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ある日は白酒×創作台湾料理、ある日は焼酎×イタリアン。変幻自在の酒場|クラフト焼酎が飲める店「七一飯店」「nano」東京・渋谷

飲める店・買える店

ある日は白酒×創作台湾料理、ある日は焼酎×イタリアン。変幻自在の酒場|クラフト焼酎が飲める店「七一飯店」「nano」東京・渋谷

Text : Kentaro Wada(SHOCHU NEXT)
Photo : GINGRICH (SHOCHU NEXT)

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焼酎専門の酒場は数あれど、中国の蒸留酒である白酒が揃う酒場はなかなか見つからない。ましてや、日替わりで「焼酎」と「白酒」が飲める場所は、おそらく世界に一つだけ(だと思う)。そんな貴重な酒場が東京・渋谷にある。二つの顔を持つ、一風変わった酒場の正体を探った。

オリジナル白酒サワー×創作中華・台湾料理。唯一無二のペアリングを生み出す「七一飯店」

とある月曜日、一軒の飲食店を目指して渋谷駅へ降り立った。駅からまっすぐ明治通りを南に歩いて約10分。小道を入ると、ビルの1階にガラス張りの店舗が現れる。「七一飯店」の看板を提げるこの店こそ今回のお目当て。中に入ると、さまざまなインテリアでしつらえた落ち着きのある店内が広がる。とりわけ目を引くのが、厨房の横に設けられた棚に並んだ異国情緒あふれるボトルの数々。中国の蒸留酒、白酒(バイチュー)だ。

イネの一種、高粱(コーリャン)や麦、とうもろこしと、「曲(チィー)」と呼ばれる麹を原料とする白酒。醤油のような芳醇な香りを持つものから、爽やかな飲み心地のものまで、銘柄によって味わいは多種多様。固体の状態で発酵させたり、蒸留したての原酒を原料に混ぜ何度も蒸留させたりと、独自の製法を持つことでも知られている。

「日本ではまだ認知度の低い白酒をサワーにして出しています」と話してくれたのは、店主の長野雄さん。そう、「七一飯店」は、都内でも珍しい「白酒サワーと創作台湾料理」が楽しめる店だ。

「中国ではストレートで飲むのが主流の白酒ですが、日本では馴染みが薄いこともあって、なかなかお客さんには薦めづらいのが実情です。中華料理店でも紹興酒はよく見かけるけど、白酒をメインに出しているところはなかなかない。白酒をもっとカジュアルに飲めるものにしようと考えた結果、サワーとして出すことにしたんです」

「七一飯店」店主の長野雄さん。

5種類あるサワーのレシピは全てオリジナル。白酒は厳選した銘柄を10種類ほど揃える。焼酎と同じように、蒸留酒でありながら食中酒として中国では親しまれている白酒。「七一飯店」では、中華や台湾料理をベースにした創作料理とペアリングが楽しめる。

「料理は白酒に合うようにアレンジしたもの。本場、中国と同じように白酒はストレートでも提供していますが、ここはぜひサワーで試してみてください!」

棚に並ぶ白酒。リーズナブルな銘柄から〈茅台酒〉のような高級酒まで幅広く取り扱う。

白酒サワーがぐいぐい進む! 「七一飯店」が薦めるとびきりペアリング

小皿料理から、ボリュームのある〆まで趣向を凝らしたメニューが揃う「七一飯店」。初体験の白酒サワーを試すべく、早速、長野さんにお薦めのペアリングを聞いてみた。

赤と緑、見た目の相性も完璧!「トマトの醤油漬け」・「きゅうりの芥子漬け」×「白酒金魚」

最初に出してくれたのは、「トマトの醤油漬け」と「きゅうりの芥子漬け」。合わせるのは、唐辛子と大葉、炭酸水で割った「白酒金魚」だ。白酒特有の醤油香が唐辛子の辛味と合わさって、ドライな口当たりながらしっかりした後味が広がる。

「大衆居酒屋でおなじみの金魚割りは、白酒をベースにしてもまとまりがいい。特にあっさりめな味付けのつまみとはベストマッチ。『トマトの醤油漬け』や『きゅうりの芥子漬け』と合わせれば、色の見た目もぴったりなペアリングになります。普段サワーに使っているのは〈江小白(ジャンシャオバイ)〉という軽やかな香りの白酒。度数も40度と白酒のなかでは低い部類で、中国では若者から人気急上昇だそう。入門として飲み慣れていない方にお薦めしたい銘柄です」

こってり&さっぱりに思わずおかわり。「お好み焼き調 卵焼き」×「白酒スカッシュ」

次に長野さんがつくってくれたのは、「お好み焼き調 卵焼き」と、「白酒スカッシュ」。「ソースやマヨネーズは入っていないけど、お好み焼きのような風味の卵焼きになっているんです」と話す長野さん。確かに一口食べると、見た目とは裏腹にしっかりした味わいが押し寄せる。自家製のレモネードでつくる「白酒スカッシュ」は、白酒の香ばしさは残りつつ、ほんのり酸味と甘味が感じられる爽やかな一杯。塩味と酸味の良い塩梅で、ついグラスを傾けるスピードが速くなってしまいそうなペアリングだ。

気分は屋台飯! ジャンクに楽しめる白酒サワー。「ラム焼きそば」×「白酒コーラ」

「〆はやっぱりこのペアリングを試してもらいたい!」と長野さんが出してくれたのは、「ラム焼きそば」と「白酒コーラ」。蒸し麺を使った焼きそばは、ゴワッとした食感が新しく、食べ応えたっぷりだ。

「白酒コーラ」に使うコーラは、長野さんがイチから仕込んだオリジナルのクラフトコーラ。華やかなスパイスの香りと白酒の濃厚さが組み合わさって、パンチの効いた味わいに仕上がっている。

「日本でちゃんと白酒を飲むとなると、どうしても高級料理店が多くなってしまう。もちろんそれも良いのですが、屋台で出るような雑多な飲み方でも楽しめるはず。コーラと焼きそば、ジャンクフードの代名詞とも言える2つの組み合わせは、白酒の新しい飲み方として間違いなしです!」

週4日営業の「七一飯店」の秘密

営業日は、金曜から月曜の4日間。週末になると家族連れから一人飲みまで、昼夜問わず老若男女さまざまなお客さんが訪れる「七一飯店」。火曜日から木曜日は定休日かと思いきや、「火曜と水曜は全く別の店を開いているんです」と長野さん。2日間の夜限定で全く違う形態へ変身するのだとか。一体どんな店になるのだろう……。「明日来てもらえればわかりますよ!」と微笑む長野さんに別れを告げ、連日の再訪を決めた。

週2日夜限定。焼酎とイタリアンの店「nano」

明くる日、再び「七一飯店」に出向いた。ところが、「七一飯店」の看板はなく、代わりに「nano」と書かれた看板が掲げられている。出迎えてくれたのは、昨日と同じく長野さん。内装も特段変わらないけれど、果たして何が違うのだろう……? 首を傾げていると、カウンターに昨日まではなかった焼酎のボトルが並んでいるのが目に入った。理由を聞くと、「火曜日と水曜日の夜は、焼酎とイタリアンの店『nano』になるんです」と長野さんが種明かしをしてくれた。

「『七一飯店』は、飲食系のクリエイティブ会社が運営していて、僕はいわば料理人の立場。『nano』はこの場所を間借りし、自分の店として営業しています」

イタリアンレストランで経験を積んだ長野さん。都内のレストランで10年以上勤め、2020年「七一飯店」に料理人として加わった。同じ時期、武蔵小山の飲食店を間借りして「nano」をスタート。2022年10月からこの場所に移り、金曜日から月曜日は「七一飯店」、火曜日と水曜日は「nano」を切り盛りしている。やはり、気になるのは焼酎とイタリアンの組み合わせ。そのきっかけを長野さんはこう振り返る。

「正直に言うと、焼酎のことが好きになったのはつい最近のこと。数年前に焼酎を飲んだ時、それまでのイメージとは全く異なる華やかな味わいに感動したのがきっかけです。焼酎のすごいところは、どんな料理にも合うことですね。例えば、イタリアンとワインだと、どうしても冷たい料理にどっしりした赤ワインは合わせづらかったり、ある程度限定されてしまう。そのぶん、特定の料理とワインのペアリングがバチっと決まる時もあります。一方で焼酎は、ちょっと飲み方を変えるだけですんなりと馴染んでくれる。『この料理にはこの焼酎!』という考え方ではなく、良い意味で料理と一歩距離を置いている、懐の広いお酒だなと思うんです」

「nano」の営業時のみカウンターに登場する焼酎のボトル。

デザートまで絶品! 「nano」が薦める焼酎×イタリアンペアリング

芋焼酎、麦焼酎を中心に約20銘柄を揃える「nano」。「ペアリングを考えるのはなかなか難しかった(笑)けれど、気になるものを準備してみましたよ!」と笑う長野さん。3つの料理とともに、お薦めの焼酎をセレクトしてもらった。

ラムのクセにも負けない、芋のフルーティな香り。「ラムの煮込み」×〈松露 Colorful〉ソーダ割り

まず振る舞ってくれたのは、「ラムの煮込み」と宮崎県の松露酒造がつくる芋焼酎〈松露 Colorful〉のソーダ割り。〈松露 Colorful〉は、玉茜で仕込んだ新酒と宮崎紅の3年古酒をブレンドした芋焼酎。クセのあるラムの香りにも負けない、マンゴーやアールグレイを思わせる果実味がダイレクトに鼻を抜ける。

「ラムは本来の味わいを残すため、ハーブなどは入れずに煮込んでいます。香りがかなりはっきりしているので、〈松露 Colorful〉のようなフレッシュな味わいの焼酎がよく合う。ソーダで割ることで、よりすっきりした後味が楽しめます」

濃いめパスタには、ドライな味わいの焼酎がばっちり合う。「ウニのパスタ」×〈なかむら〉・〈クラフトマン多田 スパニッシュオレンジ〉ソーダ割り

ラムと〈松露 Colorful〉が生む香りのダブルパンチに舌鼓を打っているなか、長野さんが次に持ってきてくれたのは「ウニのパスタ」。〈なかむら〉と〈クラフトマン多田 スパニッシュオレンジ〉のソーダ割り、2種類の焼酎を合わせてくれた。

鹿児島県の中村酒造場の定番銘柄〈なかむら〉は、甕で仕込んだ重厚な味わいの芋焼酎。一方、福岡県の蔵元、天盃が手がける〈クラフトマン多田 スパニッシュオレンジ〉は、本格焼酎では珍しい「常圧2回蒸留」を経てできた麦焼酎。みずみずしい柑橘香と爽快感あふれる味わいで、飲み心地はとにかく軽やかだ。

「対照的な2種類の焼酎ですが、濃厚なウニのパスタとはどちらもよく合う。芋の旨みがたっぷりな〈なかむら〉は、交互に飲み進めることでより厚みのある味わいになります。〈クラフトマン多田 スパニッシュオレンジ〉と合わせれば、さっぱりとウニの磯の香りを流してくれる。甘みの強い焼酎よりも、ドライなものがマッチする料理です」

デザートまでカバーできる焼酎ペアリング。「チョコレートのテリーヌ」×〈謳歌〉・〈大和桜 匠〉ストレート

長野さんが最後に出してくれたのは、「チョコレートのテリーヌ」と〈謳歌〉、〈大和桜 匠〉の2種類の芋焼酎。宮崎県の黒木本店がつくる〈謳歌〉は、オレンジの香りとキャラメルのようなほろ苦さを感じる味わい。鹿児島県の大和桜酒造が手がける〈大和桜 匠〉は、厳選した原酒を寝かせた、優しい芋の香りとなめらかな口当たりが特徴。グラッパのようにストレートで飲んでもらいたい、と長野さんは話す。

「イタリアンの食後酒と言えば、ぶどうの蒸留酒、グラッパ。焼酎も同様に楽しんでもらえるよう、グラッパ用のグラスでストレートでお出ししています。〈謳歌〉の柑橘香は、チョコレートと交わることでオランジェットのようなフルーティな味わいに。〈大和桜 匠〉は、チョコレートのこっくりした甘みにビターなコクを加えて、ほんのり苦味のある大人なフレーバーを生み出します」

食中酒はもちろん、食後酒にも活躍する焼酎。「これはあくまで一例。色々な組み合わせを試してお気に入りを見つけてもらいたい」と長野さんは語る。肉料理、パスタ、デザート……食事の最初から最後までカバーできる。焼酎の底力を感じられるペアリングだ。

2つの店を続けることが、「焼酎を伝える」視点を広げる

2つの店を切り盛りするのは、一見すると苦労が多いもの。そのタフな仕事ぶりにも、長野さんは「むしろ面白いですよ!」と明るい声を弾ませる。違う形態を続けることが、焼酎の新しい伝え方を生む糸口になるという。

「つくる料理や酒の種類が幅広ければ、それだけ応用が効く。例えば、焼酎に関してはまだサワーやカクテルは出していないけど、白酒サワーをきっかけにアレンジを考えられるはず。伝え方の幅はぐんと広がるのではないかと思っています」

焼酎に関してはまだまだ勉強中! と謙遜した表情の長野さん。ある日は白酒サワーと創作台湾料理、ある日は焼酎とイタリアン。これまでの固定概念やひとつの形態にとらわれず、さまざまな切り口を試してみる。焼酎はまだまだ新たな可能性を秘めていることを、2つの顔を持つ酒場が教えてくれた。

七一飯店/nano
住所 〒150-0011 渋谷区東2-20-2 1F
営業時間
七一飯店:金・土・日・月曜日 11:30~15:00、17:00~22:00
nano:火・水曜日 18:00〜23:00
定休日 木曜日
七一飯店:Instagram
nano:Instagram

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