水で薄めずに、蒸留したお酒そのものをボトリングした「原酒」。原酒でしか味わえない濃密な香りや味わいは、お酒好きにはたまらないですよね。ウイスキーでは高額かつレアな「カスクストレングス」も原酒へのロマンゆえといえそうです。
焼酎にも「原酒」銘柄は以前からありますが、今、じわじわとブームの兆しを見せているのをご存知ですか? 大手メーカーからマイクロディスティラリーまで、各地の蔵元がこぞって「原酒」を出し始めています。原料やつくりのこだわりがより率直に味わえる、焼酎好きならぜひチェックしたいジャンルです。
そこで今回は原酒の特徴からおすすめの飲み方まで、焼酎の原酒の魅力を徹底リサーチしました。一度飲むともう戻れない、奥深い原酒の世界へようこそ!
焼酎の「原酒」とは?
繰り返しになりますが、「原酒」とは蒸留後に水や添加物を一切加えない状態のお酒。現在、焼酎の主流を占めるアルコール25度や20度の焼酎は、この原酒に水を加え、度数を調整してつくられています。焼酎だけではなく、ウイスキーやブランデーなど海外の蒸留酒にも原酒はありますが、市場に出回るほとんどが加水したもので、原酒を探すのは至難の業。一方で焼酎の原酒は、酒販店でも買い求められる気軽さが魅力の一つです。
原酒の特徴は、しっかりとしたアルコール感、そして、本格焼酎ならではのたっぷりとした味わい。連続式蒸留を行う海外の蒸留酒に比べ、本格焼酎は単式蒸留のため、素材の香りや旨味がはっきりと感じられます。そのなかでも原酒は、加水した焼酎にはない、焼酎本来の味わいがストレートに楽しめます。
原酒にはルールがあります
ところで、加水していない焼酎が全て原酒になるわけではありません。3年以上熟成した焼酎だけが「長期貯蔵」と表記できるのと同じように、ラベルなどに「原酒」と表記するためには、ルールがあります。
一つは「蒸留後に水や添加物を一切加えない」こと、そしてもう一つは「アルコール度数が36度以上」であること。
つまり、水を一切加えていなくてもアルコール度数36度未満の焼酎は原酒と呼ぶことができないのです。また、単式蒸留で45度を超えたものは酒税法上、焼酎と呼ぶことができないため、アルコール度数36度〜45度で水や添加物を加えていないものだけが焼酎の原酒とうたうことができます。
原料によって原酒の度数が変わる?!
36度以上と、高いアルコール度数が特徴の原酒。その度数は、原料や蒸留方法によって異なります。
まず度数に関わってくるのは、原料のデンプン価。仕込み段階で、麹と酵母の働きによって、デンプン→糖→アルコールと変化するため、最終的なもろみの度数は、原料のデンプン量が多いほど高くなります。一般的に芋よりも麦・米・黒糖の方がデンプン価が高く、二次もろみの度数は麦が16〜18度、米が17〜20度、黒糖が15〜17度に対して、芋は13〜15度とやや低め。もろみの度数は蒸留後の度数にも関わっているため、同じ条件で蒸留した原酒は、芋焼酎は37〜38度、米・麦焼酎は42〜44度になります。
デンプン価は芋の品種によっても異なり、品種によっては36度未満になるものも。そこでポイントになるのが蒸留時間です。アルコールは水よりも低い温度で蒸発するため、蒸留の初めは70度と度数は高め。蒸留が進み、もろみ中のアルコールが少なくなってくると、原酒の度数も低くなってきます。通常、10度前後になったところで蒸留をやめるのが一般的ですが、早い段階でカットすることで高い度数の原酒を得ることができます。原料の選び方や蒸留方法まで、つくり手のこだわりがはっきりと確かめられるのが原酒の醍醐味です。
ロックからハイボールまで、原酒は飲み方を選ばない!
度数の高さや深みある味わいが特徴の原酒は、飲み方を選ばないのも嬉しいポイント。度数の高い蒸留酒が好きな方はもちろん、普段焼酎を飲み慣れない人でも飲み方をアレンジすることで、グッと飲みやすくなりますよ!
濃厚な味わいを楽しみたい時はロックで
開けたての原酒の一杯としてオススメしたいのは、やっぱりロック。飲み始めの味わいはしっかり、時間が経って氷が溶けることで香りがより一層開き、加水前と後の味わいの変化を確かめることができます。樽熟成した原酒もあるので、ウイスキーやラムなど、洋酒が好きな人にはたまらないはず。
原酒ハイボールは香りの立ち方が抜群!
度数高めの原酒は、割っても香りや味が崩れにくいのも嬉しいポイント。炭酸水で割れば、25度の焼酎とは一味違った、リッチなハイボールが楽しめます。度数に応じて、焼酎2:炭酸水8か、焼酎3:炭酸水7で割るのがベスト。焼酎の原酒はウイスキーと近い度数なので、ウイスキーハイボールに慣れているなら、同じ感覚でソーダを注ぐだけ、という使い勝手のよさもあります。原酒特有の鼻を抜ける香りや、長い余韻。飲みやすさも相まって、ごくごく飲み進めてしまいますが、度数は1杯10%前後。おいしくても飲み過ぎには要注意!
暑い季節にはとろっとパーシャルショットで!
焼酎の原酒ならではの飲み方として試してもらいたいのが、冷凍庫で瓶ごと冷やすパーシャルショット。原酒はアルコール度数が高いため、冷凍庫で冷やしても凍らず、とろりとなめらかな舌触りになるのが特徴です。キリッと冷やすことで、ツンとしたアルコールの香りは控えめながら、味わいはしっかりと残るので、「焼けるようなアルコール感が苦手…」という人にもおすすめの飲み方です。
パーシャルショットを楽しみたい⁈
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人気の焼酎にも原酒があるかも⁈
加水しないため、つくられる本数も限られる原酒。なかなかお目にかかれないプレミアムなものを思い浮かべてしまいますが、じつはよく見かける焼酎の原酒も数多く出ています。そこで、焼酎好きなら一度は試してみたい、有名銘柄の原酒をご紹介します。
〈志比田工場 黒霧島原酒〉 霧島酒造
今やコンビニやスーパーで見ないことはない、霧島酒造のベストセラー芋焼酎〈黒霧島〉。その原酒が、2022年2月に発売開始した〈志比田工場 黒霧島原酒〉です。“ザ・芋焼酎”のこっくりとした芋の香りと後味の余韻は、レギュラー酒の〈黒霧島〉を彷彿させる味わい。ハイボールや水割りにして飲めば、25度では味わえない濃厚な風味が広がります。
志比田工場 黒霧島原酒 |
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【芋焼酎】 度数 36度 原材料 さつまいも(九州産)、米麹(国産米) 蒸留 常圧 容量 700ml 蔵元 霧島酒造 WEB→ 所在地 宮崎県都城市 |
〈原酒 三岳〉 三岳酒造
鹿児島県の蔵元、三岳酒造の定番銘柄〈三岳〉。長年愛飲しているファンも多いこの芋焼酎の原酒銘柄が〈原酒 三岳〉です。芋焼酎の原酒としてはやや高めの39度、常圧蒸留によるどっしりとした旨味が感じられます。パンチは強めながら、喉越しはすっきり。少し濃いめにお湯で割ると、寒い季節にはぴったりなほくほくとした味わいに仕上がります。
原酒 三岳 |
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【芋焼酎】 度数 39度 原材料 さつまいも(黄金千貫)・米麹 蒸留 常圧 容量 720ml 蔵元 三岳酒造 所在地 鹿児島県熊毛郡屋久島町 |
〈れんと 原酒〉奄美大島開運酒造
メジャーな黒糖焼酎の一つとして名を馳せる、奄美大島開運酒造の〈れんと〉。その原酒〈れんと 原酒〉は、42度という高い度数ならではの、とろりとした口当たりが特徴です。2019年の蔵開き限定酒だったものの、あまりの人気ぶりに再販が決定。現在は工場とオンラインショップのみで購入が可能な、レア度の高い定番銘柄の原酒です。
れんと 原酒 |
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【黒糖焼酎】 度数 42度 原材料 黒糖、米麹 蒸留 減圧 容量 720ml 蔵元 奄美大島開運酒造 WEB→ 所在地 鹿児島県大島郡宇検村 |
原酒で勝負する銘柄も要チェック!
定番銘柄の原酒としてではなく、原酒そのもので勝負する蔵元が増えてきているのも、原酒ブームを後押しする大きなきっかけに。原酒で出すことを前提としてつくられたこれらの銘柄は、まさに蔵の腕の見せどころ。同じ蔵元の原酒でも、原料やつくりが違えばその味わいも千差万別で、つい飲み比べたくなる銘柄が揃います。
〈genshu.〉シリーズ 松露酒造
宮崎県の蔵元、松露酒造がつくる〈genshu.〉シリーズ。地元でとれた宮崎紅を使用した濃厚な甘みが特徴の〈genshu. 宮崎紅〉、紅茶のような香りが〈genshu. 玉茜〉、バニラのような甘みが〈genshu. 米熟成2004〉の3種類の原酒がラインナップ。無骨なイメージがある原酒の印象をがらりと変えるようなデザインも目を引く注目の銘柄です。
genshu. シリーズ |
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芋焼酎〈genshu. 宮崎紅〉 度数 37度 原材料 さつまいも(宮崎紅)、米麹 蒸留 常圧 容量 720ml 芋焼酎〈genshu. 玉茜〉 度数 35度 原材料 さつまいも(玉茜)、米麹 蒸留 常圧 容量 720ml 米焼酎〈genshu. 米熟成2004〉 度数 39度 原材料 タイ産米・米麹 蒸留 常圧 容量 720ml 蔵元 松露酒造 WEB→ 所在地 宮崎県串間市 |
〈神武〉 シリーズ 井上酒造
宮崎県日南市に蔵を構える井上酒造がつくる原酒〈神武〉は、芋焼酎と麦焼酎の2種類あり、どちらも長期貯蔵酒。安納芋を原料に使用した〈神武 安納芋仕込長期貯蔵原酒〉は、華やかな果実感とまろやかな後味が印象的な1本。〈神武 麦全麹仕込十年貯蔵原酒〉は、全量麦麹を使った贅沢な麦焼酎で、麦特有の香ばしさと長期熟成による柔らかな口当たりが特徴です。
神武シリーズ |
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芋焼酎〈神武 安納芋仕込長期貯蔵原酒〉 度数 36度 原材料 さつまいも(安納芋)、米麹 蒸留 常圧 容量 720ml 芋焼酎〈神武 麦全麹仕込十年貯蔵原酒〉 度数 39度 原材料 麦麹 蒸留 減圧 容量 720ml 蔵元 井上酒造 WEB→ 所在地 宮崎県日南市 |
焼酎好きなら、これからは原酒も必須!
原料や麹のふくよかな香りを余すことなく楽しめる焼酎の原酒。海外の蒸留酒にも全く引けをとらない、抜群の飲みごたえは一度飲めば必ずハマるはず。原料の違いはもちろん、熟成ものから新焼酎までさまざまな原酒が続々と登場しているので、とっておきを1本を見つけてみてください!