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2021年のスター焼酎!〈知覧Tea酎〉の蔵元を訪ねる|知覧醸造・森 暢さんインタビュー

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2021年のスター焼酎!〈知覧Tea酎〉の蔵元を訪ねる|知覧醸造・森 暢さんインタビュー

Text : Sawako Akune
Photo : SHOCHU NEXT

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秋も深まった頃、あちこちで名前を聞くようになった焼酎がある。〈知覧Tea酎〉。日本一の茶処、鹿児島県南九州市にある知覧醸造による、お茶とサツマイモを原料にした焼酎だ。グラスに注ぐと立ち上る、抹茶のような濃い香り。口に含むと濃茶、これを引き取るように濃い芋の香りが押し寄せる。

東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)「焼酎部門」で2年連続で最高金賞を受賞したこの銘柄、さらにフランスの酒類コンペ「Kura Master」に今年から新設された、本格焼酎・泡盛コンクール 2021で、最高賞プレジデント賞を受賞して大きな話題となった。その知らせがじわじわと国内にも波及し、にわかに人気を伸ばしているのだ。いわば焼酎ネイティブではない人々に先に発見されて“しまった”かたちのこの焼酎、どんな人がつくっているのだろう? 一面の茶畑を走り抜けて、知覧醸造を目指した。

整然と並ぶ畝が美しい茶畑。遠くに開聞岳が見える。

日本にただひとつの、茶業と焼酎の兼業蔵

車を走らせて薩摩半島を南へと向かい、鹿児島県南九州市知覧(ちらん)町へと入る。知覧の名を、かつてこの地に置かれた特攻基地と共に記憶している方もいるだろう。現在のこの町の顔のひとつはブランド緑茶・知覧茶の産地。緩やかな丘陵地に青々とした茶畑がどこまでも続く美しい町だ。南国の温暖な気候に育まれる知覧茶は、全国茶品評会では連続日本一を受賞。鹿児島県は、2020年に静岡県を抜き去って茶葉産出額全国トップに躍り出たが、知覧茶はそれを支える存在だ。

知覧醸造があるのは市南端の海のそば。なだらかな稜線を描く開聞岳も、その悠々とした姿を見せている。

“薩摩富士”とも呼ばれる開聞岳は南薩摩地方のシンボルだ。

元は中学校だったという土地に建つ知覧醸造。事務所棟の前ではソテツの大木が鋭い葉を広げ、別の一角では文旦が堂々とした実をつける。蔵で迎えてくださったのは、代表取締役・森暢(のびる)さんだ。

知覧醸造の創業は1919(大正8)年。創業時からこの土地らしいものづくりをしてきたのだそう。

「南九州市は、お茶のほかにサツマイモの産出額も全国の市町村で日本トップです。初代は学校の教師をやめて焼酎をつくり始めた人で、どういう理由だったのか、当時から焼酎の製造とお茶栽培の2本柱を走らせていました。それが今も続いて、私たちは4月からお盆前はお茶、そして芋のとれる9月頃から冬にかけて焼酎をつくる。繁忙期は互いにずれているものの、作業はどうしても重なるんですよね……。一年中休む暇もありません(笑)」

知覧醸造4代目にして杜氏を務める森暢さん。〈知覧Tea酎〉はお茶への造詣の深さが生きたものづくりだ。

焼酎と茶葉農家の兼業は、以前は他にもあったというが、今も続けているのは知覧醸造だけ。4代目として現在蔵を率いる森さんは、実は元々同じ知覧の老舗茶店で働いていたそう。結婚を機にこの蔵へ入った。

「当時は2000年前後の焼酎ブーム以前。焼酎が全く売れませんでした。そういう時代だし、先代・森正木(まさき)は私に茶畑を手伝ってほしいと。そうしたら翌年には空前の焼酎ブームが来た。それで義父に教わりながら焼酎づくりに入っていったんです」

先代はその後10年ほどで他界。森さんが蔵を引き継ぎ、焼酎と茶業の両立を続けてきた。

緑茶への強い思いが生んだ焼酎

コガネセンガンを白麹で仕込んだ代表銘柄の〈知覧武家屋敷〉に、黒麹仕込みの〈ちらん ほたる〉、先代の名を冠した紫芋を使った〈正木〉、甕熟成の〈多楽㐂〉……。どっしりとした味わいから軽やかな味わいまで、地元産のサツマイモを使ったバラエティ豊かな銘柄をつくる知覧醸造。

熟成銘柄も手がける。〈ちらん 武家屋敷 長期貯蔵酒 紅芋30度〉は、紅芋「紅まさり」を黒麹で仕込み、3年以上熟成した銘柄。甘くまろやかな口当たりが特徴の優しい味わいの1本。

これまでの銘柄を守りながらも、森さんには、茶業の経験がある人ならではの葛藤があった。それが〈知覧Tea酎〉へとつながっていく。

「茶農家って、昔はとても安定した職業だったんですよ。ところが茶の消費量が減ってきたところへ、ペットボトルのお茶が茶葉に取って代わり、茶農家はどんどん苦しくなっていきました。それこそサツマイモやほかの作物に転向する農家も多く、そういう状況に何かできることはないかとずっと考えていたんです。

そこにもうひとつ『お茶割り』の存在があって……。私にはあれがもったいなく思えていました。元の焼酎の味は一切消えているから、芋焼酎を使う必要がない。モヤモヤとそんな思いを持っていたある時、知り合いの飲食店の方が、燗をつけた〈知覧武家屋敷〉で緑茶を淹れ、それを氷を入れたグラスに注いで冷やした“お茶割り”を飲ませてくれたんです。球磨焼酎の“燗ロック”に近い飲み方ですね。それが抹茶っぽく、香りも甘みも出ていてすごくおいしくて。ところが『こういうやり方がある』と教えようにもなかなか手順が多くて難しい。それならば元々そういうつくりの焼酎をつくろう! と。試行錯誤を重ねて発売したのが〈知覧Tea酎〉です」

決して大きな蔵ではないが、人の動線に合わせて機械やタンクが配置され、少ない人数でも動きやすそう。

一番茶の香り高を堪能できる芋焼酎

〈知覧Tea酎〉を白麹とコガネセンガンで仕込むのは、〈知覧武家屋敷〉が合うと分かっていたから。二次仕込みのもろみに知覧一番茶を贅沢に入れ、茶の味と香りをもろみに染み込ませる。香りを楽しむ焼酎にしたいから、一番茶以外の選択肢はなかった、と森さんは話す

「芋の方が味のコントロールはしやすいですね。麹や酵母などで変えられる部分があるから。でも茶葉はそのものの味が操作ができない。品種や年によって香りや味が全く変わるので、何種類かをブレンドしています。2020年はあえて少し違う品種の違う香りを入れました。1種類だけだと、なんだかぱっとしない。あっさりしすぎというか……。茶葉は特に、ブレンドして香りや味の特徴に変化をつける感覚です

日本全国で栽培されている茶葉の品種はなんと100以上。南九州市で育てているのはそのうち15品種程度で、〈知覧Tea酎〉は4~5種程度のブレンドだそう。〈知覧Tea酎〉は、元々茶に詳しく、また寝る間も惜しんで兼業で茶葉に向き合ってきた森さんだからこそ、つくれた銘柄なのだ。面白いことに、お茶の製造と焼酎づくりはよく似ていると森さんは話す。

「原料がとても大事なのがまず同じ。原料のその次は、焼酎の場合は麹づくり、お茶は蒸し作業。麹づくりに温度管理やハゼ込み具合が重要なように、お茶ももみ方、温度など、蒸し方次第で味が全く変わるんですよ。やっていることは一緒だなあといつも思います」

蒸留器はこの常圧1基。左側のバルブで常に細かな調整を行う。

焼酎のプロ以外からの予想以上の高評価

2018年に販売を始めた〈知覧Tea酎〉。「当初からお客さんの反応はよく手応えは感じたものの、なかなか浸透しなかった」と森さんは振り返る。

「知覧茶を使った“お土産物”の焼酎という感じですよね。土産物店には置いていただけたけれど、焼酎専門店だと変わり種扱いで“うーん”という感じで(笑) ここ数年、焼酎の国内消費は勢いをなくしていますし、じゃあ海外での評価を聞いてみたいなと」

そうして酒類コンペへ出品してみたところ、〈知覧Tea酎〉の運命の歯車がカチリと合う。

東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)の焼酎部門で2年連続で最高金賞を受賞。さらに2021年9月にフランスで開かれた「Kura Master」で、最高賞のプレジデント賞を受賞したのだ。

「今年のKura Masterコンクールで私の心を奪ったこの焼酎について語ります。まず香りの驚き。大変美しい複雑感のある香りです。続いて味わいにも驚かされました。原材料である薩摩芋、さらにハーブや野菜の風味が濃密にしっかりと味わいの中に続きます。コンクールの後、この焼酎をハイボールとして飲んでみましたが、ソーダで割っても特徴を失うことなくむしろさらに風味が広がりました。この蒸留酒を生み出した生産者の方、ブラボー!讃えます。」Kura Master 本格焼酎・泡盛コンクール審査委員長 Christophe Davoine(クリストフ・ダヴォワンヌ)


フランスの一流ソムリエ・バーマンらプロフェッショナルが選んだ最高の酒(PR TIMES 2021.09.21)
ショールームに飾られた賞状の数々。鳴り物入りでスタートしたKura Master焼酎・泡盛部門でのプレジデント賞は大きな快挙!

Kura Master の審査にあたったのはMOF(国家最優秀職人章)やフランスを代表するソムリエ、バーテンダーやカーヴィストなど、飲料業界のプロばかり31名。錚々たる人々のお墨付きを得たのだ。受賞の知らせには「ただ驚きました!」と森さん。

「芋焼酎なのに茶葉入れているけどいいんですか…? と(笑)。審査員は皆さん、元々のバックグラウンドがワインや洋酒。日本の人々とは香りの感覚が全く違うんだなあと感じました。複雑な香り、美しい香りをこんなにプラスに捉えてもらえるんだ、と」

機械でつくらず、五感でつくる焼酎

国内では、根っからの焼酎好きというよりも若い女性や、お酒初心者の反応がよかったという〈知覧Tea酎〉。受賞の知らせの後にテレビや新聞の取材なども入ってスポットライトを浴びた。森さんはしかし、「たまたまいい風に流れただけ」と淡々と話す。

森さんは取材中、「今はどこの蔵の焼酎もおいしい!」と幾度も繰り返した。業界全体で盛り上がっていきたいという強い願いがにじむ。

「国分酒造〈フラミンゴ〉などが新しい香り系芋焼酎の流れをつくり、各社も追随していい流れができました。炭酸割りが広がってきたのも追い風です。麹、芋の色、酵母…と、各蔵がいろんな努力をする中に、私たちの〈知覧Tea酎〉もいる。

いい機械や研究設備を持っている大手の蔵は再現性が高いですから、いろんな香りを出すことができますし、発売したときのインパクトも強い。ここからどうなるかは分からないですけど、大手がそうやって裾野を広げてくださることで、初期に革新的なことをした1銘柄の価値も高まっていくと思っています

そのまま冷やしてストレートで飲むのが好きという人も多い〈知覧Tea酎〉。森さん自身はロックやソーダ割りがいちばん好きだそう。

「ハーブティーのようなお茶の香りを感じられます。昔ね、ウチの焼酎をロックで飲んでいて先代に本気で怒られたことがあるんですよ。『蔵元のくせに、お湯割りがいちばんと言わないとは何事だ!!』と(笑)。それはもちろんわかりますが、市場はロックやソーダ割りに流れている。私は今は、新酒もお湯割りはもちろんですが、水割り・ロック・ソーダ割りなどでも味を確認します」

焼酎づくりの師である先代の言葉は、今も森さんの心に残るものばかり。中でも「機械でつくるなよ、五感でつくれ」という言葉をよく思い出すという。

「機械を使うなというのではなく、機械任せでいい酒はつくれないと。見ているのと実際やってみるのは本当に違っていて、義父の言っていたことの本当の意味がわかりはじめてきたのは最近です。まだ分からないことだらけですが、鹿児島の蔵の横のつながりは強いですから。分からないことがあったらすぐ聞けるのはありがたいです」

世界へと歩み始めた〈知覧Tea酎〉をつくった森さんが「まだ分からないことだらけ」とは驚いてしまう。この蔵は次に、どんな味を生み出すのだろうか。

知覧Tea酎
【芋焼酎】
度数 
25度
原材料 
コガネセンガン(鹿児島県南九州市産)・米こうじ(タイ産米)・緑茶(鹿児島県南九州市産)
蒸留 
常圧
容量 720ml
知覧醸造
鹿児島県南九州市知覧町塩屋24475
TEL 0993-85-3980 
WEB https://chiranjozo.co.jp/
創業 1919年創業
蔵見学 平日のみ・電話にて要予約
ショップ あり

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