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焼酎目指してぶらぶら行こう!|焼酎さんぽ・博多編

コラム

焼酎目指してぶらぶら行こう!|焼酎さんぽ・博多編

Text & Photo : SHOCHU NEXT

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福岡・博多で焼酎デート! 3軒プラスαのご機嫌飲み歩き

「飲みに行く」ことがこんなに難しいことになってしまうなんて思いもしなかった……。厳しい数ヶ月を越えてお店にも飲みに行けるようになった今だから、自分のペースでぶらぶら飲み歩けるのはとてもうれしい!一人で飲み歩く楽しみもあるけれど、できるなら大切な人と二人で、が最高かな。

そんな思いを抱えて、飲んべえカップル二人で焼酎をキーワードにした旅に出かけることにしました。焼酎といえば九州!かといって飲み歩くなら移動が楽なほうがいいし、僕はまだまだお酒に詳しくないから詳しく教えてくれる人がいそうな街がいいな……。

白羽の矢を立てたのは福岡・博多!焼酎の聖地・九州でも最大のあの街なら、美味しい焼酎と、よき先導役に出会えそう。

久々のお出かけに胸高鳴らせる僕らの脳裏で鳴り響くのは、福岡・田川郡が生んだ偉大なるアーティストのヒットソング。きっといい出会いがあるなって気分が盛り上がります!

探し物はなんですか?見つけにくいものですか?
夢の中へ 夢の中へ 行ってみたいと思いませんか?

AM9:30から焼酎が飲める?!納豆すぱのお店「ずばばば」

博多は交通の弁が良くて動きやすい街だ。

天神・薬院・中洲・警固など、それぞれに際立った個性のあるエリアがコンパクトにまとまっているから、飲み歩きにぴったり。

最初に降り立ったのは西新駅。繁華街へもバスや電車ですぐに向かえて、アクセスが非常にいい場所。駅からすぐ近くにある商店街には八百屋さんやお花屋さんがあり、人々の立ち話が聞こえてくる。そこを子供達が元気に走り抜ける。

目当ては駅から2分と至近の場所にある「納豆すぱとちょい呑み焼酎 ずばばば」。なんと朝から焼酎が飲めるのだとか……。

焼酎への愛情と絶品納豆スパ「ずばばば

のれんをくぐって店に入ると「いらっしゃいませ」と元気なかけ声。キッチンを囲むカウンターが8席ほど。傍らの壁には何本もの焼酎が並んでいる。

店主の松本さんご夫婦が2019年にオープンしたこちらは、店名通りに納豆スパと焼酎をメインにしたお店。メニューは潔く納豆スパのみ!他には、「妻のぬか漬け」など食欲をそそる「ちょいあて」のメニューが黒板に何品か書かれている。

そしてお酒!「ちょい呑み焼酎」として上棚400円、中棚350円、下棚300円で焼酎を出す。実はこの他にも特上棚として銘柄ごとに値段の違う焼酎がいくつか用意されているのだそう。中にはレアな焼酎もあるので、お店に訪れたならチェックしておきたい。

納豆スパと焼酎、なかなか珍しい組み合わせだが、実は松本さんご夫婦が、自らいくつもの蔵見学にも訪れるほどの焼酎ホリックなのだそう。二人が飲んできた数百種類の焼酎の中から厳選した40種類ほどの焼酎を提供している。また、毎年新酒が出回る時期になると新酒が並んだり、ちょい呑み出来る焼酎の銘柄の入れ替わりが絶え間ないのも嬉しい。焼酎の種類に明るいのはもちろん、蔵元おすすめの飲み方も教えてくれるから、焼酎ビギナーにもぴったりのお店だ。

さて、メインの納豆スパ、ずばばばっと音を立てながら食べると醤油漬けされた濃厚な卵黄と納豆の香りが口いっぱいに広がり、モチモチのスパゲッティとよく絡んでうまい!

合わせる焼酎は、松本さんのお薦め、宮崎県・アカツキ酒造の米焼酎〈〉で。うーん、おいしい。納豆も米焼酎も発酵をキーワードにした食べ物だからだろうか?この組み合わせはとてもいい。

さらにもう一品(一杯)、手作りらっきょうに合わせて熊本県・天草酒造の芋焼酎〈池の露の古酒〉を。

らっきょうの程よい酸っぱさとふくよかな芋の旨みが絶妙で、こちらも止まらない味わいだ。

お店では開店の朝9時半から通しで、お酒も提供している。たまの休みに楽しみにお店に来て朝から焼酎を楽しむ人など、他店では満たされないニーズに応えてくれるお店だ。

2杯目を呑み終えて12時過ぎ。ランニング終わりのお父さんや、仕込み前なのだろう、西新界隈の飲食店の方たちが来店していた。

納豆スパしかない理由は、お店を始める前から松本さんの得意料理が納豆スパゲッティだったから。そしてラーメン店のように、一つのこだわったメニューしかないお店をやりたかったそう。納豆スパのみの勝負には、相棒である奥さんも、訪れるお客さんも最初は驚いていたそう。けれど今では街の人からも愛されていて、このアットホームな西新の空気に溶け込むお店だ。

納豆すぱとちょい呑み焼酎 ずばばば
住所 福岡県福岡市早良区西新5丁目1-35 アリウープ西新1階
定休日 月(祝日の際は翌日)  不定休
WEB https://foodplace.jp/zubababa/
※緊急事態宣言、又はまん延防止等重点措置等が発令中は朝11時から開店。

福岡市に突然広がる緑「大濠公園」でピクニック飲み

おいしいご飯にも、楽しい会話にも大満足で「ずばばば」を出た僕たち。お腹も幸せそうにふくらんでいるけれど、福岡の旅は始まったばかり!まだまだ行くぞ……。それならばと、酔いざましと腹ごなしをかねて、博多の方へ歩いて向かうことにした!

この辺りの早良区は、スピッツのボーカル・草野マサムネや椎名林檎の出身地。軽い散歩にちょうどいいエリアだ。美味しそうなパン屋があったりして、香ばしい小麦の匂いが漂う。横を見れば隣を同じスピードで歩く彼女。

人でごった返す東京で偶然出会い、気がつけば一緒に福岡で焼酎を楽しんでいるなんて不思議な気がするなあ……。

君と出会った奇跡がこの胸に溢れてる
きっと今は自由に空も飛べるはず

うーん!楽しい旅行になってきやがった!

20分ほど歩いて、ちょっと休憩を……と思っていたら、ちょうどいいところに大きな池がある。

ゆったりとして池を囲むここは大濠公園。歴史は古く、江戸時代にまで遡るという。福岡城を築城する際に黒田長政が外堀として利用したのがこの場所。その後昭和4年に今の形となった。広大な敷地の半分以上を池が閉めていて、そこに浮かぶ島も散策できる。

池の上をスワンボートで進むこともできる

敷地内にはほかに、あの前川國男設計による名建築・福岡市美術館もある。池を眺めるベンチに座って、ちょっとピクニック飲みをしようかな。

コンビニで氷の入ったコップと炭酸水、そして焼酎のミニボトルを購入しお手軽に焼酎ハイボール。空が広くって、焼酎がおいしい。優しい風にそよぐ木々や、池の水音。落ち着いた空気の中でおしゃべりするのも楽しいなあ。

遠くには同じ早良区にそびえる油山・背振山が見える。

街にあかりが灯る頃、目当ての角打ちへ

旅をあんまり焦らず、公園の周りでのんびり過ごしたら、すっかり夕方。公園を南から出て、バスに揺られること15分、薬院を目指す。

駅の辺りをぶらつくと、お母さんとお父さんの間ではしゃぐ子供や、お店の前でソワソワと誰かを待っているお兄さん。とってもいい夕暮れの景色だ。僕の傍らでは、彼女も次のお店への地図を楽しげに見ていてうれしい!

みんな楽しい! 角打ち文化発祥の地の底力

さてここで、突然ながら「角打ち」についてご説明。酒屋の中にある立ち飲みスペースで、その酒屋で売られているお酒を飲む「角打ち」。東北の方では「もっきり」と名前を変わるもののこのスタイルは日本全国にあります。

が、角打ち発祥とされるのは同じ福岡の北九州地域。

工場や炭鉱、港湾などの労働者が、仕事帰り(夜勤明けの朝にも!)に酒屋で酒を飲んでいたことが定着したのだとか。

元々「角打ち」は、枡に入れられたお酒をその枡の角から飲むことを意味する単語でした。しかしお店ですぐに飲みたいという飲んべえたちの要望に応えるために、酒屋が店先でお店を提供し始めるようになり、明治時代頃から「角打ち」の意味合いが、酒屋の店頭でお酒を飲むこと、に変わっていったのだとか。

だから「角打ち」はお店の人とお客さんとの距離感が近い!そして店ごとに、店主の人柄やお店にやってくるお客さんの個性が際立ちます。

さらに、お財布にもとことん優しい破格なお値段で珍しいお酒が飲めるのも酒屋経営の「角打ち」ならでは! 発祥の地らしく、福岡にはそんな「角打ち」がたくさん存在していて、夜な夜なお酒呑みたちが集まっているのだとか……。

福岡でお酒を飲むなら、必ず行きたい。というわけで彼女と二人で下調べは万端。気になっていた二つの「角打ち」を訪れます。

おしゃれでクール、でも心温まる角打ち〈とどろき酒店薬院stand!〉

角打ち最初の一軒は、薬院駅から徒歩4分の位置にある「とどろき酒店薬院stand!」

福岡を拠点に2店舗展開するとどろき酒店。2016年開店のここは、20年に現在の場所に移転してきた。

店内のオレンジ色の光が漏れる全面ガラス張りの外観はまるで洋服のセレクトショップのよう。店内はすでに常連さんで賑わっている。

ワクワクしながら早速入店! 店に入ると背の高い冷蔵庫や棚が壁一面にあり、そこにずらりとお酒が並ぶ。さすが酒屋さん! 角打ちスペースは店の奥。全てカウンターの立ち飲みスタイル。この日は15人ほどのお客さんが来ていて、バーカウンターは満員の大賑わい。

おすすめの焼酎を聞いて僕が頼んだのは宮崎県・黒木本店の麦焼酎〈中々〉。そして彼女は大分県・四ツ谷酒造の麦焼酎〈兼八〉をソーダ割りで。

オーダーから到着が驚くほど早い! というわけで改めまして福岡の夜にカンパーイ!

「今日はどこに行ってきたの?」

「二人お似合いだね」

「次は何飲む?」

「福岡なら糸島は海がきれいだよ!」

気さくに話してくれる博多美人な店員さん。何度も来ている常連のような気分にさせてくれるのはすごくうれしい。

お酒のあても種類豊富だ。

旬なお野菜を使ったおばんざいはヘルシーなのが売り。これなら健康に気を使う人も楽しく飲める!

「ずばばば」の納豆スパもしかり、体に負担の少ないお酒である焼酎に力を入れているお店のお酒の肴は、それに合わせてヘルシーで美味しいものが多い気がするな……。

食べ終えるのが惜しいほどうまいあてにつられてお酒も進み、二人で3杯ずついただいて大満足。

「ごちそうさまでした!」

「ありがとうございました!またきてね!」

最高の笑顔で見送られ、僕らも満面の笑顔でお店を後にした。

とどろき酒店薬院stand!
住所 福岡市中央区白金1-16-4 コレンテいのくちビル1F
定休日 日・最終月曜 
WEB https://todoroi-saketen.com/

創業昭和5年! 街を見守る角打ち「こば酒店

楽しかったね、と二人で「とどろき酒店薬院stand!」を後にして夜の福岡を歩く。

次のお店も近くにあり、酔い覚ましに夜風を感じながら次のお店まで歩いて向かう。話しながらのんびり歩いて10分ほど。次のお店「こば酒店」の赤い看板が見えてきた。

レトロで大きなKOBAの文字

創業は昭和5年!100年近くも福岡のお酒を見守る酒屋さんだ。酒屋さんの入り口とか空地スペースの入り口は別々。一つ路地を入って見える、木の扉と「角打ち処」の立て看板が、僕らの目指す角打ちだ。

こちらも人をかき分けなければ進めない程、店内は大賑わい。

〈こば酒店〉が角打ちを始めたのは17年前。店舗裏の倉庫だったスペースを角打ちスペースに改装。酒樽をテーブルにした店内はバルのような雰囲気だ。壁一面に所狭しと貼り付けられたメニューから、彼女が楽しそうに一杯目を選んでいる。

彼女と僕、二人で選んだのは熊本県・寿福酒造場の米焼酎〈武者返し〉! お酒を待っていると、突然隣の卓でお酒を楽しんでいた二人組から声をかけられた。

「〈武者返し〉いいね!」

「それおいしいよ!」

いやなからみでは全然なくて、温かな声かけにつられてにっこりしてしまう。4人で焼酎についてあれこれ話し合い、気がつけば4人で乾杯をしていた。その後もお互いの好きなお酒を注文しあったりしていると、さらにその隣のお客さんとも話の輪が広がって……。

二人で来たのに、いつの間にかお店にいる人全員と一緒に飲んでいるかのような雰囲気に! 僕達までが街の一部になれたみたいで楽しい!

〈こば酒店〉はお会計システムが一風変わっている。ザルにお金を入れておき、そこから注文時にお金を払うシステム。酔いが進んでもきちんとお金が払えているから安心だ。

ここでも3杯ずつお酒をいただいて、けっこうなほろ酔い。思えば朝からずっと飲んでるし、さあそろそろ帰ろうかな。

「ごちそうさまでした!」という僕たちに、お客さんからも店員さんからも「もう帰っちゃうの!」と声をかけられた。

名残惜しいけれど、「また来ます!」

約束したから、また来ないとね!そんな話をしながら、宿へ向かう。鼻歌は井上陽水と安全地帯の”夏の終わりのハーモニー”だなあ。

夜空をたださまようだけ 誰よりもあなたが好きだから
今夜のお別れに 最後の二人の歌は 夏の夜を飾るハーモニー

こば酒店
住所 福岡市中福岡県福岡市中央区薬院1-12-18
定休日 日・祝

お土産に1本! 帰ってからも楽しい福岡の旅

家に帰ってきても、まだ福岡熱が止まらない……!「ねえ、これさ、飲んでみない?」と、彼女が持ってきてくれたのは福岡県・紅乙女酒造のごま焼酎〈紅乙女STANDARD江口寿史バージョン〉。四合瓶とRTDのハイボールを、角打ちで手に入れていたみたいだ。

福岡県・紅乙女酒造のごま焼酎〈紅乙女STANDARD江口寿史バージョン〉

原料にゴマを使った珍しいこの焼酎。煎りたてゴマを感じるような香り高さが大きな魅力だ。

おいしーい……! 

福岡県・紅乙女酒造のごま焼酎RTD〈紅乙女ごまハイボール〉

彼女が飲んでいるRTD〈紅乙女ごまハイボール〉のパッケージも、イラストは江口寿史。ミントグリーンを背景にこちらを振り返る女の子は爽やかで、ハイボールの雰囲気によく合う。焼酎と炭酸がしっかりと混ざり合って、優しい口当たりなのもうれしい。

「個性的なのに飲みやすくておいしいね!」 笑顔でお酒が進む彼女は相当この焼酎が気に入った様子。全部飲まれないうちに僕も飲まなきゃ……!

焼酎散歩にチョウドイイ街、福岡

大変な世の中だけれども、大切な人と二人きりで飲みに出かけることができてよかったな。福岡という旅行先のチョイスも100点満点で、おいしい焼酎にも、楽しい先導役にも出会えた! 「また福岡に行こう」じゃなくて、「帰りたいな」と思わせてくれる。ぶらぶら焼酎散歩するのにはとっておきの街だったなあ。

そんなことを考えていると〈紅乙女ごまハイボール〉を片手に彼女がボソッとつぶやいた。

「東京にも角打ちってあるのかなあ」

僕たちのぶらぶら焼酎散歩はまだ始まったばかりなのかもしれない……!

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