てくるミネラル感が加わって、味が上がっていく気がします。

そして樽。今回も、樽熟成の焼酎で、とてもおいしいもの、面白いものがいくつかありました。でも樽熟成の場合、熟成することでお酒の色が変わっていきます。ここで本格焼酎の光量規制の問題に直面してしまう。ごく簡単に言って、ウイスキーなどと間違えてしまわないように、本格焼酎は色がついていてはいけない、という酒税法上の規制ですが、僕個人は、こんな規制は絶対に撤廃すべきと思いますね。

この規制があるために、各蔵元はいろんな策をとっています。ある蔵元は商品化する際に濾過して色を抜く、ある蔵元は色は保つかわりに微量の添加物を加えて「リキュール」として販売する……。もちろんそれぞれのお考えはあるでしょうし、どれが正解とも一概には思いません。ただ、僕はどうしても、色素を抜くことでやはり香りと味は落ちると思うんです。光量規制が撤廃されれば、焼酎や泡盛はもっとポテンシャルを発揮できるし、世界の蒸留酒と戦っていくならば、むしろなくさないとだめ。ここはぜひ、蔵元の方も含めてどんどん議論していきたいところです。

焼酎の熟成に求めることやアドバイスがあれば教えてほしいです!

これまで主流だったタンクと甕はお手のもの、という感じがありますが、樽熟成に関してはまだまだ伸びしろを感じます。それからブレンドについても、もっと可能性があると思います。現状では、多くて数種類、同じ蔵元の焼酎のブレンドというのが主流かと思いますが、世界の蒸留酒を見渡してみると、1200種類の原酒をブレンドしているという〈レミーマルタン ルイ13世〉を例に挙げるまでもなく、数十種類のブレンドは普通。異なる蔵元の原酒をブレンドしたり、いろんなことができそうですよね。

日本の蒸留酒を世界に伝えることは、日本のバーテンダーのミッション

世界のお酒を知る南雲さんが、本格焼酎・泡盛をどう評価するのか。蔵元の方も興味津々だと思います。つくり手の方々に何かメッセージを!

国内の販路拡大が重要なのは昔も今も当然のことですが、よりマーケットの大きい世界に目を向けざるを得ない局面にきていると思います。だから、日本の蒸留酒=本格焼酎・泡盛をつくっている方々には、ぜひ世界の蒸留酒のつくりの現場をたくさん見ていただきたいですね。コニャック、オー・ド・ヴィ、バーボン、シングルモルト、ジン……。それらの蒸留酒も、未だ進化の過程にあります。技術やトレンドはどんどん進化しているので、どんな方向へ進んでいるのか、常にアンテナを張ってチェックした方がいい。欲をいうなら、蒸留所同士で情報交換できたらいいですよね。同じ蒸留酒をつくるもの同士、技術や情報はトレードできますから。焼酎の世界を飛び出して、フラットな視点で焼酎を振り返ったら、きっと新しい発見があるはずです。

最後にもうひとつ。南雲さんの熟成焼酎カクテルを知って、焼酎を使ってみようかなと思うバーテンダーの方々がさらに増えるといいなと思うんです。焼酎をより深く知りたいと考える同業者の方にアドバイスはありますか?

僕は初めて本格的に焼酎に触れたとき、自分は日本のミクソロジストなのだから、日本の蒸留酒について知らないのはあまりに恥ずかしいよなと思ったんです。ジンやウイスキー、コニャックには詳しいけれど、自国の蒸留酒を紹介できないのでは話にならないと。焼酎の世界、つくりの現場はどんどん進化しています。もし、昔のイメージで焼酎に苦手意識があるとしたらとてももったいないですよ。今の本格焼酎・泡盛の世界は本当に面白いですから。バーテンダーは、自分の国でつくられている蒸留酒のアンバサダーになれる。僕らにはそういうミッションがあるんだと思ってもらえたら、とてもうれしいです。

南雲主于三
Shuzo Nagumo/1980年生まれ。創造性の高いカクテルを生みだす、バーシーンを牽引するミクソロジスト。「memento mori」「Mixology Akasaka」をはじめとする店舗経営のほか、プロモーション企画、コンサルティングなど幅広く活躍する。『ザ・ミクソロジー カクテル創作のメソッドとテクニック』(柴田書店)など、著書、共著も多数。


南雲主于三さんのカクテル連載
トップバーの提案。熟成焼酎でカクテルをつくる!
第1回目はこちら


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