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焼酎の味を左右する大きな存在「麹」の話。

コラム

焼酎の味を左右する大きな存在「麹」の話。

Text : Kaoru Yoshimitsu
Edit : SHOCHU NEXT

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ウイスキーやラム、ブランデーなど世界の蒸留酒を見渡したとき、焼酎が「麹」を使ってつくられることは、とても特殊かつ特徴的な点。焼酎づくりのさまざまなプロセスのうち、麹づくりに心血を注ぐ蔵元は少なくない。それほどに、麹は焼酎にとっても非常に重要な役目を担う、酒質を左右する大切な第一歩だ。
さらに、熟成焼酎には「麹ならではのまろやかさがある」というのもよく聞く言葉。今回は、熟成焼酎を語る上でも見逃せない麹について理解を深めよう。


カビ菌の働きで生まれるアルコール。

そもそも麹とは、カビの一種である麹菌(日本ではコウジカビ)を米や麦などに生やしたもの。麹菌がつくる酵素は、米や麦などに含まれるデンプンを分解して糖をつくり出し(糖化)、この糖が酵母のエサとなって、炭酸ガスとアルコールをつくり出す。

日本は、その温暖多湿な気候からカビが生きるのには格好の土地。そんなところから、納豆や味噌、醤油などカビ菌を使った発酵食品づくりがさかんなのだが、焼酎づくりにも同じことがいえるのだ。

さてでは麹づくり(製麹・せいぎく)。

原料(米や麦)を蒸し、種麹をふりかけて麹菌を育成させたものが「麹」。種麹をつけてから約40~42時間で麹となるのだが、この麹づくりには、麹蓋を使う蓋麹法、箱を使わずにすべての操作を床の上で行う床麹法、温度・湿度・繁殖状態を半自動~自動で調節する機械製麴法などがある。

どの製麹法をとるかは蔵元次第だが、現在では、多くの蔵元が機械で製麴を行っている。麹を生育するための麹室(こうじむろ)で、人の手作業で麹をつくる昔ながらの方法をとる蔵は、日本酒では多いが、焼酎ではごく少数。米焼酎〈武者返し〉が知られる熊本県の寿福酒造をはじめとする球磨焼酎の蔵元、芋焼酎〈なかむら〉が知られる鹿児島県の中村酒造場などは麹室を持ち、高温多湿の過酷な状況で麹づくりを行っている。

麹をつくる4ヶ月間ほどは、温度・湿度の管理が肝。杜氏は夜通し、子守りでもするようにつきっきりで室の面倒を見る。杜氏の腕が試されるプロセスだ。

黄・黒・白。基本の麹の種類をおさらい。

画像提供:株式会社河内源一郎商店

焼酎のラベルに書かれている「黄麹」「白麹」「黒麹」という言葉に覚えがないだろうか? あれは実は、コウジカビの胞子の色。「黄麹」「白麹」「黒麹」それぞれの色によってできあがる焼酎の味が異なるのは本当に興味深い。たとえば、有名なところでいうと芋の本格焼酎〈佐藤 黒〉と〈佐藤 白〉。その名の通りに黒は黒麹、白は白麹を使っており、そのくっきりとした味わいの差は麹によるものなのだから驚く。それぞれの麹には、次のような特徴がある。

日本酒づくりにも使われる淡麗な黄麹

画像提供:株式会社河内源一郎商店

約500年前から明治時代頃まで焼酎づくりに使われていたのは、清酒、味噌、醤油等にも使われる黄麹。黄麹は、腐敗を防いでくれるクエン酸を分泌しないため、九州の暖かな気候のなかでは腐敗しやすいのが悩みどころ。クエン酸を分泌する黒麹や白麹が登場すると、こちらが焼酎づくりの主流になっていく。ところが時代をさらに下って現代、技術や設備の進化によって衛生管理や温度管理がより容易になったことで、黄麹仕込みの焼酎も再び脚光を浴び出した。クリアで淡麗、日本酒のような吟醸香がフルーティーな香りで人気を呼んでいる。

黄麹を使った銘柄

  • 〈がばい 黄麹仕込み〉 佐賀県・天山酒造
  • 〈鳥飼〉 熊本県・鳥飼酒造
  • 〈富乃宝山〉 鹿児島県・西酒造
  • 〈海〉 鹿児島県・大海酒造
  • 〈前田利右エ門〉 鹿児島県・指宿酒造 

など。

高温多湿での酒づくりを可能にした黒麹

画像提供:株式会社河内源一郎商店

黄麹に代わって1910年につくられたのが黒麹。“近代焼酎の父”とも呼ばれる麹の研究者・河内源一郎が、高温多湿な環境でつくられる琉球泡盛に着目し、泡盛づくりの麹菌から胞子を採取して黒麹の分離に成功したのだ。黒麹はクエン酸を多量に分泌するため、暑い時期でも腐敗しない。南九州をはじめとする暖かい地方でも焼酎をつくりやすくなった。とはいえ、蔵人は鼻の中が真っ黒になるほど黒麹が入り込み、アレルギーも起こしやすかったという、苦労話もよく聞くところ。黒麹仕込みのどっしりとしたコク、豊かな香りが特徴で、“黒”がつく銘柄には、不動の人気を誇るものも多い。

黒麹を使った銘柄

  • 〈松露 黒麹仕込〉 宮崎県・松露酒造
  • 〈萬年 黒麹〉 宮崎県・渡辺酒造場
  • 〈黒伊佐錦〉 鹿児島県・大口酒造
  • 〈黒白波〉 鹿児島県・薩摩酒造

など。

やさしくまろやか、口当たりのよい白麹

画像提供:株式会社河内源一郎商店

河内源一郎が、黒麹の中に突然生まれた白っぽい麹を見つけ、純粋培養して「白麹」と名づけたのが始まり。じつは、黒麹のアルビノ種であるこの麹菌。黒麹と同じくクエン酸を多量に生産するため、雑菌の繁殖を防いでくれるうえ、黒麹よりも糖化の能力が優れているのが特徴。優しい味わいの焼酎を生み出す白麹は、一気に黒麹と並ぶ主流に躍り出た。

白麹を使った銘柄

  • 〈山ねこ〉 宮崎県・黒木本店
  • 〈白岳しろ〉 熊本県・高橋酒造
  • 〈川辺〉 熊本県・繊月酒造
  • 〈森伊蔵〉 鹿児島県・森伊蔵酒造
  • 〈三岳〉 鹿児島県・三岳酒造

など。

麹の違いなんてこれまで考えたこともなかった! という人にもぜひ一度、自分の好きな焼酎が、どんな麹でつくられたものかを確かめてほしいところ。いずれかの麹が醸し出す味わいが好きだったことに気づいたり、同じ原料の焼酎でも麹の違いで好き嫌いが全く違ったりするはずだから。麹で飲む焼酎道、ちょっと分け入ってみてはどうだろう。

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