クラフトスピリッツを再発見するWEBマガジン

パラダイスのそばで時を重ねる焼酎|南雲主于三さんとめぐる熟成焼酎蔵元の旅「佐多宗二商店」編

蔵元

パラダイスのそばで時を重ねる焼酎|南雲主于三さんとめぐる熟成焼酎蔵元の旅「佐多宗二商店」編

Text : SHOCHU NEXT
Photo : Yoshikazu Shiraki

  • Twitterでシェア
  • Facebookでシェア
  • Lineで送る

太陽に照らされてきらきらと輝く、青く透明な海。そのむこうにはなだらかな稜線を描く“薩摩富士”開聞岳の姿が見える。美しい景色を見ているとやわらかな風が吹いてきて、とろとろと眠ってしまいそう……。ミクソロジスト・南雲主于三さんとめぐる南九州・蔵元の旅。この旅最後となる6蔵目は、パラダイスみたいなそんな景色のすぐそば。2つの半島に分かれている鹿児島県の、西側の薩摩半島の南端辺り、南九州市頴娃(えい)町の「佐多宗二商店」です。〈晴耕雨読〉〈不二才(ぶにせ)〉といった銘柄が知られるこの蔵では、どんなつくり、そしてどんな熟成をしているのでしょうか。


その美しい形から“薩摩富士”と称される開聞(かいもん)岳。

蒸留を突破口に、焼酎の未来を模索する

「佐多宗二商店さんはお持ちの蒸留器がほかの蔵とは全く違う。なかなかびっくりすると思いますよ!」と南雲さん。蔵を訪れるのはしばらくぶり。迎えてくださった代表取締役の佐多宗公さんとの再会にうれしそうに話す。

海のそばの抜けのいい敷地は、単線の線路をはさんで2箇所に分かれる。「本館に直接加熱蒸留器が5基、赤屋根製造所に間接加熱蒸留器が4基、あわせて9基が稼働しています」

蒸留器の“直接加熱”と“間接加熱”ってあまり聞き慣れない言葉。

多くの芋焼酎で伝統的に使われているのが直接加熱蒸留器です。これは、もろみに直接蒸気を入れて温めて蒸留する。芋焼酎のモロミは粘性が高くドロドロしているでしょう? だから蒸気で希釈しながら加熱しないともろみが焦げてしまうんですね。焼酎づくりの知恵から生まれた蒸留方法です。一方で間接加熱蒸留器は、もろみには直接蒸気を入れず、ちょうど鍋を火にかけるように、蒸留釜の外側を温めます。フルーツブランデーやグラッパなど、世界の蒸留酒の多くは、こちらの蒸留器を使っているんですよ」

本館にある直接加熱蒸留器。常圧減圧併用の蒸留器も1基見える。

面白いことに、直接加熱蒸留の場合はもろみに蒸気を吹き込むので、蒸留後のもろみは蒸気の分かさが増える。逆に間接加熱蒸留の場合、揮発したアルコールの分もろみの量は減るのだそう。

本館にある5基の直接加熱蒸留器は、焼酎の蔵元で見慣れた形。それを見学した後に、佐多さん、南雲さんと一緒に線路を越えて、赤屋根製造所へ向かう。その名の通り石造りの建物に赤い屋根が載る、印象的な外観の赤屋根製造所のドアが開くと……ぴっかぴかの……これが蒸留器?! 優雅な曲線を描く大きな釜が並んでいて、わあっ! と思わず声が出る。

グラッパをつくるイタリアの蒸留器2基を導入。蒸留釜が2つに分かれていて、揮発したアルコールが気体の状態で一緒になって冷却されて一つのアルコールになる。

「佐多宗二商店」には、イタリアのグラッパに使われる蒸留器、ドイツのアーノルド・ホルスタインにオーダーしたフルーツブランデー用の蒸留器、さらにフランス製のアランビック蒸留器があるのだそう。形も容量も、そこから生まれる酒質も全然違う。だから面白いのだと佐多さんは話す。

「元々うちは、〈角玉梅酒〉という梅酒を昔からつくっている蔵です。その梅酒に漬け込んだ梅の実を再利用するために、種ごと砕いたものをワイン酵母で発酵させ、それを蒸留した梅のスピリッツをつくるため、いろんな蒸留器を導入してみたのがスタートです。その後、ではこの蒸留器でちょっと芋焼酎をつくってみるかと蒸留してみたら、〈不二才〉と一緒のもろみなのに、全く違う香りと味わいの焼酎になった。それで自分たちがびっくりしたんです。蒸留によって全然酒質が変わるのだと実感しました。でも、ちょっと考えればそれは当然のことですよね。同じ料理だって、調理器具が違えば仕上がりのニュアンスは変わってくる。同じ煮込み料理でも圧力鍋で1時間煮込むのと、とろ火で6時間煮込むのでは違うし、同じ肉の部位でも、焼き方や時間で味は変わる。焼酎もそれと同じだ、と。私たちが蒸留が大切だと考えるのはそういうことです」

「佐多宗二商店」の定番銘柄〈不二才〉には、間接加熱蒸留器で蒸留した芋焼酎を24%ブレンドした〈XXIV(にじゅうよん)〉、70%ブレンドした〈LXX(ななじゅう)〉といった銘柄もラインナップする。蒸留にかける情熱が伝わってこないだろうか?

代表取締役の佐多宗公さん。
佐多宗二商店の代表銘柄、〈不二才〉と〈晴耕雨読〉。

原材料がとれた土へ、蒸留した焼酎を返して熟成する

「おそらく熟成もちょっと変わってると思いますよ」

佐多さんがそう話して次の建物のドアを開けてくれる……と、そこに広がるのは甕壷。白っぽい土が人の目の高さくらいまで盛られていて、そこに甕が埋め込まれた、ちょっと不思議な景色だ。

「芋焼酎のサツマイモは、鹿児島のシラス台地でつくられます。だから元に戻すんですよ」と佐多さん。シラス台地とは火山噴出物からなる台地。水はけがよく、やせた土壌だが、それが乾燥に強いサツマイモには最適で、鹿児島では古くからこの作物がつくられてきたというわけだ。

「たとえばブランデーの原料はブドウ。ブドウの木から生まれますよね。それを木の樽に貯蔵している。それと同じ考えで、芋焼酎はシラス台地で育まれた穀物が原料だから、シラスの中に寝かせようと。温度管理は特にしません。僕が酒づくりの師と仰いでいるのは、フルーツブランデーのつくり手のジャン・ポール・メッテという人物です。温度管理をするなと僕に言ってくれたのは彼。『蒸留酒は、季節ごとのゆっくりした温度変化によってよくなっていく。それを何回繰り返すかが肝なんだ』と教えてくれたんですよね」

シラス(火山灰)の中に甕壷を埋め込んで熟成。この方法を始めて約20年になる。
白っぽく細かい砂粒は、火山灰の堆積物ならでは。

 「佐多宗二商店」のある頴娃町は、日本の南とはいえ冬の間はぐっと気温が下がる。年間を通じて見ると5℃から40℃近いレンジで気温が変化するという。

「僕らは日本の南だからそんな感じ。たとえば北海道ならば-20℃から20℃くらいのレンジ。そこに逆らわないことこそが、その土地ごとの特徴を出す熟成の仕方ではないかと思っているんです。寒暖差=土地の特徴ですね。同じお酒を冷蔵庫で熟成してしまったら、鹿児島でも北海道でも同じお酒になってしまう。そうではなくて、その土地ごとの熟成がある方がいいと僕らは思うんです

「佐多宗二商店」が大切にする、熟成のテロワール

佐多さんの話に「なるほど!」と南雲さん。「熟成にもテロワールがあるという考えですね。それは本当に興味深い」

佐多さんが話す。

「熟成というのは気候と一体化していると思うんです。定温では絶対に土地の特徴が出ない。僕はそういうふうに教えられました」

焼酎ブームのときにも製品にせず、大切に熟成してきた原酒。

ずらりと並ぶ甕に眠る芋焼酎は、いちばん古いもので18年ほどの貯蔵。芋焼酎の熟成については、まだまだ未知の部分が多いと佐多さんは話す。

「毎年試飲をしていますが、15年くらいのところで、明らかに味のステージが上がります。味わいのまろやかさと香りの変化が1段ずつ上がる感覚ですね。そして18年を飲んでみると、またさらに上がっている。どこまで上がっていくのかはまだ検証しきれていないけれど、まだいくんじゃないかなと僕は思っています。25年くらいは行ってほしいなあ! そしてできれば、僕がいなくなってからも誰かがやってくれたらと思っていますね。20年ほど前、フランスでブランデーの蒸留所を訪ねたとき、『この液体の中には100年前の酒が入っているんだ』と言われて、強烈にロマンを感じたんです。そのときに熟成に挑戦したいと思い、すぐに始めて今に至ります」

スコッチやブランデーなど、多くの蒸留酒が、熟成年数で評価されていることに大きく影響を受けている、と佐多さん。焼酎にはまだまだその文化が定着していないが、状況が変わっていくことを期待しているという。「これから先、熟成した焼酎の価値が上がっていくかどうかは、僕たちがどんなものをつくっていくか次第。そのために、熟成によってどういう風に焼酎が変わっていくかを、まだまだ検証しないといけないなと思っています」

赤屋根製造所から見る景色。すぐそばに海があり、高い建物もない土地。うっとりするほど美しい夕陽が見えた。

佐多さんのお酒が飲みたい! 

ほかの蔵元ではなかなか採用されることのない間接加熱蒸留器を焼酎づくりにも生かしている「佐多宗二商店」。その味わいを試してみるのにぴったりなのが、定番銘柄〈不二才〉と、間接加熱蒸留器で蒸留した芋焼酎をそれぞれ24%、70%ブレンドした〈XXIV(にじゅうよん)〉と〈LXX(ななじゅう)〉。

同じ原料をどう“料理(蒸留)”するか、ブレンドするかで全く違う味わいを実現しているので、ぜひ試してみてほしい!

不二才
本格芋焼酎】
貯蔵 1年(ホーロータンク)
度数 25度
原材料 さつま芋(南薩産黄金千貫)・米麹(タイ米)
蒸留 直接加熱蒸留
XXIV
【本格芋焼酎】
貯蔵 1年(ホーロータンク)
度数 25度
原材料 さつま芋(南薩産黄金千貫)・米麹(タイ米)
蒸留 間接加熱蒸留器で蒸留した〈BUNISE〉を直接加熱蒸留器で蒸留した〈不二才〉に24%ブレンド
LXX
【本格芋焼酎】
貯蔵 1年(ホーロータンク)
度数 25度
原材料 さつま芋(南薩産黄金千貫)・米麹(タイ米)
蒸留 間接加熱蒸留器で蒸留した〈BUNISE〉を直接加熱蒸留器で蒸留した〈不二才〉に70%ブレンド。
佐多宗二商店
鹿児島県 南九州市 頴娃町 別府 4910 
TEL 0993-38-1121 
WEB http://www.satasouji-shouten.co.jp/index.html
創業 1908年創業
蔵見学 一般不可
ショップ なし

蔵見学の様子はYoutubeでも公開中!

Share

  • Twitterでシェア
  • Facebookでシェア
  • Lineで送る