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「鹿児島県産芋焼酎の魅力を生かしたセールスプロモーションを学ぶ」セミナーレポート

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「鹿児島県産芋焼酎の魅力を生かしたセールスプロモーションを学ぶ」セミナーレポート

TEXT & PHOTO : Marina Takajo(SHOCHU NEXT)

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9月3日に、鹿児島市街地にあるサンプラザ天文館にて、「鹿児島県産芋焼酎の魅力を生かしたセールスプロモーションを学ぶ」と題したセミナーが開催されました。SSI(日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会)主催のこのセミナーには、関東から駆けつけた方や、日頃焼酎を扱う飲食店のオーナー、焼酎マイスターなど幅広い層が参加したほか、鹿児島県酒造組合、鹿児島県酒造青年会、鹿児島大学農学部などからのゲストも数多く参加。総勢70名近くが集まる大規模なセミナーとなりました。

セミナーに集まった受講者は老若男女問わず年齢層も幅広い。

銘柄の特徴をどのようにつかみ、誰に、どう届けるか

2部構成で展開されたセミナーの第1部「テイスティングを通じて考える販売促進事例」では、SSI理事兼研究室長の長田卓さんが登壇。

参加者の各テーブルの上には、薩摩酒造の〈MUGEN 白波 THE COOL WAVE〉、白石酒造の〈南果 2021〉、大山甚七商店の〈YAMADAICHI 山大一 Matured えい紫 2016〉の焼酎が入ったグラスが3つ用意され、各自焼酎を実際にテイスティングを体験。それぞれの焼酎について感じた味や香りの印象を元に、配布されたチャートに特徴などを記入していきます。この作業を通じて、3つの焼酎が持つ味や香りの特徴の違いをしっかりとらえる一連の流れを体感できました。

セミナー第1部で講師を務めたSSI理事・長田 卓さん
見た目は全く一緒の無色透明の芋焼酎。いざテイスティングすると、香りや味の特徴が全く違って面白い。果物や植物の香りや味にたとえてみると、特徴をつかみやすくなる。

さらに、その評価をふまえ、“どういった人たちに飲んでもらうか’’(ターゲット層の想定)を行うことや、“どのように焼酎を楽しんでもらうか’’(割り方や料理との組み合わせによる提供の仕方)など、具体的にどのように提案していくのかを事例を交えながら学びました。

「焼酎のテイスティングをするときには、グラスを近づけたときに鼻に入ってくる香り、そして鼻から抜けていく香り、そして味をしっかり吟味することがとても大事。ストレートの状態と、トゥワイスアップ(焼酎1:水1、氷無し、常温)の状態で確認し、特徴をつかんでその焼酎の個性やセールスポイントを考えることが重要。全ての要素をお客様へのセールストークに活用し、焼酎を飲んでみたい! と思う動機を高めることが焼酎の提供・販売者にとって一番大事なこと」(長田さん)

また、コロナ禍を経て以前に比べお酒を飲まない人、飲酒に興味・関心がない人が国内でも増えていることにも言及されました。飲酒(焼酎)に興味がない人たちが、日頃楽しんでいる趣味と飲酒を関連づけるイベントを実施する実例(冬の寒い日に鉄道ファンが集まる屋外イベントの近くで、おでんと熱燗を楽しめるようなスペースを設置。結果、多くの人が集まって飲酒を愉しむなどして大盛況となった)を交えながら、柔軟な発想力をもって新規顧客を獲得していく努力が大切だと訴えました。

第2部のパネルディスカッション。徳永さんの明るく和やかな進行のなか、パネリストの3名はQ&A形式でそれぞれの蔵や焼酎の特徴を説明。

活躍中の焼酎蔵元のホープたちが、これから目指すもの

第2部では、「パネルディスカッション 若手蔵元と語り尽くす鹿児島県産芋焼酎のこれから」と題し、薩摩酒造株式会社 取締役・マーケティング本部部長 本坊直也さん、有限会社白石酒造 代表取締役兼杜氏 白石貴史さん、有限会社大山甚七商店 専務取締役 大山 陽平さんの3名と焼酎唎酒師の徳永尚子さんが司会・進行として登壇。それぞれの焼酎の特徴や、焼酎づくりに対する思い、今後の方向性について意見を語りました。

本坊 直也さん(薩摩酒造)

「今回皆さんにテイスティングで飲んでいただいたMUGEN 白波 THE COOL WAVE〉は、MUGENシリーズ第3弾の焼酎として今年発売しました。当社で初めて日本酒の酵母を使い、低温発酵で作った商品となっています。昨今の飲みやすさを求めるお客様の声に合わせ、吟醸香がする軽快な夏向けの焼酎を意識して設計を考案。普段、あまり焼酎を飲まない方や、新しい焼酎のフレーバーを探している方にもぜひ飲んでほしいです。また、近くのサツマイモの契約農家さんを招いた勉強会を年1回開催したり、枕崎という土地柄を生かし地元の鰹節屋さんと鰹節のスモーキーな香りがする焼酎をつくるなどの取り組みも行ってきました。今後も〈さつま白波〉などに代表されるような伝統を重んじた製法も大切にしつつ、海外展開も視野に入れた、限りない挑戦を続けていきたいです

白石 貴史さん(白石酒造)

〈南果 2021〉は、オレンジ系の芋を使用し、フレンチやイタリアンとも相性がいい果実感のある華やかな香りが特徴的。マンゴーやパイナップル、パッションフルーツといった南国の果物のソースと相性がいい風味がします。私たちは焼酎の主原料であるサツマイモを、全量自分たちで育てています。最初の数年は有機農業に挑戦して大変苦労しましたが、途中から自然のサイクルに即した自然農法に方向性を変え、次第に芋を安定してつくれるように。肥料を使わない芋で焼酎を作ると、肥料の味に芋が左右されず、お酒の味も以前よりまろやかになったのを実感しています。今後も、いちき串木野という場所で、この土地を流れる柔らかい水質、風土・気候にあった、生命力溢れる焼酎をつくりたいと考えています。来年の春頃には、いちき串木野に住むさまざまな人と協力しながら新たな挑戦ができる予定なので楽しみです」

大山 陽平さん(大山甚七商店)

「〈YAMADAICHI 山大一〉シリーズは、昨年8月に立ち上げた新しいブランド。〈YAMADAICHI 山大一 Matured えい紫 2016〉は、えい紫という糖度の高い頴娃産の紫芋を使い、熟成の経過を毎年観察しながら6年熟成させた末に完成した焼酎です。タンクから立ち上るいい香りを、そのまま皆さんに届けたかったので、加水は一切していません。度数も34度。原酒にほど近い状態で販売しています。これまでコガネセンガンや和甕を使うなど伝統的なつくりをベースにしてきましたが、今後さまざまなニーズに応えるべく色んなアプローチをしていこうと思っています。まだ私も、蔵に帰ってきて5年。勉強しながら焼酎の可能性にチャレンジしていきたいです。また焼酎の製造技術を生かして、地元指宿産のハーブやボタニカルを使ったクラフトスピリッツやクラフトリキュールの開発にも力を入れていきたいと考えています」

左から薩摩酒造・本坊直也さん、白石酒造・白石貴史さん、大山甚七商店・大山陽平さん。3名ともに一度県外へ出て様々な経験を積んだのち鹿児島に戻り、焼酎づくりに取り組んでいる。

第2部のパネルディスカッションは約1時間ほどでしたが、お三方の酒づくりに対する熱い思いが伝わってくる! 三者三様のアプローチの違いはとても興味深く、時間があっという間に過ぎていきました。この数年は、原料のサツマイモの基腐(もとぐされ)病が深刻化したり、コロナ禍によってアルコール消費量が激減したりと、芋焼酎のつくり手としては悩みの尽きない時間だったはず。そんな中でも、それぞれに自分たちらしい焼酎をつくるべく、挑戦を続ける前向きな姿勢をもった蔵人の皆さんに元気をもらえた気がします。鹿児島県を代表する特産品である芋焼酎の未来が、明るいものであることを実感できたセミナーでした。

登壇したパネリストの皆さんと、本セミナーの主催・後援の皆さんとの記念写真。セミナー終了後も各蔵元へ質問をしたり、話を聞きにいく受講者の姿も多かった。
日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)
1991年に酒造業界、酒類流通業界などの支援を受け、日本酒および焼酎の提供・販売従事者らにより創立された消費者任意団体。 日本酒・焼酎の魅力を伝えられる人材の育成を使命とし、焼酎のソムリエ「焼酎唎酒師」など、消費者視点に立った焼酎や日本酒の提供・販売のプロフェッショナルの認定を行う。2022年12月には、焼酎唎酒師を育成する講習会を開催予定。
https://www.shochu-kikisake-shi.jp/

<主催> 
・NPO法人FBO(料飲専門家団体連合会) 
・日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)

<後援> 
・鹿児島県酒造組合 
・鹿児島県酒造青年会 
・鹿児島大学農学部(焼酎マイスター養成コース主宰) 
・特定非営利活動法人かごしま焼酎マイスターズクラブ 
・有限会社 コセド酒店
・有限会社 宝納酒店 

<来賓 ※敬称略> 
・鮫島吉廣/鹿児島大学客員教授・NPO法人FBO顧問・SSI最高顧問 
・高峯和則/鹿児島大学農学部教授/SSI理事 調査研究委員 
・奥津果優/鹿児島大学農学部 特任助教 
・藤崎一幸/焼酎マイスターズクラブ 副理事長兼事務局 
・本坊浩幸/薩摩酒造株式会社取締役相談役/鹿児島県酒造組合副会長 
・田中完/鹿児島県酒造組合 専務理事 
・河野直正/鹿児島県酒造青年会会長・大海酒造株式会社代表取締役社長 
・若松隆男/宝納酒店代表取締役・SSI顧問

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