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【前編】SHOCHUはこれからどこへ進むのか。杉山真さん(前・国税庁酒税課長)との対話

インタビュー

【前編】SHOCHUはこれからどこへ進むのか。杉山真さん(前・国税庁酒税課長)との対話

Text : Sawako Akune (SHOCHU NEXT)
Photo : GINGRICH (SHOCHU NEXT)

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2021年の日本の農林水産物・食品の輸出額が悲願の1兆円を突破。その中でアルコール飲料全体の輸出額は、61.4%増の1,146億円を記録しました。焼酎も前年比145%の約17億円。金額的にはまだまだ少ないものの、本格焼酎・泡盛が「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」の重点品目のひとつにも指定されるなど、輸出への追い風が吹いている印象を強く感じます。

この輸出促進の方向性を支えてきた人々のお一人と私たちが感じているのが、前・国税庁酒税課長を務めた杉山真さん2018年から2年間の在任時代のご経験で焼酎・泡盛について感じたことや、焼酎の輸出拡大のための示唆など、焼酎をめぐるさまざまの話題について、「SHOCHU NEXT」編集長・中山大希がお話を伺いました。

杉山真さん(写真右)、中山大希(写真左)

この数年の、焼酎をめぐる国税庁のあゆみを整理する

中山大希(SHOCHU NEXT編集長) 本日はありがとうございます。今回お越しいただいた杉山真さんは、2018年7月から2年間、国税庁酒税課長を務められた方です。国税庁にいらした期間に、焼酎にまつわる確かな痕跡を残された、頼りがいのある方であったことが僕たちにはとても印象に残っていて、対談を熱望してきました。まずは在任期間中に杉山さんが取り組まれたことを、読者のために改めてお話しいただけますか?

杉山真 離任して2年近くが経ちました。今日は組織とは関係なく、全て私の個人的見解ということでお話します。
いま改めて在任当時を振り返ってみると、国税庁酒税課にとって大きな転換期だったように思います。酒類に関する国税庁の行政は、歴史的な出発点として「酒税を確保する」ことがあります。いろいろな規制や取り締まりは基本的にそのためのものです。もちろんこうした酒税やコンプライアンスが大事なのは変わりませんが、それだけではなく業界振興をもっと積極的にやっていこうと。特に輸出促進に力を入れていく。私が酒税課にいたのは、国税庁がそんな風にスタンスを大きく変えた頃です。近年そういう流れがあったところに私が着任しました。

中山 確かに杉山さんの在任中には、焼酎の輸出にまつわるいろんなことがぐぐっと動いたという実感があります。ご在職の間に、焼酎・泡盛の動きについてはどう捉えていらっしゃいましたか?

杉山 着任して間もない頃から、本格焼酎・泡盛の蔵元の方々や、関係各社の皆さんがグローバルを目指し始めていると強く感じましたね。海外のコンクールで受賞する銘柄もありましたし、組合単位で海外市場を目指していこうという動きも出てきました。ジェトロも本格焼酎・泡盛に着目し始めましたね。

こうした中、たとえばロンドンにあるジャパン・ハウスでは、鹿児島県酒造組合のご協力をいただいて、本格焼酎・泡盛のプロモーションイベントを初めて行いました。また従来の海外展示会出展の支援にくわえ、バイヤー招聘も行うことにしました。沖縄県酒造組合とは泡盛の輸出プロジェクトも始めました。
他方、海外からの本格焼酎・泡盛への関心も高まりました。国税庁では、Wine & Spirit Education Trust(WSET *1)の招聘事業を毎年行ってきました。WSETの講師の方々に酒蔵の見学をしていただいたり、レクチャーを行うのですが、関係者のご尽力もあって、私の在任中に、日本酒に加えて本格焼酎・泡盛の産地も訪問するようになりました。本格焼酎・泡盛はWSETの蒸留酒の講座でも取り上げられるようになりました。

-ポイント解説(1)
 “WSET”
ロンドンに本部を置く世界最大のワイン・スピリッツの教育機関。1969年に創設され、その認定資格は国際的にも信頼が高い。
https://www.wsetglobal.com


日本酒から始まったKura Master(*2)の方々が、初めて本格焼酎の産地に訪問したのも私の在任中でした。その後Kura Masterには本格焼酎・泡盛部門もできましたね。
ほかには、2020年発効の日米貿易協定では、米国側が容量規制の改正(*3)に向けて手続を進めることになりました。

-ポイント解説(2)
 “Kura Master”
フランスで行われる日本酒のコンクールとして2017年にスタート。2021年には本格焼酎・泡盛のカテゴリーも新設された。ソムリエやバーテンダー、シェフなどフランスの専門家たちが審査を行い、海外のコンクールのなかでも注目度の高いもののひとつ。公平・公正な審査を行うため、審査員が日本のお酒を深く学びための、酒文化研修旅行を実施している。
https://kuramaster.com/ja/

中山 協定を受け、2021年初頭にアメリカ向けの輸出について焼酎の容量規制が緩和されました。その効果はとても大きく、実際、私が運営する和酒専門商社・南山物産でも、焼酎の輸出はじわじわと動き始めてきたという実感があります。

ポイント解説(3)
 “容量規制の改正”
容量規制とは、対象国のルールに則った容量サイズに合う商品のみ流通できること。緩和前のアメリカでは、50ml、100ml、200ml、375ml、750ml、1L、1.75Lの7種類となっており、焼酎の一般的な容量である1800ml(一升瓶)や720ml(四合瓶)は対象外だった。このためアメリカの輸出向け専用のボトル(およびそれに伴う新ラベルなど)を用意しなければならないことが、特に小規模な蔵元には障壁となることが少なくなかった。2020年12月に米国で施行された規制緩和によって、新たに700ml、720ml、900ml、1.8Lの4種類が流通可能となった。

杉山 日米貿易協定では、ほかにも地理的表示の保護や、焼酎とソジュとで異なる販売免許の問題についても取り上げました。

中山 ニューヨーク州とカリフォルニア州における、いわゆるソジュ法(*4)の話ですね。実際には州法の話ですから、国同士の交渉の場でする話ではないのに、あえて取り上げていただけたということですか。

-ポイント解説(4)
 “ソジュ法”
「ソジュ」とは韓国産の蒸留酒で、米やジャガイモ、サツマイモなどが原料。焼酎と同じく無色透明で、”Soju”と”Shochu”の発音も似通っていることから、アメリカでは同じものと取り違えられやすい。
アメリカでは、酒類の販売免許が「ビール&ワインライセンス」と「一般免許(全酒類を扱える)」の大きく二つに分かれ、蒸留酒は「一般免許」がないと販売できないのだが、取得がかなり厳しいことで知られる。しかし、カリフォルニア州やニューヨーク州では、特例的にワインライセンスでソジュの販売が可能。これには、関係者のロビー活動があったとされ、国内の焼酎関係者は通称として「ソジュ法」と呼ぶ。結果的にソジュの方が販売窓口が多くなることから、焼酎をアメリカに広める際に、しばしば悩みの種となっている。

杉山 そうですね。ほかに私の在任中に進んでいたのはRCEP(地域的な包括的経済連携協定 *5)です。私の離任後に合意に達して、今年から発効しました。

中山 段階的な関税の撤廃ですね。

杉山 ええ。もっと早く撤廃できればよかったというご指摘もあるかもしれませんが、中国・韓国の高い関税が段階的に撤廃されることは大きな意義があると思います。

-ポイント解説(5)
 “RCEP(地域的包括的経済連携)”
「RCEP」は、地域的な包括的経済連携協定として、ASEAN10カ国、⽇本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの15カ国が参加して2022年1月1日に発効された。日本が、中国・韓国とはじめて結ぶ経済連携協定でもある。幅広い分野における貿易の効率化とルール整備を通して、自由で公正な経済秩序の構築が期待される。中国・韓国において輸入酒類にかかる関税に関しては、今後以下の変更が予定されている。
・中国
清酒は40%(現在)から21年目に撤廃。焼酎は10%(現在)から21年目に撤廃。
韓国
清酒は15%(現在)から15年目に撤廃。焼酎は30%(現在)から20年目に撤廃。

杉山 また予算面では、日本の財政事情はたいへん厳しいのですが(笑)、酒税課の予算をだいぶ増やして、酒類のブランド化推進事業や酒蔵ツーリズム推進事業を始めました。焼酎関係の皆さんからも多くが採択されました。税金を徴収する国税庁が業界振興に大きな予算を使うというのは、大きな転換ですね。
私の在任期間の終盤はコロナ禍となりました。アルコール消毒液が不足するなかで、酒類業界の皆さんから高濃度の酒類を消毒用に製造・提供したいというお話をいただきました。いわゆる「高濃度エタノール」ですが、異例の措置として製造免許手続を緩和し、酒税も非課税にしました。このいちばん最初のきっかけは、泡盛の皆さんからのお話でした。

酒類全体の輸出額が成長の兆しを見せる現在。その背景にあるものとは

中山 昨年末、2021年の日本の農林水産物・食品の輸出額が1兆円を突破した(*6)ことが話題となりました。この1兆円という数値は、政府が長年目標としてきたもの。この中でアルコール飲料全体の輸出額は、61.4%増の1,146億円を記録しました。国税庁がこの数字を支えた面は大きいと思うんです。

-ポイント解説(6)
 “農林水産物・食品の輸出額が1兆円を突破”
2021年の農林水産物・食品の輸出額は1兆2,385億円。前年差で+2,525億円、+25.6%となった。2022年2月4日に農林水産省から発表されたこの報告は、各局のニュース番組や全国主要紙で大きく扱われている。背景には政府が長年目標にしてきた「輸出1兆円」という設定値がある。これは、2006年に安倍政権下で掲げられたもので、2006年~2012年までは4,000~5,000億を推移していたが、その後着実に上昇していった。

杉山 この結果は何よりも事業者や関係者の方々がご尽力されたからだと思います。国税庁がどれだけ業界振興・輸出促進に力を入れますと言ったところで、あくまでも主役は事業者の皆さんなのです。

行政の役割は、事業者の皆さんが創意工夫を発揮していろいろ前向きな取り組みをしていけるよう、サポートをしたり、環境を整えることです。特に制度の見直しや外国との交渉は政府にしかできません。先ほど申しあげた高濃度エタノールや経済連携協定は、まさにそういった例です。また、予算面でのサポートも重要ですが、だからといって政府ありき、補助金ありきではサステナブルでないと思います。

中山 サステナブルな事業をというのは耳が痛いです! 我々SHOCHU NEXTも自走に四苦八苦していますので……(笑)。先ほどの農林水産物・食品の輸出額の話に戻ると、ウイスキーは世界的な流行があるとはいえ、70.2%(461億円)と爆増。日本酒も、66.4%増(401億円)です。これはすごいことですね。

杉山 コロナ禍のなかだけに、本当にすごいですね。輸出単価も上昇しています。

中山 そのなかで我らが焼酎は、45%の伸びがあったものの輸出総額でいうと約17億。12億から17億への増加ですから、まだまだ微増の域を出ません。
杉山さんは先ほど、酒税課在任中に焼酎の蔵元のグローバル化の動きを強く感じたとおっしゃいました。この輸出額を見る限り、日本酒の方がより明確な動きがあったという印象ですか?

輸出に関しては焼酎はスロースターター

杉山 いえ、単純には比べられないですよね。日本酒の製造量は1970年代がピークで、そこに比べて現在は3割以下。そういった状況下で日本酒は、90年代頃から輸出に目を向けました。本格焼酎・泡盛に比べてずっと早いんです。一方で本格焼酎・泡盛は、2000年代に入って国内で大ブームを迎えました。本格焼酎・泡盛の製造量のピークは2007年辺りで、現在はそこから2割程度落ちたというところ。

日本酒の場合、90年代から積み上げてきた地道な努力が、いまの輸出額の増大の下地としてあります。そういった意味では本格焼酎・泡盛の輸出はまだまだ始まったばかり。日本酒と比べて遅れているということは全くないと思いますね。本格焼酎・泡盛にはそれだけ強い国内基盤があったということでもあります。輸出額はずっと15億円前後で推移していますが、それだけまだ大きなポテンシャルがある。今後に大いに期待できると思います。

私の離任後になりますが、政府が決定した「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」(*7)では、酒類については、日本酒、ウイスキー、本格焼酎・泡盛の3品目が重点品目とされました。本格焼酎・泡盛もウイスキーや日本酒と同じようにポテンシャルがあると国も認識しているからこそだと思います。

-ポイント解説(7)
 “農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略
念願の「1兆円」を達成した農林水産物・食品の輸出額だが、2025年までに2兆円、2030年までに5兆円とさらに高い目標が設定されている。多岐にわたる輸出品の中で、日本の強みを発揮できると期待される28品目が輸出重点品目として選定され、本格焼酎・泡盛も選ばれている。

中山 それはとても勇気の出るお言葉です。くわえて、焼酎単体の輸出量は横ばいに見えますが、本格焼酎・泡盛をベースにした酒類まで考えた時にはちょっと見え方は変わってきて、本格焼酎・泡盛にはジンやリキュールなど相当数の派生商品もあり、それらも海外で健闘しています。「焼酎はなかなか盛り上がらないマーケットだ」というネガティブな印象を持つのではなく、新規参入者・プレイヤーの双方にとって可能性の大きなジャンルだと捉えていけたらいいなとは思います。

杉山 そうですね。私が酒税課にいた当時、酒類業界が目指すべき方向性として国税庁がよく言っていたのは、輸出促進に加えて、「差別化」「高付加価値化」「ブランド化」。先ほど申し上げたブランド化推進事業はこういう発想から始めました。こういうことを言うのも、かつての国税庁にはなかったことです。

そもそも酒税は、数量に対してかかります。つまり酒類の価格が上がっても酒税は変わらないんです。法人税や消費税は増えますが(笑)。また、輸出が増えても酒税は入りません。そういったことも含め、酒税を出発点にするような行政ではなく、業界振興や輸出促進に取り組もう。そんな思いがあって課も少し拡充し、私が異動するタイミングでは「輸出促進室」という部署もできました。内心では課の名前も変えられないかと思ってもいたんですよ……。「酒税課」っていう名前がよくないんじゃないかと(笑)

中山 どういうことですか⁈

杉山 「酒税課長」と書いた名刺を持ってお酒関係のイベントなどに行くと、「税金取りに来たんですか」って言われることがあるんです(笑)。まあ当たり前ですが、名前からすると一般的にはそう見えてしまうのかと。

中山 ああ(笑)! 私が南山物産を立ち上げたのは2018年。国税庁はその頃からむしろ、背中を押してくださる応援団という印象ですけれど。

杉山さんと初めてお会いしたのは2018年の秋頃でした。起業したばかりの赤子のような会社に、国税庁酒税課長に着任された杉山さんがヒアリングにいらして、業界に思うことや酒税について思うことなどを聞いていかれました。今思えば大変生意気な発言もしていて恐縮ですが(笑)、焼酎のメディアがないこともそのときに話題として挙げたかと思います。思えばそれは「SHOCHU NEXT」の誕生の引き金のひとつであり、今日のこの場にもつながっています。

杉山 私の方は、焼酎ベンチャーって何やっているんだろうなというシンプルな気持ちでお訪ねしたんですよね。とにかくどういう人なのかに興味があった。

本格焼酎・泡盛や日本酒には、伝統的な酒蔵がたくさんありますが、着任当初に着目したのがベンチャーの存在です。日本酒ベンチャーはすぐにいくつも見つかりましたが、焼酎ベンチャーはなかなか見つからず探していたんです。中山さんの南山物産のことは、確か業界誌で知ったのだと思います。

中山 当時僕らは、シンガポールの百貨店で焼酎を手売りをして戻ってきたタイミング。高額な熟成焼酎が次から次へと売れるのを目の当たりにして、手応えを感じて帰ってきたので、国内の焼酎に対する反応とのギャップに葛藤があった。そんなこともお話しさせていただいた記憶があります。
焼酎の光量規制(*8)についても、その場で自分なりの意見を申しあげたことを覚えています。改めてこの場を借りて、杉山さんご自身は光量規制についてどう思われますか?

杉山 光量規制に関しては、私の個人的な感覚では、国税庁自身にはそんなにこだわりはありませんでした。

-ポイント解説(8)
 “光量規制
酒税法の法文に対する解釈「酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達」に記載されている、焼酎類の着色に関する細かな規制のこと。着色度規制とも呼ばれる。「光電光度計を用いて430ナノメートル及び480ナノメートルの吸光度をそれぞれ測定し、その着色度合がいずれも0.080以下」と書かれている。一般的なウイスキーの着色度は0.4~0.8程度なので、それよりはかなり薄い淡黄色までしか焼酎の色として許されていないことになる。このため、樽熟成を行て濃褐色になった焼酎は、規制内の色に収まるよう濾過や加水などを行って色を抜くことが多い。

中山 そうですね、当時もそうおっしゃっていました。むしろ業界の意見がさまざまなのだと。

杉山 そうなんですよね。光量規制うんぬんの前に、「樽で熟成した焼酎など焼酎じゃない」という関係者も少なくない。そこを長年なかなか乗り越えられないですねというお話をしたかと思います。

中山 ある種の論争とでもいいますか……。実際、私たち「SHOCHU NEXT」が取材を重ねるなかでも、蔵ごとに異なる意見を聞きます。

僕は個人的には、光量規制をめぐるいろいろの話は、スコッチにおけるいわゆるウイスキー論争に近いのかなと思います。スコットランドでは伝統的にモルトウイスキーがつくられていて、19世紀初頭に「グレンリベット」をはじめとする政府公認の蒸留所も誕生しました。ところがその後、連続式蒸留機が発明されてグレーンウイスキー、次いでブレンドウイスキーが人気を博し始めた。それが面白くない一部のモルトウイスキー業者が「ブレンデッドやグレーンはウイスキーとは言えない!」と告発する事態となり、1900年代の初頭にモルトウイスキー業者 V.S グレーンウイスキー&ブレンドウイスキー業者間での法廷闘争が巻きこったのです。30回以上の審議を経てブレンド業者が勝利し、晴れてブレンドウイスキーが認められました。ところがこれが結局のところ、スコッチウイスキーの世界的な大躍進へとつながっていく。業界全体が潤っていくのです。

樽熟成をはじめとするいくつかの焼酎は、消費者の側には求める声がある。ところが作り手の側から「そんなものは焼酎じゃない」という声が上がって議論となっているのが、このスコッチの状況によく似ています。果たして焼酎業界は、「焼酎とは何か」についてしっかりと必要な議論ができるのか。そこは大きなポイントだと僕は考えています。

酒税法の改正は、翻るとやはり歴史のターニングポイントになっていますね。最近の改正でいうと、本格焼酎・泡盛に関わるところではスピリッツの色規制が撤廃された(*9)のが大きいニュースではないでしょうか。後編へつづく→

-ポイント解説(9)
 “スピリッツの色規制が撤廃
政府・与党が、2022年度の税制改正によって「スピリッツ」類の着色度規制が完全撤廃される方針を固めたことが、2021年末に明らかになった。スピリッツ類、すなわち国産ジン、ラム、ウォッカなどはこれまで、着色度0.190以下と定められていたが、今後はこれより色の濃いものも認められることとなる。樽熟成した銘柄など、製品の多様化を後押しすることが期待されている。

なお、2022年3月17日に開催された「日本産酒類のブランド戦略検討会」の国税庁説明資料によると、「令和6年3月31日までの間:30度未満のスピリッツを緩和、令和9年3月31日までの間:36度未満のスピリッツを緩和、令和9年4月1日以後:アルコール分制限の撤廃」と、度数の制限を設けて段階的に着色度規制を緩和・撤廃することが記載されており、今後の動向も見守りたいところ。

なぜ中山が、スピリッツの色規制の撤廃が、焼酎業界にとって大きなニュースだと話すのか。ひとつの理由として、「SHOCHU NEXT」でもフォーカスしてきた熟成銘柄のことが挙げられます。これまで樽熟成焼酎銘柄のほとんどが、「本格焼酎」として出荷するために濾過を行って色を抜いたり、あるいは熟成による色は保ったまま、味に影響のない微量の添加物を加えて着色規制のない「リキュール」類として出荷したりといった選択を行ってきています。

ところが今回の税制改正によると、「スピリッツ」類の着色度は撤廃される。つまり樽熟成などによって色のついた焼酎は、改正後は「スピリッツ」類としてならば色を抜かずに出荷できるということです。喜ばしいことばかりの知らせと思いきや、必ずしもそうではないようで……?!

前・国税庁酒税課長の杉山真さんと、「SHOCHU NEXT」編集長の中山大希の対話は、後編へと続きます。後編はこちら→

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