蒸留酒ラバーにはすっかりおなじみとなった東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)。日本唯一、アジア最大級のこの蒸留酒のコンペティションには、第2回から焼酎部門も設けられて活況を呈しているのはSHOCHU NEXTでも既報の通り。過半数の審査員がバーテンダーを中心とした洋酒の専門家で構成されているため、“焼酎”の枠を超えた意見が聞きやすいコンペでもあります。
今年で5回目を迎えた「TWSC 2023」は、5月中旬の結果発表に引き続き、6月末の授賞式で“ベスト・オブ・ザ・ベスト”が発表。さらに7月には、ウイスキー、ジン、ブランデー、ラム、アガベスピリッツ、ウォッカ、そして焼酎まで、受賞した果たした700種類以上のボトルを試飲を行うことができる「TWSC大試飲会 2023」も開催! 編集部でもお邪魔してきました。
4年ぶりの授賞式。明治記念館に蒸留酒のキーパーソンが集結!
「コンペ第2回の2020年から、コロナ禍の影響を受けて思うような開催が叶わずにいました。今年は、タイミング的に審査はリモートにせざるをえなかったものの、授賞式は実に4年ぶりの開催! それは素直にうれしいですね」
そう話すのは、TWSC実行委員長にして、ウイスキー文化研究所を率いるウイスキー評論家の土屋守さん。授賞式の会場となった明治記念館には、華やかにドレスアップしたメーカー、蔵元、審査員などが行き交います。
洋酒が「シングルモルトウイスキー部門」「ブレンデッドウイスキー部門」「ジャパニーズジン部門」の3部門、焼酎が「UNDER25部門」「OVER26部門」に分かれて開催された今年。出品数は全体で918アイテム。焼酎はそのうちの274アイテムとなりました。
作り手同士が再会を喜び合ったり、審査員と作り手が親しげに会話をする懇親の様子がぴりりと引き締まったのは、「ベスト・オブ・ザ・ベスト」の発表の瞬間。各部門から選出された銅賞、銀賞、金賞、最高金賞の中から選ばれるTWSCの最高位は、いったいどの銘柄が受賞するのか……? 会場を静寂が包みます。そうして発表された5銘柄は以下の通り!
○焼酎UNDER25部門
〈琥珀の夢〉(薩摩酒造)
○焼酎OVER26部門
〈HOUJUNバーボンカスクィニッシュ〉(天星酒造)
○ジャパニーズジン部門
〈ザ・ハーバリスト ヤソジン オレンジ〉(越後薬草蒸留所)
○ブレンデッドウイスキー部門
〈イチローズ モルト&グレーン ブレンデッドジャパニーズウイスキー リミテッドエディション 2023〉(ベンチャーウイスキー)
○シングルモルトウイスキー部門
〈カバラン ソリストPX シェリー〉(Kavalan Distillery)
黒糖焼酎の王座独占を切り崩したのは、あの焼酎!
SHOCHU NEXT的にはこの結果は衝撃! というのも、過去3回、TWSC焼酎部門の「ベスト・オブ・ザ・ベスト」はいずれも黒糖焼酎が受賞してきたからです。その傾向から、洋酒の専門家たちを主とするTWSCの審査員には、樽熟成タイプの黒糖焼酎が響きやすいのかな……? と思い込んでいたので、焼酎UNDER25%部門では麦焼酎の〈琥珀の夢〉が、焼酎OVER26%部門では芋焼酎の〈HOUJUNバーボンカスクィニッシュ〉(天星酒造)が受賞したのはちょっとした波乱です。
「ついに! という感じでしょう?」とうれしそうな土屋さん。
「僕自身も印象的な結果です。黒糖焼酎は16アイテム出品のうちの4本が最高金賞を受賞していて、圧倒的な強さに変わりはないのですが、他原料の躍進も感じました。〈琥珀の夢〉も〈HOUJUNバーボンカスクィニッシュ〉もとても完成度が高かった」
発表後に土屋さんから賞状を手渡された、ともに鹿児島県の薩摩酒造、天星酒造のお二人は喜びをこう語りました。
「1994年に発売した〈琥珀の夢〉は、ずっと主力商品〈神の河〉の陰に隠れてきた。およそ30年に渡る銘柄の歴史のなかで、今日がいちばん輝いているように思います。今年から乗り出したウイスキーでもまた評価が得られるよう頑張っていきたい」(薩摩酒造・本坊直也さん)
「蔵のある鹿児島県大崎町は、鹿児島県下でも無二の酒水として知られる美しい超軟水。その水で仕込むとてもやさしい味わいの焼酎の受賞は大変な光栄です。天星は創業122年ながらまだまだ認知度が低い蔵。これからも精進していきます」(天星酒造・中原優さん)
さらにシングルモルトウイスキー部門でベスト・オブ・ザ・ベストを受賞したカバランからは、Y. T. Lee最高経営責任者も急遽来日。一層の盛り上がりを見せる授賞式となりました。
蒸留酒の活況に感激の大試飲会
さて、少しく時をおいて7月9日、日曜日の恵比寿。駅からもほど近いEBiS303イベントホールに、続々と人々が吸い込まれていきます。彼らのお目当ては、受賞を果たした700種類以上の受賞ボトルの試飲を行うことができる「TWSC大試飲会 2023」。2部制、各500名のチケットはいずれも完売。お酒のいい香りがふわりと漂うホールは、目を見張る盛況です。自前のテイスティンググラスを首からぶら下げた人もチラホラ見えるお客さんは、どの蒸留酒にも前のめりそのもの! じっくりとテイスティングしては、楽しげに周囲と話し込んでいます。
会場内は、部門ごとにブースが分けられていて、なかには有料試飲ながら長蛇の列が伸びている銘柄も。最高金賞、金賞、銀賞、銅賞を受賞した260本あまりが並ぶ焼酎・泡盛ブースにも、立ち寄る人が後を絶ちません。長い壁に沿って原料ごとにずらりと並ぶ焼酎・泡盛を見ていると、「SHOCHU NEXT」のパートナーメディアにして「nomunication.jp」編集長、リアム・マクナルティさんにばったり。TWSC2023の審査員も務めたリアムさん、今年の焼酎部門、何かいい発見はありました?
「いくつかびっくりするほどいい銘柄がありましたよ。今年は泡盛に印象深いアイテムが多かった印象です。特に挙げるなら沖縄・八重泉酒造の〈ZAKIMI 台風〉! 30年熟成の古酒を甕ごと台風の風雨にさらして仕上げ、その雨水を割り水にしたという衝撃のつくりはもちろんのこと、味わいもいいんです。台風で巻き上がった海水なのでしょうか……かすかな塩味がまるい米の味わいにはまっていて、とても興味深い1本です」
大試飲会はさらに、普段焼酎・泡盛をあまり飲まない人々にとってもいい機会になっていた様子。「景気づけにワインを飲んでからこちらへやってきました!」と笑うのは来場客の一人、名嘉真千尋さん。「普段からどんなお酒でも飲むけれど、焼酎はなかなかきっかけがつかめなくて……」と話す名嘉真さんですが、ふいっと手に取ったのは米焼酎のベストカテゴリー賞も受賞した熊本・高田酒造場の〈山ほたる〉なのだから、さすがお酒好き!
「〈山ほたる〉、初めて飲みましたけど、華やかで、日本酒にも近しいものを感じます。こういう味わいからだったら、私たち慣れない人でも始めやすそうですね? 最近は、フルーティーな味わいの焼酎もいろいろ出ているようなので、積極的に試してみたいです」
会場を埋めるお客さんの数だけ、“マイベストの1本”を見つけてるのかな? と思うと、なんだかうれしくなってきますよね! 盛況ぶりにステージ近くの土屋さんもニコニコ顔。改めて今年のTWSCを振り返っていただきました。
TWSC焼酎部門はこれから…?
「授賞式、大試飲会と大成功を収められたのはうれしい限り。でも、日本の蒸留酒としてさらに健闘してほしい焼酎の出品数はまだまだ足りないと思っています。
TWSCの焼酎部門に関しては、どんな評価軸で審査していくべきなのか、僕自身のなかでも審査員の間でもずいぶん議論を重ねてきました。僕らはやはり洋酒を専門としているので、どのように焼酎を見極めるべきかはまだまだ分からないんですよね。
そのうえで、ひょっとして来年のTWSCでは、焼酎部門をお休みするかもしれません。自分の中に評価の軸をきちっと定めるために、まだまだ勉強が必要だと感じるからです。さっそくながら近々、石垣島にある6つの蒸留所を全て訪ねてみるつもりです。直火釜蒸留基での泡盛づくりをぜひ見てみたい。焼酎・泡盛には、まだまだ僕が知らない魅力がたくさんあると思うんです」
TWSC焼酎部門がいったん休止となる?! 残念なニュースではありますが、土屋さん自身がより深い知見を得るための休養だと聞くと、焼酎・泡盛に向かう真摯な眼差しが垣間見えて、かえって信頼感も湧いてきます。
来年は、あるいは再来年は、どんな焼酎・泡盛が私たちを驚かせてくれるのか? 今からとても楽しみです。
東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)2023の受賞結果の全リストは公式サイトで確認できます!
TWSC公式サイト→