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常勝焼酎〈紅さんご〉をつくる蔵|奄美大島開運酒造を訪ねる

蔵元

常勝焼酎〈紅さんご〉をつくる蔵|奄美大島開運酒造を訪ねる

Text : Sawako Akune(SHOCHU NEXT)
Photo : GINGRICH

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黒糖焼酎〈紅さんご〉。その名前をまだ知らないという人も、こう聞くときっと気になるはず。2021年と2022年の東京ウイスキースピリッツコンペティション(TWSC)の焼酎部門で、カテゴリー最高賞である「ベスト・オブ・ベスト」を、連続受賞した1本。さまざまな蒸留酒の識者・プロたちによるブラインドテイスティングの審査を勝ち抜いて、“いちばんうまい”焼酎と認められた1本だ。角瓶に入った薄い琥珀色をしたこの焼酎、確かにおいしい。ひと口飲めば樽の香りだけではない、黒糖らしさや焼酎ならではの丸みも押し寄せて、ウイスキーやラムとはまた違う複雑さを感じる樽熟成焼酎なのだ。焼酎全体から見るとシェアは少ない黒糖焼酎だけど、その実力は底知れないものがある。この“常勝焼酎”はどんな場所でつくられているのだろう? 〈紅さんご〉をつくる奄美大島開運酒造を目指して、奄美大島へと向かった。

収穫を待つサトウキビ。

人口約1600人の小さな村に、焼酎づくりで恩返し

鹿児島と沖縄のちょうど真ん中あたりに浮かぶ奄美大島。太陽を受けて光る青い海、風に揺れるサトウキビの穂や、たくましい葉を広げるソテツの木。羽田空港を飛び立って約2時間半の奄美大島空港に降り立てばもう、はっきりと南国の風情だ。

焼内湾を囲む宇検村。蔵は湾からすぐの場所にある。

奄美大島開運酒造の製造現場があるのは、空港から車でさらに2時間ほどの距離に位置する、島南西部の宇検村(うけんそん)。島随一の繁華街を擁する名瀬を抜け、くねくねと折れ曲がる道を行き、いくつもの山を超えて……、携帯の電波が度々途切れて心細くなったさらに先に、美しい湾を囲むその村はある。宇検村の人口は2021年3月時点で1640人。村の約9割は山地で、手つかずの豊かな自然には、とりどりの熱帯植物や、特別天然記念物「アマミノクロウサギ」を始めとする動物たちが息づく。

「わたしたちの創業者が、生まれ故郷である宇検村に恩返しをしたいと、1996年に奄美市(旧名瀬市)で焼酎づくりを始め、翌年にこの地に移ってきたのです」と話すのは、奄美大島開運酒造常務取締役の泊浩伸さん。彼ら奄美大島開運酒造のルーツは観光業。奄美でホテル業を手がけてきた会社が、とある酒造会社の経営を引き継いで焼酎づくりに着手したのだそう。

奄美大島開運酒造常務取締役の泊浩伸さん。この島に生まれ育った。

「島の発展には観光が不可欠。黒糖焼酎をつくろうと決めたのも、それが人々をこの島に引き寄せる力になると考えてのことです。とはいえ全員が焼酎づくりの素人(笑)。最初の頃は苦労したようですね」

1996年創業は、黒糖焼酎の作り手としては最後発。先輩の蔵と同じことをしても生き残ってはいけないと、あえてそれまで焼酎を敬遠しがちだった女性をターゲットに据えた。そうしてできあがったのが、レギュラー銘柄〈れんと〉だ。

「当時は、杜氏も営業も女性。ボトルの色も“ブルーなんて売れないよ”と言われたけれど、新参者ならではのチャレンジ精神で、奄美の海と空をイメージした明るいブルーにしたんです」と泊さん。〈れんと〉は2000年代初頭の焼酎ブームにも乗って大ヒット。今では黒糖焼酎の代表格ともいえる銘柄に成長している。

今も〈れんと〉は奄美大島開運酒造のトップ銘柄だ。

【スライド】01/焼内(やけうち)湾の眺め。東シナ海へとつながる。02/蔵の取水所。奄美の霊峰とも呼ばれる湯湾岳の湧き水を使っている。03/蔵のすぐそばでは「やけうちの宿」も運営。食堂では奄美大島のローカルフード・鶏飯も提供。

黒糖焼酎と樽熟成の相性は抜群。世界で愛される1本を目指す

蔵を牽引する〈れんと〉は、減圧蒸留と音響熟成によるまろやかながらすっきりとした味わいが特徴。一方の〈紅さんご〉は対照的などっしりとした香りと味わいで驚かされる。現在、奄美大島開運酒造の杜氏を務める高妻淑三さんが話す。

「常圧蒸留で黒糖の甘やかさや香りをしっかり引き出した焼酎を、オーク樽で3年以上熟成したものをブレンドしています。樽の香りだけではなく、それぞれの原料の風味が生きているのは、樽熟成の焼酎のとてもいいところですよね。黒糖らしさはもちろんのこと、米麹由来のやわらかさやうま味もきちんと感じられる。そういうところを目指しています

杜氏/製造責任者の高妻淑三さん。宮崎県生まれで、前職では芋焼酎の製造にも携わった。

蔵に積み上がる樽は現在、500本あまり。オークの新樽を中心に、バーボン樽やシェリー樽なども見える。コンペでの受賞などに後押しされて最近めきめきと知名度を上げてきた〈紅さんご〉だが、焼酎の樽熟成には、蔵の開業当初から挑んできたのだそう。高妻さんが話す。

「黒糖焼酎はもちろん奄美の島内で愛されていますが、島の外、そして国外に認められるお酒をという思いが強くあったようです。黒糖焼酎と樽熟成の相性は非常にいい。樽に入れる前から、うっとりするような濃厚な甘やかさがあるのですが、そこに樽の風味がプラスされて、何層にも重なったうまみが感じられるようになるんです」

一年を通じて高温多湿な奄美大島。なかでも宇検村は、その地形から1日の寒暖差も大きく、「樽熟成にはうってつけの土地柄」だと高妻さんは話す。昨今、台湾やインドなど、熱帯~亜熱帯の地でのウイスキーに注目が集まっていることを考えても、奄美大島での樽熟成にはまだまだポテンシャルがありそうだ。

「同じ黒糖が原料の蒸留酒といえばラムがありますが、麹を使って仕込み、1回の蒸留だけで味を決める本格焼酎は、やはりラムより黒糖の味わいを強く残していると思います」

さらにカラメルを加えたりすることも多いラムとは異なり、本格焼酎は添加物もゼロ。ヘルシーさを求める現代の嗜好に寄り添ったお酒でもある。

樽熟成を経た黒糖焼酎は黄金色のとろりとした液体! 濾過による色調整やブレンドを経て〈紅さんご〉となる。

【スライド】清潔な製造現場内で黒糖焼酎がつくられていく過程を見せてもらった。紅さんごは常圧蒸留でつくられる(4枚め)。貯蔵タンクについているのはマイクロトランスデューサー。24時間365日クラシック音楽を流して、その振動で焼酎と水の結合を促すことで、焼酎がまろやかになっていく。

美しい自然そのものを味わう1本

TWSCで2021年に焼酎部門のベスト・オブ・ベストを受賞した際に、当初のブラインドテイスティングの点数でも1位、さらにその後のファイナルジャッジでも、15名いる審査員の半数近くがこの銘柄を一位と結論づけたと、審査委員長の土屋守さんが語った〈紅さんご〉(参照:今いちばんおいしい焼酎はどれだ!? 土屋守さんに聞く「TWSC 2021 焼酎部門」)。

黒糖の風味を存分に引き出す蒸留に樽での熟成と、強さの秘訣はひとつには絞れそうもないが、「ありがたい評価をいただいていることの理由を挙げるとするならば、やはりこの宇検村という土地柄ではないでしょうか」と高妻さんは話す。

「私たちの蔵の仕込み水は、奄美群島の最高峰で、奄美大島の開祖ともいわれる神々が降り立ったとされる湯湾岳から染み出す水です。あの水の清らかさはほかのどんな蔵にもひけを取らない。焼酎づくりは生き物が相手ですから、原料がどんな土地でどんな条件でつくられたか、仕込みの日の気候は、湿度は……と、さまざまな事柄に左右される。そういう事柄をすべて飲み込みながら、質の高い味わいを生み出し続けるには、この土地の自然の声を聞きながら、多方向に気を配ることが肝要だと思っています」

2021年には「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」として世界自然遺産登録にも指定された、奄美という土地の恵みを、そのままに表す1本。まずは味わってみてほしい。

【スライド】地元産の原料にこだわりたいという思いから、奄美大島開運酒造では製糖工場ももち、少量ながら地元の畑でとれたサトウキビで黒糖の製造も行っている。地元産のサトウキビだけでつくった銘柄〈FAU〉はとろりとした甘やかさが特徴。数量限定なので見つけたらぜひ試してほしい1本。

蒸留所に併設されたショップ。店内には高倉(穀物貯蔵の倉)があり、地元限定の銘柄も販売している。
奄美大島開運酒造
鹿児島県大島郡宇検村湯湾2924番2号
TEL 0997-67-2753 
創業 1996年創業
蔵見学 電話にて要予約
HP https://www.lento.co.jp

奄美大島開運酒造を代表する2本はこちら

紅さんご
【黒糖】
貯蔵 
3年
度数 
40度
原材料 
黒糖・米麹
蒸留 
常圧
ストアサイト→
れんと
【黒糖焼酎】
貯蔵 
タンク貯蔵
度数 
25度
原材料 
黒糖・米麹
蒸留 
減圧
ストアサイト→

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ウイスキー評論家として絶大な信頼を寄せられる土屋守さんが実行委員長を務める東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)。日本で唯一かつ、200人あまりのジャッジを迎えて大規模に開催されるこの蒸留酒のコンペは、2019年の初回以来、着実に存在感を増している。2回めの開催となった昨年からは焼酎部門が新設され、”世界に通用する焼酎”についての議論が一段と深まる契機にもなったのではないだろうか。

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