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今いちばんおいしい焼酎はどれだ!? 土屋守さんに聞く「TWSC 2021 焼酎部門」。

インタビュー

今いちばんおいしい焼酎はどれだ!? 土屋守さんに聞く「TWSC 2021 焼酎部門」。

Text : Sawako Akune

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ウイスキー評論家として絶大な信頼を寄せられる土屋守さんが実行委員長を務める東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)。日本で唯一かつ、200人あまりのジャッジを迎えて大規模に開催されるこの蒸留酒のコンペは、2019年の初回以来、着実に存在感を増している。2回めの開催となった昨年からは焼酎部門が新設され、“世界に通用する焼酎”についての議論が一段と深まる契機にもなったのではないだろうか。

5月の末、第3回となる今年のTWSCの審査結果が発表された。栄えある最高金賞が17銘柄、ベスト・オブ・ザ・ベストは奄美大島海運酒造の黒糖焼酎〈紅さんご〉。今年の焼酎部門の審査結果から見えてくることは、焼酎の未来を照らす光はどこにあるのか……? 焼酎部門の結果について、土屋さんに話を聞いた。

TWSCの公式サイト。〈洋酒部門〉〈焼酎部門〉がある。部門は違うがウイスキーを中心に名だたる洋酒の数々と焼酎が一緒に並ぶさまに、蒸留酒としての焼酎の価値を再発見できる。

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オーク樽熟成の黒糖焼酎が2年連続で最高位。黒糖焼酎は世界でウケる?

編集部 TWSCおつかれさまでした! 土屋さんには私たちの編集長がお話を伺ったり、また1月のオンラインイベントでもお世話になったりして、TWSCのご苦労話や、焼酎への思いなどを存分に伺ってきていましたので、今年のコンペ結果をずっと心待ちにしていました。
今年の焼酎部門へは、今年は255銘柄がエントリー。ブラインドテイスティングによる厳正な審査で賞が決まったことをお聞きしています。改めて審査の経過を教えていただけますか。

土屋守(以下土屋) 焼酎部門に関してはジャッジが総勢84名。昨今の情勢を受けて、一次審査はすべてリモートで行いました。それぞれのジャッジには30~50銘柄が割り当てられ、実行委員会指定のグラスでブラインドテイスティングして採点していただきました。これを集計し、一次審査で点数の高かった 25本を抽出し、ベスト・オブ・ザ・ベストや最高金賞を決定するための二次審査を行いました。

二次審査に携わったジャッジは15名。僕自身のほか、雑誌「Whisky Galore(ウイスキーガロア)」のテイスター、TWSC実行委員会のテイスター、日本テキーラ協会会長の林生馬さん、日本ラム協会会長にして吉祥寺「SCREW DRIVER」オーナー・バーテンダーの海老沢忍さんといった洋酒のプロたちが大半です。二次審査はぜひ会場審査を行いたかったのですが、コロナ禍を受けて今年も断念。それは本当に残念なことでしたが、納得のいく厳正な審査を行うことができました。

編集部 一次審査のジャッジの顔ぶれがいわゆる評論家ばかりではなく、蔵元やバーテンダー、飲食店経営者などが多いのも印象的でした。

土屋 TWSCを通じてジャッジを育てることも、僕らの使命と考えています。実際、半年ほど前にジャッジを依頼して以降、一生懸命にいろんな銘柄を飲んだり、セミナーに参加して学んだりといった方も多かったのです。彼ら/彼女らが順調に育っていくと、非常に頼もしいお酒の伝え手になっていただけるのではないでしょうか。

〈れんと〉が有名な奄美大島開運酒造による熟成タイプの黒糖焼酎〈紅さんご〉。TWSC2021のベスト・オブ・ベストに選ばれた。

編集部 審査を経て発表された今年の焼酎部門のベスト・オブ・ザ・ベストは樽熟成の黒糖焼酎〈紅さんご〉。昨年のベスト・オブ・ザ・ベストは〈里の曙 GOLD〉でしたから、焼酎部門の最高賞は2年連続でオーク樽熟成をした黒糖焼酎だったということになります。この結果についてはどうしてもお聞きしたかったのです。やはり洋酒の審査員が多かったことが影響するのでしょうか。

土屋 最高金賞のラインは88点以上。90点を超えた銘柄はひとつしかなく、それが〈紅さんご〉でした。この点数からしても相当な接戦だったことがお分かりいただけるかとは思います。

とはいえ確かに、15名のジャッジのうち半数近くが〈紅さんご〉が一番だと結論したのも事実なんです。2年連続で黒糖焼酎がベスト・オブ・ザ・ベストなのか! というのは、僕自身も驚きでしたが、確かに普段から洋酒に親しんでいる人間にとっては、やっぱりいちばんなじみが深いというのはあるでしょうね。

審査結果が出て以降、焼酎の専門家の方々ともお話ししています。今年もまた樽熟成の黒糖焼酎が最高賞を受けたけれど、この結果は本当の意味での焼酎のよさを表しているのか? という議論を起こすことは承知しています。本格焼酎の本来の肝である麹のフレーバーはどこに……とか。いずれにせよ、洋酒の世界から見た場合には、黒糖焼酎の樽熟成に大きなポテンシャルがあることを示したとはいえるでしょうね。黒糖焼酎をつくる奄美地方は、今年「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島(奄美・沖縄)」として世界自然遺産に登録される見通しです。土地に根づいた文化として上手にアピールしていけば、必ず世界に届くお酒になるのではないかと思います。

芋・麦・米・黒糖・泡盛がバランスよく最高金賞を受賞!

編集部 そんな僅差の大接戦だったのですね! 確かに昨年と今年のベスト・オブ・ザ・ベストだけを見ると黒糖の一人勝ちに思える。でも、最高金賞の顔ぶれを見渡すと、また違うことが見えてきます。10位までの銘柄だけでも、六調子酒造〈古代一壺〉が米焼酎、田苑酒造〈田苑 ENVELHECIDA 40度〉や西酒造〈天使の誘惑〉〈Grand Cru 酒酒楽楽〉が芋焼酎、黒木本店〈百年の孤独〉や研醸株式会社の〈樽長期貯蔵麦焼酎 梟〉が麦焼酎、今帰仁酒造の〈千年の響 長期熟成古酒 43度〉が泡盛。見事に各原料の焼酎がまんべんなく受賞していて、これはこれで驚きです。

土屋 まさしくそうなんです。忖度なんてもちろんありませんから(笑)、それぞれに可能性やヒントが見つけられる結果ではないかと思います。ほかに傾向を挙げるとするならば、最高金賞の17銘柄のうち、アルコール度数が30度以下のものは4銘柄のみ。度数40度以上の樽熟成銘柄が半数以上を占めます。この結果から、洋酒飲みにヒットするには「度数が高く、樽熟成をかけたものがいい」とも、もちろん言える。

でも逆から見ると、黒木本店〈㐂六〉、宝酒造〈一刻者 赤〉、知覧醸造の〈知覧Tea酎〉という25度の3銘柄が、度数に関わらず多くの銘柄を抑えて最高金賞にランクインしているとも言えるんですよ。このうち知覧醸造の〈知覧Tea酎〉は、仕込みの段階で茶葉を使用していて明らかにほかと味が違うため、ブラインドでの二次審査にはかけずに満場一致で最高金賞としました。25度近辺の銘柄では、〈㐂六〉のよさは際立っていましたね。ジャッジに多かったのは「バランスがいい」という意見。最初の香りももちろん重視していますが、口に含んだときの変化の面白さも見ていますね。

仕込みに茶葉を使った新時代の焼酎〈知覧Tea酎〉。2018年の発売以来、愛飲家を増やしている。
宮崎・黒木本店の芋焼酎〈㐂六(きろく)〉。香り豊かでどっしりとした飲み口は王者の風格。

編集部 「焼酎がなかなか世界に認められないのは25度という半端な度数のせいだ」という論調は、確かに感じなくもないのです。もちろん一面では的を射ていると思いますが、こうして居並ぶ高アルコール度数のなかに25度がランクインしているのを見ると、度数だけの話でもない気がしてきます。

土屋 25度でおいしい、さらにこれを水やお湯で割ってもおいしいし、食中酒でいけるというのは、やはり焼酎の凄みなんですよ! ジャッジから「焼酎はもはや(ビールやワイン、日本酒など)醸造酒の文脈で語っていいほどだ」というコメントがあったけれど(笑)、それほどにフレッシュな状態でもおいしい、食事に合うということだと思います。割り方によっては日本酒より度数を低くしても飲めるわけですから。つくり手の方々は、25度の可能性、洋酒の人々を唸らせる25度とは何なのか、改めて考えてみるのもいいのではないかと思います。

焼酎の樽熟成のこれからに、ウイスキーのプロが期待すること

編集部 樽熟成といえば、世界の蒸留酒で見るとウイスキーやブランデーの独壇場といった感がありますが、今年、最高金賞を受けた銘柄に樽熟成のものが多いのも大きな特徴ですよね。土屋さんが特に印象的だった銘柄はありますか? 

土屋 昨年も受賞している〈天使の誘惑〉はやはり抜群のバランス感。同じく昨年も受賞している〈田苑 ENVELHECIDA〉が、今年の出品で度数を40度に上げた銘柄を出してきたのには驚きました。「樽熟成には向かない」とされてきた芋焼酎ですが、なかなかどうして、樽との相性もいいのではないかと思い始めましたね。芋焼酎=くさいとされてきた過去とは全く違う世界が広がりつつある。最近の芋焼酎のバリエーションは、目を見張るものがあります。ウイスキーの世界でも、ニューポットの状態で長期熟成向きだな/長期の熟成には向かないなといった判断をすることは普通です。芋焼酎も、蒸留したての状態でボディがしっかりしているものの中に、樽熟成に耐えられるものがあるのだなと思うようになってきました。

また今年は、〈百年の孤独〉がエントリーしていました。ブラインドとはいえ、実は飲んだのは10年くらいぶりかもしれません。普段ウイスキーに接している身からすると、原料が麦、しかも樽熟成となるとかなり身構えるんですよ(笑)。ところが飲んでみたら、意外と……というのは語弊がありますが、とてもうまい! 記憶にある昔の味から進化していたとも思います。

1月に開催した「SHOCHU NEXT オンラインイベント」より。ミクソロジストの南雲主于三さん、小正醸造の小正芳嗣代表取締役、編集長中山大希の4人で焼酎・泡盛が世界で存在感を増すためになされるべきことについて語り合った。

編集部 同じ銘柄でも味はじわじわと進化している、それは私たちも、ほかの銘柄についてもそう思います。昔の印象で飲まず嫌いをせずに飲んでみてほしいなあ! と強く思うんですよね。

土屋 とはいえ樽熟成については、全体的に、樽についての知見がまだまだウイスキーの世界に遅れをとっていると思います。ただし、そのことに気づいて熱心に勉強を始めたつくり手たちが散見されるようになったのも事実。常圧/減圧、麹や酵母の違い、何度のお酒をどんな樽に詰めるのか……。膨大な試行錯誤をして、それぞれの焼酎に適した樽熟成を考える時期に来ていると思います。焼酎は、ウイスキーよりもずっと早く、うまくすれば4~5年で結果が見えてくるはず。ここからが本当に楽しみですね。

編集部 またまた土屋さんにこの質問をしてしまうのですが(笑)、樽熟成の話をするときには焼酎の光量規制の話を避けて通れません。焼酎が色を“薄く”することを強いられている一方で、たとえばウイスキーの場合、色を“濃く”するためのカラメル添加が認められていたりします。この不思議なねじれは何なのだ? とやっぱり、ただの飲み手としては思ってしまうのです。飲み手にとっては、着色にせよ脱色にせよ、嘘がない…というと語弊がありますが、そのままであることの方が大事だと思うのです。あるがままのよさを味わいたいというのは、食文化が向かっている方向性ともそう遠くないと思うのですが……。土屋さんはその辺りについてはどう思われていますか?

土屋 世界的に売れているスタンダードなブレンデッドウイスキーが、クオリティコントロールの一貫として天然カラメルを添加することについては、僕は異論はないですね。ただし、シングルモルト、かつ10年以上熟成のブランド力のあるウイスキーで、カラメル添加をしている銘柄は、もうほとんどないのではないでしょうか。ノン チル・フィルタード&ノン カラリングはシングルモルトにとっての売りですから。そういう意味では、ウイスキーの世界は2極化していっています。本格焼酎についても、ある種の役割分担ができるといいのではないでしょうか。

編集部 TWSC焼酎部門は今年で2回目を迎えました。1年目の結果だけではまだ輪郭のおぼつかなかった焼酎の魅力や、洋酒の専門家からの見地……つまるところ海外を意識したときに何に挑戦していくべきかといったことが見えてきたなあとお見受けしています。洋酒よりもずっと度数の低い25度近辺の焼酎の可能性、黒糖や樽熟成の可能性など、新しい発見も数多くありました。土屋さんがいま、焼酎、あるいはその伝え手に期待することはありますか?

土屋 ジャッジからも出た意見でなるほどと思っているのは、ちょっと銘柄名の読み方が分からないものが多いと……(笑)。読めないものは飲めないので、確かに一考の価値はあるのではないかと思います。というのはさておき、焼酎で世界をとるならバーを攻めよ、というのはよく言われてきましたし、それがアルコール度数の高い焼酎が後押しされてきた要因の一つであるとも思います。でも今、僕は改めて焼酎本来の「食中酒」としての魅力に注目していますね。洋酒が根強いバーでポジションをとるより、今や世界に裾野を広げつつある「居酒屋」文化と一緒に広がっていくのはどうかな、と。グローバルな居酒屋も少なくありませんから、そういったところで、僕らが認める、あるいは焼酎の世界の方々が認める、うまい焼酎がもっと飲まれた方がいい。日本の食事と一緒に焼酎が広がっていけば、つくり手にとってもこれ以上のことはないのではないでしょうか。

土屋さんが率いるウイスキー文化研究所にて。コレクションを眺めていると時間が過ぎてしまう……。

焼酎の蔵元も数多く回られている土屋さん。お会いする度に新しい知識を蓄え、その知識に対する見解もさらに深くなっていて、いつも勉強させていただいています! 審査委員長の言葉を聞いたうえで改めて「TWSC 2021 焼酎部門」の結果を眺めると、なるほどなあと感服しきりです。というわけで、記事は後半へ。最高金賞を受けた17銘柄のうち、ベスト・オブ・ザ・ベストから10位までの受賞銘柄をご紹介します。今、飲んでおけば間違いのない焼酎・泡盛です!

土屋守
Mamoru Tsuchiya/作家、ジャーナリスト、エッセイスト、ウイスキー評論家。ウイスキー文化研究所代表・雑誌『Whisky Galore』編集長。1954年新潟県佐渡生まれ。学習院大学文学部国文学科卒業。新潮社『フォーカス』編集部勤務の後、87年よりロンドンへ。日本語情報誌の編集長を務めていた際に取材で訪れたスコットランドで初めてシングルモルトと出会い、スコッチウイスキーの世界にのめり込む。98年ハイランド・ディスティラーズ社より「世界のウイスキーライター5人」の一人として選ばれる。2001年にスコッチ文化研究所(現ウイスキー文化研究所)を設立。19年より東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)を主催、実行委員長を務める。

プロが選んだ極上の10本。はじめての熟成焼酎にもおすすめ!

洋酒のプロが唸る味わい!いま飲むべき、おすすめの焼酎|「TWSC2021」 最高金賞の上位10銘柄を紹介 | 熟成を知る、焼酎を楽しむWEBマガジン 「SHOCHU NEXT」

ウイスキー評論家の土屋守さんが審査員長を務め、2019年から開催されている日本唯一の蒸留酒のコンペティション「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)」。その第3回となる「TWSC 2021」の結果が先ごろ発表されました。焼酎部門にも255銘柄がエントリー、2度の審査を経て17銘柄が「最高金賞」を受賞しています。

土屋守さんから焼酎・泡盛への提言はほかにも!こちらもあわせてどうぞ。

世界でも稀有な蒸留酒・焼酎は、今どこへ向かうべきなのか|ウイスキー評論家・土屋守の提言 | 熟成を知る、焼酎を楽しむWEBマガジン 「SHOCHU NEXT」

日本で唯一のウイスキーとスピリッツのコンペとして2019年にスタートした「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)」。初回は洋酒部門のみだったこのコンペに、昨年の第2回から新たに焼酎部門が加わったことは、焼酎業界にとっては大きなニュースだったはず。

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