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麦の熟成焼酎と「白身魚のカルパッチョ」|片岡護シェフのイタリアン&熟成焼酎ペアリング #04

レシピ・飲み方・食

麦の熟成焼酎と「白身魚のカルパッチョ」|片岡護シェフのイタリアン&熟成焼酎ペアリング #04

Text : Sawako Akune
Photo : Kosuke Tamura

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長年にわたって日本の料理界を牽引してきた「リストランテ アルポルト」のオーナーシェフ片岡護さんとの連載は、第4回となる今回でひと区切り。熟成焼酎とイタリアンのペアリングをご提案いただく合間に、焼酎のこと、イタリアのこと、食材や熟成の話……と、さまざまにお話しいただいてきました。締めくくりを飾るのは樽熟成した麦焼酎。上等のウイスキーにも負けない味わいの1本を、ぷりっぷりのお魚に合わせます。

本日の焼酎:大分・老松酒造の〈閻魔(樽)〉

インパクト大のラベルに負けない、麦の香り豊かな熟成焼酎。

薄い琥珀色の液体に真っ赤なラベル、墨字でどーんと「閻魔(えんま)」。一度見たら忘れられないインパクトのこちらの1本が、本日の片岡さんのセレクトです。

「今日の焼酎もおいしいよ~。すっきりめに仕上げた麦焼酎を、ホワイトオーク樽で寝かせていて、樽香が楽しめる」と片岡さん。そう、こちらの〈閻魔〉シリーズ、こちらの赤いラベルのもののほかに、黒ラベルの〈黒閻魔〉、緑ラベルの〈常圧閻魔〉とそれぞれに原材料や仕込み方、蒸留方法などの違いで味に個性があります。今日選んでいただいた〈赤閻魔〉は、減圧蒸留で味わいはすっきり。熟成によってまろやかさと樽の香りが加わっていて、〈閻魔〉シリーズの筆頭銘柄です。蔵元の老松酒造は、日田杉が知られる大分県日田市に1789年の創業。焼酎の蔵元のなかではかなり長い歴史をもつ蔵元ながら、挑戦的な銘柄も目立ちます。熟成にも早くから取組み、オーク樽による長期貯蔵銘柄も多数! 〈閻魔(樽)〉は彼らの樽貯蔵焼酎の代表格でもあるのです。

「飲みやすいけれどコクもある焼酎だから、あっさりとしていてうま味の強い白身魚が合いそうだなと思って、今日準備するのはカルパッチョ。いい鯛が入ってるんだよ!」

〈閻魔(樽)〉
【麦焼酎】
貯蔵 3年(樽)
度数 25度
原材料 麦・麦麹
蒸留 減圧

蔵元 老松酒造  WEB
所在地 大分県日田市

本日の料理:白身魚のカルパッチョ

目にもおいしい色鮮やかな一皿。野菜の使い方、勉強になりますよね。

さて今日もキッチンにお邪魔いたします! 色とりどりの葉物や調味料はすべて手が届くところに準備。「じゃあ始めましょうか」。いつもとっても朗らかな片岡さんがきりっと引き締まった顔になる瞬間です。

〈材料(4~5人前)〉

・白身魚 200g
・ニンジン 1/8本
・紅芯大根(スライス) 4枚
・むら芽 4本
・からし水菜(一口大) 3~4枚
・ルッコラセルバチコ(一口大) 3~4枚
・トレビス(一口大) 3~4枚
・チコリ(一口大) 4枚
・ラディッシュ 1個
・スプラウト 適量
・黄トマト 8個

・塩 適量
・レモン汁 少々
・シブレット 8本
・おさしみドレッシング* 大さじ2
・花穂じそ 4本

①サラダ野菜を準備する。紅芯大根は半分に切りスライス、ラディッシュは4等分。葉物は一口大に。

②白身魚は薄いそぎ切りにして、ラップをかけたバットに並べて塩少々をふり、レモン汁を回しかける。

③お皿に②を並べ、シブレットを小口切りにして散らし、おさしみドレッシングをかける。

④ボウルに①の野菜とニンジン、黄トマトを入れてフレンチドレッシングでしっかりと和える。

⑤ ③の上に④の野菜をふんわりと盛り、スプラウト、花穂をのせる。オリーブオイル(分量外)を少々かけてサーブ。

*おさしみドレッシング
〈材料 (約200ml分)〉


・粒マスタード 大さじ1
・醤油 大さじ1
・マスタード 少々
・レモン汁 少々
・フレンチドレッシング 200ml
・バルサミコ酢 少々

①ボウルに粒マスタードと醤油を溶き合わせ、マスタードとレモン汁を加えてよく混ぜる。

② ①にフレンチドレッシングを少しずつ加えてよく混ぜ合わせ、バルサミコ酢を加えて味を調える。

片岡さんの手元でどんどん美しい姿になっていく一皿。プロの手際のよさとスピード感に改めて驚かされているうちに、あっという間に完成。「おさしみドレッシングはまとめてつくって、蓋のできる容器に保存して。ほんの少しの醤油が全体を引き締めて、いろんなお魚に合うので重宝するはず。1週間くらいで食べ切れば大丈夫」

本日も試食タイム! プリプリの歯ごたえのお魚のうま味が、焼酎で増幅している?!

お魚に合わせるのはスパークリングでもなく軽めの白ワインでもなく、麦の熟成焼酎“赤閻魔”の水割り。 ほんの少しの醤油が二つをより滑らかに結びつけます。

美しい! ルッコラセルバチコにチコリ、パプリカにトマトに……と色も形もとりどりの野菜たちが踊る一皿です。

「熟成焼酎に合わせることを考えて、フレンチドレッシングにほんのすこし醤油を足した”おさしみドレッシング”を使ったり、仕上げにのせるハーブに花穂じそを使ったり。少しだけ和食のニュアンスを足しています。焼酎がもつ麹の味わいや、熟成したときの香りやコクに、醤油はそりゃあ合う。醤油は和食ばかりじゃなくて、イタリアンにも使ったらいいんだよ。いいマリアージュになるんだ」

〈閻魔(樽)〉は氷を入れたワイングラスで炭酸割り。お酒の強い人なら蔵元おすすめのロックもよさそうです。

さてと鯛の切り身と野菜を一緒にいただいて、焼酎をごくり……。ああおいしい♡ ぷりぷりのお魚や色とりどりの野菜たちの歯ごたえを、焼酎がまとめ上げる感じ。醤油はそこまで感じませんが、この一体感はたまらない!

普段から焼酎大好きというイタリアンの最重鎮。赤閻魔もお気に入りの1本になったよう!

片岡さん、4回に渡ってのペアリング、本当にありがとうございました。熟成焼酎のこれからに、何か思うことってありますか?

「今回いろいろに熟成焼酎を飲んでみて、焼酎を食事と一緒に楽しむ習慣がもっと世界に広がるといいなあと思いましたね。イタリアでもグラッパが食後酒なことからも分かるようにヨーロッパでは蒸留酒を食事と合わせて楽しむ習慣はあまりないけれど、焼酎の飲み方のなかでも特に水割り、炭酸割りは食中酒としていける。そこは積極的に啓蒙するべきだと思います。現代の食は、どんどん健康志向へと向いています。プリン体ゼロ糖分ゼロ、それでいてここまで味わい豊かな蒸留酒の存在を世界が知れば、まだまだ広がる余地があると思うなあ!」

最後に、片岡さんが40年間近くも同じ場所でレストランを続けてこられた秘訣をお聞きします。真摯においしいお酒をつくり続ける蔵の方々や、飲食店の方々にアドバイスはありますか?

「うーん、やっぱり究極のところはお客さんに喜んでもらいたいっていう気持ちだけだね。僕がアルポルトを開いた最初のうちは、イタリア料理屋は東京に10数軒しかなかったし、食材だって今のように何でも揃ったりはしなかったわけ。オリーブオイルもパスタも普通に手に入るのは数種類だったと思うよ(笑)。それでもやれることをやってきた。それから僕の個性である小皿で品数の多い出し方は、最初のうちは『あんなのはイタリアンじゃない』とかって批判されたけれど、それでもお客さんの喜んでくれる顔だけを信じて、ここまで続けてきたんです。

この連載では、たくさんの面白い熟成焼酎に出会いました。こういうお酒だってやっぱり、飲む人の顔を思い浮かべてつくっているんだなあと感じるね。これからどんなお酒をつくるんだろう? 今後の焼酎界にも期待してますよ!」

片岡護
Mamoru Kataoka|「リストランテ アルポルト」オーナーシェフ。1948年東京生まれ。国内外で料理修行の後、73年に帰国。代官山「小川軒」、南麻布「リストランテ マリーエ」料理長を経て83年「リストランテ アルポルト」をオープン。以降、TV・雑誌などで大活躍。日本にイタリアンを根づかせた立役者。

リストランテ アルポルト
東京都港区西麻布3-24-9
https://www.alporto.jp/

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