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金山跡で時を重ねる焼酎|南雲主于三さんとめぐる熟成焼酎蔵元の旅「濵田酒造」編

蔵元

金山跡で時を重ねる焼酎|南雲主于三さんとめぐる熟成焼酎蔵元の旅「濵田酒造」編

Text : SHOCHU NEXT
Photo : Yoshikazu Shiraki

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ミクソロジスト・南雲主于三さんとめぐる南九州・蔵元の旅。5蔵目となる今回南雲さんが乗っているのは……トロッコ?!  鹿児島県いちき串木野市にある濵田酒造グループの「薩摩金山蔵」。濵田酒造が持つ3つの蔵のうちのひとつであるこちらは、その名の通り、江戸時代から長きにわたって操業していた金山の坑洞を焼酎のつくりと熟成の場にコンバージョンした蔵です。コトコトと進むトロッコに乗ること700m。ロマンあふれる金山跡に眠る焼酎たちに会いに行きました。


トロッコが行くのは、金山の操業時に実際に使われていた坑洞。

350年以上の歴史ある坑洞でさらに時を重ねる焼酎

まるでライチのようなみずみずしい香りと味わいの本格芋焼酎〈DAIYAME〉(だいやめ)で界隈を驚かせたことも記憶に新しい濵田酒造の本拠地は、鹿児島県の西側にあるいちき串木野市。東シナ海とそこへ注ぎ込む川、そして緑の山々……と自然豊かな土地で、「薩摩金山蔵」は、海側からすこし入った山中にある。

こちらの金山蔵、元の姿は350年以上の歴史のある串木野金山だ。日本指折りの金の産出を誇る金山として、江戸時代には、薩摩藩の財政を支える重要な拠点だったのだそう。明治の終わりに三井鉱山の傘下となると、その後は三井串木野鉱山として1994年まで現役で操業。金山が閉山となった後、テーマパークとして営業した時期を経て、2005年から「薩摩金山蔵」に。濵田酒造が焼酎や清酒の仕込み・貯蔵・熟成を行っている。

3つの蔵を持つ濵田酒造では、それぞれの蔵によって明確にコンセプトを打ち出していて、最新設備の調った「傳藏院蔵」では“革新”、木桶蒸留器のある「伝兵衛蔵」では“伝統”、そして歴史ある場所を受け継いだこの「薩摩金山蔵」では“継承”を軸とした酒づくりを行っている。

「金山跡で焼酎づくりとは、さすがにほかに思いつきませんね」と南雲さん。

岩盤の中を抜けていくトロッコを降りると、外気とは全く違った、しっとりとした空気に包まれる。この薩摩金山蔵で杜氏を務める東條健太さんが話す。

「坑洞で焼酎を貯蔵・熟成することには、大きく3つの利点があると考えています。最初の2つはこの坑洞内の温度と湿度。年間を通じて気温19度前後と、冬は暖かく夏は涼しい環境で、湿度も80%程度でほぼ一定です。このため香気成分が蒸発しにくい。さらにこちらの坑洞へは、太陽の光が一切届きませんから、紫外線の影響も受けません。このため酒質が劣化しにくい。この金山を焼酎の蔵として活用することになった当初から、焼酎を熟成させる場としてすばらしい環境だという考えがありました」

坑洞内は年間を通じて気温19℃前後、湿度80%前後。

350年以上の時をかけて掘り進められた坑洞は、総延長なんと120km。蟻の巣のように張り巡らされた道沿いに、現在は、焼酎をたっぷりとたたえた巨大な甕が遠くまで並んでいる。

「現在は、容量1000リットルの甕を数百個置いています。これだけ大きい甕なので、地上から運んでくるのも大変だったんです(笑)。一度にひとつずつ、時間をかけて運び込み、2007年から貯蔵を始めました」

地上の光も音も届かない坑洞で、じわり、じわりと酒質がまろやかになっていくのを想像する――。歴史を背負った場所にしかない独特の空気感までもが、お酒に溶け込んでいきそうだ。

「薩摩金山蔵」杜氏の東條健太さん。
容量1000Lの巨大な甕。かつては金が採掘されていた場所で、焼酎が時を重ねている。

幻の麹を金山で仕込み、寝かせる。真似のできない焼酎づくり

巨大な甕が金山の坑洞で熟成しているというだけで、相当に興味を引かれるこちらの蔵。実はさらに、酒づくりも行っているのだそう! 東條さんが話す。

「温度・湿度が一定なため、発酵も進みやすく、焼酎をつくるのにとてもいい環境なんです。さらにこの坑洞内でつくる焼酎には、“黄金麹(おうごんこうじ)”を使っています。“黄金麹”は、黒麹の自然変異種として明治44年に発見されたのですが、繊細すぎて使われることのないまま眠っていました。私たちがこの薩摩金山蔵でオリジナルの麹菌開発を進めていた際に、この麹についての文献を発見して、保管されていた菌株から種麹化に成功したんです」

金山蔵に黄金麹とは、まるで意図していたかのような組み合わせ。ほかでは使われていない黄金麹で仕込み、ほかに例のない金山で熟成させる。この金山蔵の味は、どこにも真似のしようのないものだ。

坑洞内にしつらえられた棚。

過去からのメッセージと一緒に届く焼酎のタイムカプセル

こちらの坑洞内、実はもうひとつ、違う方法で熟成を行っている。それが〈熟成と共に福来たり〉という銘柄だ。金山蔵の見学者だけが買えるこちらの銘柄は、メッセージを書いて、金山蔵坑洞内に最長で5年間預けておけるオプションつき(希望があれば有料でさらに延長可能)。たとえば一緒に訪れた子どもの二十歳の誕生日に、あるいは夫婦の何周年の結婚記念日に……。昔の誰かからメッセージと一緒にじっくり熟成された焼酎が届くというわけ。ちょっとしたタイムカプセルのような楽しみもある銘柄だ。

「この金山蔵の開業当時に発売して、これまでに累計5000本ほどをお預かりしました。時を経た焼酎はできたての時とはまた違う魅力とまろやかさもあり、とても喜んでいただいています」

坑洞内につくりつけた棚にずらりと並ぶ〈熟成と共に福来たり〉のボトル。「この場所で、瓶内熟成が進むということですね。瓶内熟成についてはどうお考えですか?」と南雲さん。

東條さんが答えてくれた。

「バラバラに存在しているアルコールの分子の周りに水の分子がくっつくことで、舌触りが非常にまろやかになります。アルコールの刺激が薄まって、度数を感じさせない味わいが出てくる。さらに、この坑洞内の岩盤地質が、いわゆる遠赤外線効果をもたらすとも聞いています」

かつて金が採掘された「金山蔵」。今は丁寧なつくりと熟成を経た宝のような焼酎を生み出しているというのは大げさすぎるだろうか? いい酒も、人々の暮らしを豊かにするからなあ……! そんなことを思いながら一行はまたトロッコに乗り込み、地上へと向かった。

メッセージが書き込まれた〈熟成と共に福来たり〉。
手前が坑洞内の甕で3年熟成した芋焼酎〈薩摩焼酎 金山蔵〉。


金山で熟成された焼酎を飲みたい!

濵田酒造が復活した黄金麹で仕込み、坑洞に眠るあの巨大な甕で貯蔵したものがその名も〈薩摩焼酎 金山蔵〉。緑のラベルは3年貯蔵で、5年貯蔵の〈薩摩焼酎 金山蔵 RED〉との飲み比べもおすすめしたい。

蔵見学に出かけたらぜひ、この坑洞内で、どんぶり仕込み・カブト釜式蒸留で手づくりしている〈熟成と共に福来たり〉の購入を! メッセージを書き入れてボトルキープすると、指定の期日に送られてくる。

薩摩焼酎 金山蔵
本格芋焼酎】
貯蔵 3年以上(坑洞内甕貯蔵)
度数 25度
原材料 さつまいも(鹿児島県産)・米麹(国産米)
蒸留 常圧
熟成と共に福来たり
【本格芋焼酎】
貯蔵 タンク・のち瓶(坑洞保存)
度数 32度
原材料 さつまいも(鹿児島県産)・米麹(国産米)
蒸留 常圧(カブト釜式蒸留)
濵田酒造グループ 薩摩金山蔵株式会社
鹿児島県いちき串木野市野下13665 
TEL 0996-21-2110 
WEB https://www.hamadasyuzou.co.jp/kinzan/
創業 1868年創業・薩摩金山蔵は2005年開業
蔵見学 ◯(現在要予約。詳細は薩摩金山蔵に問い合わせを)
ショップ ◯(薩摩金山蔵ブランドの本格焼酎や清酒にくわえ、市の特産品なども揃うショップ「蔵乃仲見世」あり)

蔵見学の様子はYoutubeでも公開中!

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