あのカルチャー発信の拠点で、焼酎がじわじわ人気です
1878年に東京株式取引所が開設されて以来、日本の証券業界の中心を担ってきた日本橋兜町。兜町=金融のイメージが、今大きく変わりつつあるのを知っているだろうか? その震源地となっているのが2020年にオープンした「K5(ケーファイブ)」。日本初の銀行として1923年に建てられた石造りのビルをスウェーデン人建築家の手でリノベーションし、飲食店やホテルからなる複合施設に生まれ変わらせたこちらは、今、ファッショナブルなユース層に大人気のスポットなのだ。
年明け間もないある日。このK5で奄美・富田酒造場のイベントが開催された。「焼酎新年会」と題したこのイベントは、〈龍宮〉〈らんかん〉〈琥珀〉など、富田酒造場の看板銘柄が試飲できるほか、K5に入る「bar Ao」の考案による焼酎カクテルを提供するもの。この富田酒造場の銘柄を使った3種類のカクテルが……どれも美味! 楽しげに黒糖焼酎を楽しむ人々で賑わった。
話題をさらうこのスポットが注目する焼酎の魅力って何だろう?「bar Ao」のマネージャーを務めるバーテンダー・西村和也さんに話を聞いた。
バーテンダーが焼酎への理解を深める時代が到来?!
−−富田酒造場とbar Aoによる「焼酎新年会」、とても盛り上がっていましたね! bar Aoは渋沢栄一のライブラリーをイメージしたとてもスタイリッシュなバー。K5の客層も相まって、とてもヒップな若い方たちが訪れるスポットという印象ですが、西村さんも、焼酎は元からお好きだったんですか?
西村和也 元々、レモンサワーで有名な新宿の「OPEN BOOK」が系列ということで、そちらは焼酎を多く扱っておりました。bar Aoも縁あって昨年から「宮崎SHOUCHU Mix Up」(全国各地のバーによる、宮崎焼酎を使ったカクテルを提供するイベント)にも参加させて頂いたりしたことで、焼酎とのつながりは強くなりつつありました。が、僕自身がこのバーに加わったのは昨年の「宮崎SHOCHU Mix Up」の頃。以前はホテルのバーにいて、焼酎は頭の隅で気になる存在ではあったものの、そこまで踏み込んで扱ったことはありませんでした。それが「宮崎SHOCHU Mix Up」を通じて、バーテンダーは焼酎に対する考え方を変えないといけないんだと強く感じるようになったんですよね。今はいろんな銘柄を試しながら絶賛勉強中というところです(笑)
−−昨年の「宮崎SHOCHU Mix Up」でのコラボ蔵元は都城の「柳田酒造」でした。〈千本桜 熟成べにはるか〉〈青鹿毛〉を使ったカクテルでしたね。
西村 はい。個性的な焼酎は上手に使うと爆発的な印象を残すんだなぁ!と感銘を受けました。同時に、個性が強いからこそ、それを殺さず生かすには、かなり繊細に量をコントロールする必要があることも知りましたね。焼酎らしい、鼻から抜けていくようなあの独特の香りを、どうフィニッシュに持っていくか。そのためにはどのくらいの量が最適か……。焼酎カクテルを考えるときは、いつもそこを考えます。
自分に合う銘柄を見つけられるのが焼酎本来の魅力
−−いろんな焼酎を飲んだり、勉強されたりしているなかで、新しい発見はありますか?
西村 発見ばかりです(笑)! 焼酎にこれほどの味わいのバラエティがあるとは正直理解していませんでしたし、一般の方ならなおさらだと思います。本来は多種多様な中からそれぞれが自分に合う銘柄を見つけられればいいのでしょうが、そこには至っていない。いくつかの銘柄だけを試して焼酎に苦手意識を持っている若い方も少なくないと思うので、そこが残念ですね。
−−「焼酎新年会」では富田酒造場の銘柄を使ったカクテル3種を西村さんが考案され、提供されていました。どれもとてもおいしかった!
西村 ありがとうございます。イベントでご提供したのはこの3つですね。
・「龍宮コリンズ」
(〈龍宮〉、レモンシロップ、煎茶、花山椒、ソーダ)
・「らんかんマルガリータ」
(〈らんかん〉、ライムジュース、アガペシロップ)
・「琥珀オールドファッション」
(〈琥珀〉、煎り番茶、パッションフルーツシロップ、グランマニエ、オレンジビターズ)
それぞれキーになる銘柄を飲んでみて、風味を大まかに自分の中でジャンル分けする。そこからどういうカクテルだったら合うかなと考えて行きます。既存のカクテルからの派生やツイストがやはり正攻法ですね。それから合わせる素材の選び方のひとつは、同じ土地のものを使うこと。パッションフルーツなどはそんな考えからです。さらに、うちのバーにはお茶に詳しい人間もいるので、彼女にもよく相談します。お茶の現状も少し焼酎に近いものがあって、認知度の面では発展途上ですが、味わいの奥深さやバラエティは目を見張るものがあるんです。
今回のイベントでお客様からの反応がとてもよかったのはもちろんうれしかったですし、カクテル素材としての焼酎に向き合えたことは、自分にとっても本当にいい経験になりました。
カクテル素材としての焼酎の可能性を追及する
−−カクテル考案を通じて、富田酒造場を始めとする蔵による黒糖焼酎への印象は変わりましたか?
西村 上質なラムのような銘柄が多くて驚きますね。焼酎全般に言えますが、どれも違ってどれもおいしい(笑)。樽熟成の〈琥珀〉は、飲んだときに心底びっくりしましたよ。後味も香りもよくて本当においしい! カクテルを考えるために飲んだのに、これはロックかハイボールがいちばんいいな、と思ってしまう。でも、その考えをいったん脇に置いて完全に素材として向き合ってつくったのが今回のカクテルでした。僕の個人的な考えですが、今、カクテルシーンでは“素材”が流行しつつあります。スパイスやハーブもそうですが、お酒にしても、こんなのどこにあったの?とか、こういう風に使うんだ!と驚きのある素材を使ったカクテルが注目を集めている。焼酎はそのひとつになりえます。どの焼酎を使ったらどんな味わいになるか、その知識があることはバーテンダーとしての強みになるでしょうし、日本のバーテンダーとして知っておくべきだという気持ちが今は強くあります。
−−西村さん考案のカクテルは、プロの技の結集で出来上がるものなので、家で試すのはなかなか難しそうですが、もし家飲みで簡単に試せるカクテルアイデアがあれば教えていただけないですか?
西村 たとえばレモンサワーなら、ちゃんとレモンの果実でジュースを絞って、上から山椒やホアジャオ(花椒)をガリガリっと削ってみたらどうでしょう。香りも味のイメージも全然違う一杯が出来上がります。それから、ちょっと甘味を足したいというときは、土地のものを使うのがいいんですよ。黒糖焼酎ならマンゴーやパイナップル、パッション……。その土地の名産のフルーツの果実をちょっと入れるとか、皮をひとかけ入れるだけでも印象は全く変わります。土地の物同士は合う! を信じて色々試してみてください(笑)
−−最後にもうひとつ。西村さんご自身が好きな焼酎の飲み方を教えてください。
西村 “前割り”ってとても素敵な飲み方ですよね。僕も焼酎をよく飲むようになるまで知らなかったし、聞いたことすらなかった。先に水で割っておくなんて、ほかのお酒の常識ではありえませんから(笑)。度数さえも自分の好みに調整して割っておくことができるなんて、知ったときは相当な衝撃でした。前割りしてレモンを入れておくのもいいですし、水出ししたお茶で前割りもおいしいです。お茶は煎茶より、ほうじ茶やフルーティーさがあるものがいいですね。それこそ家で試せる最強のカクテルかもしれません。僕にとっても、焼酎はまだこれから開拓していく分野。お客さまの反応も見ながら、裾野を広げていきたいと思っています。
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