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「世界がSHOCHUにおいついてきた」。フランスKura Master主宰 宮川圭一郎さんとの対話。

インタビュー

「世界がSHOCHUにおいついてきた」。フランスKura Master主宰 宮川圭一郎さんとの対話。

INTERVIEW : Taiki Nakayama(SHOCHU NEXT)
Text & Photo : Kaho Matsumoto

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近年、世界で日本酒は「SAKE」と呼ばれ、認知度・人気ともに向上してきた。しかし焼酎は日本酒と比べまだまだ知られていない印象だ。これから焼酎がさらに世界で多くの人に愛されるためには何が必要なのだろうか。

2017年から始まった「Kura Master」は、フランス人ソムリエが主体に審査員を務める日本酒コンクール。2021年からは本格焼酎・泡盛コンクールが新設され、日本酒・焼酎が世界で普及する足掛かりとなっている。主宰の宮川圭一郎さんは1990年に渡仏し、サントリーが経営するレストランで支配人を務めるなどフランスのレストラン業界で活躍。2010年からは日本酒や日本のワインなどの輸入販売を開始。そんなフランスでの和酒の伝道師であり、仕掛け人ともいえる宮川さんに、「SHOCHU NEXT」編集長・中山大希がお話を伺いました。

「蔵元さんの気をそろえ、地球規模で焼酎を見ること」

「蔵元さんの気をそろえ、地球規模で焼酎を見ること」
フランスKura Master主宰 宮川圭一郎さん

編集長:宮川さんが「焼酎を世界でもっと広めるために必要なこと」とは何だとお考えでしょうか?

宮川:まずは、「蔵元の気をそろえる」ことです。蔵元を中心として、自治体、組合、行政をふくめて、世界に出すぞという気を皆でそろえることです。一本の細い縄から、太いしめ縄をつくっていく感覚です。これが実現すれば、あとは自然に良い方向にすすみます。そのために、今回は日程を延長してあちこち回っています。自分の気もさらに高めるということも目的です。もう一つ大切なことは、「蔵元に海外をみてほしい」という点です。蔵元は基本的に自分が売っている市場である地元を見ていることが多いわけですが、地元で愛される味と香りが全国で評価されるものとは異なりますし、さらに世界では大きく異なります。そのため、海外も意識した焼酎の展開をしていく必要があります。あと、世界の高級な蒸留酒をホテルでお金を払って、ぜひ飲んで感じてもらいたいのです。そうすると、自分の商品のラベルはこれで良いのか?この香りと味の設計はどうか、これで世界に通じるかが肌感覚で理解できるようになっていきます。

編集長:実際に出向くという視点での「海外をみる」だけではなく、海外市場・需要家に立脚した商品開発をするということだと理解しました。そういった問題意識もあって、Kura Masterを立ち上げられ、さらに審査員は全て日本人以外のフランスの著名なソムリエ、バーマンなどで構成されているときいております。

宮川:はい、最初は審査員を集めるのも苦労しまして、30名ほどで審査会を行いました。今は150名を超える審査員が名を連ねています。これはとてつもない大きな認知活動なんです。
私は日本とフランスの間を行き来していますから、焼酎というものを地球規模で見るようにしています。そこで感じたのは「継続的啓蒙活動」の重要性です。啓蒙の内容は、『焼酎は麹を使う』『蒸留1回』といった基本的なことから、焼酎が持つ甘旨味を多く含むけれど糖質が0%であることなどです。シンプルに伝えることを心がけます。フランス人の中には「日本酒は蒸留酒だ」と勘違いしている人もまだまだ多いのも事実ですから、色々やるべきことが多くあります。

その一環として「Kura Master酒文化研修旅行」を基本毎年、フランス人の審査員を日本にお招きして、日本の文化や酒造りの様子、ペアリングについて学んでもらいますが、蔵の見学では私から魅せ方についてお願いしていることがあります。たとえば、パワーポイントで「原料はコガネセンガンです」なんて口で伝えるだけでなく、コガネセンガンを造った農家の方に来てもらって、「どんな風に育ててどんな風に収穫するか」を話してもらったり、実際に使用しているコガネセンガンと大麦を用意して食べ比べしてもらうこともあります。さらに、芋を食べ比べてから、芋の種類によって焼酎の香りや味わいが変わる比較試飲も一緒にします。魅せ方次第では興味をもってもらえる度合いが大きく変わります。頭で理解させるのではなく、できるだけ体験型にもっていき、五感を刺激することに常にこだわっています。

「焼酎をワイングラスで飲む」ことの重要性

「焼酎をワイングラスで飲む」ことの重要性
Kura Master2023 審査会の様子(写真提供:Kura Master)

宮川:啓蒙活動に加えて、さらに付加価値をつけることもとても大切です。

九州で焼酎を頂くとコップで出てくることが多いですが、私はいつも「ワイングラスで飲みましょうよ」って提案しています。コップで飲むと『焼酎=おじいちゃんの飲み物』というイメージ・安価なものというイメージのままですが、ワイングラスで飲むことでオシャレな飲み物にイメージを変えることが出来ると思います。酎ハイやレモン割りだけではなく、焼酎カクテルもカジュアルな飲み物なんだと積極的に進めたいものです。

世界は香り文化ですが、日本は味文化ということもありワイングラスで日本酒や焼酎を飲む習慣はありません。香りを引き立たせるようにするには、ワイングラスがとても役に立つのです。見た目も洒落てます。ソムリエにとってはワイングラスは物差しでもあります。どんなお酒であっても全部同じ1つのグラス飲むことによって同じ土俵で評価することができる。ワイングラスの中に宇宙があるとソムリエが時々言うのも頷けてしまうのです。

編集長:つまり、お酒の定点観測ですね。

宮川:そうです。だからKura Masterでは試飲グラスも全部統一しています。 もっと言えば、蔵元で試飲提供するときもちょっと大ぶりのリースリンググラスで統一して提供するとか、それぐらいやってもいいとおもっています。とにかく世界は「香り」から評価がはじまるということです。

編集長:1杯目、最初のひと口をどう届けるかの重要性と難しさは痛感しています。

宮川:焼酎を世界でブームにするためにはたった1回のイベントで花火を上げても売れていかないと思っています。継続しないといけないです。たとえば1週間、朝・昼・夜とずっと焼酎を飲み続けていると、そのうち海外の方でも「25度の焼酎を水で割ったら食事に合うね」なんて気づいてくれるんです。1日ではなかなか焼酎の真の魅力を伝えきれませんが、時間をかけて継続して試飲してもらうことで人間の心理も変わってくるものと思っています。海外の方をお招きして日本酒・焼酎を楽しんで頂く際は写真を撮る時も「乾杯!」って率先して日本の言葉を発声してもらうようにしています。そうして身体で焼酎の魅力や日本語を知ってもらえたらなと思っています。

編集長:そこまで入り込んでいかないと本当の意味で認知がされていかないと。その意味では、デザインも重要ですね。

宮川:そうですね、でも焼酎のラベルも近年は若者にちゃんと寄り添っていっている印象です。世界基準で考えて横文字のラベルのものも多いですが、例えばワインと見間違うようなデザインが正解かというと、決してそうではない。フランス人は「日本らしさがないな」と感じることもあるようなので、漢字やひらがなの表記が入っている方が良いかもしれませんね。たまに日本人でも「焼酎と日本酒が一緒に並んでいる棚で、どれが焼酎でどれが日本酒かわからない」と言う方もいらっしゃいますから、パッと見てわかるような統一表記を作るべきだと思っているんですけどね。GIをもっと上手く活用していくことも一考すべきですね。「本格焼酎」の「本格」もわかりにくい部分かもしれない。そういうことに気付く現場感覚の重要性を感じます。

コンクールで「プロが飲む」ことで消費量が上がる

コンクールで「プロが飲む」ことで消費量が上がる
取材は2024年2月に日本橋にある濵田酒造 東京オフィスのゲストルームにて行われた。

編集長:宮川さん、今後、フランスでは焼酎は普及していきそうでしょうか、見通しをぜひおきかせください。

宮川:お酒のコンクールを開催すると5年後くらいに開催国でそのお酒の消費量が上がります。先ほど、審査員のお話をしましたが、認知・ブームをつくるうえで「プロが飲む」ってかなり大事なんです。世界でも様々なイベントが開催されていますが、その国の販売する現地のお酒関係のプロの方に集中することでしょう。日本人のお客様を捨てる覚悟位の気持ちをもっていかないと、アルコール飲料というのはそう簡単にブームまでなかなかならないですね。そしてKura Masterというコンクールを7年やってわかったことは、「お酒が売れる時には2段階のポイントがある」ということ。日本酒は吟醸酒の「香り系」でまず人気が高まり、そしてコンクールの開催でもう1段階人気が高まった、ステージが上がった過去があります。

編集長:ジャパニーズウイスキーもコンクールがきっかけで世界的なブームになりました。

宮川:フランスをみてください。2006年まではジャパニーズウイスキーの輸出ほとんどゼロでした。しかし今はどうでしょうか。ジャパニーズウイスキーの世界一の輸出先はフランスなのです!2022年には約50億円まで成長しています。奇跡ですよね。Kura Masterの焼酎部門が始まったのは2021年です。5年目となる再来年みておいてください。必ず変化がおきます。もちろん課題として、香りに日本らしさをもっと見いだせないかとか、味わいをもう少しのせてほしいとか、まだまだ進化できるはずです。一方で、世界的な低アルコール化、低糖質のトレンドとかみると、どうですか。まさに焼酎こそドンピシャじゃないですか。「貴方のために、Shochu Martiniをご用意しました」と、バーマンが出すわけですよ。めちゃくちゃカッコイイわけです。ちなみに、カクテルはクラシックレシピから始めてもらうと世界の方がその違いに気づく。25%で作られた焼酎カクテルは飲んでいて楽です。とにかく、体に優しい。今までのカクテルと一歩も二歩も違います!これが今まで飲んでいたカクテルだったのか?ちょっと衝撃をうけますよ。この辺も話し出すと尽きないので、今日はここまでにしておきますが、日本酒やジャパニーズウイスキーが世界でブームを巻き起こしたのと同じように、焼酎も世界で注目される日は目の前なのです。いや、正確にはやっと「世界が焼酎においついてきた」のだと思っています。本格焼酎・泡盛、これから世界が熱くなりますよ!

(写真提供:Kura Master)

編集部より:今年8回目となるKura Masterでは、日本酒、本格焼酎・泡盛、梅酒コンクールが開催されます。現在、焼酎部門へのエントリーを受付しております。

世界情勢により応募スケジュール等が変更になることがございます。最新情報はKura Master HP(https://kuramaster.com/news/ja/)をご確認ください。

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