心身ともにリラックスできたりやたら楽しくなったりする反面、時に飲み過ぎると体調を崩したりもする……。そう、アルコール! お酒の中に含まれるアルコールとどう向き合うかは、お酒好きの永遠の課題ですよね。ところでこのアルコール、一体どこから“湧いて”出てくるんだろう? ふと我にかえって冷静に考えてみると、知っているようで知らないそんなアルコールへの疑問を、改めて調べてみようと思います。
アルコールは「酵母」の力でできている!
アルコールを生成するうえで重要なのは、ズバリ「酵母」と呼ばれる菌の働き。お酒の原料にはサトウキビや果物、それから穀物などが使われます。これらの共通点は、糖分、あるいは糖分のもととなるでんぷん質が含まれていること。酵母には糖をアルコールと炭酸ガスに分解する働きがあり、この働きを利用してお酒のアルコールは生成されるんです。こういった菌が食物に良い変化を与える働き全般のことを「発酵」といい、特に酵母の場合は「アルコール発酵」と呼ばれています。
酵母はただアルコールを生成するだけでなく、使う酵母によってお酒の味わいに個性を生み出す働きもしてくれます。酵母の種類は細かく分類していくとさまざまなものがありますが、それぞれのお酒に適した酵母を「ワイン酵母」「ウイスキー酵母」「ビール酵母」などと呼びます。焼酎づくりは基本的に焼酎酵母を使いますが、中にはワイン酵母や清酒酵母を使うことで、味わいに個性を出している銘柄もみられるようになりました。
ワイン酵母を使った焼酎
〈常楽 ワイン酵母仕込〉|常楽酒造
熊本県人吉球磨産のお米をワイン酵母で仕込んだ米焼酎。クセの少ない米だからこそ、麹によるフレッシュで華やかな香りをしっかりと感じられます。ソーダや100%の柑橘系フルーツジュースで割って飲むのがおすすめです!
常楽 ワイン酵母仕込 |
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【本格米焼酎】 度数 28度 原材料 米(国産)、米麹(国産米) 蒸留方法 減圧蒸留 容量 720ml/1,800ml 蔵元 常楽酒造 WEB→ 所在地 熊本県球磨郡 |
清酒酵母を使った焼酎
〈クラフトマン多田 スパニッシュオレンジ〉|天盃酒造
天盃酒造が食事に合う食中酒として展開している「クラフトマン多田」シリーズ。麦麹と清酒酵母を使用したこちらの〈スパニッシュオレンジ〉は、吟醸酒や白ワインのような華やかな香りと軽やかな酒質が特徴の1本。塩や酸味のある味付けの料理との相性は抜群です!
クラフトマン多田 スパニッシュオレンジ |
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【本格麦焼酎】 度数 25度 原材料 大麦(国産)、大麦麹(国産麦) 蒸留方法 常圧2回蒸留 容量 720ml/1,800ml 蔵元 天盃酒造 WEB→ 所在地 福岡県朝倉郡 |
お酒づくりだけじゃない!酵母を使った食べ物
酵母による発酵の働きはお酒づくり以外にも使われています。たとえばパンづくりに欠かせないイースト菌も酵母の一種。炭酸ガスで生地を膨らませるために使われます。ほかにも、味噌や醤油づくりにも活用されていて、酵母はわたしたちの食生活に馴染みの深い菌のひとつなんです。
菌の働きによる「発酵」と「腐敗」の違い
酵母をはじめとする菌の働きで食べ物が変化することをさす「発酵」。同じように菌が食べ物に影響を及ぼす現象として「腐敗」がありますよね。このふたつにはどんな違いがあるのか……。それはズバリ「その菌の働きが人間にとって有益かどうか」という点にあります。わかりやすい例が牛乳の変化。乳酸菌の働きによっておいしいヨーグルトになった場合、この変化は「発酵」です。逆に雑菌が繁殖して不快な臭いを発したり、口にできないようになってしまった場合、それは「腐敗」というわけ。同じ食材でも、変化の仕方によって呼び方が変わるのは不思議ですね。
酵母だけじゃない!焼酎づくりに欠かせない「麹菌」
ここまではお酒にアルコールを生成するのに欠かせない「酵母」についてお話してきました。焼酎づくりには酵母以外にもうひとつ、欠かすことのできない菌がいます。そう、おなじみの麹です!
麹菌は酵母のエサになる糖をつくる!
焼酎の主な原料であるサツマイモや麦、米はでんぷん質を多く含みます。これを分解して酵母のエサになる糖をつくるために、登場するのが「麹菌」です。麹菌とはでんぷんを糖化する働きもあるカビの一種。焼酎づくりは、米や麦にこの麹菌を定着させることから始まります。この行程を「製麹(せいぎく)」といい、これによって出来上がるのが「麹(こうじ)」です。この麹に酵母と水と混ぜ合わせて発酵を行います(一次仕込み)。その後、主原料を加えて、さらに仕込みを進めてから、蒸留、貯蔵・熟成を経て焼酎が出来上がるというわけ。
焼酎ができるまでの詳しい行程はこちらの記事にまとめているので、気になる方はぜひご覧ください!
麹には大きく分類して黒麹、白麹、黄麹の3種類があり、麹ごとの異なる特性を活かして焼酎の味わいをつくります。
麹菌についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧いただくと、それぞれの麹の特性についてより理解を深めることができますよ!
お酒づくりの大敵「腐造」ってなんだ⁉︎
焼酎づくりに欠かすことのできない役割を持つ菌である酵母と麹菌。ただの穀物やサツマイモから、アルコールを作り出す菌の働きと連携プレイってすごいですよね。
ここまではお酒づくりにとって有益な働きをしてくれる菌の話。でもお酒づくりの大敵になる菌もいるんです……。
「腐造」と「火落ち菌」
それが“腐造”を起こす菌。あまり聞き馴染みのない“腐造”とは、日本酒や焼酎づくりにおける専門用語で、「火落ち菌」という菌の繁殖によってお酒の質が著しく劣化してしまうことを指します。火落ち菌が酒中に繁殖すると、お酒は白く濁り、酸味の含んだ異臭を放つようになり、とても飲める状態ではなくなってしまうんです。
火落ち菌は麹菌が生成するメバロン酸を主食とするため、仕込み途中のお酒は彼らにとっては最高のエサ場。火落ち菌は空気中のどこにでも生息するうえ、アルコール耐性も強く、大概の菌が死滅してしまうような度数の中でも難なく生き続けることができてしまうんです…コワイ!! 特に高温多湿な環境の九州地方ではお酒の管理がとても難しく、焼酎づくりの現場は腐造に苦しめられていたのだそう。
そんな腐造からお酒を守るために使われるようになったのが、黒麹と白麹です。このふたつの麹は、火落ち菌や雑菌の繁殖を防ぐクエン酸を多く生成してくれます。これによって安定した焼酎の生産ができるようになったのだそう!
現在では技術の発展によって、クエン酸をあまり生成しない黄麹でも安定して焼酎の仕込みができるようになりました。麹も酵母と同様、使用する種類によって生まれる味わいの違いや特性も活かしながら焼酎がつくられています。
黒麹を使った焼酎
〈黒麹 旭萬年〉|渡邊酒造場
黒麹で仕込んだ焼酎は、一般的にどっしりとしたコクのある味わいと豊かな香りに仕上がります。渡邊酒造場の〈黒麹 旭萬年〉は、飲みやすい焼酎が多く揃う宮崎県の焼酎とは一味違った、力強く骨太なボディと深く香ばしい余韻を楽しむことができます。
黒麹 旭萬年 |
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【本格芋焼酎】 度数 25度 原材料 さつまいも(宮崎県産黄金千貫)、米麹(国産米) 蒸留方法 常圧2回蒸留 容量 720ml/1,800ml 蔵元 渡邊酒造場 WEB→ 所在地 宮崎県宮崎市 |
白麹を使った焼酎
〈川越〉|川越酒造場
白麹は黒麹の変異種で、黒麹よりも糖化の能力に優れます。現在では焼酎づくりではもっとも使われている麹で、やさしく口当たりのよい味わいが特徴。〈川越〉は白麹による仕込みに加え、米焼酎をブレンドすることでよりまろやかな口当たりに仕上げた芋焼酎。クセが少なく、焼酎初心者や女性の方でもおいしく飲めるはずです!
川越 |
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【本格芋焼酎】 度数 25度 原材料 さつまいも(黄金千貫)、米麹、米 蒸留方法 常圧 容量 720ml/1,800ml 蔵元 川越酒造場 所在地 宮崎県東諸県郡 |
黄麹を使った焼酎
〈黄麹蔵〉|国分酒造
黄麹は黒麹と白麹は発見される前に使われていた麹で、日本酒づくりに使われる麹です。国分酒造がつくる〈黄麹蔵〉は芋特有の臭みを抑えつつ、吟醸香を想わせる華やかでフルーティな香り。焼酎ビギナーの方にも飲みやすい1本となっています。
黄麹蔵 |
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【本格芋焼酎】 度数 25度 原材料 さつまいも(鹿児島県・宮崎県産黄金千貫)、米麹(国産米) 蒸留方法 常圧・減圧ブレンド 容量 720ml/1,800ml 蔵元 国分酒造 WEB→ 所在地 鹿児島県霧島市 |
焼酎を“菌”の違いで飲んでみよう!
酵母や麹はお酒づくりにおいてアルコールの生成だけでなく、焼酎の味わいや仕上がりにも個性をつくりだす重要な役割を担うんですね。ここに挙げた銘柄以外にも、それぞれの特性を生かした焼酎がたくさんあります。次に飲む焼酎は原料だけでなく、つくりの工程に欠かせない酵母や麹といった“菌の違い”に着目しながら味わいを楽しんでみてはいかがでしょうか?