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SAKEの世界での成功に、焼酎は何を学ぶのか|「CINVE」日本事務局・松崎晴雄さんインタビュー

インタビュー

SAKEの世界での成功に、焼酎は何を学ぶのか|「CINVE」日本事務局・松崎晴雄さんインタビュー

Text & Photo : SHOCHU NEXT

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お酒の海外展開の弾みとなる、国際酒類コンペでの受賞。いくつかの銘柄が高い評価を受けたというニュースに加えて、フランス「Kura Master」や「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)」に焼酎部門が新設されたといった明るいニュースも散見されるようになってきた。

2007年からスペインで開催されている、政府公認の国際酒類コンクール「CINVE」もそのひとつ。ワインやスピリッツ、シードルのほかビネガー、オイル部門もあるこのコンペ、実は19年に日本酒・焼酎の各部門を新設している。

2021年度のコンペ結果がこの度発表。宮崎県・柳田酒造の〈青鹿毛〉が、焼酎部門の最高賞・GRAND GOLDに輝いた。コンペの結果、そしてスペインやEU圏での日本のお酒への評価について知るべく、この「CINVE」の日本事務局を務める、SAKE マーケティングハウスの代表・松崎晴雄さんに話を聞いた。

焼酎の魅力をよく表した〈青鹿毛〉をスペインはどう見たか

スペインの「CINVE」とはどのようなコンペなのでしょうか。

松崎晴雄 「CINVE」は”Competicion Internacional de Vino y Espirituoso”の訳。「国際ワイン&スピリッツ コンペティション」ですね。スペインは1国だけで見るとマーケットとしてはインパクトはそこまで大きくありません。しかしかつてスペインが宗主国だった中南米や、アメリカ南部のヒスパニック文化圏なども含めたスペイン語圏でみると、無視できない規模になってきます。コンペ名の通りにワインとスピリッツを主としたコンペでしたが、2019年に焼酎と清酒部門を新設。私はその年に清酒・焼酎部門の審査委員長を務めました。

審査員としての経験で驚いたのは、ジャーナリスト、ミシュランの星を獲得しているレストランのソムリエ、バーテンダー、プロモーターといった審査員たちの、清酒や焼酎に対する関心の高さと造詣の深さ。ワインについての研鑽を積んだソムリエたちの評価やコメントは、「ああこういう風に薦めれば伝わりやすいんだ!」と、私自身参考になることもたくさんありました。そのご縁があって、現在はこのコンペの日本の事務局を務めています。

スペイン料理と日本の料理は、素材の新鮮さを大切にする点など共通の特徴も多いですし、スペインの星つきレストランの中には、日本料理のエッセンスを取り入れたところも見られます。日本酒・焼酎をEU圏に広げていく際のいい拠点になる可能性を感じますね。

2021年9月18日〜19日にマドリッドのホテルで行われた「CINVE2021」の審査風景。

――「CINVE 2021」は、先頃マドリッドで審査会が開催され、結果が発表されました。焼酎部門では宮崎県の柳田酒造の本格麦焼酎〈青鹿毛〉がGRAND GOLDに輝いたほか、9銘柄がGOLDを受賞するという結果でした。受賞の顔ぶれをご覧になって、どんなことを感じますか?

松崎 GRAND GOLDの〈青鹿毛〉は香りからして香ばしい! 口に含むととろりとしたオイリーさがあって、かなりパンチのある飲み口だけど、後味はけっこう軽い。穀物の風味がしっかりと出ているのは常圧蒸留ならではでしょうか。アルコールだけがガツンとくるのではなく、味も香りも複層的ですね。本格焼酎の魅力がとてもよく出ていると思います。次点のGOLDまで見ていくと、鹿児島県・薩摩酒造の樽熟成麦焼酎〈天つ風〉、栃木県・西堀酒造の粕取り焼酎〈門外不出 粕取焼酎 せいろ蒸留〉など、原料もタイプも個性豊かです。個性の強い銘柄が多く、焼酎の多様性を知ってもらうにはとてもいい機会だったのではないかと思います。

宮崎県都城市・柳田酒造の〈青鹿毛〉。常圧蒸留で醸し出す、どっしりと奥深いコクと風味が特徴の、一度飲んだら忘れられなくなる1本!

――焼酎とは別に、スピリッツ部門では、鹿児島県・佐多宗二商店による、芋焼酎がベースになったジン〈赤屋根クラフトジン 春〉もGRAND GOLDを受賞しています。ピスコやオルホ(ぶどう粕を用いる蒸留酒)と並んでの受賞はとてもうれしい眺めでした!

松崎 スペインの酒類コンペですので、スピリッツとなると、スペインのオルホや、南米のピスコの出品は確かに多いです。これらはいずれも土着性の高い蒸留酒。そういう意味では焼酎と共通点があります。焼酎はこれまで、「海外に出る」となると日本食レストランを始めとする日本人のコミュニティに卸すことが圧倒的に多かったと思います。つまりは日本国内の延長線にある考え方。しかし今後はそこではなく、むしろその土地ごとの蒸留酒と同じ土俵に乗ることを考えた方がいいのではないでしょうか。

日本酒の場合も同様で、最初の頃の卸し先は、日本食材を扱うインポーターや、日本の食品専門スーパーなどに限られていました。でも最近では、そういうところだと確かに色々なものは揃うけれど、一銘柄あたりの扱い量が少なかったり、こちらが動かないと何もやってくれなかったりといったデメリットも見えてきた。むしろ、“日本のものならなんでも”というところよりは、食やお酒に対してきちんと理解しようとしてくれる方のほうが、いろんな意味で情報交換もしやすいし、目をかけて売ってくれるといった認識に変わってきましたね。

日本酒の後を追わず、焼酎独自の海外マーケティング戦略を

松崎さんは、百貨店の和洋酒売り場のバイヤーなどを経て1997年に独立。以降「日本酒輸出協会」を設立されるなど、日本酒を海外に出していくことに尽力してこられました。海外で清酒が「SAKE」として広く認知・定着していった背後にいらっしゃるお一人だと感じます。そういった来歴を持たれる松崎さんの目に、現在焼酎が抱えている課題はどのようなものだと映りますか。

松崎 ちょうど2000年前後でしたか、日本国内が焼酎ブームに湧いているとき、日本酒はとにかく売れませんでした。だから海外に目を向けていろんなことに取り組み始めたのです。それとサイクルがずれたような形で今、焼酎が海外を狙っている。ただしその時に、日本酒の成功例を追うのではなく、独自のマーケティングを行った方がいいと思います。

欧米圏は食中に蒸留酒を飲む習慣がありませんし、かつ焼酎の25度は、スピリッツとしては中途半端な度数。37度以上の原酒で勝負していく方がいいでしょう。今回のCINVEの受賞銘柄にも明らかですが、ともするとクセが強すぎると思うほどの個性の強い焼酎だとしても、バランスのとれたよいものならば、魅力として捉えてくれる。そういう懐の深さが、EU圏のソムリエを始めとする人々にはありますね。決してオフフレーバーだという風にはならず、こういう香りならこういう食事と合わせると面白いといった意見がすぐに出てくるんです。現地の人々ならではの優れたペアリングのセンスがありますから、個性的な銘柄を積極的に押し出していってもよいのではないでしょうか。
穀物由来の香ばしさ、いい意味でのオイリーな重さ……。そういった個性がきっちりと出ている焼酎です。私は個人的には、粕取り焼酎にはとても可能性を感じます。粕取りのなかでも主流になってきている吟醸香の立つきれいなものより、昔風のものが好きですね。

海外では焼酎の何をどう伝えるべきか

世界規模で見ると蒸留酒の需要は伸びている。「世界で売れる新しい蒸留酒」が探されている時勢乗っかるには、日本酒の後追いではない、焼酎ならではのマーケティングをした方がいいということでしょうね。

松崎 その通りです。焼酎自体が、海外ではまだ全然知られていません。まずは「焼酎とは何か」をどのように伝えるかから考えた方がいいと思います。焼酎は原料のバラエティ、麹や酵母のバラエティ、そこからくる味わいのバラエティ……と、ほかの蒸留酒より飛び抜けて複雑。それは強みであり、同時に分かりにくさでもあると思うのです。極端な話、甲類まで含めた全部を「焼酎」と語られても分からない。一気に正確かつ詳細に伝えようとするあまり、情報が多すぎて溢れてしまっていると感じますね……。

まずは大枠で伝えるべきことと、個別に仔細に伝えるべきことを、きちんと整理してみた方がいいのではないでしょうか。たとえば黒糖焼酎は、世界を目指すならばやはりラムと比較して語るべきですし、芋焼酎はウォッカやテキーラなどと結びつけてアピールした方がいい。焼酎全体としてドンと行くよりは、芋は芋、麦は麦、米は米……といった個別の戦い方をした方が合理的だし、先方にも上手く伝わりやすいと思います。

重ねて日本酒の例を挙げるならば、北海道、東北、関西、四国、九州と、地域も味のタイプも違う日本酒をつくる5つの酒蔵がグループを組み、ひとつのグループとして取り扱ってもらっているといった例があります。SGグループの〈SHOCHU IMO〉〈SHOCHU KOME〉〈SHOCHU MUGI〉のシリーズに近いのですが、原料違いや産地違いの焼酎でグループを組んで売るのはひとつの手段になりえそうです。

外国人”SAKE”醸造家・”SHOCHU”蒸留家たちの誕生を歓迎する

SAKEワールドカップ®︎の風景。第一回は2018年に京都で、翌2019年の第二回は東京と京都の2都市で開催した。

――松崎さんが率いるSAKEマーケティングハウスの掲げるキャッチコピーは「日本酒を世界のSAKEに」ですね。それはまさに今、焼酎が目指していることだと感じます。そのコピーのもと、松崎さんは2018年からは「SAKEワールドカップ®︎」を開催されるなど、海外交流も盛んに行われてきました。世界を目指す焼酎が挑むべきことの参考として、その辺りのことをお聞かせいただけますか?

「SAKEワールドカップ®︎」は、品質を競うコンペではなく、外国人醸造家と日本の蔵元をつなぎたいと考えて始めたイベントです。きっかけは海外に“SAKE”=清酒の醸造所が増えてきたこと。日本酒にハマり、自分でもつくってみたい! と思い立ち、それぞれの土地で実際につくり始めた方たちが各地にいるんです。いちばん多いのはアメリカで、現在30ヶ所くらい。ブラジルのほか中南米にも数か所あります。ヨーロッパ圏は、ノルウェーのクラフトビール醸造所「Nøgne ø(ヌグネ・エウ)」が2010年に“SAKE”の醸造を始めたのが最初で、2015年にスペイン・カタルーニャ州の山中に生まれた「Seda Líquida」が続きました。最近になってフランスにもバタバタっと何軒か増えましたね。そういった海外の“SAKE”醸造所は、今全世界で70ほど。年に3~4軒のペースで増えていますから、あと10年もしないうちに、100軒は越えるのではないでしょうか。

そういった外国人醸造家たちのなかには、もちろん日本の清酒蔵で技術を学んだという方もいるけれど、完全に独学でYouTubeで酒づくりを学んだといったケースもあって……。飲んでみると全く酒の味がしなくて、「一体どうやって作ってるんだ」ということも(笑)。

クオリティや技術は、もちろん本場=日本の方がずっと高い。それでも、そういう人たちがどんどん海外の各地で“SAKE”をつくって広めることは、必ず“SAKE”のマーケット全体を広げます。

現在、清酒の輸出金額は焼酎を大きく引き離していますが、そうであってでさえ、清酒への誤解はまだまだ多いんですよ。特にEU圏は、アジア・アメリカに比べて相当距離感がある感じがします。“SAKE”という言葉は知っていても、「アジアでつくっている、穀物が原料のアルコール」というだけのイメージなんですよね。たとえば中国の白酒との区別がついていない……。現地の日本食レストランで“SAKE”と称して白酒を出していたりするなんてことは、全然珍しくないですから(笑)。そもそもその日本食レストランも、いろんな国籍の人がやっていたりして。

そういった誤解を覆していく意味でも、現地で“SAKE”をつくる人が出てくるのはとてもありがたい。現場があると見学もできる。醸造場直結のレストランやカウンターで飲ませてくれるところならば、絞りたての“SAKE”が飲めて、これは明らかに醸造酒だとわかる。そういう風に、海外のつくり手が増えれば増えるほど、正しい認識は広がっていきます。さらにいえば、本場のものとして日本産の“SAKE”の価値も上がるでしょう。外国人醸造家たちは確実に、“SAKE”の認知や価値が世界に広がる一翼を担ってくれていると思うのです。

そんな状況を背景に、これからは、日本国内のつくり手も、海外のつくり手と交流したり、協業してイベントをしかけたりといったことが大事になってくる。過去2回は日本での開催ですが、スポーツのワールドカップのように来年はアメリカで、その次はスペインで……といったように世界各地で開催できるようになればうれしいですね。

焼酎の蒸留を行っている海外の蒸留所はまださほど多くはありません。でも今後、“SAKE”をつくっているところが蒸留に進むことは大いにありえます。海外の人たちが“SHOCHU”をつくり始めた時に、どういう交流をしていくか。国外で定着していくためには、そこへの視点も必要になってくるはず。国際的な交流として、たとえば焼酎の蔵元とラムやテキーラの蒸留所との交流は面白そうですよ! 視点を変えれば、まだまだやれることはある。焼酎ならではの魅力を、手を変え品を変え試してみていただきたいです。

まつざき・はるお/上智大学外国語学部卒業後、西武百貨店に入社。和洋酒売り場、バイヤーなどを経て1997年に独立。同年「日本酒輸出協会」を設立して会長に就任。2019年「SAKEマーケティングハウス」設立。日本酒にまつわるコンサルティング、海外市場のマーケティング、プロモーション活動や、執筆・講演、イベントなど幅広く活躍する。→HP

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