「カストリ焼酎」を知っているだろうか? ……“カス”だなんて聞こえがよくないなと思いました? カストリ=粕取。粕とは、粕汁や粕漬けの粕、日本酒をつくる過程で出る酒粕のこと。つまり粕取焼酎は、あの酒粕を蒸留してつくる焼酎なのです。
実は歴史の古いこの粕取焼酎、現在では味のバリエーションもかなり豊かで、日本酒と焼酎のいいとこどりという銘柄も少なくありません。今回は、お酒の資格を多数持ち、イベントやセミナー、コンサルティング活動を行うアサノノリエさんをお招きして、粕取焼酎の飲み比べをしていただきました。

栄養価の高い酒粕からつくる粕取焼酎
大まかにいって日本酒は、お米に麹を加えて発酵させてできた「もろみ」を濾してつくられます。酒粕はお酒を絞った後に残るもので、栄養分もたっぷり。これが料理に使われたり、最近では化粧品などにも活用されていますが、その香りを思い出してもらえれば分かるように、酒粕には約8%ほどのアルコールが残っているのです。これをさらに蒸留して粕取焼酎をつくることは、日本酒の蔵元では古くから行われてきました。
伝統的な製法では、酒粕にさらにもみ殻を混ぜて蒸留していました。もみ殻からくる香りのクセが強いため、かつての粕取焼酎は、かなり好き嫌いが分かれるものだったそう。ところが「いまではつくり方の幅も広がり、さまざまな味わいを楽しむことができますよ」とアサノさん。さらに、熟成にこだわった銘柄も少なくありません。今回用意したのは粕取焼酎の熟成タイプ3種類。それでは、味わっていただきましょう!

01|天吹 吟醸粕取り焼酎

華やかな吟醸香のリッチ感。スイーツとの相性に期待
最初の一本は、佐賀県の天吹酒造による花酵母を使った〈天吹〉。
「わあ! ボリュームのある吟醸香を感じますね。吟醸香を説明する際に、“花のような”とか“フルーツのような”というと伝わりやすいのですが、これはまさにそういった香りがとても豊かに広がっていきます。口に含むと、どこか甘酸っぱさも感じられ口の中がお花畑になるよう。夏場はワイングラスにクラッシュアイスを入れてソーダアップして飲みたい! 酸味のあるスイーツにも合いそうですね。ラズベリーソースのレアチーズケーキとか。その時はお湯割りにして、チーズが口の中で溶けるのを楽しむのもよさそうですね。とにかく女性にはおすすめの1本です。外国人やお酒の強い方にはストレートで食後のグラッパのように楽しんでいただいても。
東京農大に花酵母研究会という研究室があるのですが、天吹酒造はこの研究室と協力してさまざまな花酵母を使ったお酒づくりをされています。花酵母によってその花特有の香りが必ずしも特徴的に出るわけではないのですが、とても華やかでやさしい味わいになります。それにごはん屋さんで”花酵母”と書いてあったら、女性にとっては頼むきっかけにもなりますね」

| 天吹 吟醸粕取り焼酎 |
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| 貯蔵 1年以上・甕 度数 25度 原材料 国産米 蒸留 減圧 蔵元 天吹酒造 WEB → 所在地 佐賀県三養基郡 |
02|無濾過原酒 荒城屋39

樽熟成の香ばしさと吟醸の爽やかさの絶妙なバランス
次に登場するのは、清酒〈蓬莱〉で知られる岐阜県の渡辺酒造店による、原酒の粕取焼酎。5種類の樽を使った本数限定の一本です。
「ミズナラやシェリーなど5種類の樽で3年以上熟成した粕取焼酎なんて、とても珍しい。限定品ですし、とてもコンセプチュアルな1本ですね。香りは、ウイスキーのようなナッツやバニラの甘やかな香りがする一方で、吟醸香のフルーツや花、そしてふくよかなお米の香りも感じられます。柔らかで上品な樽の使い方と吟醸酒の酒粕由来の華やかさと軽快さが同時にありますね。樽熟成の原酒ということもあり、テクスチャーにとろみがあって、口に入れたときのアタックが強いです。アルコール由来の甘みが感じられます。ウイスキーや麦焼酎は余韻に香ばしさが残りますが、こちらはスッキリ。香りと味のバランスがとてもいい1本だと思います。お酒に上品さと複雑味があるので、料理は食材のよさをシンプルに生かしたような、例えばこんがり焼いた野菜や豚肉、地鶏のグリルなどを、スモーキーな香りと旨味とともにあら塩でいただきたい。
それからこちらの原酒は、水を入れるととてもマイルドになりますね。これはいい! トワイスアップの味わいが抜群です! 樽感が少し落ち着いて、吟醸感が一気に出てきます。うーんこれは、ぜひ渡辺酒造店の〈蓬莱〉の仕込み水で飲んでみたいなあ」

| 無濾過原酒 荒城屋39 |
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| 貯蔵 3年以上(ミズナラ・シェリー・ブランデー・バーボン・アメリカンホワイトオーク樽) 度数 39度 原材料 清酒粕(国産) 蒸留 減圧 *限定1716本 シリアルナンバー付き 蔵元 渡辺酒造店 WEB → 所在地 岐阜県飛騨市 |
03|よろしく千萬あるべし

爽やかな香り、すっきりした余韻。キレを楽しむ焼酎
最後に登場するのは、〈八海山〉で知られる新潟県の八海醸造による本格米焼酎〈よろしく千萬あるべし〉。正確には粕取焼酎とはすこし異なり、こちらは原料の米の発酵段階で酒粕を加えて蒸留している銘柄。日本酒「八海山」の醸造技術を取り入れた、焼酎では珍しい三段仕込みでつくるもろみを醸した焼酎は、一体どんな味がするのでしょう?
「まずは香りから。とてもおだやかで透明感のある香りがしますね。新潟県らしい淡麗辛口を思わせる、きれいな香りです。吟醸香も華やかすぎない。味はとてもすっきりしていてまろやか。酒粕を使用した米焼酎の入門編にはうってつけな1本だと思います。実はこの焼酎を使ったソーダ割りの缶はコンビニでも買えるんですよ。癖がないのでカクテルや酎ハイベースでもいいし、飲みやすい味わいなんじゃないかな。このすっきり感は、日本酒の辛口に近い余韻がありますね。キレがいい。食事と合わせるならやはり魚介系ですね。蔵のある北陸日本海側の食文化にあった清酒づくりが、この焼酎にも反映されていると思います。ほかにはハーブを使った香り高い料理でもよさそう。ライトな白ワインをイメージしたペアリングも考えるのが楽しいかもしれないですね」

| よろしく千萬あるべし |
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| 貯蔵 2年以上 度数 25度 原材料 米(国産)、米こうじ(国産米)、清酒粕 蒸留 減圧 蔵元 八海醸造 WEB → 所在地 新潟県南魚沼市 |
粕取焼酎は世界に通じるお酒

日本酒に詳しいアサノさんの言葉から、吟醸香を探り、感じ、どう楽しむか。それが、粕取焼酎と一般的な焼酎の大きな違いのようです。
「普段、焼酎を飲み慣れた方だと、粕取焼酎の吟醸香が苦手に感じるということがあるかもしれません。でも今回飲み比べた3本だけでも、香りも味も幅がすごく広い。苦手意識を持たずにぜひ試していただきたいですね。割り方によっても味わいが変わるので、幅広く試せると思います。
ひとくちに粕取焼酎といっても、それぞれの蔵元の清酒づくりの個性が反映されているのがとても面白いですね。渡辺酒造店は”日本で一番笑顔があふれる蔵”を標榜していて、しっかりした清酒づくりのほかにも、くすっと笑える名前の銘柄なども多い、企画性に富んだ酒蔵。限定焼酎にもその特徴を感じることができました。
酒粕でお酒をつくる文化は、海外にもけっこうあるんですよ。イタリアのグラッパやフランスのマールは、ワインをつくる際に出るぶどうの絞りカスを使った蒸留酒です。食事中はワインを楽しみ、ちょっと中休みや最後に蒸留酒を一杯、といった飲み方が一般的ですが、たとえば〈ロマネコンティ〉のマール、〈サシカイヤ〉のグラッパなど、高級ワインの酒粕蒸留酒だと、プレミアがつくものも少なくないんです。
海外でも人気の〈獺祭〉も粕取焼酎を出していますね。たとえば海外の和食レストランで、日本酒のあとに粕取焼酎といったプレゼンテーションはすごくウケがいいのではないのでしょうか。
また、酒づくりにおけるサスティナビリティという観点からも、粕取焼酎は説得力がありそうです。酒粕は、いわば清酒づくりの過程で出る廃棄物。それを活用して蒸留するという創意工夫が、粕取焼酎には込められているんです。ある程度の量の日本酒をつくる蔵元ともなれば、廃棄にだってコストがかかります。酒粕の再利用は昔からさまざまに考えられてきて、食品や化粧品としての利用のほか、家畜の飼料にするなど、多くの酒蔵が、酒粕を無駄にしないようさまざまに努力してきました。
近年、世界のお酒シーンでは蒸留酒がトレンドということもあり、酒粕でジンをつくったり、コロナ禍で在庫の余ったクラフトビールを蒸留酒にするなど、いろいろな取り組みが見られるようになってきました。
日本酒の酒蔵がすべて蒸留器を持っているわけでもありませんから、たとえば、清酒蔵と焼酎蔵が手を組んで、新しいお酒をつくるといった試みが出てきたら面白いでしょうね。昔からある粕取焼酎ですが、これからの時代のお酒の可能性を感じます」
どうですか? 粕取焼酎、とても可能性豊かな焼酎なんだなって思いません? 日本酒らしさと焼酎らしさ、そして環境への配慮もあわせもったこの焼酎を、もうちょっと飲んでほしいなって私たちは思うんです。あなたも一杯どうでしょう!

アサノノリエ
Norie Asano/神奈川県横浜市出身。高校卒業後、渡米し、7年間以上をアメリカで過ごす。ボストンの2つの美術大学を卒業。帰国後、アートと教育関係の仕事を経て、お酒業界へ。JSA認定ソムリエ、JSA認定 Sake Diploma、International、SSI認定 焼酎唎酒師など酒類の資格を多数取得。フードペアリングイベントやツーリズムやセミナー、飲食店や宿泊施設のコンサルティング、商品や地方のPRを中心に「にほんのもの」を国内外に広める活動を行っている。にほんのもの応援社「和altz(わるつ)」代表。https://norieasano.theblog.me

