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焼酎のライバルってほんと? 中国の蒸留酒「白酒」を知る

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焼酎のライバルってほんと? 中国の蒸留酒「白酒」を知る

Text : Kentaro Wada(SHOCHU NEXT)

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焼酎と並んで、アジアの蒸留酒として長い歴史を持つ、中国の「白酒(バイジュウ)」。今や中国国内はもとより、世界中にファンのいる人気の蒸留酒です。同じアジアの酒であることから、焼酎のよいライバルともいえるこの蒸留酒。果たして焼酎と類似点はあるのでしょうか? 製法や味のほか、最近の白酒事情も調査してみます!

世界三大蒸留酒のひとつ、中国の蒸留酒「白酒」

ウイスキー、ブランデーと並ぶ世界三大蒸留酒のひとつ、中国の蒸留酒「白酒」。そのはじまりは宋代(960〜1279年)と言われ、千年近くの歴史を持つ蒸留酒です。「白」は中国語で「無色透明」の意味。その名の通り、透き通ったクリアな酒質と、50%以上という強いアルコール度数が特徴です。本場中国では、小さなショットグラスでストレートで飲むのが一般的。ちびちび飲むお酒ではなく、少量をクイっと飲み干すものとして、宴会の席で親しまれています。焼酎と同じく、麹を使った蒸留酒として知られますが、製法や味わいは似て非なるもの。その正体を明らかにしていきます!

多くの白酒は、アルコール度数50度近くで超高濃度!

白酒ってどんなお酒?

白酒の原料は焼酎と同じく多種多様

白酒の原料は、高粱(コーリャン)と呼ばれるイネの仲間や、麦、トウモロコシ、ジャガイモ、さつまいもなどさまざま。原料によって「穀物白酒」と「甘薯白酒」に分かれます。

白酒の主原料に使われる高粱。

穀類を使った「穀物白酒」は、中国に古くから続く伝統的な蒸留酒。コーリャンを主原料とする銘柄が多く、なかには数種類の穀物を使って仕込んだものもあります。対して、イモ類を使う「甘薯白酒」は、比較的新しい蒸留酒。連続式蒸留機でアルコール度数95%ほどまで高めた原酒に、加水してつくられます。焼酎の「単式蒸留焼酎」と「連続式蒸留焼酎」に近い分類が、白酒にもあるのです。

白酒をつくるのは「麹」ではなく「曲」

コウジカビを使う焼酎と同様に、白酒も「曲(チィー)」と呼ばれる麹を用います。焼酎で使う麹は、蒸した米や麦にコウジカビを加える「散麹(ばらこうじ)」。一方で伝統的な白酒に用いる曲は、麦やエンドウを生のまま砕いた後、水を加えて練り固め、菌を加えた「餅曲(ビンチィー)」と呼ばれるもの。餅曲はレンガ状に成形され、大きさによって「小曲」「大曲」に分かれます。でんぷんを糖化する菌は、コウジカビではなく、クモノスカビやケカビという菌を使います。

また、大衆向けの白酒には「麩曲(フーチィー)」という曲を使用するのが一般的。小麦から小麦粉をつくる時に出る副産物「麩(ふすま)」に黄麹カビや黒麹カビを撒いて製麹したもので、餅曲に比べ短期間でつくることができます。

土の中で発酵する⁉︎ 穀物白酒独自の固体発酵

伝統的な穀物白酒は製法も独特。焼酎をはじめとする多くの蒸留酒は、液状のもろみを甕やタンクで発酵させますよね? ところが穀物白酒の場合、原料を固形のまま発酵させる「固体発酵」。しかも発酵を行うのは、甕やタンクではなく土の中なのだそう……! 地面に深さ約2mの「窖(ジャオ)」という穴蔵を掘り、主原料と曲を入れて土をかぶせる「窖地(こうち)発酵」を行います。

窖で発酵中の原料。上に泥状の土をかぶせて発酵を促す。

「窖地発酵」の特徴は、主原料のデンプンが糖化されるだけではなく、土の中に住む微生物たちがさまざまな成分をつくり出すこと。酵母菌がアルコールを生成するほか、細菌の力によって多種多様な香気成分が生まれ、白酒の豊かなアロマの元となっています。さらに窖は何度も使い回すことで、微生物の活動が活発になり、より香り高い白酒ができるそう。特に古い窖は「老窖(ラオジャオ)」と呼ばれ、なんと1500年代にできたものが今でも使われているとか……! 数百年近く変わらない酒づくりが、白酒の美味しさの一番の秘訣になっています。

白酒の種類は香りで決まる

原料に始まり、麹や発酵方法で香りや味わいが変化する白酒。主に「原料・発酵」と「香り」の2つの基準で分類されています。

先ほども紹介した通り、白酒の原料は大きく「穀物」と「甘薯」に分かれます。穀物白酒は基本的に固体発酵。大曲を使った白酒は「大曲酒」もしくは「高粱酒」と呼び、伝統的な名酒のほとんどがこのジャンルに位置づけられます。小曲を使ったものは「小曲酒」。また、麩曲を使用した「麩曲酒」は、餅曲に比べ低コストでできるため、大衆向けの白酒として広く浸透しています。

甘薯白酒は焼酎同様、原料を液状にして発酵を行います。液体の「曲」や酵素を用いて人工的に香りをコントロールすることから「調香白酒」と呼ばれています。

中国を代表する高級白酒の〈五粮液〉(左)と〈茅台酒〉(右)。

白酒の味わいを決める最も重要な要素は香り。なかでも穀物白酒は発酵中の微生物の働きによって、50種類以上もの香気成分を持つとも言われています。香りは大きく5つの「香型(シャンシン)」で分類されてます。濃厚な甘い香りが広がる「濃香型」、エステル香が爽やかな「清香型」、芳醇な発酵香を持つ「醤香型」、上品な蜜香が感じられる「米香型」、2つ以上の香型を持つ「兼香型」に分かれ、白酒の味わいを比較する指標になっています。

例えば、高級白酒で有名な〈茅台酒(マオタイジュウ)〉は、醤香型大曲酒。〈茅台酒〉と並ぶ銘酒〈五粮液(ウーリャンイエ)〉は濃香型大曲酒に分類されています。

最大7回蒸留⁈ 手間を惜しまない白酒の蒸留

穀物白酒の多くは単式蒸留。焼酎と同じように、初留・本留・後留と数段階に分けて蒸留を行なっています。ただし、焼酎と異なるのは、蒸留後の原酒の扱い方。本格焼酎の場合は、1回蒸留した原酒を商品にします。一方で、伝統的な白酒は、1回目に蒸留した原酒は商品にせず、原料に混ぜて再び窖で発酵を行う「回沙(ホイシャー)発酵」と呼ばれる蒸留方法でできています。2回目の蒸留でできた原酒の初留部分をさらに原料に入れて発酵。これを繰り返すことでより旨みのある原酒ができあがります。

白酒の蒸留に使われる伝統的な蒸留機。

白酒の王様〈茅台酒〉は、この「回沙発酵」を7回繰り返してできたもの。蒸留と発酵を繰り返すため、長いものだとなんと1年以上かかるとか……! 発酵から蒸留まで、白酒は他に類を見ない製法でつくられているのです!

中国では紹興酒よりも白酒が人気ってほんと?

日本で「中国のお酒」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは紹興酒。一方で、中国国内では紹興酒はややマイナーなお酒。中国全体でみると白酒のほうが多く消費されています。

とはいえ、日本の焼酎市場と同様、若者離れが進んでいるのが白酒の実情。主な消費者の年齢層は45歳前後、75%が男性。「白酒=おじさんのお酒」のイメージが広がっています……焼酎もそんなこと言われることあるので耳が痛い……!

こういった見られ方の要因の一つが、50度前後という高いアルコール度数。中国の若者の間でも低アルコール化は進んでいて、強いお酒を飲んで泥酔するのではなく、低アルコールのお酒をほろ酔い程度に飲む文化が浸透しているのだそう。

デザインが新鮮な〈江小白(ジャンシャオバイ)〉は、中国の若者から人気急上昇中。度数は40度と低めで飲みやすい!

こういったトレンドを受けて、白酒業界も若者にも手に取ってもらえるような銘柄を続々と展開しています。アルコール度数を下げたり、パッケージを刷新したり、フレーバーを加えたりとさまざまな戦略が進行中。焼酎だけではなく、白酒も若者のニーズの獲得に勤しんでいるのです。

ちなみに、白酒を飲みなれない方におすすめの飲み方は、白酒の炭酸割り「バイボール」。ストレートで飲む白酒とは一味違う、ふんわりとした香りを楽しめます!

まとめ:白酒とは
・高粱や麦などを原料にした中国の蒸留酒
・麹菌ではなく、クモノスカビを使った「曲」でつくる
・「窖」の中で固体の原料のまま発酵を行う
・微生物の働きにより香気成分が多く含まれている

こんなに違う!焼酎と白酒

さて、ここまで長々と白酒の説明してきましたが、焼酎とはどこが似ていて、どこが違うのか、よりわかりやすく表にして整理してみました。見比べてみるとその違いは一目瞭然です!

本格焼酎白酒
原料さつまいも・麦・米・黒糖など高粱・麦・芋など
麹菌を使った散麹クモノスカビやケカビを使った曲
特徴的な製法1回のみの単式蒸留窖のなかで固体発酵。回沙発酵
度数20~45度50度前後
香り原料ごとに異なる5つの香型に分かれる
飲み方水割り・お湯割り・ロック・炭酸割りとさまざまストレートが伝統的。最近は炭酸割りも普及。
若者人気まさにこれから!まさにこれから!

菌を使って発酵することは焼酎も白酒も同じですが、香りや味わいは全く異なるもの。特に発酵や蒸留段階の製法は大きく違いがあります。同じアジアの蒸留酒でもこんなにも違いがあるのですね。百聞は一飲にしかず。ぜひ実際に飲み比べてその違いを確かめてみてください。

そして、もう一つのアジアの蒸留酒の代表、韓国の蒸留酒「ソジュ」と焼酎の違いについても調査してみました!

韓国の蒸留酒「ソジュ」の記事はこちら

焼酎のライバルってほんと? 韓国の蒸留酒「ソジュ」を知る – クラフトスピリッツを再発見するWEBマガジン

緑の瓶がトレードマークの韓国の蒸留酒「ソジュ」。今や、コンビニやスーパーでは必ず見かける、日本でも人気の蒸留酒です。同じアジアの酒であることから、焼酎のよいライバルともいえる「ソジュ」。ショーチューとちょっと発音が似ていますが、果たして焼酎と類似点はあるのでしょうか? その製法や味わい、人気の秘密について調査してみました。

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