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カスクストレングスばりの奥深さ?! めくるめく原酒の世界|今月のおすすめ #1月

レシピ・飲み方・食

カスクストレングスばりの奥深さ?! めくるめく原酒の世界|今月のおすすめ #1月

Text & Photo : SHOCHU NEXT

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ウイスキーの世界では、加水をせず、樽のままの度数で出荷される貴重な商品“カスクストレングス”が、世界中で珍重されています。これに近いのが焼酎の「原酒」。貯蔵方法に関わらず、一切の加水をしない状態のお酒を「原酒」と呼びます。以前から“原酒”をうたう銘柄は存在していましたが、加水して20~25度にした銘柄が主流という傾向は変わりませんでした。ところが近頃ようやく、焼酎の世界でも原酒が脚光を浴びつつあるようです。商品化される焼酎の原酒は40度前後が大半です。

背景にあるのは世界のスタンダード。海外の蒸留酒文化の主流はアルコール度数40度以上のものなのです。焼酎もこれまでの20~25度だけにこだわらず、世界基準に合わせていこうという業界の気運が窺い知れます。

そんなビジネス的な背景はともかくとして。何より原酒の世界は奥深い! 特に熟成焼酎の原酒には円熟味があり、底知れない魅力を感じます。一度飲んでみれば、原酒だからこそ分かる蔵ごと、銘柄ごとの個性や多様性があることを感じていただけるはず。

というわけで今月は、熟成焼酎の世界にさらにハマってしまう、原酒3本をピックアップ! あなたはどれから飲みますか?


01|味がさね熟成 甘宝

原酒の注ぎ足しによる複雑な旨み

「伝統的な甕壺仕込みをすべての商品で行う太久保(おおくぼ)酒造。一次仕込みを甕で行うことの利点は、甕の表面に無数にある気孔から空気を取り入れて発酵をスムーズに行えること、甕を地中に埋設するため温度変化が少なく、もろみの温度管理がしやすいこと、“蔵つき酵母”と呼ばれる微生物が味わいに複雑さを生み出すことなど数多いのですが、飲み手としてとにかく大切なのは、味わいがまろやかで深みがあること! こちらの〈味がさね熟成 甘宝〉は、毎年原酒を注ぎ足しながら熟成を重ねたもの。泡盛の“仕次ぎ”を彷彿とさせる方法ですが、焼酎蔵元ではあまり聞いたことがありません。

口に含むとまず感じるのはとろみ。その後にまろやかで優しい甘みがやってくる。単一ではない重層的な旨みは、毎年注ぎ足すからこそではないでしょうか。そうして最後に、甕壺由来なのか、大地のミネラル感や塩味を感じさせる心地よい風味が現れてきます。なにしろ複雑で、ひとことで言い表すことのできない酒質なんです! つくり手のこだわりを感じる原酒はぜひ、アルコール度数に臆することなく試してほしいです」(編集部N)

味がさね熟成 甘宝(かんぽう)
【芋焼酎】
貯蔵 5~10年熟成(最低5年古酒を注ぎ足し)・琺瑯タンク
度数  37度
原材料 さつまいも・米麹
蒸留 常圧

蔵元 太久保酒造  WEB →
所在地 鹿児島県志布志市

特徴 前身は1910年創業の久保醸造。伝統的な甕仕込みの本格焼酎をつくりたいという思いから、太久保酒造として1990 年に創業して、以来バラエティ豊かな芋焼酎をつくり続ける。サツマイモはすべて地元・大隅半島産。米も国産米を100%使用しており、将来的には米・芋ともにすべて自社生産100%の安心・安全な酒づくりを目指す。現在芋は100%関連農場産。米は90%以上関連農場産。“甘宝”の名前は、戦後の米がない時期に芋(甘藷)が宝であったことから。黄金千貫で醸し出すまろやかな甘味のある原酒を毎年注ぎ足した、深みのある味わいが特徴的。

02| 栃栗毛 MIZUNARA 41度

樽熟成の特徴をしっかり味わえる一本

「今月選んだ1本は、またまた焼酎のイメージを新しくしてくれる〈栃栗毛 MIZUNARA 41度〉。樽熟成による麦焼酎は、香りはバニラのようで、色は琥珀色。とにかくオタク心をくすぐる要素が満載です。なんといっても使用する樽に注目。ジャパニーズオーク=ミズナラの樽(ラベルにも入っているので言わずもがなだけど)は、世界中のウイスキー愛好家も注目していると聞いたら飲んでみたくなりませんか?

麦焼酎の原酒は、パンチが強く口に含んだときに少しツンッとくる印象のものが多いのですが、こちらは樽熟成ならではのまろやかさと、原酒らしいインパクトのバランスが非常にいい。アルコール度数41度ながら、ストレートでも怖いくらい杯が進んでしまいます。

飲み方は、せっかくの原酒なのでストレートやロックかな。ウイスキーを意識してお洒落にトワイスアップで飲んでもよいかも。

琥珀色を見て楽しみ、実際に味わって、仲間とうんちくを語って気持ちよくなれる……。普段から焼酎を飲む人も、そうでない人も一緒に楽しめること間違いなしです」(編集部T)

栃栗毛 MIZUNARA 41度
【麦焼酎】
貯蔵 1年・ミズナラ樽
度数 41度
原材料 麦(九州産)・麦麹(九州産)
蒸留 減圧

蔵元 柳田酒造  WEB →
所在地 宮崎県都城市

特徴 宮崎の南西の端、都城市にある柳田酒造は1902年の創業。地元に深く根づく焼酎づくりこそが本来の地酒のあるべき姿だという信念のもと、かつては宮崎全域に自生していた在来種の麦「ミヤザキハダカ」を復活。1978年から35年にわたって麦焼酎のみを手がけてきたが、現在は芋焼酎〈千本桜〉も復活生産し、高い評判を得る。
これまで本格麦焼酎として展開してきた写真の〈栃栗毛 MIZUNARA 41度〉だが、光量規制との兼ね合いで本格焼酎としての展開は昨年発売分で終了。今年からは分類を「スピリッツ」に変え、同スペックの〈栃栗毛 MIZUNARA スピリッツ〉として展開していく。こちらのスピリッツ、国内は減圧蒸留のみだが、国外・特にヨーロッパ圏は常圧蒸留で出ているそう! 逆輸入でもいいから飲んでみたい……。

03|原酒 刻の封印

何も足さず、コクと旨みをそのままじっくり味わいたい

「まろやかで濃厚でさらに品がいい。初めて飲んだときは、それはそれは感動しました。米焼酎だけどそれを超えているというか……。〈刻の封印〉というジャンルの蒸留酒だ! とすら思ったほどです。これが原酒の存在感なんですね。

蔵元は球磨焼酎の蔵元・深野酒造。江戸時代から、甕仕込みにこだわって焼酎をつくり続けています。この原酒は、その土甕で5年熟成したもの。昔ながらの手づくり黒麹を使っていることもあり、深いコクが堪能できます。香りは落ち着いていて、水割りにすると少し開きますが、個人的には常温のストレートがいいかな。ロックでさえもったいなく感じてしまいます。

つまみもスナックも何もなくていい。好きな映画や音楽を“肴”にゆっくりとじっくり飲みたい、そんな一本です。いいウイスキーを飲むときのようにグラスにもこだわりたいけれど、ロックグラスで原酒ストレートを飲むのは量的にさすがに危険なので、熟成原酒用にグラッパグラスでも新調しようと決めました」(編集部D)

原酒 刻(とき)の封印
【米焼酎】
貯蔵 5年・甕
度数 39~39.9度
原材料 米・米麹(黒麹)
蒸留 常圧

蔵元 深野酒造  WEB →
所在地 熊本県人吉市

特徴 1823年と焼酎の蔵元のなかでは比較的長い歴史もつ深野酒造。久留米に住んでいた一族が、相良藩が藩をあげて焼酎・清酒の製造を奨励していたことから、豊富な米、良質な水、冬の冷涼な気候と酒づくりに最適の土地である人吉に移り住んで興した蔵だそう。一次仕込みにはすべて土甕を用いるのが蔵のこだわり。江戸末期から100年以上にわたって使い続けているという。〈原酒 刻の封印〉は、呼吸する土甕でそのまま熟成した銘柄。瓶ごと冷やしたストレートもおすすめ。

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