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河内源一郎商店で聞く。「麹」について10の質問!

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河内源一郎商店で聞く。「麹」について10の質問!

Text & Photo : SHOCHU NEXT

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日本の蒸留酒・焼酎の大きな特徴である「麹」。日本酒しかり、焼酎のアルコールは、麹の働きあってこそです。この「麹」、味噌や醤油づくりにも使われるなど、日本の食生活とは切っても切り離せないもの。その割に、その実態はといわれると、実物のイメージやその働きをすぐには思いつけませんよね? 身近なのに謎の存在「麹」のことを知りたくなったら、プロに聞いてみるのがいちばん! というわけで、日本の焼酎の約8割(!)で使われる種麹を製造する、鹿児島県・河内源一郎商店で、麹のいろいろを聞いてきました。

日本の焼酎の約8割に使われる、種麹のプロ

河内源一郎商店代表取締役の山元文晴さん。医学博士の顔ももつ。

麹についての質問を携えて、やってきたのは鹿児島県溝辺市。鹿児島空港からすぐ、青々とした芝生のなかに、ドーン! と焼酎瓶のオブジェがそびえるのが今回の目的地「河内源一郎商店」です。河内源一郎という人物の名前、マニアックなら焼酎好きなら耳にしたことがあるのでは? 後述しますが、黒麹菌を発見し、焼酎の製造技術を飛躍的に前進させた人物です。その名を冠する「河内源一郎商店」は、源一郎の流れを組む会社。現在も麹についての研究を重ねる傍ら、種麹を多くの焼酎蔵元に販売しています。「日本の焼酎銘柄の約8割は、私たちの種麹を使ってつくられています」と話すのは、同社代表取締役にして4代目の山元文晴さん。会社に併設されたミュージアムを見学しながら、麹のことを教えてくださいました。さて、では質問に参りましょう!

Q1.焼酎づくりに欠かせないと聞く「麹」。そもそも麹ってなんですか? なぜそんなに大切なんでしょう?

「麹とは、米や麦、大豆などの穀物を蒸し、そこに麹菌を付着させて培養させたものを指します。麹菌の正式名称は『コウジカビ』。要はカビの一種です。そう聞くとぎょっとされるかもしれませんが、カビにはさまざまな種類がありそれぞれに違う働きをする。なかでも麹菌は、世界でもアジアにだけ存在する有用微生物で、日本独特の気候風土により自然発生したとされます。麹菌は“アスペルギルス”というカビに分類されるのですが、アスペルギルスは米につきやすい。昔から稲作がさかんだった日本の風土・文化とも相性がいい菌なんです。この麹菌の大きな働きのひとつが、酵素を出して、さまざまなものを分解すること。お酒も麹菌のこの働きを利用しています。麹菌の酵素が穀物に含まれるでんぷんをブドウ糖に分解する。そうすると今度は、酵母がそれを食べてアルコールをつくるのです。日本のお酒=焼酎・日本酒をつくるうえで、欠かせない下準備を麹が担っているんです」

Q2.麹はカビ菌なのですね!   体内に入って大丈夫なんでしょうか…?

「そこが面白いところなんですよ! カビにもかかわらず、毒性がないことが麹菌の大きな特徴です。麹菌を生やした米や芋をそのまま食べることは、普通の方はまずないでしょうね(笑)。でも仮に食べたとしても体調を崩すことはありません。欧米の医学界ではアスペルギルス属は肺炎を引き起こす菌として認識されていて、日本では食べ物に使うことは驚きのようです。海外のアスペルギルスとは違い、なぜか日本の麹菌は変異してもまったくカビ毒が発生しない。むしろ、デンプンを糖分へと分解するアミラーゼ、タンパク質をアミノ酸に分解するプロテアーゼ、脂肪を分解するリパーゼの3大消化酵素が豊富に含まれていることが、種々の食物をつくるのに使われています。麹菌は、日本人の健康を支えてきた大きな力なんですよ」

Q3. 先ほど、麹菌は日本に元々からいた菌と聞きました。人間の体にとって安全で、食物づくりにも有用なカビ菌が、どうやって生まれたんでしょう?

「それが、実はどのようにして麹菌が生まれたかは、今でもよくわかっていないんです。諸説ありますが、気候風土に合った土着の菌のうち、安全でいい麹菌だけを残して改良を重ねてきた、つまりは“’麹菌の家畜化”をしてきたという説は有力なもののひとつです」

Q4. 焼酎に使われる麹といえば、黒麹・白麹・黄麹の3種類です。その違いを教えてください。 

焼酎づくりに使われる3種類の麹。左から、米に黒麹菌・白麹菌・黄麹菌を育てたもの。

「お酒づくりに使われてきた順にいうと、約500年前~約100年前までのメインだったのが黄麹(アスペルギルス・オリゼー)。実際には“黄”というより少し緑がかった黄土色っぽい色をしています。この黄麹はデンプンの分解力は強いものの、クエン酸をほとんど出さない。そのために雑菌が繁殖しやすくて腐りやすいのが難点なんですよね。

焼酎づくりを大きく変えたとされるのが、黒麹(アスペルギルス・アワモリ)です。その名の通りに沖縄で泡盛づくりに使われていた麹菌です。九州よりも暑い沖縄でつくられている泡盛にヒントを求め、当時鹿児島税務署監督局で焼酎の製造指導をしていた私たちの初代・河内源一郎が、黒麹菌の分離に成功しました。カビの胞子が黒っぽく、見た目は濃茶色。この黒麹は、黄麹と比べてデンプンの分解力は弱く、雑菌の繁殖を防ぐクエン酸を多く生成します。これによって焼酎をつくる上での腐造が減り、おいしい焼酎を安定してつくれるようになりました。

白麹(アスペルギルス・カワチ)は黒麹菌の突然変異から誕生した麹菌。実際は真っ白というよりベージュっぽい色合いです。これも初代・河内源一郎が、大正時代のおわりに純粋培養に成功しました。黒麹と同様にクエン酸をつくりますが、より扱いやすいので、後に焼酎づくりの主流を占めるようになりました」

Q5. なるほど、麹の色によって性質の違いがあるんですね。ところで、3つのうちの“最新といえる白麹の発見から100年以上経っていますが、色はその3種類だけなのですか? 

「見た目の色の違いで大きく3種類に分けていますが、微生物ですから、個体差や性質の違いはもちろんあるんです。昔は現在ほどに、それぞれの性質を測定したりする機械もありませんでしたから、色で分ける以外に方法がなかった。今も原則はその分類に則っているというだけ。うちは種麹屋であり麹のプロですから、その3種類のなかでももっと細かな分類を把握しています。詳しくはお話しできませんが、蔵元さんから、『こういう酒づくりをしたいから、こういう性質の白麹が欲しい』といったリクエストを受けて特別につくっていたりもします」

Q6.麹菌も生き物である以上、変異がしばしば起きたりするのかな? と素人ながらにして想像します。そういう変異をどうやって制御するのですか?

研究室では、それぞれの麹菌の性質を常に分析し、細かなチェックを行っている。

「とてもいい質問ですね! 実は麹の品質を一定に保つことは、私たち種麹屋にとって、とても重要な仕事のひとつ。私たちは、創業者である河内源一郎氏が作った麹菌を大切に保管し、それを培養し増やし続けていますが、変異はもちろん起きる。だから定期的な成分チェックが必須です。分析によってもし許容範囲を超える変異やエラーがあった場合には、すべて弾いていくのです。大変な手間のかかる作業ですが、良質な麹を安定して作ることが、私たちの使命なんですよね」

Q7. 焼酎や日本酒のほかにも、日本には麹を使う発酵食品がいっぱい。味噌や醤油に使う麹と、焼酎の麹は違うのですか?

味噌や醤油づくりに使うのは黄麹が多いですね。味噌をつくる時は麹の酵素の作用によってデンプンを糖化させて、うま味成分を引き出すことが重要。そのためには黄麹がいちばん適しているんです。最近では、焼酎でも黄麹を使った銘柄が増えてきましたね。とはいえ、温暖な気候での焼酎づくりは、クエン酸をつくるために腐造のリスクの少ない黒麹・白麹が主流です」

Q8.ところで、麹菌ってほかの国でも使われているんですか?

「中国や台湾には紅麹という麹があり、お酒づくりなどにも使われています。ですがこの紅麹、日本の麹とは全くの別物なんです。日本の麹がアスペルギルス属なのに対して、紅麹はモナスカス属。違う種類のカビなんですよ。アジア圏で使われている、“人にとって役に立つカビ”を総称して、麹と呼んでいるという理解がいいかもしれませんね」

Q9. 焼酎蔵を訪ねると、手作業で麹をつくる蔵、大小さまざまな機械で麹づくりを行う蔵があります。それぞれの違いを教えてほしいです。

「人の手による麹づくりは、仕上がりにムラが発生することもある。でもつくる人たちの技術が上がっていくと、機械では追いつけないような、抜群の麹ができることもあるのが面白いところですね。一方で機械でつくる場合には大量かつ品質の安定した麹をつくることができる。どちらも一長一短。それぞれの蔵が、求める味に合わせた手法をとっているのだと思います」

Q10. 山元さんにとっていい種麹とは?

種麹をつくることは、“全てのベースになるものをつくること”。もちろん、安全で品質のいい麹をつくるのが大前提ですが、それぞれの蔵の方が目指す風味づくりを助けてくれる種麹こそが最良の種麹だと、私自身は考えています。これからも、蔵の方々が使いやすい種麹を、フレキシブルにつくっていきたいと思っています」


麹は焼酎の味に個性を与える、とても重要なピースのひとつ。焼酎以外にも味噌や醤油などに使われ、日本人の食生活を支えてきたというのに、起源不明のミステリアスな存在なのは、興味深いところです。世界的な発酵ブームのなか、”koji mold”として海外でも認知度を高めている日本の「麹」。まだまだ大きな可能性を秘めているのかもしれません。


河内菌本舗・河内源一郎商店
所在地 鹿児島県霧島市溝辺町麓876-15
HP https://www.kawauchi.co.jp/ →
見学 可 
併設のレストラン「バレル・バレープラハ&GEN」から予約・問合せのこと。

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