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紅乙女の乙女たち。|ごま焼酎のパイオニア・紅乙女酒造を訪ねる<後編>

蔵元

紅乙女の乙女たち。|ごま焼酎のパイオニア・紅乙女酒造を訪ねる<後編>

Text : Sawako Akune(SHOCHU NEXT)
Photo : GINGRICH(SHOCHU NEXT)

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ごま焼酎のパイオニア・紅乙女酒造を訪ねる<前編>はこちら。

聞くだにパワフルな女性・林田春野が1978年に創業し、2013年には同じ福岡を地元とする企業・ふくやの手を借りて第二創業ともいえる時期を経験した〈紅乙女酒造〉。その蔵の優美さは群を抜いている。緑豊かな山裾に美しい建物が点在し、至るところに蔵の象徴でもある赤いバラがあしらわれ、一隅には室町時代の古民家を移築した料理処まで見つかる……。さらに蔵を行き来するなかで出会うスタッフも皆、明るい笑顔が印象的な人々ばかり。女性の姿も多く、これは全て創業者が女性だったせいかと感じていたが、どうやらそれだけもないらしい。

「子育て中だったり、介護が必要な家族がいたり……。社員それぞれに異なる家庭環境やライフステージにあるのは当たり前。大きい企業ではないのだから、働き手の都合に合わせることができるはずと、2013年に経営体制が変わって以降に、いわゆる“働き方改革”が進んだんです」と、営業部長の山崎稔さん。

現在、50名弱の社員のうち約半数は女性。4人いる製造現場も2人は女性だ。“紅乙女を支える乙女”たちに、蔵はどのように映っているのだろう? 後編では、持ち場の違う4人の女性に話を聞いてみることにした。

「うちのお酒を全国の人に知ってほしい」—ショップスタッフ・馬場夏純さん

 田主丸のすぐそばの町に生まれ育ち、高校卒業後に紅乙女酒造に入社した馬場夏純さん。観光客も大勢訪れる蔵の売店での勤務は、この4月で7年目に入ったところだ。

馬場夏純さん。趣味はセルフネイル。

「就職先として接客業を探していたんです。そうしたら高校の先生にここの売店を薦められました。それで下見に来た際に会ったスタッフの感じのよさに惹かれて、自分も入りたいなあって。

でも入社当初は18歳ですから、実際には飲めない。それぞれの銘柄の香りを必死に覚えました。お客様に『これはどんな味?』って聞かれても答えられないので、周りの先輩方によく聞いてそれをお話ししたり。成人して初めて〈紅乙女〉を飲んだときは、思っていたよりかなり“ごま感”があるんだなあって驚きましたね(笑)。

 同世代の友人たちは、まだ焼酎は飲んでないコが多いかな? でも私も大好きな十八番(おはこ)梅酒〉は、ごま焼酎を使っていますけれど、甘くてお薦め。ソーダ割りで飲むが好きなんですけど、これだったら友だちも喜んで飲んでくれるんじゃないかな? って。ほかにもごまのリキュールがあったらな、なんて思います。

 売店には遠方からも多くのお客様がいらっしゃいます。その方たちが故郷に持って帰って誰かにうちのお酒を薦めてくださるきっかかけを作りたいなって思って仕事しています。うちのお酒を、全国のいろんな人に知ってもらいたい! そう、強く思うんです

「私の手からお客様のところに届くから、丁寧に、丁寧に」—製造・澁田穂乃香さん

初産を控え、取材時には臨月の近かった澁田穂乃香さん。この記事が出る頃には1年ほどの産休に入っている彼女は、入社2年目。保険営業からの転身なのだそう。

澁田穂乃香さん。もうすぐ母親に。

「初めての職場が保険営業だったんです。ただ自分の性格的に、お客様に向かう職業よりも同じことを黙々とするような仕事の方が向いているかな? と。今は妊娠中なので、立ち仕事や重い物を持つような仕事から外していただいて、仕上げ作業……イスに座って一本ずつにラベル貼りをする作業などをやっています。楽しいですよ! 自分にはこういう作業が向いているなと思えます。蔵の皆さんが精魂込めてつくったお酒に、私たちが最後の仕上げをする。私たちの手を離れたらそのままお客様のところに届くんだと思うと気は抜けません。丁寧に丁寧にって心がけながらラベルを貼っています。

 今は妊娠中なのでお酒は飲めません。元からあまりお酒が強いわけではないのですけれど、うちの焼酎は飲みやすいかなって思います。焼酎はだいたい水割りで飲むかな。あと好きなのは〈十八番梅酒〉。こっちはロックです。

 若い人も気軽に手に取れるような商品が、うちの蔵ももっとあるといいな。〈紅乙女STANDARD〉の江口寿史さんのラベルはかわいい! 中身のお酒はおいしいので、ジャケ買いしたくなるような銘柄があったらうれしいです」

「こんなホワイトな職場ってなかなかないよと言われます」経理・上村夢叶さん

「話せることあるかなあ!」と現れたのは、高校を卒業して紅乙女酒造に就職し、今年で4年目に入った上村夢叶さん。

本社棟で経理を預かる上村夢叶さん。

「高校卒業後に就職をとは思っていたけれど、実は具体的にこの仕事がしたい! という希望はなかったんです。正直なところ、休みがきちんととれる職場がいいと思っていました。紅乙女酒造に決めたのはそういうところが大きいです。土日はきちんとお休み、勤務時間もしっかりと決まっているし、福利厚生もしっかりとしている。『就職してみたら現実は違った!』なんて言って、休日出勤や残業に追われている友だちも多いなか、うちの会社は求人票に書かれていた通りに、職場環境がかなりしっかりとしています。先輩方も温かくて気さくだし、とても働きやすいんです。

とはいえ経理は、お金を扱うとても責任の重い職場。毎月の処理もあるし、お酒の税は複雑だし、インボイス制度が導入されて変わってくることもある……。ひとつでも数字を間違ったらとんでもないことになるので、不安になることもあるけれど、そこそこ気張っています。これからどうなっていくのかなあ。

私ね、実はお酒がほとんど飲めないんです。お猪口くらいの量でも真っ赤になってしまう。だから、たとえば微アルコールの銘柄とか、料理用の銘柄とかをうちの蔵でつくってくれたらうれしいな、って思ったりしています(笑)

「若い方の焼酎ばなれを食い止めたい!」—チーム春野・草野亜紗美さん

8人からなる「チーム春野」の一人として活躍する草野亜紗美さん。広報と営業企画を兼ねるような立ち位置のこのチームで、現在はSNSの運営などを担う。

草野亜紗美さん。「チーム春野」のユニフォームは赤。

「出産を機に一度退社したのですが、あまりにこの蔵が好きすぎて、育児が落ち着いたタイミングでまた戻ってきました。通算で10年くらいはお世話になっているかな? 紅乙女酒造のお酒がとにかく好きなんですよ。蔵のあるこの場所の雰囲気もいいですよね! 私は田主丸の生まれなので、やっぱり地元の企業で働きたいなと思っていました。

今の主な業務はSNSの運営です。インスタグラム、Facebook、Twitterと種類もあるのでなかなか忙しい。最近、新しい挑戦としてインスタライブを始めてみたんです。動画の配信って本当に大変で! でもSNSはお客様からの直接の感想を聞ける場なので、やりがいを感じています。節分には鬼に変装してインスタ動画に登場しました。鬼のパンツは自作です(笑)。反応がいいと、やっぱりすごくうれしいんです。ここのところは若い方が焼酎ばなれしてる、ってよく言われるじゃないですか。でもうちのごま焼酎は若い方にこそ喜んでいただけると思うんです。だから、料理とのペアリングや飲み方は積極的に発信していきたいです。

“チーム春野”って、創業者の名前を背負う役割は重いですよー(笑)! 先輩方に聞くと、雑巾で顔を拭けるくらいに雑巾まできれいにしておきなさい、っておっしゃるような方だったとか。お客様を迎える身として、場を清潔に保つことには気を遣わないといけない。毎朝全員で蔵の清掃もしています。

好きな銘柄はずっと〈紅乙女STANDARD〉だったんです。ソーダ割りが最高で、一杯目のビールがいらなくなっちゃいました。でもね、最近出た〈紅乙女樽〉シリーズが、これまたおいしいんですよ。ふわっと甘いバニラっぽい香りがして、女性にも喜んでいただけるんじゃないかなあと。たくさんの方に届くよう、これからも努力したいと思っています」

「うちは、人が皆温かいんですよ!」部署も立場も異なる4人の女性たちは、そう口を揃えた。彼女たちの声から浮かび上がってくるのは、働くのが楽しい企業としての、蔵の姿だ。眉をひそめ、歯を食いしばって働く人たちが(そんな蔵があるとして)つくるお酒と、こんな風ににこやかに働く人たちのところから生まれるお酒、お酒の味は変わるかな? そんなことをぼんやりと考えながら、自然豊かな山あいの蔵にいとまを告げた。

紅乙女酒造
福岡県久留米市田主丸町益生田214-2
TEL 0943-72-3939 
蔵見学 あり(要予約)
HP https://beniotome.co.jp

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