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世界でつくられてこそ伝統は生きる! 海外の和酒製造に探す、焼酎輸出のヒント|蒸留酒のグローバルトレンド#03

コラム

世界でつくられてこそ伝統は生きる! 海外の和酒製造に探す、焼酎輸出のヒント|蒸留酒のグローバルトレンド#03

Text : Jason Morgan
Translation : SHOCHU NEXT

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世界の蒸留酒のいまを知る、ジェイソン・モーガンによる連載第3回目。今回のテーマは、海外でつくられる日本のお酒について。アメリカでは日本酒づくりを手がけるメーカーが年々増えているようですが、おいしくて魅力的なものは国を超えてどんどん広がるもの。いつか焼酎もそんな素晴らしい交流の中心となる日が来るのかもしれません。


世界各地でつくられるからブランドになる

ウイスキーやジン、ウオッカは、世界で広く楽しまれるお酒。いまや世界のあらゆる場所で製造されているが、かつてはそれぞれ特定のエリアで発展した蒸留酒だ。たとえばウイスキー。いま私たちが、ウイスキーをウイスキーたらしめるものととらえている、蒸留技術や貯蔵技術の起源は、アイルランドやスコットランドを含む地域にある。スコッチやアイリッシュウイスキーの文化と蒸留技術はその後世界へと広がり、ジャパニーズウイスキー、アメリカンバーボン、カナダディアンウイスキーといった豊かなバリエーションを生み出した。それぞれの国で、原材料や製造技術、さらには消費の仕方に工夫がなされ、それによってウイスキーのブランド力は世界的に強固なものになった。

いくつかの日本の文化もまた、国際的な認知を得ることで、まったく新しいものへと発展してきた。すぐに思いつくのは寿司。日本食が欧米の食卓にも届き始めたのは、1960年代~70年代あたり。当初は、生魚を食べることへの嫌悪感が大きく、欧米人の嗜好に合う代替案が必要だった。そのひとつがカルフォルニアロールである。伝統的な寿司に慣れた人々には困惑を呼ぶカリフォルニアロールだが、当時の欧米人にとっては、気軽に寿司を食べてみようと思えるものだった。さらに結果的には、そうやって寿司を試してみた多くの人々が、今度は生の魚を使った本物の寿司を試してみたいと思うようになっていく。そうしていまやどうだろう! 寿司は世界中で人気者となり、なかには“寿司ピザ”や“寿司ブリトー”のような、奇抜な実験版の食べ物まで出現したほどだ。本来の伝統的な寿司からは遠く離れたこういったアイデアは、欧米の食事と和食のフュージョンによる新しいカテゴリーにすらなりつつある。

伝統的な日本のお酒––焼酎や日本酒もまた、寿司の歴史をなぞるようにして、日本人だけが特別につくるものという段階を卒業し、世界中でつくられ、楽しまれるものへ転換点を迎えつつあるのかもしれない。近年、日本酒や焼酎のつくり手が、世界中に誕生し始めている。そういった日本酒や焼酎のマーケティングを考えることは、日本の酒類の輸出の位置づけについて、ヒントをもたらしてくれるのではないか。まずは海外でより認知度の高い日本酒について、2つほど国外の事例をお話ししたあとに、焼酎の海外蔵元2例について述べていく。

本格派からフレーバー系まで、盛り上がるsakeの現在

海外における日本酒の醸造元の歴史を紐解いてまず分かるのが、1910年代初頭頃のアメリカではすでに、日系人経営による醸造所があったこと。禁酒法が制定された1920年頃には、20もの醸造所があったようだが、禁酒法時代にその数を減らした(第2次世界大戦時の反日感情の影響も大きい)。しかし1970年代になると、醸造所が新たに設立されるようになり、月桂冠や宝酒造など日本の大手企業も海外支部を立ち上げている。

「月桂冠」はアメリカではもっとも有名な日本酒のひとつ。
参考:gekkeikan.com

高価格・高品質の日本酒にスポットが当たったり、日本には全くルーツのない新世代の醸造家たちが、文化や歴史を超えて日本酒づくりを始めたりといった傾向が見られるようになったのは、この15年ほどのことだ。

アメリカでそんな新世代醸造家を代表するのが「SakeOne」だ。1992年に日本酒のインポーターとして創業した彼らが、日本酒の製造を始めたのは1997年。そして現在ではアメリカ最大の醸造元となった。彼らのラインアップには、日本で飲む日本酒に近い〈Momokawa〉のようなスタンダードな銘柄も多い。一方で伝統的な日本酒とは異なる銘柄も多く、たとえば〈Moonstone〉シリーズは、梨、ココナッツレモングラス、プラムなどを浸漬させた日本酒である。これら銘柄の大部分が、250ml缶あたり6ドルで手に入る。

フレーバー日本酒〈Moonstone〉シリーズ。
参考:sakeone.com
缶で販売されている〈Yomi〉。
参考:sakeone.com

「Brooklyn Kura」は、ニューヨークの気鋭のつくり手。伝統的な日本酒づくりに、新しい原材料や発酵手法を組み合わせている。たとえば〈Occidental〉は、純米酒でありながら“ドライホップ”の手法を使ったものだ(ビールにホップを加える新しい手法“ドライホップ”は、現在クラフトビール業界でかなりの人気がある)。さらに彼らは発酵にも挑んでおり、限定販売の〈Yamahai Byx〉は、ノルウェーの伝統的なビールで使用される「gjærkrans」(イェルクランス)という酵母を使った自然発酵による日本酒だ。

リング状が特徴的な「gjærkrans」酵母をイラストにあしらった〈Yamahai Byx〉。
参考:brooklynkura.com

海外での日本酒の醸造所の広がりは、組合を必要とするところまできている。2019年に「The Sake Brewers Association of North America(北米SAKE醸造組合)」が設立されたことは、アメリカやカナダで、いかに新しい醸造所の増えているかを示すものだ。

日本人の移住者の多さ、そして日本との関係の深さから、アメリカが海外における日本酒醸造の最前線ではあるが、ヨーロッパでも日本酒づくりに挑戦する醸造家は少なくない。たとえばノルウェーのクラフトビールメーカー「Nøgne Ø」は、ヨーロッパで最初に日本酒づくりを行ったメーカーだ。彼らは2018年に日本酒づくりをやめてしまったものの、いくつかの面白い日本酒の銘柄や、酒とビールのハイブリッドによる銘柄をつくった。

「Nøgne Ø」の純米酒。参考:nogne-o.com

海外製が増えれば焼酎の世界市場も成長する

日本酒と比べると、焼酎は海外での認知度はまだ低く、それゆえに海外の焼酎蒸留所の数もまだ少ない。しかしそれは、いまだ成長のポテンシャルがあるということでもある。さてそれでは、国外の焼酎蒸留所を見ていこう。さまざまな蒸留酒のひとつとして焼酎も手がける蒸留所を1例、焼酎だけに特化した蒸留所を2例挙げる。興味深い点として、多くの蒸留所がその銘柄を「焼酎」と呼ぶなか、なかには、「ライスウイスキー」「米麹スピリット(Rice Koji Spirit)」と呼んでいる蒸留所もあることは記しておきたい。

アメリカのHoryzon社は、「Rice koji spirit」と表記している。参考:horyzonspirits.com

日本酒と同様、最初の海外の焼酎蒸留所は、ハワイやアメリカ西海岸で誕生する。初めに現れたのが、シアトルの「Sodo Spirits」。2009年ごろから〈Even Star〉というシリーズを販売した。Sodoが手がけたのはフレーバー焼酎で、ローズマリー、ジンジャー、ミントなどのバリエーションのほか、樽熟成の限定エディションも手がけていた。これら銘柄は、アルコール度数30度。カクテル原料としての消費を想定していたのだが、残念なことに2016年頃には廃業してしまう。Sodoの銘柄を入手するのは、今はもう難しい。

次にあげるのが、カリフォルニアに1982年に創立した蒸留所「St George Spirits」だ。開業時にはさまざまなオー・ド・ヴィ(果実を原料とした蒸留酒)をつくった後、ジン、ウイスキー、ウォッカ、アブサンなどほかの蒸留酒の製造へと発展し、クラフト蒸留酒のムーブメント黎明期を牽引するインフルエンサーとなっていく。そんな彼らが、カルフォルニアのオークランドにある「Ramen Shop(編注:オークランドの人気のラーメン店。オーナーはアメリカ人)」とのコラボレーションで、カリフォルニアで製造された日本酒の酒粕を原料に、カリフォルニア焼酎をつくっている。販売価格は43ドルほど。オンラインのほかに、全米の酒販店でも入手できる。

St George Spiritsの焼酎。
参考:stgeorgespirits.com

「Hawaiian Shochu Company(HSC)」は興味深い蒸留所だ。国外にある焼酎蒸留所ではもっとも伝統的な蒸留所でもあるだろう。オーナーのヒラタ・ケン氏はかつて、鹿児島の萬膳酒造で働いていた人物。彼はハワイの伝統食であるポイ(タロイモを発酵させたもの)を知り、ハワイの人々が芋と発酵食品の両方に親しみがあるのだから、芋焼酎とも相性がいいと考えたのだ。HSCはとても狭く・小さく経営を行っており、ウェブサイトも持っていない。〈Nami Hana〉(30度・43ドル)と、樽熟成の高い度数の〈Banzai Strength〉(40度・46ドル)という主要銘柄は、多くはハワイで消費され、いくらかはアメリカ全土にも出回っているものの、海外輸出は行っていない。

Hawaiian Shochu Companyによる限定商品。
参考:facebook.com/hawaiianshochucompany

最後に、新しいブランドである「Mujen」について話そう。アメリカ拠点のメーカーだが、焼酎は熊本県人吉市にある繊月酒造から仕入れている。近年、海外企業と日本の蔵元がタッグを組み、国外販売を企図する独自のブランドをつくるのが、一般的な傾向となってきた。ジャパニーズウイスキーにおいても、その動きは顕著だ。Mujenが扱う焼酎は3銘柄。〈Ai Lite〉(34.99ドル)は23度の米焼酎でウオッカに変わる低カロリー・低アルコール市場向け。〈Original〉(39.99ドル)は、35度の米焼酎で、ウオッカやラムに代わるカクテルの材料として。〈X〉(85.99ドル)は、オーク樽で10年寝かせた42度の米焼酎で、シングルモルトウイスキーや高級テキーラのようにストレートやロックで飲むことを狙う。このブランドは2021年の6月に誕生したばかりながら、焼酎に対するこのような新たな視点がアメリカでどのように受け入れられるのか、僕自身も楽しみに見守っている。

Mujenによる3種類の製品。
参考:mujen.com

海外製品の売り方に学ぶことも大きい

日本国外における日本酒や焼酎の新たなつくり手たちは、着実なペースで数を増やし続けている。海外産の日本酒や焼酎がどのように売られているかを考察することは、日本国内の蔵元にとって、自分たちの製品を海外輸出する際にどんな狙いを定めるべきかについて、さまざまなヒントをくれるのではないだろうか。たとえばパッケージ。国外製品は、日本で一般的に使われている720mlや一升瓶ではなく、高級感とオリジナリティがあるボトルがよく使われている。輸出の際の容量規制によるところも大きいのだろうが、手の込んだデザインが、商品をより高価格なものへと引き上げてくれるだろう。

また、海外製品が原料についても強く言及しているのも特筆すべき点だ。地元産米や非遺伝子組み替え作物、さらにオーガニックな作物といったことは、誇りを持ってはっきり表示される。米の銘柄や生産地、そして発酵技術についての説明も添えられるし、ラベルでも、健康に関する事実を記載し、グルテンフリー、添加物不使用といった事実にも触れられる。さらには、何百年にわたる日本酒や焼酎づくりの伝統や歴史に対する大きな敬意を表し、醸造や蒸留の過程での細かな情報も提供されており、それらが製品のストーリーともなっている。

もう一点。海外産の焼酎はおおむね、日本のものよりも度数の高いものが販売されている。焼酎はほかの蒸留酒、ウイスキーやテキーラなど40度程度の蒸留酒と比較されることが多く、高い度数の焼酎を扱うことでそれらに匹敵するものとして、またそれらに代わるものとして受け入れられやすくなる。さらに海外の蒸留所は、日本では一般的な飲み方であるロック、お湯割、水割りなどを避ける傾向もある。焼酎ベースのカクテルを積極的に紹介しているのだ。

特定の地域の文化に深く根ざした食やお酒を、その地域と関わりのない人が新たに扱うとき、多くの人は嘲笑するものだ。しかし、英語には「真似こそがいちばん誠実なお世辞だ」(imitation is the sincerest form of flattery)というフレーズがある。誰かの真似をすることは、その人に対する敬意であるという意味だ。海外のつくり手たちが日本酒や焼酎をつくるのは、お金のためというよりも、日本古来の文化や、伝統技術でつくられるものたちの品質に影響を受け、情熱を傾ける仕事としてだ。

ワイン業界では有名な1976年の「パリスの審判」を思い出してみたい。ワインの専門家たちが、アメリカとフランスのワインをブランドテイスティングしてみたところ、アメリカ産のワインの方が軒並み高い評価をつけた有名な事件で、業界に大きな衝撃を与えたのだ。そう遠くない将来、海外産の日本酒や焼酎が、日本産の酒に匹敵し、上回る日が来るかもしれない。それって素晴らしいことなのだ。日本の醸造技術や蒸留技術が世界にまで広がったということだし、そうなれば国内外双方の製造者が成長を見込めるのだから。伝統的ではない、“とんでもない酒”は、明日の伝統であり、それぞれの地域での発展形だ。だからこそ言う。海外で日本酒・焼酎酒をつくることを、もっと広めよう!

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