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海外で売るために、「焼酎」の啓発を|濵田酒造の海外展開のいま

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海外で売るために、「焼酎」の啓発を|濵田酒造の海外展開のいま

Text : SHOCHU NEXT

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最近の焼酎のトレンドといえば、フルーティーで軽やかな香りのいわゆる「香り系」。鹿児島県の最大手蔵元・濵田酒造の〈だいやめ〉もその代表格のひとつだ。ライチのような香りの芋焼酎として、全国的に人気が広がり、新しいファン層を獲得しつつある。その海外限定バージョンである〈DAIYAME 40〉が発売されたのは2021年。世界的な蒸留酒のマーケットが拡大しつつあるなかで、従来のように各地の日本食店ではなく、バーテンダーやミクソロジスト、ソムリエ、世界のスピリッツ愛好家ローカルで賑わうバーやレストランでの消費をターゲットにする。〈DAIYAME 40〉は蔵元のそういった意図が明確に見える商品設計だ。独自の製法で引き出したライチのような香りはそのままに、アルコール度数は世界の一般的な蒸留酒と遜色のない40度に。ストレートやロックはもとより、カクテルベースとして設計した特別仕様だ。海外コンテストでの受賞歴も華々しく、2022年には「インターナショナル ワイン&スピリッツコンペティション」でゴールド、「サンフランシスコワールドスピリッツコンペティション」でダブルゴールド、「インターナショナルスピリッツチャレンジ」でゴールドを受賞。瞬く間にその存在感を表しつつある。

焼酎で海外を目指すという強い意志を感じさせる濵田酒造は、今年6月、台湾向けにオンラインセミナーを開催した。コロナ禍を抜けたその先で「だいやめ」ブランドはどのように海外で展開していくのだろう。セミナーの手応えや、そして今後の海外展開について、同社マーケティング本部 企画推進課の下尾崎一仁氏に話を聞いた。

左は全国の飲食店でもよく見かけるようになった25度の芋焼酎「だいやめ」。右が輸出限定バージョンの「DAIYAME 40」。

来るべき時機に備え、いまやるべきこと

 オンラインで開催された6月の台湾向けセミナーを、編集部でもお聞きしていました。〈DAIYAME 40〉はもちろん、〈海童〉や〈赤兎馬〉といった代表的な他銘柄、さらには本格焼酎自体についての解説にも時間を大きく割かれていたのが印象的です。

濵田酒造・マーケティング本部 下尾崎一仁 国外限定展開の〈DAIYAME 40〉を販売して約2年ほど。おかげさまで好評をいただき、順調に右肩上がりに伸びております。ただしその一方で、焼酎とは何かというそもそものところは、まだ全く浸透していないのが現実。弊社として、国際展開は今後さらに強化していきたいところですから、輸出にご協力いただく皆さんに焼酎そのものへの理解を深めていただくことで、「焼酎の伝道者」になっていただきたいという願いが強くあるんです。

今回のセミナーでは、台湾の高粱(コオリャン)という蒸留酒や、韓国のソジュなど他国の蒸留酒と、本格焼酎は何がどう違うのかを比較して説明させていただきました。そういった情報がとても分かりやすかったという反応もいただきましたね。

 今回は台湾がターゲットでしたね。セミナーはどんな方が参加されたのでしょう。

現在〈DAIYAME 40〉の取引が活発なのは、台湾、中国、タイ、シンガポールなどのアジアの国々。それらの国を手始めに、まずは輸出プロモーションを強化していこうという方針です。実は中国でも同様のセミナーを開催する予定でしたが、コロナウイルスの感染拡大を受けてロックダウンとなり、延期になりました。

輸出量と金額でいうと、中国は圧倒的に多いのですが、台湾向けの焼酎の輸出量は前年比150%超。急速度で成長しています。いまや日本産酒類の輸出先としては、世界トップ5のひとつなんですよ。日本文化への理解も深いし、もともと食中酒として蒸留酒を飲む文化も根づいている。市場としては外すことはできないですね。

今回は台湾のインポーター、卸売会社を中心に7社約30名ほど、さらに日本のメディアも11社の参加をいただきました。

セミナーでは、焼酎について説明するセクションにも多くの時間が割かれた。

 台湾での濵田酒造の銘柄の動向は?

〈だいやめ〉と〈赤兎馬〉がよく飲まれている印象を持っています。そこに〈だいやめ〉ブランドを選ぶ若い世代が加わってきました。彼らは本物志向の意識が強く、日本文化への関心も高いようですね。世界のトップ50に入るような人気のバーが出てきたり、カルチャーも変化しています。つい先日引き合いがあったのは、洋館を改装した完全予約制の高級料理店。現地のアッパー層が利用するお店で、本格焼酎を取り扱っていきたいという話がありました。

 今回のセミナーは、NHKをはじめとする多くの日本国内のメディアでも取り上げられましたね。

いま国内の焼酎のトピックは、値上げ、国内市場の縮小、サツマイモの基腐病……と、ネガティブなことが多い。そんななか、海外に活路を見出すメーカーに注目が集まってきていることは感じました。弊社では、これまで戦略的にコミュニケーション&リレーションシップを強化してきました。今後も、新しい何かを発信し続ける蔵元でありたいと考えています。

 アジア圏以外での展開についてはどんな計画を持たれていますか?

来年やっとアメリカ向けの輸出が始まるので、北米、また現在市場開拓を進めている欧州でのセミナーやイベントも検討している最中です。アメリカで蒸留酒を販売するのは、厳しい免許制度に加え、パートナー探しも大変で、相当な時間がかかりました。ようやくスタート地点に立ち、これからが楽しみです。

また直近では、7月にイギリスで開催される「Imbibe Live 2022」(イギリスの飲料業界専門メディア『imbibe Media』が主催する飲料関係のイベント)に出展しました。去年の初出展の際に、会場内で、口コミが広がって人だかりができたりと、〈DAIYAME 40〉が大人気だったんです。いい手応えのあった同じ場で、今年は現地のバーテンダーにも協力してもらって、認知を広げたいと考えています。

 他の焼酎メーカーの海外展開はどのくらい意識しているんでしょうか?

もちろん気になりますよ! いくつかの焼酎メーカーから輸出を意識した商品が販売されていて、さらにアメリカでは焼酎をつくるウイスキーメーカーも出始めているようですね。こういった動きはプラスに捉えていて、各社のいろんな試みを通じて、焼酎自体の知名度がもっと上がればいいと思っています。

 さまざまな社会情勢から、現在輸出もまた大きな課題を抱えていると思います。改めて今後への意気込みをお聞かせください。

コロナに加えて、ウクライナ情勢などもあり、コンテナの価格はずっと上がりっぱなし。商品が滞留するなど、物流の問題は確かに大きく、頭を悩ませてはいます。とはいえ蒸留酒である焼酎は寝かせていても品質の劣化がない点は幸いです。

今後再び、物流の状況が整うのをいたずらに待つのではなく、商品戦略を含め、国際事業を強化していく予定です。各国とのコミュニケーションに加えて、行政やジェトロなどとも連携をとって、さまざまな発信を行っていきたいと考えています。

濵田酒造・マーケティング本部 企画推進課 下尾崎一仁さん。

台湾での焼酎の可能性。現地からの声を紹介

焼酎のこれからについては現地の反応も気になるところ。SHOCHU NEXTでは、今回の濵田酒造のセミナーに参加した2名に話を聞いた。

一人目は、酒サムライの資格を持つケニー・ヤン(楊凱程/Kenny Yang)さん。和酒など日本の食品・飲料を輸入する酒藝商貿有限公司のCEOでもある。

「焼酎は、ロック、水割り、お湯割り、お茶割りなど多様な飲み方があり、外食の際に最初から最後までも飽きないのがいいですね。これまでの多くの芋焼酎は焼き芋のような甘く重い香りですが、焼酎の初心者にとってはやや個性が強すぎる。その点〈DAIYAME 40〉はライチのように軽くて甘い香りで、焼酎を飲んだことがない人でも受け入れやすい風味だと感じます。

現在、台湾の日本風居酒屋で飲まれているのは、日本酒やビールが中心ですね。焼酎の選択肢は少なく、詳しく説明できるスタッフもほぼ見当たりません。ですから、台湾での焼酎のマーケットを広げるためには、消費者と直接にコミュニケーションがとれる、飲食店でのプレゼンテーションが不可欠だと思います。蔵元からは、それぞれの銘柄の風味や、料理のペアリングのおすすめなどといった情報が欲しいです。

とはいえ、価格の壁は大きい。現在の焼酎の関税は40%。より手頃な価格になれば、飲食店にもさらに浸透していくと思います」

二人目は、食品以外にも電子部品や機械設備など幅広い分野を扱う総合商社、友士股份有限公司の食品事業部副事業部長を務める小野和彦さん。 友士股份有限公司は、台湾における〈だいやめ〉〈DAIYAME 40〉の正規輸入会社でもある。

「焼酎は台湾ではまだ市民権を得られていないお酒。台湾人の“焼酎ファン”の多くは、日本で味を覚えた方ですね。また、台湾ではお湯割り/水割りなど割って飲む習慣が希薄で、ストレートまたはロックが多いです。

ただし台湾は、ウイスキーのとても大きな市場ですし、高粱酒という伝統的なお酒もよく飲まれていますから、同じ蒸留酒である焼酎も、必ず大きくシェアを伸ばすチャンスはあると常々感じています。〈DAIYAME 40〉のような香りに特化したもの、40度前後のアルコール濃度の高いもの、そしてウイスキー好きに向けた樽貯蔵熟成タイプのものの可能性が高いと感じています。

〈DAIYAME 40〉についてもう少しお話すると、デザインが画期的でした。伝統的な日本の焼酎のラベルデザインは、一般的に古臭いと感じる台湾人が驚くほど多い。そんななか、〈DAIYAME 40〉の黒いボトルや英文字のロゴはとても好意的に受け止められていて、クールな印象を与えているようです。また、芋焼酎独特の香りを苦手とする方が多い中、ライチの香りのインパクトは非常に新鮮で、若い女性でも『これなら飲める』という反応も多いです。すでに弊社ではここ10年来売り上げのトップを走っていた商品の出荷量を超え、焼酎カテゴリーの売上NO.1の銘柄となりました。台湾の焼酎市場を開拓していくフックとなり得る商材なのでは、と感じています」

台湾ではまだまだ知られていない焼酎。だからこそインポーターの期待度はとても高いことが伝わってくる。「日本の伝統的なお酒なのに、世界が知らない」ことは、長く焼酎にとっての大きな課題だったが、そのニッチさ自体が、捉え方によっては強みにもなっていくのかもしれない。

DAIYAME 40
【芋焼酎】
度数 40度
原材料 さつまいも(鹿児島県産)・米麹(国産米・黒麹)
蒸留 減圧
蔵元 濵田酒造  〈DAIYAME 40〉ブランドサイト→
所在地 鹿児島県いちき串木野市

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