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福岡・博多で熟成焼酎を楽しむなら角打ちへ行こう! | 福岡酒店巡り2日目 – とどろき酒店・住吉酒販

飲める店・買える店

福岡・博多で熟成焼酎を楽しむなら角打ちへ行こう! | 福岡酒店巡り2日目 – とどろき酒店・住吉酒販

Text & Photo : SHOCHU NEXT

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熟成焼酎を探し求め、福岡・博多の酒店と角打ちを2日間かけて巡るこの企画。1日目は玄人もうなる老舗2件を訪れ、夜更けまでとっぷりと博多角打ちを堪能。2日目は、「若者も多く集まる人気の酒店」と「福岡随一の名店」の2件を朝から晩までじっくりとリサーチしました。さあ、果たしてどんな熟成焼酎が待っているのか。期待に胸を弾ませ、福岡酒店巡り2日目のスタート!


福岡酒店巡り1日目の記事はこちら!

福岡・博多で熟成焼酎を楽しむなら角打ちへ行こう! | 福岡酒店巡り1日目 – こば酒店・山崎酒店 | 熟成を知る、焼酎を楽しむWEBマガジン 「SHOCHU NEXT」

九州一の大都市として、全国各地、はたまた世界各国から人が集まる福岡・博多。福岡県酒造組合、福岡県庁を訪れ、福岡の焼酎文化を知った後は、いよいよ実践編。博多といえば屋台だけれど、焼酎を探し求めるなら、買って飲んで楽しめる角打ちもいい。「酒文化の交差点」とも呼ばれ、さまざまな酒が集まる福岡・博多。一体どんな熟成焼酎があるのだろう。博多の熟成焼酎のリアルを突き止めるべく、2日間にわたって酒店を巡る旅のはじまり!


丁寧な接客が酒文化を広げる。とどろき酒店本店

太陽の光がさんさんと降り注ぐ、福岡酒店巡り2日目の朝。昨夜の酔いもすっかり覚め、向かうのは中心地から少し離れた博多区三筑。閑静な住宅街が続くこのエリアにリニューアルしたばかりの新進気鋭の酒店があるらしい。外観だけではなく、おもてなしも丁寧だと評判のその酒店は、博多駅から筑紫通りを車で南へ走ること15分。小道の奥にガラス張りの建築が突如現れる。これが酒店?! と疑うほどクールな佇まいのこの建物が、噂の「とどろき酒店」だ。

木製のスロープを上って扉を開けると、白い土壁の空間を柔らかな照明が照らす店内が広がる。「お待ちしてました!」と声をかけてくれたのは、とどろき酒店代表取締役の轟木渡(とどろき・わたる)さん。1973年創業のとどろき酒店2代目として、三筑の本店と、薬院にある支店の2店舗を切り盛りする。

とどろき酒店2代目、轟木渡さん。

「僕がとどろき酒店に入ったのは20年ほど前。代替わりしたのは最近ですが、入った時から舵取りをしていました。実はこの小道の角に実家があって、その1階を店舗として使っていたんです。でも駐車場が全然足りず、お客さんを待たせてしまうことが多かった。そこで実家があった部分を駐車場にし、倉庫として使っていたこの土地に新しく店を建てることになりました」

そんなリニューアルが完成したのが2020年12月。駅から少し離れた土地柄もあり、車での来客が多いそう。遠方からも人が押し寄せるその人気ぶりは、週末には交通整理が必要なほど。しかし、リニューアルした大きな理由には他にあると轟木さんは話す。

「僕たち酒販店ができるのは、お客さんに自分たちが持つ酒の知識やつくり手の思いを伝えること。前の店舗は雰囲気が良かったものの、実家を無理やり店にしていたこともあり、接客しづらい内装だったんです。お酒が好きな人であれば、こちらが伝えずとも良いお酒を買っていくけど、最終的にはどこでも見かけるお酒を自分たちなりに紹介して売っていきたい。そのために必要なのは接客と見せ方。接客しやすくなるようスタッフたちとも考えた結果、店を建て直すことになりました」

焼酎は中央の棚2列に並べられている。

細やかに行き届いたコミュニケーションはとどろき酒店の魅力の一つ。棚に並べられた焼酎は、銘柄ひとつずつにポップが添えられている。「実際に自分たちで飲んで確かめた酒の印象を言葉にすることが接客のはじまり」と轟木さん。ポップはすべてスタッフの手書き。味わいや飲み方まで詳しく書かれている。それぞれが持つ知識を共有するために、スタッフ同士でセミナーを行うこともあるという。

九州各地の約30蔵の焼酎を取り揃えるとどろき酒店。〈天使の誘惑〉や〈百年の孤独〉など定番の熟成焼酎も多く集まるなか、「一番伝えがいのある熟成焼酎はこれですね!」と出してくれたのが、鹿児島県の白石酒造がつくる熟成芋焼酎〈天狗櫻〉だ。

「焼酎にも、ワインのようなヴィンテージが確実にある。同じ銘柄でも年によって味わいに差があります。その違いがよりわかりやすいのが、この〈天狗櫻〉。外見は同じでも、年によってつくりや仕上がりが異なるので、お客さんへの説明も毎回変わります。味の違いを口で伝えるのは難しいけど、その分、説明しがいのある1本です

白石酒造の〈天狗櫻〉

とどろき酒店のもう一つの魅力は、酒販だけにとどまらない品揃えだ。店内の一角には広々としたキッチンのほか、本や器が並ぶ棚が設けられ、まるでセレクトショップのよう。「最近は本や器だけ買いに来る人もいるくらい」と笑う轟木さん。酒に限らず、さまざまな商品展開をするのはなぜなのだろう?

食事の時にテーブルにお酒がある生活を根づかせるのが、僕らの大きなビジョン。今でこそ家飲みがメジャーになりつつありますが、外でしか飲まない人も依然として多く、酒店に酒を買いに来ることもない。酒そのものではなく、食材や器など食卓が楽しくなるようなものも紹介することで、まず酒店に足を運んでもらうきっかけをつくっています。

たとえば音楽イベントをやると20代の人が来てくれて、普段飲まない焼酎を勧めることもできる。それをきっかけに意識が変われば、自ずと焼酎の選び方・飲み方も変わるはずです。世界的にお酒の消費が減るなか、『お酒って楽しいよ!』と伝えるには、その周辺にある食事や文化を取り込むことが必要不可欠だと感じています」

「酒に料理はつきもの」という言葉は、豊かな食文化を持つ福岡・博多だからこそ、より説得力がある。本店をリニューアルしてまもなく1年。料理のワークショップやイベントも積極的に開催していきたいと意気込む轟木さん。その酒と料理への熱意を知るべく、再び博多・薬院へ。支店となる「とどろき酒店 薬院stand!」へと向かった。

とどろき酒店 本店
住所 福岡県福岡市博多区三筑2-2-31
営業時間 火〜金 11:00〜19:00
     土・日・祝 10:00〜18:00
定休日 月 
HP https://todoroki-saketen.com

とどろき酒店 薬院stand!は、とにかくおもてなしが心地良い

薬院駅から南に徒歩5分。品の良いレストランや小料理屋が建ち並ぶ通りにある「とどろき酒店 薬院stand!」は、本店同様に光がたっぷりと差し込む清潔感あふれる内装が心地良い。本店からピックアップした選りすぐりの焼酎が棚に並ぶほか、瓶詰めなどの食品も取り扱う。奥に備える角打ちスペースは立ち飲みで10人分ほど、夕方16時のスタートとともに続々と人が集まってくる。

角打ちで出される焼酎と料理は、轟木さんの熱意そのままに、もちろん抜群。日ごとに変わる焼酎もおつまみも、季節感を意識したラインナップだ。ちょうどこの日は陽射しが照りつける真夏日。出してくれたのは、「かぼす風味のゴーヤとサバのサラダ」と「金時草とつるむらさきのおひたし」。焼酎ハイボールと合わせれば、暑さも吹き飛ぶペアリングだ!

焼酎のセレクトや料理のクオリティは言わずもがな、とどろき酒店の丁寧なおもてなしはこの角打ちにも生かされている。お客さんとの会話の中でそれぞれの好みや気分をしっかりと見聞きし、「この焼酎オススメですよ!」と、ばっちりな1本をセレクトしてくれる。

とどろき酒店 薬院stand!店長の石田和也さん。
焼酎は飲み方に合わせて、グラスを変えてくれる。

僕らがひとたび焼酎を頼めば、「私も飲んでみたい!」と周りもつられて焼酎の話題に。年齢や職業関わらず、知らない人同士で美味しさを共有するからこそ、焼酎の面白さにも気付くことができる。福岡の角打ち文化の真骨頂は、やはりこのコミュニケーションの多さなのだろう。

ワイワイ賑やかな「とどろき酒店 薬院stand!」に別れを惜しみ、目指すはこの旅最後の酒店。博多の酒好きで知らない人はいない、と言われる福岡きっての名店を目指した。

とどろき酒店 薬院stand!
住所 福岡県福岡市中央区白金1-16-4 コレンテいのくちビル1F
営業時間(角打ち) 12:00〜21:00
営業時間(酒店) 
16:00〜21:30
定休日 
日・祝・最終月曜日
HP https://todoroki-saketen.com

※新型コロナウイルス感染症対策のため、営業時間に変更がある場合があります。

福岡各所の信頼を集める名店、住吉酒販

2日間にわたる福岡酒店巡りの旅も気づけば終盤。最後の酒店を訪ねるべく向かうのは博多・住吉。名所、住吉神社の向かいに、大正時代からこの福岡の地で酒販を営み、他の酒店からも評価が高い酒店があるという。博多駅から住吉通りを西に歩いて15分ほど。住吉神社を横目に過ぎると見えてくる、黒塗りのシックな建物。ここが福岡の“名”酒店「住吉酒販」だ。

3階建ての店内は、全国各地から寄せられた焼酎、日本酒、ワイン、おつまみが埋め尽くす。じっくり見るだけで1日が過ぎてしまいそうな圧巻の品揃えだ。

住吉酒販本店では酒だけではなく、器やグラスも揃う。

バラエティ豊かな店内に目を奪われていると、「こんにちは!」と威勢のいい挨拶。声の主は住吉酒販常務の紫垣誠吾さん。ここ住吉酒販本店で、一般小売から飲食店への卸しまでを取りまとめている。

住吉酒販の創業は1976年。でも始まりを辿るともう100年以上前になります」と紫垣さん。前身である庄島酒販は1914年の創業。元は糸島市で酒の卸を営み、時代が経つにつれ小売業も始めたそう。

住吉酒販常務の紫垣誠吾さん。

本店を含め、福岡市内に合計3店舗を構える住吉酒販。2021年10月末には、博多市西区にあるショッピングモールにも新店舗をオープン予定だ。酒を卸す飲食店は約400店、取り引きのある焼酎蔵は九州各地約20蔵に及ぶ。

「20蔵というとあまり多くは聞こえないですが、私たちのこだわりは『本当に良いお酒』をひたむきにつくる蔵元を紹介していくこと。闇雲に銘柄をかき集めるのではなく、つくりや思いをしっかり自分たちの目で見てから取り引きさせていただいています」

現在運営中の3店舗のうちの1つ、「住吉酒販 六本松421店」は、六本松にある蔦屋書店の中にある。

取り扱うすべての蔵元へ直接会いに行く、と語る紫垣さん。自分たちが本当に信頼できる酒だけを扱うその実直さに「住吉さんのところは別格だよ」と他の酒店が一目置くのも頷ける。そういえば以前〈京屋 雫ル〉のプロダクトデザイナー、坂下和長さんに話を聞いたときも「ボトルをデザインする前に住吉酒販さんに相談した」と言っていたのを思い出した。各方面からの信頼の厚さが「福岡一の名店」と呼ばれる由縁を物語っている

取り扱う焼酎は銘柄にして約100種類ほど。山田酒造の黒糖焼酎〈長雲 長期熟成貯蔵〉や福岡県の西吉田酒造がつくる麦焼酎〈つくし 白〉など、九州各地の厳選された熟成焼酎も多く揃う。

しかし、そこで終わらないのが名店の凄み。蔵元との親交も深い住吉酒販は、各地のつくり手と協力してプライベートブランドの焼酎も手がけている。

「博多駅店は、出張や旅行のお土産として焼酎がよく出ていたのですが、もっとその層を厚くしたかった。博多で売られている焼酎は、東京や大阪で手に入ることも多いので、うちでしか買えない焼酎を出そうと。蔵元さんに声をかけ、プライベートブランドを始めました」

そのうちの一つ、〈SHIFUKU(シフク)〉は〈やきいも 黒瀬〉でよく知られる鹿児島酒造と手を組んだ熟成焼酎だ。「ベジータクイーン」という希少なオレンジ芋を使って仕込んだ芋焼酎を10年以上熟成。ロックで飲めば重厚な甘みとコクがたっぷり…。その名の通り、至福の味わいが口に広がる。プライベートブランドのため、住吉酒販でしか買うことができない超限定熟成焼酎だ。

鹿児島酒造の〈SHIFUKU〉。住吉酒販限定焼酎だ。

さらに「こんな博多らしいものもありますよ」と紫垣さん。……〈ごまさば専用 ごま焼酎〉!?。ごま焼酎のパイオニア、福岡県久留米市の紅乙女酒造と共同開発した焼酎だそう。博多の郷土料理、ごまさばと合うようにつくられたこの焼酎は、度数は14度と低め。ワンカップでそのまま冷やして飲めるのが新鮮だ。さっぱりとしたごま焼酎の風味がごまさばの旨みをググっと引き立てる完璧な組み合わせだ。

紅乙女酒造の〈ごまさば専用 ごま焼酎〉

蔵元と密に繋がっているからこそできる、限定焼酎の数々。ぜひ一度飲んでみたい……! と目を輝かせていると、「博多駅店の角打ちでは出してますよ!」と紫垣さん。そんなこと知ってしまったら行かないわけにはいかない! タイムリミットは残りわずか。紫垣さんにお別れの挨拶を告げ、急いで向かうは博多駅。これがこの旅最後の角打ちだ!

住吉酒販 本店
住所 福岡県福岡市博多区住吉3-8-27
営業時間 09:30〜18:30
定休日 

HP https://sumiyoshi-sake.jp

福岡焼酎はしご締めの1杯は、住吉酒販 博多駅店で

博多駅中央街、土産店が集まるエリアの一角に店を構える住吉酒販 博多駅店。コンパクトな店内には、隙間を埋め尽くすように焼酎、日本酒、ワイン、食品などがびっしりと並ぶ。店内の奥に設けた角打ちは立ち飲みで5人分ほどのスペース。案内されるなり、メニューと花札10枚が渡される。花札1枚が330円。オーダーの度に、メニューの横に書かれた数字の分の花札が引かれ、最後に引いた枚数分を会計する粋なシステムなのだ。

九州の酒や食材だけを取り扱う住吉酒販 博多駅店。「もろみ冷奴」や「きびなご天日干し」など九州の特産品を使った料理に、とびきりの焼酎が揃う。

メニューを眺めていると、あった、お目当ての〈SHIFUKU〉。と、その前に西酒造の熟成焼酎炭酸割り〈夏の誘惑〉でグイッと1杯目。器も九州のものにこだわる住吉酒販 博多駅店では、佐賀県唐津焼で焼酎を楽しむことができる。

さあ、お待ちかねの〈SHIFUKU〉だ!合わせるのは、佐賀県にある燻製専門店、燻やの燻製さばを使った「住吉ごまさば」。ゴマダレと岩のりを巻いて1口、〈SHIFUKU〉のロックを含めば、どっしりとした芋の甘みとほのかな燻香がたまらないマッチング。旅の疲れをサーッと流してくれる極上のペアリングだ。

福岡駅内という立地から、スーツケースやボストンバッグを片手に軽く1杯飲む人が多い様子。当てを1品に焼酎2杯で、センベロ価格。福岡を旅立つ前の締めの1件としては贅沢すぎるクオリティだ。

住吉酒販 博多駅店
住所 JR博多駅 博多デイトス1F(みやげもん市場内)
営業時間(角打ち) 08:00〜21:00
営業時間(酒店) 
08:00〜20:00
定休日 
年中無休
HP https://sumiyoshi-sake.jp

※新型コロナウイルス感染症対策のため、営業時間に変更がある場合があります。

くぅー、もう1杯飲みたいけれど、フライトを逃すわけにもいかない……! 飲んで食べて笑った2日間の福岡酒店巡りの旅はここでお開き。角打ちに寄れば、思いもしない焼酎や人々に出会える福岡・博多。何より心動かされたのは、酒に携わる全ての人たちがそれぞれの信念を持って、焼酎を伝えようと邁進していること。「酒文化の交差点」として、その文化を脈々と受け継ごうとする心意気が福岡にはある。

次来た時には一体どんな熟成焼酎と出会えるのだろう。まだまだ奥の深い福岡、きっと掘れば掘るほど面白い焼酎に出会えるに違いない。

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