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世界のバーに焼酎が並ぶ日のために。蒸留酒・焼酎は世界に何を伝えるべきなのか。|クリストファー・ペレグリニ:NEXT焼酎人 #01

インタビュー

世界のバーに焼酎が並ぶ日のために。蒸留酒・焼酎は世界に何を伝えるべきなのか。|クリストファー・ペレグリニ:NEXT焼酎人 #01

Text : Sawako Akune
Photo : SHOCHU NEXT

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「世界のすべてのバーに、ウイスキー、ジン、ウォッカと焼酎が並ぶ日が来てほしい!」。この人がそう言うと、その夢は近い将来に実現する気がしてくる。アメリカ生まれのクリストファー・ペレグリニさん。2002年から東京に住むこの人は、来日前は全く知らなかった本格焼酎と泡盛の世界に魅せられて、150あまりの蔵を訪問。外国人ではまれなことに焼酎きき酒師の資格を取得し、国内外で本格焼酎・泡盛関連のイベントを開催してきたほか、14年には『THE SHOCHU HANDBOOK』を上梓した人物だ。昨年からは本格焼酎・泡盛の輸出も始め、さらにギアアップして世界に焼酎を伝える彼の目に映る熟成焼酎とは、そして世界に伝える際の秘訣とは……? じっくりと話を聞いた。


2002年以来、日本にお住まいなんですね。そもそもはどんな経緯で来日されたんですか。

僕はアメリカの北東の端、バーモント州の生まれです。人口は全米で2番目に少ない州で、人より牛の数が多いほど。片田舎で生まれ育ちましたが、高校生の頃、本で学んだ方法で、家でビールをつくったんです。父が学校の校長をしていたので、見つかって大目玉をくらいその醸造はやめました(笑)。でもお酒をつくることに魅力を感じて、高校に行きながらクラフトビールの醸造所に弟子入りしたんです。「おいしいお酒をつくると人は喜んでくれるんだ!」と知ったのはその頃。大学はロンドンに行き、その後スペインや韓国にも住みました。2002年の来日は、当時のガールフレンドで現在の妻の意向。1年だけのつもりで来て、そこからずっと住んでいます。その大きな理由が本格焼酎と泡盛の出会いですね。

高校の時にクラフトビールの醸造所に弟子入り。全米でいちばん若い醸造家だったそう。

同じ蒸留酒でここまで多様性がある酒は、世界のどこにもない

元から本格焼酎や泡盛のことを知っていたんですか?

いえいえ。日本に興味はありましたが、知っていたのは“SAKE”、つまり清酒だけ。よく行く居酒屋の大将が、ある日「今日はこれ飲んでみな」って麦焼酎を出してくれたんです。その香りをかぎ、味わってみて、「なんだこれ!?」と。「これってSAKEじゃないですね?」と聞いたら「これが日本の蒸留酒の焼酎ってもんだ!」って。ニヤニヤしながら大将が次に出してくれたのが芋焼酎。またまた香りをかぎ、味わってみたらまるで違う。「……これは焼酎じゃないですね?」って言ったら「これも焼酎だ!」と(笑)。その後に黒糖焼酎、胡麻焼酎と飲ませてくれて、どれも香りも味わいもまるで違うのに驚いてしまった。同じ蒸留酒でここまで原料や味わい、香りなどに多様性があるものは、世界のどこにもない。それが強烈な体験すぎて、当時は全く日本語も話せなかったのにすぐに鹿児島に飛び、いくつかの蔵を見せていただきました。日本語を話せるように努力を始めたのもその頃から。本格焼酎と泡盛を学ぶためですよ!

全く知識のなかった外国の方をそこまで虜にする、蒸留酒としての焼酎の魅力って何だと思いますか?

重複しますが、味と香りの多様性がまずひとつ。これは間違いなく世界一ですね。それから、本格焼酎の単式蒸留による製造はものすごい技術だということ。ウイスキーやジン、メスカルなど、主な世界の蒸留酒は2回以上蒸留を行うのに対して、本格焼酎の場合、味を決める蒸留は1回きりの勝負ということですから。そこは僕にはとても面白いポイントです。さらに、テロワールがとても大切な蒸留酒であることも興味深い。そういうポイントに気づき始めると、奥が深すぎて勉強が全然終わらないんです。

クリストファーさんは、今では会社を立ち上げ、焼酎の輸出も手がけておられます。それ以前にも、焼酎のイベントやセミナーなどを国内外の各地で行っていますね。特に海外の方の反応ってどんなものですか?

本格焼酎の‘オタク’になって以来、このものすごい世界を伝えたいという気持ちが強くなりました。それで、知り合いや企業にお声がけをいただいて、海外でテイスティングイベントや本格焼酎セミナーを行ってきたんです。海外でテイスティングしてもらうと、たいていは僕と同じで「何これ!どこで買えるの?!」とおいしさに驚かれますね。SAKEを知っている人でもSHOCHUは全く知らないケースがほとんどで、「これは日本で最近つくるようになった蒸留酒?」と聞く方もいます。そういう人に「いやいや、500年以上前からつくらている伝統的なお酒だ」と話すとさらにびっくりされますよ。僕が大きなフラストレーションを感じるのは、たとえばアメリカでも、本格焼酎を語るべき人たちが誤情報を伝えていること。焼酎関連の記事を読んでいても誤解が多いし、販売店やバーテンダーでさえ質問されると「ショウチュウ? ウォッカみたいなものですよ」って平気で言っている。そういうのを聞くとゲンコツしたくなります(笑)

落ち着いてください(笑) その誤解には、日本側からの情報が足りないという側面もあるかもしれませんね。

まさしくそうですね。もちろん蔵元によって、割ける人員やお金に限りはあるでしょう。だからもっと大きな意味で「本格焼酎とは」「泡盛とは」を多言語で伝えるべきだと思います。その際に、地域ごとにターゲットを絞ったり、マーケティングの視点を持って、伝えるべきことを考えていくのがいいでしょうね。

焼酎の原料や製法、銘柄などを英語でわかりやすく詳細にまとめた『The Shochu Handbook』。
“Shochu is good 焼酎はおいしい”の缶バッジはオリジナル!

熟成で大切なのは、色ではなく、嘘をつかないこと

「Shochu Next」は、焼酎の世界展開を視野に入れたときに、熟成という語り口が欠かせないだろうという切り口からスタートしたメディアです。焼酎の熟成についてはどうお考えですか?

ウイスキーの文化が浸透している海外では、樽熟成がいちばん受け入れやすいでしょうね。日本の焼酎のシーンでも、樽に関していろんな試みが出てきているのは面白いけれど、ウイスキーと戦うとなったら、まだまだ上手にやっている蔵は少ないかもしれません。世界の蒸留酒を目指すならば、練習が必要だと思います。泡盛に多い甕熟成は、樽とはまた異なる魅力がある。その伝え方を考えられるといいですね。また、熟成焼酎を語るとき、光量規制の話、熟成の色をそのままに出せないという話は必ず出てくると思います。僕は実は、それが法律ならば仕方がないとも思っている。濾過して色を抜いたり、微量の原材料を加えてリキュールとして出したりと、各蔵がいろんな工夫をされていますが、大切なのは嘘をつかないこと。無理して色をつけたりしたら、そちらの方がダメです。必ず消費者にわかりますし、色がなくたっておいしいものはおいしい。実は、本格焼酎を世界に紹介する人間としては、メキシコの蒸留酒・メスカルが世界的に市民権を得はじめているのが、朗報なんです! あちらも透明~淡褐色の蒸留酒ですから。説明がしやすくなりました。

今日は2本のお気に入りの熟成焼酎を持ってきていただきました。おすすめの飲み方を教えてください。

とても迷いましたが、本格焼酎は天草酒造の芋焼酎の10年熟成〈池の露〉。泡盛は宮古島・多良川の〈琉球王朝〉です。芋焼酎は断然お湯割がお薦め。おいしい熟成焼酎は、ストレートか“ちょい水”もいいですね。度数にもよりますが、ほんの少しの水を加えるだけで香りがふわっと開く。でも、僕は実はだいたいお湯割で飲むんです。香りがいちばん出るし、体に優しいし。アルコール度数が半分くらいになるから、けっこう長く飲めるのもいい(笑)

クリストファーさんならではの熟成焼酎と料理のペアリングを教えてほしいです。

意外なくらいにアメリカっぽい食べものにも合うんですよ。自分でも本当にびっくりしたのは、POPEYES(ポパイズ)というアメリカのファストフードチェーンのフライドチキンと、米の常圧蒸留の熟成焼酎の相性!! すばらしいマリアージュです! それから、芋の水割りかロックには、ペパロニピザが合いますね。ペアリングについては、日本の居酒屋メニューだけじゃない可能性がかなりあると思います。

焼酎きき酒師でもあるクリストファーさんお薦めの熟成焼酎と泡盛。
本格焼酎と泡盛を、正しく海外に伝えてくれる架け橋のような人だ。

世界中の人に本格焼酎・泡盛のことを教えたい

『SHOCHU HANDBOOK』のような著書を出され、名実ともに世界と日本の架け橋になっているクリストファーさん。ご自身、焼酎ともに、未来をどう描いていますか?

僕は何より、世界のバーに本格焼酎と泡盛が並んでほしい! ウイスキー、ジン、ウォッカと並ぶべきだと思うんです。そのためにできることは何かなと考えてこれまでいろいろやってきて、現在ではビジネスとして輸出を手がけているのもその一環。ただ、本当のところ、父が教育者だったように、いちばんの情熱は“教える”ことにありますね。みんなにこの素晴らしいお酒を伝えたい、その思いが強いです。故郷では母も僕のことを応援してくれていて、バーモント州の酒屋で「焼酎ある?」って聞いて回っているんです(笑)。本格焼酎が世界に広まったら、相当喜んでくれるでしょうね!

Christopher Pellegrini
クリストファー・ペレグリニ/焼酎きき酒師。アメリカ・バーモント生まれ。日本の食文化を紹介するセミナー等で講師を務めるほか、インターネット番組のホスト、フードコンサルティング、オックスフォード大学出版局による「The Oxford Companion to Spirits and Cocktail」へ焼酎と泡盛について寄稿するなど、幅広く活躍する。著書に『The Shochu Handbook – An Introduction to Japan’s Indigenous Distilled Drink』(Telemachus Press, LLC)。
https://shochu.pro/

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