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樽熟成焼酎の新時代を切り拓け!〈らんびき SHINY GOLD〉シリーズ誕生

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樽熟成焼酎の新時代を切り拓け!〈らんびき SHINY GOLD〉シリーズ誕生

Text & Photo : SHOCHU NEXT

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シェリー樽熟成の18年物、オーク樽の12年物、桜樽の7年物……。そう聞けばウイスキーかなって思いません? なんとこれ、福岡県の「ゑびす酒造」が発売した樽熟成焼酎。〈らんびき SHINY GOLD〉シリーズと銘打ったこちらは、樽の違い、熟成年数の違いによる全6種類の焼酎のラインナップ。今年の3月から数量限定・隔月で発売されるという。

こんなシリーズを世に問えるのは、「ゑびす酒造」が熟成にこだわり続け、樽熟成の原酒の数々を持ち続けてきたからこそ。体力十分の巨大企業ならまだしも、従業員数人の小さな蔵元なのだから驚いてしまう。マイクロディスティラリー(小規模蒸留所)による、新たな樽熟成への挑戦。発売のニュースを聞きつけて、さっそく蔵へと向かった。


130年以上の歴史。筑後川沿いで焼酎をつくり続ける「ゑびす酒造」

「ゑびす酒造」を目指して降り立ったのは、JRの久留米駅。そこからさらに、筑後川の河岸の緑を眺めながら、気持ちよく1時間ほど車を走らせて福岡県朝倉市へ向かう。福岡都市圏の最も重要な水源でもある筑後川。流域には、そのたっぷりとした流れの恩恵を受けて、歴史ある酒蔵が点在している。九州北部エリアには日本酒と焼酎の両方をつくる酒蔵が多いが、「ゑびす酒造」は焼酎一筋であることが特徴だ。

蔵があるのは川沿いののどかな町並みの中。昔ながらの家族経営による酒づくりの面影が残る古い木造家屋、そして建物の前に積まれた小さな甕。入り口から、社長の田中健太郎さんがひょいと顔を出す。筑後川は昔から氾濫も多く、朝倉市も2017年に大きな水害に見舞われたが、この蔵のあたりはわずかに丘になっていて、辛くも被害はなかったそう。

「それよりも、一昨年に隣で火事があり、それには肝を冷やしましたね。幸い風向きのおかげで大事には至りませんでした」

「ゑびす酒造」の創業は明治18年(1885年)。長い歴史には、さらにたくさんの困難があっただろう。住宅街の一部としてすっかり溶け込んでいる華奢で風情のある蔵は、それらのすべてを乗り越えてきた。

現代表の田中健太郎さん。2018年に父親の跡を継ぎ代表に就任。

1960年代に、樽熟成の焼酎づくりに挑戦

さて「ゑびす酒造」の代表的な銘柄といえば、〈らんびき〉や〈けいこうとなるも〉がある。どちらも熟成タイプの麦焼酎で、〈らんびき〉は米麹、〈けいこうとなるも〉は麦麹で仕込む。田中さんのほかには従業員数名の決して大きくはない蔵だから、出荷数は少ないが、焼酎に力を入れる飲食店や酒店などでは、どちらも人気のある実力銘柄だ。

左から、〈けいこうとなるも10年熟成原酒〉〈けいこうとなるも〉〈らんびき 角〉〈らんびき 5年貯蔵〉〈らんびき GOLD〉。〈らんびき〉はほかにも、熟成の異なるさまざまなラインアップが揃う。

「ゑびす酒造」の大きな特徴のひとつが、熟成にこだわる蔵であること。〈らんびき〉のスタンダードタイプである〈らんびき 角〉は6年貯蔵だが、その発売は1960年代。焼酎を熟成するという概念がほとんど浸透していない時代から、樽熟成に取り組んできた珍しい蔵なのだ。そして、その歴史が今回の「らんびき SHINY GOLD」シリーズにもつながっている。

「〈らんびき〉は、私の祖父と父が共同で開発した銘柄です。60年代当時はウイスキーが高級な蒸留酒として大人気でした。そこで祖父が、焼酎もウイスキーも同じ蒸留酒なのだからと、大手のウイスキー工場に見学に行った。その時に、ニューポット(樽に詰める前の蒸留したてのお酒)をテイスティングしたそうです。そうしたら、荒々しい原酒ですごく飲みにくい。『蒸留したてだと焼酎のほうが飲みやすいし、ずっとうまい。それならば、焼酎を樽で寝かせたらウイスキーに負けないものができるんじゃないか』と。それからすぐに樽熟成に取りかかったようです。

さらに九州北部では、“お酒”といえば日本酒のこと。焼酎は庶民のお酒で、贈答用などには使っていただけませんでした。そういう状況を打破するためにも樽貯蔵に着目したのでしょう」

職人の誇りと経営者の戦略が重なりあうような商品開発によって誕生した〈らんびき〉は、百貨店などの後押しもあり、徐々に認知されていく。以来半世紀以上のロングセラーを続ける「ゑびす酒造」の中心的な存在になった。

「うちでは常圧蒸留の原酒を樽貯蔵しています。〈らんびき〉は、飲むとまず米麹の香りがふわっと立ち、そこに樽の香りが乗って、最後にコクのある酒質と長い余韻が残る。〈らんびき〉のこの味は絶対変えるなと今でも父から強く言われます

麦熟成の豊かな香りとまろやかな味わいが特徴の〈らんびき 角〉。樽の熟成焼酎の奥深さを知るに最適な一本。

貯蔵庫に眠る、200を超える樽の数々

「ゑびす酒造」が60年代に初めて樽貯蔵に着手したときに手に入れたのは、輸入樽を扱う業者から仕入れた5本の新樽。それから毎年3〜5本ほどを増やし続けて、今では200本あまりの樽が蔵に眠る。わずかずつだが着実に樽が増えていくにつれ、“樽貯蔵の焼酎蔵”としてのイメージも定着していった。

樽に眠る原酒のなかには、半世紀以上前の、熟成を始めたばかりの頃のものもあるそう。貯蔵年数の異なる原酒の豊富さは「ゑびす酒造」が頑なに守り続けてきた財産だ。

木造の建物のなかに所狭しと木樽が置かれている。

「祖父の時代に焼酎ブームの第1次(1970年代)、第2次(1980年代)の波があり、父の代に第3次(2000年代)の波がありました。どのブームの際にも、原酒が足りなくなると今後大変になると、ぐっと我慢して出荷調整したそうです。出してしまえば手っ取り早く儲けを出せるのは分かっていても、未来への投資を選んだ。

うちは、樽貯蔵だけでなく、タンクや甕でも貯蔵しています。製品の性格上、タンク貯蔵の方が樽貯蔵より圧倒的に量が多いですね」

数カ所の貯蔵庫を所有。どの貯蔵庫にも樽がびっしりと並ぶ。

熟成の色を薄めるために濾過はしない

ウイスキーと同様、熟成焼酎でもブレンドを行う銘柄は少なくない。「ゑびす酒造」の場合もそれは同じで、実はタンク貯蔵の焼酎が蔵の味の柱だと田中さんは話す。

その理由の大きなひとつが、樽熟成の焼酎でしばしば議論の的となる焼酎の光量規制。熟成を経て樽の色が濃く出た焼酎は、ウイスキーやブランデーと区別するために色を薄めなければいけない。この規制に叶うよう、一般的には濾過を行って色を取り除くケースが多いが、「ゑびす酒造」は独特の姿勢でこの規制に向き合う。

私は濾過は原酒の味を損なうと思う。そこでうちでは、樽貯蔵とタンク貯蔵をブレンドすることで、色の問題をクリアしています。さらに、たとえば”6年貯蔵”と銘打つならば、樽の6年以上とタンクの6年以上を100%使う。表記に対して全く嘘がないことには頑なにこだわっていますね。だから、樽・タンク両方の原酒が揃っていることがとても大切なんです」

樽はひとつずつデータを管理。使うごとに個性が変わるのでこまめなアップデートが欠かせない。

現在、田中さんは経営のほか、蔵でたった一人の貯蔵酒の管理責任者、そしてブレンダーの役割を担っている。200の樽にそれぞれどのような個性があるのかをデータにまとめ、貯蔵法の異なる原酒をブレンドし、定番銘柄の安定した味をつくりあげる。ときには、父に「味が違う!」と叱咤されることも。

データで管理していても、それだけに頼ったレシピ通りではダメ。最後に決定する人間の力が欠かせないと田中さんは話す。

樽の状態は毎年変わるし、樽とタンクどちらの原酒で何を補っていくかは、本当に複雑。大きくは3段階に分かれます。最初の香りと口に含んだ時の味、そして余韻ですね。たとえば香りはよいのに、最後に沈んでしまうような原酒ならば、余韻のある後半型の樽と合わせる。樽ごとの個性をうまく組み合わせることによってバランスをとります」

20年ほど樽で寝かした原酒をボトルに詰めたもの。これを少量ブレンドするだけで、味わいが大きく変わるのだという。

持てる樽を知り尽くした蔵の〈らんびき SHINY GOLD〉シリーズ

田中さんは、一年に一度は、全ての樽の原酒の香りを確認する。その度に、温度・湿度の状況、使用回数、再生処理回数などのデータを蓄積してきたため、現在では200樽の個性はほぼ頭に入っているという。この研究熱心さは、代々受け継がれてきたものなのかもしれない。

原酒のチェック、そしてブレンダーとしての見極めも田中さん一人で行う。

「中には個性が強すぎる樽もあるんですよ。それはブレンド用に使いづらく、ずっと課題でした。ならば、樽の特徴をそのまま出すのもいいんじゃないか? そんな思いが〈らんびき SHINY GOLD〉の構想のきっかけですね。毎年、つくり以外の時期は出張などが多いのですが、去年から今年は、コロナウイルスの拡大でずっと蔵にいた。だから時間をかけて樽をチェックすることができたんです。数年前に、季節限定品のために桜や栗の樽を導入したりして、樽の種類も増えていました。じっくり調べるうちに、貯蔵に5回ほど使い、さらに15年寝かした古樽だと、色がつきすぎず、でも香りが上品に出るものがあることが分かってきました。そういう原酒を使った、樽の種類が楽しめるシリーズは面白いかな、と。

うちの蔵の体制では、何種類ものラインアップを一度に出せる製造能力はありません。そこで数量限定で、季節ごとに季節ごとに異なる樽熟成を楽しんでもらえるシリーズにしたんです」

こうして生まれた〈らんびき SHINY GOLD〉シリーズ。樽熟成の焼酎でここまで季節感のあるシリーズも珍しいのではないか。全種をコンプリートしたくなる、魅力的な銘柄の登場だ。以下に全ラインアップを紹介しよう。

▽3月発売
らんびき SHINY GOLD
SAKURA CASK FINISH
桜の木樽を使用。7年貯蔵。桜らしい瑞々しく甘酸っぱさがアクセントになった春季におすすめの優しい味わい。

▽5月発売
らんびき SHINY GOLD
AMERICAN OAK CASK FINISH
蔵元で50年以上使われてきたきたラム酒の貯蔵に使われてきた古樽による12年古酒。レーズンのような甘い熟成香と古酒ならではの柔らかな味わいが特徴。

▽7月発売
らんびき SHINY GOLD
FRENCH OAK CASK FINISH
トロンセ産フレンチオークの古樽に12年以上貯蔵。ほのかに葡萄のような香りが心地よく、スパイス感などフレンチオークならではの繊細さが味わえる気品漂う一本。

▽9月発売
らんびき SHINY GOLD
CHESTNUT CASK FINISH
全麹仕込みによる濃厚な厳守を国産の栗材を用いた樽で熟成。栗らしいほんわり香ばしい甘さと旨みがゆっくり広がる秋におすすめの一本。6年貯蔵。

▽11月発売
らんびき SHINY GOLD
SMOKY CASK FINISH
スコッチ樽特有のピート香の効いたスモーキーさと焼酎ならではのコクとのバランスが心地よい個性的ながらも温かみのある味わい。12年貯蔵。

▽11月発売
らんびき SHINY GOLD
SHERRY CASK
スペインのシェリー酒の貯蔵に使われ、ゑびす酒造に来て40年以上の古樽。蜜のような艷やかな甘みとコクが特徴。18年古酒。

*各500本(500ml)ほどの限定生産

現在のルールの中で、とことんやり抜く

さらに、このシリーズには、光量規制やリキュールという樽熟成の焼酎をめぐる現状に対する田中さんの強い思いがある(光量規制は先述したとおりだが、樽の色が濃く残る焼酎は、食物繊維などを加えれば、酒税法上は「リキュール」として販売できる)。

第一弾となる〈らんびき SHINY GOLD SAKURA CASK FINISH〉。桜の木樽を使用した季節感のある一本。

「SHINY GOLD」というネーミングも、そのひとつだ。

「色を濃くすると樽の特徴は出しやすいので、リキュールにして販売する選択もあった けど、うちはそれをしたくなかった。現在のルールの中で、やりきったといえるものをつくりたい。光量規制に正面からぶつかっていきたいです。業界としては引き続きこの問題を改善できるよう取り組んでいくべきですが、一方で、琥珀色でもブラウンでもないゴールドに価値がある。焼酎としての味わいのバランスを楽しんでもらいたいんです」

樽はえらい

食品系の会社などを経て、田中さんが「ゑびす酒造」に入社したのは18年ほど前。若い頃は、アメリカのテネシー州に滞在していて、メーカーズマークの工場で無数のバーボン樽を管理する大規模システムに圧倒されたこともある。いま「ゑびす酒造」の貯蔵庫には、メーカーズマークの刻印の入ったバーボン樽がスコットランドに渡り使われていたものがあるようで、「見つけたときには感動しました」と田中さん。一つの樽が世界の蒸留酒を渡り歩く不思議な縁に感慨深い顔を見せた。すると、ふと「樽は僕なんかよりえらい」と田中さんがいった。

50年以上もの間、蔵の中で焼酎を育てきた木樽の数々。

「たとえば、このオーク樽は50年も使い続けている。僕よりも全然歳上です。でも、もともとは樹齢200年などの木なんですよね。新樽であれば100年は使えます。だから、自分が携われるのは樽の寿命の中の一部でしかない。さらに、ひとつひとつに物語がある。そう考えると、大事に使っていかないといけないですし、価値のある商品を作らないといけないですよね」

樽熟成といっても、ウイスキーのような焼酎を目指すのでなくて、自分の蔵にしかできない蒸留酒をつくることが大切なのだということが田中さんの言葉から重く響いてくる。楽しみなのは、「らんびき SHINY GOLD」シリーズに、飲み手たちがどんな反応をするのか。それによって樽熟成の焼酎づくりを深化させることができ、さらに海外への展開も見えてくるのではないかと、田中さんも期待しているという。

「元々『らんびき』という言葉自体が、海外から入ってきた『アランビック』が転訛した言葉。これからは世界に認められるような日本の蒸留酒を目指して自分が挑戦する段階と考えています。ここまで焼酎らしさもあり、樽のよさも出てるという商品は新しい。海外にもこのシリーズの良さを伝えていきたい

マイクロディスティラリーにとっての武器は、個性的であることにほかならない。新しいお酒は成長過程を知るのも楽しく、既存ファンに気兼ねする必要がないことは初期層のファンにはうれしい。10年、20年、さらに先へ。小さな存在だが、新しい〈らんびき〉が提案する熟成焼酎の次の時代に期待したい。


らんびき SHINY GOLD SAKURA CASK FINISH
【麦焼酎】
貯蔵 樽・タンクで5年以上、のちに山桜の木樽で2年間追加熟成
度数 42度
容量 500ml
原材料 大麦(九州産二条大麦)・米麹(国産)
蒸留 常圧
希望小売価格 ¥3,650
*約500本の限定販売。
*取り扱い酒店は、蔵元へお問い合わせください。
ゑびす酒造
福岡県朝倉市杷木林田680-3 
TEL 0946-62-0102 
WEB https://www.ranbiki.com
*ショップも併設

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