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つくり手と飲み手の頼もしき仲介者|コセド酒店(鹿児島県鹿児島市)

飲める店・買える店

つくり手と飲み手の頼もしき仲介者|コセド酒店(鹿児島県鹿児島市)

Text : Sawako Akune
Photo : SHOCHU NEXT

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蔵元も飲食店もお酒好きも物知りも、「とにかく焼酎ならあの店だ」と鹿児島の皆が言う。鹿児島の市街地から南へ、車で30分あまり。ガソリンスタンドにショッピングモールにファストフードのチェーン店……。交通量の多い産業道路沿い、どちらかといえば酒ならディスカウントストアの方がしっくりくるような風景の中にある「コセド酒店 本店」のことだ。

少し見ている間にも、駐車場から車が1台出てすぐに1台入る。ほらまた次の1台が出るのを待つ2台の車……。なるほどこの店を目指してやってくる人たちの多いこと。“全国の地酒とこだわりの地焼酎”を掲げる「コセド酒店」、一体どんな品揃えなのだろう? 興味津々で入り口を入った。

広々とした店内を埋め尽くす本格焼酎の数々。

いるだけで楽しい、本格焼酎のミュージアム

「おおお!」

店内の様子に、つい素っ頓狂な声が出る。バスケットボールのコートが丸ごと入りそうな広々とした店内。壁面につくりつけられた棚や冷蔵室には一升瓶や四合瓶が美しく並び、空間に配置された什器もとりどりの銘柄が埋め尽くす。一度に視界に入るラベルの数に圧倒されて、つい空間に見とれてしまう。どこから見ていったものやら、深呼吸して考えないとならないほどのボリューム……。質のいいミュージアムや図書館に来たときのような気分が押し寄せる。

「鹿児島の焼酎で500銘柄以上を扱っています」と話すのは、コセド酒店 専務取締役の米盛茂樹さん。居並ぶアイテムは鹿児島の焼酎ばかりではない。宮崎の銘柄が100あまり、ほかに奄美の黒糖焼酎、琉球泡盛、球磨焼酎に壱岐焼酎も見えるし、米も麦もその他の原料でつくる焼酎も……と、各地の蔵元による800銘柄以上が揃う。丁寧なPOPがついたアイテムも少なくないから、棚の端から順繰りに眺めていくだけでも楽しい。

一升瓶の入る高さの棚に、本格焼酎がずらり。ラベルの競演を見るだけでもほれぼれしてしまう!
知識あるスタッフによる丁寧なPOPは「コセド酒店」の魅力のひとつ。店内のあちこちで、スタッフと熱心に話し込むお客さんの姿が目立った。

ディスカウントストアにはできない、ニッチな場所を切り拓く

1964年創業のこの店に入社して22年になるという米盛さん。現在では豊富な知識と経験を生かして本店と市街地にある天文館店の現場を取り仕切るこの人が、入社当初は「酒屋なんて嫌だなあと思っていました」というのだから面白い。

「酒屋といえばひたすら体力を使う職場だと思っていましたから、20歳前後までフラフラしていた身にはきついなと(笑)。それが社長の姿を見るうちに、どんどん興味が湧いたんです。手前味噌ですが、うちの社長は何しろ肝が座った人物。酒販業界は、1989年の法改正によってディスカウントストアが登場した時に大きく変わりました。大手資本が安売りを仕掛けてきたら、既存の小さな酒屋はひとたまりもない。そんな状況の中で、コセドは顔の見える人たちがつくる酒をコツコツと売っていくのだと腹を決めて、ニッチな世界を開拓してきたんです。

安い物ばかりが売れた時代に、あえてすべて国産米を使って高くてもよいものをつくる、小さな蔵元も無理をしてでもタンクを買って大量に仕込もうとしていた時代に、あえて甕仕込みで少量だけつくる……。当時仲良くつき合っていた蔵元と、未来を見据えてそんな話をしては『つくってくれたらコセドで全部買って売る』と。実際に地道に営業をかけて売ったりしていたんです。そんな社長の背中を見ていて、それまで自分の知っていた“酒”とはまるで違う、つくるものに真剣に向き合う、誇り高い人たちつくる酒の世界があるんだと知りました。そのことに衝撃を受けて、さまざまな蔵元を訪ねるようになったのです」

蔵元への愛情あふれる米盛茂樹さん。「熟成焼酎でいえば欠かせないのが…」と選んでくださったのが知覧醸造の〈ちらん武家屋敷〉。芋の熟成の可能性を知らせてくれる銘柄だと話す。

店の努力は実り、コセド酒店は今や、本格焼酎においては国内屈指の品揃え。県内一円はもちろん、日本各地からの旅行や出張の人々の足も絶えない。郊外に建つスペースの広い本店はラインナップが一堂に会する場。市街地の中心にあるぐっと小ぶりな天文館店では、季節やテーマによってセレクトしたアイテムを展開している。

「単純に『このお酒が素晴らしい、おいしい』というだけで銘柄を仕入れるということはほぼありません。それよりは、蔵元にお会いしたときに、その方がどのような考えで、自分の蔵やお酒をどういう方向に持っていきたいかに共感できたら、お付き合いに至ることが多いです。その共感さえあれば、たとえばその時につくっている焼酎の質があまりよくなかったとしても、きっと先々この人が思っている方向へ近づいていくんだろうと思えるんですよ。本格焼酎だって生き物ですから、いい時もあれば悪い時もある。お酒の質だけ見て、ある年にお酒の質がよくなかったから売りたいと思わない、というようなことはしたくないんです」

全方位的に本格焼酎が揃う店。はっとするような銘柄が次々と見つかるので機会があればぜひ訪れてみてほしい!

ひと手間かけてお酒を選ぶ喜びを付加価値に

忌憚ない意見を交わし合い、苦楽を共にしながら長く付き合ってくれる販売店。蔵元にとってこんなに頼れる売り手はいないだろう。さらに、コセド酒店は電話での注文は行うものの、オンラインショップは持っていない。つくり手売り手だけではなく、売り手買い手の関係においても、コミュニケーションを大切にしたいという気持ちの現れだ。

「お客様とのやりとりを大事にしたいという基本的な考えのまま来ているんですよね。もちろん入り口を絞る気持ちはなくて、SNSなどは以前から使っていますし、コロナ禍をきっかけにインスタライブなども始めましたが、最終的な販売をECサイトでワンクリックにする必要はないのかなと今のところは思っています。

電話をかけたり、店の人と話したりするのは面倒くさいという時代かもしれないけれど、だからこそ、わざわざ手間をかけて誰かと話して、自分が納得したお酒を買うこと自体が価値になっていくといいなと思います。こういうやり方はすでに少数派でしょうし、ひょっとしてこの先淘汰されていくのかもしれない。少なくとも私は、今のスタイルで生き残れるように頑張りたいですね」

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焼酎がより広い層に届く要素が揃い始めている

2000年代初頭の焼酎ブームと現在を比較したり、ジャパニーズウイスキーやSAKEが世界的にも注目を浴びる現状を引いて、“本格焼酎は苦戦している”とする向きも少なくないが、「私は全然そうは思わない」と米盛さんは力強く話す。

「少なくともこの1~2年は、実際に数字も伸びています。つくり手の努力が実って、香りや味わいの幅が今とても広がっていますから。熟成焼酎が増えているのもそのひとつだし、酵母にこだわったり、原料にこだわったりと、とても面白いチャレンジが多いんですよ。それが、僕ら売り手の、もっと勉強したい、お客様に新しい提案をしていきたいという気持ちにもつながっています。“ブーム”という言葉はあまり好きではないし、ブームになればいいとも思っていないけれど、いろんな嗜好の方が興味を持ってくださる要素が、今の焼酎に増えてきているのは確実だと思いますね」

つくり手と飲み手をつなぐ仲介者として何ができるかを常に考え続ける米盛さん。さまざまな銘柄を店内で1合瓶に詰め替えて販売していたり、“お湯割にお薦めの銘柄”のようにテーマに合わせた販売コーナーがあったりと、飲み手の視点に立ったお店づくりはうれしい限りだ。こんな酒屋さんだったら、いろいろに相談して選んだ1本を買って、飲んだら必ず感想を伝えに行きたくなる。気軽に来店できる距離に住む人々が心底うらやましくなってくる。

お湯割りにお薦めの焼酎がお湯割りグラスとともに陳列されたコーナー。

本格焼酎の「酒屋大賞」を準備中⁉︎

さらに米盛さんは現在、焼酎業界がわっと沸きそうなプロジェクトに着手しているという。

「小牧醸造社長の小牧一徳さん、さつま町の酒販店、堀之内酒店の店主・堀之内力三さんと一緒に『近未来評議会』を立ち上げて8~9年ほどになります。この評議会は全国の酒販店約80~90軒ほどと蔵元30〜40社などで構成される勉強会。焼酎についてのさまざまなことを勉強するんです。ここで知るマニアックなことを全て消費者に伝える必要はない。でも、蔵元と酒販店が共に助け合いながら成長していくには、少なくとも売り手は、つくり手がなぜこの香りを出したいのか、それはどういう手法でつくっているのかは知っていないといけないと思ってのことです。

この評議会からさらに進み、今年から“酒屋が選ぶ焼酎大賞”を開催するんです。僕たち酒屋が売りたい本格焼酎を主要原料ごとに選ぶ賞。日本各地の6つの酒販店が実行委員になり、全国150~200の酒販店の参加を目指して準備をしています。

賞を受けた焼酎だけがいいということではもちろんありません。でも、前の焼酎ブームを知らない若い世代は、おそらく、今もてはやされている銘柄すら分からないしょう? 焼酎と言われても入り口を持てなかった層にとって、何かしらのきっかけになればと期待しています」

賞が始まれば、つくり手や飲み手はもちろんのこと、売り手側の現場もさらに盛り上がるはず。この人から、この店から買いたいと思わせる酒販店・コセド酒店。この店が、業界全体に大きなうねりを起こす起点のひとつとなる日はそう遠くなさそうだ。

コセド酒店 本店
住所 〒891-0122  鹿児島県鹿児島市南栄6-916-72
TEL 099-268-3554
営業 9:00~18:30(日・祝 10:00〜)
休日 第2・4日曜
WEB http://kosedosaketen.com/

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