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焼酎ベースのジンをつくる蒸留家が営む料理店|本格焼酎が飲める店「かまびす」東京・深川

飲める店・買える店

焼酎ベースのジンをつくる蒸留家が営む料理店|本格焼酎が飲める店「かまびす」東京・深川

Text : Taku Itoh(SHOCHU NEXT)
Photo : GINGRICH(SHOCHU NEXT)

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清澄白河と門前仲町のちょうど真ん中あたり。下町情緒を残しながら、最近では感度高めのカフェや雑貨店も増えてきた都内注目のこのエリアで、蒸留酒をメインに提供する小料理店が話題を呼んでいます。店主はなんと自らも蒸留家とか。お酒をつくる人の飲食店。ありそうでなかった気がしませんか? これはきっと焼酎の面白い楽しみ方を教えてくれるのではないだろうか! 期待を胸に、オープンから1年が過ぎたばかりのその店、「かまびす」へ向かいます。

蒸留家による小料理と蒸留酒の店「かまびす」

清澄白河駅から歩いて10分たらず。「かまびす」は、駅前から続く清澄通りにかかる歩道橋の下にある小さなお店です。ドア越しに中を覗くと店内はカウンターだけの8席ほど。「いらっしゃいませ!」と店主の一場鉄平さんと、女将で料理担当のもみさんが迎え入れてくださいました。

かつては空間デザインや商業施設などの企画・プロデュースの仕事をしていたという一場さん。虎ノ門ヒルズビジネスタワー内にある「虎ノ門横丁」の事業の立ち上げと運営に携わり、その一環として2020年に「虎ノ門蒸留所」がオープンしました。一場さんは蒸留所がオープンすることを機に、岐阜県の「辰巳蒸留所」や東京の島焼酎の蔵などで研修を積み、現在は虎ノ門蒸留所で働く蒸留家に大転身。「かまびす」をオープンしたは2022年3月。自らがつくるお酒の“その先”を考えてのことでした。

「蒸留の仕事をなかで、お酒と食事を通していろいろな人が語り合い、繋がりをつくれる場所ができたらいいなと漠然と考えていたんです。そんな折に、ちょうどこの場所が空くとを知り『かまびす』を始めました。店名も、味噌やお酒を醸す微生物たちのように、この店でさまざまな人々が混じり合いながら成長できる空間になることを目指して、とてもにぎやかな様子を表す“噌しい(かまびすしい)”に由来しています」

料理とともに蒸留酒を楽しめる「かまびす」のカウンターには、一場さんが虎ノ門蒸留所でつくっているジンがずらり! レギュラージンに加え、季節のボタニカルを用いたジンが月替わりで1、2本。年間合計で20種類ほど提供しているので、いつ訪れても新しい香りと味わいを楽しむことができます。実はこのジン、東京の島酒(焼酎)をベースに使っているのだそう。

「虎ノ門蒸留所のプロジェクトを立ち上げるとき、東京の港区にある蒸留所だから、東京のローカルの特色を活かしたお酒づくりをしたいと考えました。当時研修をさせてもらっていた岐阜県『辰巳蒸留所』の辰巳祥平さんに東京にも島酒があると教えていただいたんです。そうして八丈島で本格麦焼酎〈情け嶋〉をつくる八丈興発の小宮山善友さん、そして新島で〈嶋自慢〉などをつくる新島蒸留所の宮原淳さんにお会いしたんです。僕らのジンは、彼らの本格焼酎をベースにしています」

カウンターに並ぶ虎ノ門蒸留所のジン。ジンのほかに〈青酎〉をベースにしたアブサンなどもある。

そんな縁から、「かまびす」では、虎ノ門蒸留所のジンのベースになっている島酒や、一場さんが蔵元を訪れて選りすぐった焼酎や泡盛も揃います。

「店を始めた当初から焼酎が多かったわけではないんです。むしろ製造工程に興味のあった日本酒などをもっとやっていこうかと考えていたりもしましたね。ところが鹿児島、宮崎の焼酎蔵をめぐる機会があり、蔵元たちと話すうち、同世代の杜氏たちが、昔ながらの伝統的な焼酎を引き継ぎながら、新しい試みにも挑戦していたりしていることを知りました。彼らが生み出す味をお客さんに楽しんでもらいたくなって、数が増えていったんです」

メニュー表にならぶのは蔵を訪問した鹿児島・宮崎の焼酎など。

発酵とスパイスを使った料理と楽しむ焼酎ペアリング

おいしいお酒にはおいしい料理が必要だと考えた一場さん。虎ノ門蒸留所で一緒に働いていたもみさんを女将にスカウトしたのだそう。

「僕は蒸留所の仕事があって毎日はお店に立てない。それにお酒のお店をやるならば、やはりおいしい食事がないと始まらない。それで彼女に声をかけました」

メニューは、ジンとの相性がいいスパイスを使ったものや、店名の“噌”にかけて、発酵を用いた料理がメイン。レギュラーメニューのほかにも、旬の食材を使ったメニューもあって、食事のラインナップも充実しているのはうれしいところ。お酒とのペアリングを考えるのが大好きというもみさんに、おすすめの料理と焼酎を選んでいただきました。

ほたるいかのなめろう×〈春の天狗櫻〉ロック

最初のお目見えは取材時の季節のメニューだった「ほたるいかのなめろう」。富山県産のほたるいかのなめろうに、付け合わせにはうどのきんぴらと新わかめ。どれも春に旬を迎える食材です。ねっとりとした食感とイカのうまみ……これに鹿児島県・白石酒造の季節限定品〈春の天狗櫻〉をロックでペアリングです。

「焼酎の香りをしっかりと楽しむためにも、ロックがいいんです。〈天狗櫻〉はとてもおいしいうえに、料理とも合わせやすいので、レギュラー的に置いていますね。この〈春の天狗櫻〉は春限定の銘柄。フレッシュで軽やかな味わいが、春の味覚にぴったりです」(もみさん)

むちむち肉団子の沖縄月桃の葉蒸し×〈御神火〉ロック

次に出てきたのは、「むちむち肉団子の沖縄月桃の葉蒸し」。豚ひき肉に椎茸とたけのこを加えてつくった肉団子を、爽やかでほんのりあまい香りのする月桃の葉とともに蒸した一品です。合わせるのは、東京都大島にある谷口酒造がつくる麦焼酎〈御神火〉。クセの少ないまろやかな口あたりながら、麦の香ばしい香りもしっかりと感じる味わいが、パンチのある肉団子を包み込むようです!

「〈御神火〉は、麦麹を使い常圧蒸留でつくる1本。しっかりと麦の香りが感じられるので、強めの料理にも負けない、とてもいい焼酎だと思っています! 谷口さんのところでも、少し研修もさせていただいたりもしました」(一場さん)

白身魚の白和え×虎ノ門蒸留所〈COMMON〉酵素シロップ割り

最後はチーズと酒粕を使ったクリーミーな味わいに鯛のうまみが絡み合う「白身魚の白和え」。濃厚な味わいに合わせる1杯は、チコリルートとジュニパーベリーで香りづけをした虎ノ門のレギュラージン〈COMMON〉と、不知火と紅はっさくを使った自家製酵素シロップでつくるサワー。シンプルでクセのないストレートな香りのするジンと、柑橘の甘酸っぱさの相性が最高の1杯は、飲みやすくてグイグイといってしまう……。クリーミーなあてと、さわやかなサワー、無限ループに入ってしまいます。ちなみに 酵素シロップは季節や時期によって入れ替わりあり。その時々で変わるラインナップも楽しめそうです。

お酒の魅力を、近い距離感でお客さんに伝える場

「かまびす」のカウンター席に座ると、何しろ目に入るのはずらりと並ぶジン。それぞれの味の違いは、どれから飲めばいいか……。いろいろに聞いてみたくなります。コンパクトな空間で一場さんやもみさんとの距離も近いから、気軽におすすめのお酒も聞きやすく、これは行きつけにしたくなるお店だなあとしみじみ感じます。

普段は蒸留家として働く一場さんにとってこのお店は、自分がつくるお酒を直接紹介できる場でもあります。

「体がふたつあればなあとも思います(笑)。でも、虎ノ門蒸留所のお酒を多くの人に広めるためにも、自由に気楽にできる自分のお店があるのがいいなと今は思いますね。虎ノ門とは違う、深川・清澄ならではの近い距離感で、お客さんと話せるのもいいところです」

蒸留家が営む店だからこそ、味わいだけではないお酒の魅力を伝えることができるのも、この店の面白さのひとつだと、もみさんも話してくれました。

「蒸留家のお店ということもあり、お酒に関わるいろんな方たちが来てくださる。そういった人と話すと、互いに知識を共有して高め合うようなおもしろさがあります。さらにつくり手さんたちは同業者の意識で来ていただける。彼らの人柄に触れたり、お酒づくりにまつわるエピソードも聞けるのはこの店ならでは。さらにそれをお客さんに伝えることができますし。味わうだけではなく、全員でお酒のファンになっていくのを間近で見られる楽しさがありますね」

おいしいお酒と料理を楽しめるお店はたくさんあるけれど、「かまびす」はそこからさらに一歩踏み込んで、お酒のことを聞ける店。だからこの店には、今日も新たなお酒好きたちが集うのだ。

かまびす
住所 東京都江東区深川1-18-12 パーソナルハイツ門前仲町1階
営業時間 17:00〜22:00
定休日 日、月
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