クラフトスピリッツを再発見するWEBマガジン

ウイスキーのプロから見た焼酎の世界。TWSCが主催するオンラインテイスティングを体験。
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愛好家の多いウイスキーのさらなる普及と発展を目指して、審査のプロセスまでオープンな品評を行う「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)」。蒸留酒の専門家たちが200名以上も審査するこの大きな審査会に、昨年から焼酎部門が新設されたのは、焼酎界にとって大きなニュースだった。酒質やフレーバーなど、細かな知見の蓄積を世界規模で行ってきたウイスキー側から見たときに、焼酎という蒸留酒がどのように発展するのか期待が集まっている。そして、第2回目となる2021年の焼酎部門の審査会には、150名以上(!)の審査員が参加予定なのだとか。どんな焼酎がどんな評価を受けるのか、年明けのお楽しみだ。

TWSCでは、オンラインセミナーによるさまざまなテイスティング講座も行っているのだが、今回、編集部Tが焼酎の飲み比べを体験。蒸留酒のプロと画面越しに杯を重ねるうちに、いつもの焼酎が別の一面を見せてくれるのは不思議なものだ。


TWSC2020最高金賞を受賞した8銘柄が揃う

焼酎とウイスキー。ロック、水割りに加え、ハイボールで食中酒としても楽しめる。そしてどちらも日本を代表する蒸留酒として共通点は多いのに、「焼酎とウイスキーのどちらも好物」という人と出会う機会はなぜだか少ない。

今回、私が体験したのはウイスキー文化研究所・土屋守代表が主催するTWSCのオンラインセミナーの焼酎部門。このセミナーではTWSC2020最高金賞を受賞した8銘柄の小瓶を楽しみながら、グローバル市場では焼酎の一歩先を行くウイスキーの専門家のコメントを聞くことができる。テイスティングセットには、その他の部門を受賞した8銘柄の試飲サンプルもついていて、すでにかなり得した気分!

さて、ウイスキーのプロに選ばれた最高金賞は以下の8銘柄。

麦焼酎
〈知心剣〉(宝酒造/京都府)
〈いいちこスペシャル〉(三和酒類/大分県)

米焼酎
〈古代一壺〉(六調子酒造/熊本県)

芋焼酎
〈田苑 エンヴェレシーダ〉(田苑酒造/鹿児島県)
〈天使の誘惑〉(西酒造/鹿児島県)

黒糖焼酎
〈里の曙 ゴールド〉(町田酒造/鹿児島県)

泡盛
〈八重泉樽貯蔵〉(八重泉酒造/沖縄県)

その他
〈知覧Tea酎〉(知覧醸造/鹿児島県)

ラインナップで興味深いのは、セレクトされたのがウイスキーと同じ原材料を使用する麦焼酎だけではなく、芋焼酎、米焼酎、黒糖焼酎、泡盛、そして茶葉を仕込んだユニークな芋焼酎と原料が多岐に渡ること。さらに特筆すべきことに、ほとんどの銘柄が熟成焼酎でもある。

ウイスキー好きたちをうならせたという焼酎の数々。さて土屋氏のコメントを聞きながら飲んでみよう。(8杯も飲んだら少し気持ちよくなっていたのは内緒です。)

専門的な知識を聞きながら、それぞれの味の奥へと迫る

まずは麦焼酎から。麦焼酎って、飲めばウイスキーとは違うことはもちろんわかるけど、素人にはその理由は説明不可能……。飲む前から困惑していると、土屋氏による説明が耳に入ってくる。いわく、麦焼酎とウイスキー、同じ二条大麦が原材料だが、いちばんの違いはアルコールを生成するのに不可欠な糖を作り出す「糖化」の過程にあるそう。

ウイスキー:大麦を発芽させた麦芽の酵素を活用して糖化を促す
麦焼酎:大麦に麹菌を繁殖させ糖化をさせる

この違いのため、ウイスキーは脱穀していない殻麦を使うが、麦焼酎は脱穀した丸麦を使う。そうして当然酒質も大きく変わるのだそう。

テイスティングを行った麦焼酎は、〈知心剣〉と〈いいちこスペシャル〉の2銘柄。どちらも大麦100%、麹も麦麹と原料は同一ながら、貯蔵過程が異なる。〈知心剣〉が琺瑯(ホーロー)タンク熟成で、〈いいちこスペシャル〉はオーク樽熟成。さて味わいは……。

麦そのものが持つ香ばしさやスイートさはどちらにも共通するが、〈いいちこスペシャル〉には、バニラやシナモンのような樽熟成ならではのより一層甘い香りが特徴的に感じられた。タンク熟成の〈知心剣〉の方がソフトかつドライで、〈いいちこスペシャル〉はリッチなコクがある。ウイスキーに比べるとどちらも飲みやすく、土屋氏によると、ウイスキーと比肩する強い香りがあるが、フレーバーは物足りなさを感じるほどすっきりとした後口、とのこと。これこそ製造過程の違いの一つである脱穀の有無から生まれる特徴なのかもしれない。

熟成することで生まれる焼酎の可能性

次に試したのは熊本県人吉球磨地方でつくられる米焼酎〈古代一壺〉。スコッチのハイランド地方と同様の環境を目指して、24時間体制で温度・湿度コントロールされている熟成庫で12年以上熟成した古酒をベースに、29年熟成した古酒をブレンドした銘柄だ。

オーク樽が生み出す甘くまろやかなアロマは、まるでバニラやメープルシロップのようで、味の濃い洋食との組合せもよさそうだし、バーでゆっくり楽しみたい一杯でもある。土屋氏も「米焼酎の新たな可能性を感じるとともに、樽選びにこだわることでさらなる可能性がある」と評した。

続いては芋焼酎〈田苑 エンヴェレシーダ〉と宝山シリーズで有名な西酒造の〈天使の誘惑〉、いずれも芋焼酎の概念を変えてくれる2本だ。どちらも芋焼酎ならではの甘さがあり、フルーティな香りとコクのある味わいだが、飲み口はとてもスムーズ。度数を忘れてつい飲み続けてしまいそうだ。

クラシックを聴かせながら熟成させる“音楽仕込み”の〈田苑エンヴェレシーダ〉の柑橘系のフレッシュなアロマとまろやかな口当たり。一方の〈天使の誘惑〉は、オーク樽やシェリー樽を使用し7年以上熟成した原酒のみを使っていて、トロトロとした旨味のある一本となっている。熟成過程の違いによる、全く異なる個性を同時に楽しむことができるのもテイスティングセミナーの醍醐味だろう。

ラストの3本は、黒糖焼酎、泡盛、変わり種焼酎とユニークな本格焼酎たち。奄美群島だけに許される黒糖を使用した本格焼酎〈里の曙GOLD〉は、TWSC2020最高金賞の8銘柄の中でも最高得点だった一本。同じ原料を使うラム酒を彷彿させる、ハチミツのような香りがあるのに、焼酎らしいさっぱりとした口当たり。意外性があるところも洋酒好きにヒットしたようだ。コニャック樽が生み出すタンニンもフレーバーの複雑さや意外性に影響を与えているという。

同様に沖縄県石垣島で造られる〈八重泉樽貯蔵〉も洋酒愛好家には新鮮だったよう。TWSC2020の審査会では、泡盛がおおむね好評だったようで、特に醪(もろみ)を直火で加熱する直釜式でつくられた〈八重泉樽貯蔵〉には、甘い香りとともに、香ばしい「焦げ香」を生んでいる。日本の蒸留酒ならではの飲みやすさとコクを両立しているのは確かに見事で、沖縄料理にぴったりな銘柄だ。

最後の一本である〈知覧 Tea酎〉は、コンセプトや愛らしいラベルなど、とてもユニークな一本。芋と茶葉を同時に仕込むことで、芋の甘さに抹茶香やフレッシュさを感じられる個性派だ。しかし、多様な原材料による豊富なフレーバーを楽しめるのが焼酎の原点でもある。そう思うと、最後の締めにふさわしい銘柄だと感動した。

世界の蒸留酒としての焼酎のあり方を考えるきっかけに

TWSC2020最高金賞をとった8銘柄をテイスティングして楽しかったのは、どれもがおいしいだけではなく、おいしさへのアプローチのきっかけを知れたこと。「こういう観点で見るのか」という気づきによって、焼酎の概念は間違いなく自分の中でアップデートされたと思う。

セミナーではほかに「コンテンツが少ない」「アロマに比べフレーバーのインパクトに欠ける」といった厳しい表現を聞くことができたのも興味深かった。光量規制によって色(と一緒に味わいまで)を抜かなくてはならないことの影響も含め、洋酒からの視線だからこそ見える焼酎の特徴なのだと思う。蒸留酒としての焼酎を改めて認識するきっかけにもなりそうだ。

日本の食文化とともに発展し、食中酒として人々の日常の一部として地位を築いてきた焼酎。一方でグローバル市場では高級酒として認められつつある日本酒やウイスキーに大きく間を開けられていることは周知の事実だ。グローバル市場を先行する蒸留酒・ウイスキーに倣いながら、焼酎がどのようにポジショニングしていくかがこれからますます重要になると強く感じるセミナーだった。

TWSCでは、来年開催のTWSC2021の商品応募を受付中だそう。来年はどんな焼酎が選ばれるんだろう。ウイスキーファンも楽しめる、かつ焼酎ファンにとっても新鮮な焼酎との出会いが今から楽しみだ。

※本セミナーの配信はすでに終了。受賞商品はTWSCの公式サイトで閲覧できる。

蔵元の皆さん、
TWSC2021の応募締切が間もなくです!
「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)」が来年の春に開催されることが決定。コロナ禍の影響でリモート審査を導入した2020年の実績を踏まえ、2021年はリモート審査と、審査会を組み合わせたハイブリッド審査の準備が進んでいる。焼酎部門では、審査員も大幅に増え、約150名による審査を予定。商品のエントリー締切は、2021年1月8日まで

TWSC2021 エントリーページ
https://tokyowhiskyspiritscompetition.jp/entry/

TWSC2021 公式サイト
https://tokyowhiskyspiritscompetition.jp

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