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沖縄本島北部の泡盛蔵・今帰仁酒造を訪ねる

蔵元

沖縄本島北部の泡盛蔵・今帰仁酒造を訪ねる

Text & Photo : Aki Kaneseki

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青い海に囲まれた美しい島々の沖縄。この島々には独自の酒文化「泡盛」がある。泡盛の歴史を紐解くと、そもそも起源は13世紀初頭。西アジアにあった酒の蒸留技術が陸や海のシルクロードを経て中国・タイを経由して伝わったそう。この頃琉球の国に伝わった蒸留酒は「ラオロン」と呼ばれる、糖蜜やもち米を原料とするもの。この酒のうまさに当時の琉球王朝の人々が選別を繰り返し、製造技術を磨きあげ、琉球王国の唯一無二の酒「泡盛」を完成させたという。その後、泡盛は琉球王朝の貿易品として欠かせないものとなり、時の琉球王府が徹底管理することとなる。この頃製造を許可されたのは、首里にある3つの蔵だけ。庶民には到底手が出ない高級品だった。

今帰仁村と古宇利島をつなぐ古宇利大橋

明治時代に入り、琉球が沖縄県として日本の国土の一部となると、泡盛製造の許可が一般へも広がる。これにつれ、泡盛は瞬く間に沖縄全土に広がり、記録によると沖縄全土で4000~5000(!)もの蔵があったとか。時代とともに淘汰も繰り返され、現在は、泡盛の酒造メーカーの数は47社。今帰仁酒造は、沖縄本島の北部、今帰仁村(なきじんそん)に唯一の蔵だ。

泡盛のほかに、沖縄には庶民のための蒸留酒があった

今帰仁酒造の創業は1948(昭和23)年。創業当初は「大城酒造所」という名だったが、2002年、蔵を今の場所への移転した際に「今帰仁酒造」と商号を変えた。その当時には地域に泡盛の蔵元がいくつかあったが、今では今帰仁村酒造のみ。主力銘柄は〈まるだい〉に〈美しい古里〉〈千年の響き〉。2021年にはフランスのソムリエの世界が選ぶKura Masterで〈美しい古里〉30度が最高位プラチナ賞を受賞した。

「泡盛がフランスの本場ソムリエから高い評価をいただけたことは感無量ですし、何より驚きでしたね。世界に泡盛という蒸留酒があるということを知ってもらうチャンスだったと思います」と話すのは、現在この蔵を率いる、4代目当主大城洋介さん。

大城さんが今帰仁酒造に入社したのは、17年前の2005年。当時は朝の連続ドラマ効果で沖縄大ブームの時期であり、お土産用に泡盛を求める観光客も多かったそうだ。

「朝ドラ効果で、まさに沖縄バブル状態。私たちも目がまわるほどの忙しさでした。泡盛も日本の酒なのだと知ってもらえた時期ですね。あの時代は、泡盛ならなんでも売れていました。でもそのブームが下り坂になると、お客さんが自分好みの泡盛を厳選するようになっていった。でもそれは、ごく当たり前の心情ですよね。そこで、今帰仁酒造を選んでもらうためにはどうしたらいいかとあれこれ考え、新商品の開発や、国内外の品評会への出品などに挑んでいます」

 ここ数年、泡盛業界は革新的な時期を迎えている。伝統的な泡盛のほか、特定の香りを引き出すなど新世代の泡盛が誕生して酒造業界を驚かせた。そんな流れの中、かつて泡盛のほかに存在していた芋酒(イムゲー)を復活しようとするプロジェクトを知った大城さんは、今帰仁酒造として参加。2021年の9月に〈IMUGE.〉として商品化した。

「泡盛が高貴な酒ならば、イムゲーは庶民の酒。明治時代まで、沖縄各地で一般の人々に広く親しまれていた蒸留酒です。ここ数年の泡盛人気の低迷や、若い人のアルコール離れの状況のなか、一人でも『なにこれ?面白そう!』と思っていただけるならありがたい。イムゲーもまた、沖縄の地酒だからです。蔵人は皆、泡盛一筋の職人でしたから、はじめは難色を示す者もいた。でもイムゲーの歴史やこれを復活させる意味、そして泡盛技術を生かした新しいイムゲーを造りたいという思いを説明しましたね。みんな泡盛のことが大好きな人間です。泡盛の向上になるならと、今帰仁酒造一致団結できました」

地元の声に耳を傾けて、泡盛の可能性を追求する

今帰仁酒造は泡盛業界で、ほかにない世界観を生みだす蔵でもある。たとえば〈美しき古里 20度〉を発売したのは今から37年以上前。当時、泡盛は30度が主軸で、それより度数が高い銘柄があっても低い銘柄はほぼ見当たらなかった。度数が高い酒は飲み慣れるまで時間がかかる。30度は度数が高くてキツイという声も多かった。ならば飲みやすい度数にすればいいと、思いついたのが今帰仁酒造の大城善男会長である。

「30度が主流の時代に20度の商品は変化球。でも奇をてらうのではなく、今帰仁酒造の味わいを崩さずしっかりと残しつつ、一口目を爽やかに誰もが飲みやすい泡盛にしようと、蔵人全員が日々努力した結果が〈美しき古里 20度〉です。最初は20度!? と敬遠されることもありましたが、当時の営業部の仲間が沖縄の飲食店1軒1軒に足を運んで味の説明をして取り扱ってもらうように励みました。努力の結果、20度のおいしさが口コミで広がって、注文がどんどん入るようになりました。今ではうちに欠かせない主要銘柄の一つです」

〈美しき古里 20度〉は、サイダーのような爽やかな香りが特徴である。度数が低いながらも泡盛の持つ米と米麹の甘さはしっかりと口の中で広がり、しっとりとした余韻の後、スパッと切れる潔さがよい。そのためクイクイッと杯が進み、すぐに酒瓶が空になる。度数が低い分、コスパもいいので飲食店から多く注文も入るように。同時に熱いオファーがあったのが〈美しき古里 30度〉だった。

「やはり沖縄は30度の文化なんですね。20度が広がるにつれて、物足りないという人も増えてきて、これのうまい30度を飲みたいという声が寄せられるようになりました。ならばとことんうまい泡盛を出そうじゃないかと生まれたのが〈美しき古里 30度〉です」

〈美しき古里 30度〉は通常の「美しき古里」に古酒を20%ブレンドしたもの。古酒ならではの芳醇な豊かな香りとやわらかな甘み、そして深みある旨みが味わえる。泡盛でも古酒は逸品であることから、ラベル自体高級感を感じさせる金地を使ったゴージャスな仕上がりだ。これがまた泡盛ファンの心をつかみ、今帰仁村の地元でたくさん飲まれるお酒になっている。

「今帰仁酒造があるのは、昔から地元の人が常に飲んでくださっているおかげです。家々の祝いごとや地元のお祭りなどハレの日はもちろん、毎日の晩酌や寝酒の一杯は今帰仁じゃなきゃという地元の人の声や、飲食店さんの〈美しき古里 30度〉を常備したいという声には感謝しきりです。地元の人々の声は、私たちにとって今帰仁酒造という世界を継続させてもらうためのバロメーターですね。彼らに認めてもらえるものを常に提供できなくては地元の酒蔵と言えません。

新商品や国内外の品評会は新しい泡盛ファンを誘う入り口でもあります。でもそれらは地元の文化と向き合って根づいているからこそ生まれたもの。私たちはこれからも、地元とのつながりを大事にしながら、今帰仁村での酒づくり続けていきます」

地元に愛されてこその地酒

地元を大切にする大城さんの心意気に賛同するように現在、今帰仁村にある有名な飲食店やカフェの多くが、今帰仁酒造の泡盛をメニューに入れる。

昭和レトロな雰囲気たっぷりの「昭和居酒屋北山食堂」もその一つだ。赤い提灯が導く店内に入るとすぐに目に入るのは今帰仁酒造のボトルの棚。これらすべてキープボトルだ。

「うちに来るお客さんで泡盛を注文する人は今帰仁酒造さんの泡盛ですね。それも決まって30度! 30度じゃないと物足りないのですよ。古酒ブレンドで味わい深いのにパンチ力があって、泡盛飲んでいる!と大満足の気持ちにしてくれる。地元の人は間違いなくボトルキープしていますね」と食堂の店長さん。

こちらの面白いところは泡盛飲み放題だ。と言ってもただの飲み放題スタイルではない。各テーブルに蛇口が設置され、その蛇口をひねると泡盛が勢いよく出てくる。物珍しさも手伝って、観光客でも泡盛飲み放題のオーダーが多いそう。1時間600円、3時間1,000円という価格設定にも驚かされる。泡盛に合う料理も魚、肉、野菜、地元料理と揃うため、地元の人や観光客からも一度は訪れたい店として有名である。

古宇利島の見晴らしのいい立地にある「Restaurant L LOTA」は島にあるプライベートリゾートホテル「ONE SUITE(ワンスイート)」が運営するカフェレストラン。地元食材をふんだんに使ったメニューはランチ&ディナーともに評判がよく、〈美しき古里 30度〉を使った自家製ジンジャ泡盛ボールも、知る人ぞ知る一杯である。泡盛の甘さとコクとジンジャーの独特の苦味が口の中で踊る味わいは、一度飲むとクセになる。

「泡盛と聞くと敬遠するお客様も、ジンジャエールなどで割ったりすることでおいしいと喜んでくれますね。うちの自家製ジンジャエールと相性がいいのは泡盛のなかでも〈美しき古里 30度〉です」と店長。

トロピカルな花に囲まれて朝昼は青い海と白く輝く古宇利大橋という絶景を、夜は満天の星に包まれて過ごせる空間で愉しむ一杯……。南国沖縄を堪能しつくす一幕だ。

一期一会を大事にするゆんたく。楽しい時間を紡ぐ1本に

沖縄文化の一つである”ゆんたく”(地元の食や文化、そしてその場所にいる人との交流)は、地域外や県外の観光客関係なく誰でも一緒に楽しめる沖縄らしい風習だ。そこには必ず泡盛があり、今帰仁村のゆんたくには、必ず今帰仁酒造の泡盛が登場する。さまざまな飲食店のメニューに泡盛1升の記載が多いので、地元の人はそんなに飲むのか?と聞いてみると、それはゆんたく用の泡盛だと教えてくれた。一期一会の関係を大事に、来訪者をもてなし老若男女関係なく楽しく会話をする世界。その時間をつなげるのも1本の泡盛であり、今帰仁村唯一の酒蔵、今帰仁酒造の役目なのだ。

「今帰仁酒造は昔も未来もこの今帰仁村という地域に育まれています」という大城さんの言葉どおり、今帰仁村には今帰仁酒造の泡盛が溢れ、それを嬉しそうに手に取る多くの地元の人々ばかりであった。2021年、本島北部のやんばる地域が世界自然遺産に登録され、さらに今春から、そのやんばる地域が朝の連ドラの舞台になっている。この流れは、15年ぶりの沖縄大ブーム、そして泡盛人気の大波を呼ぶだろうか。

今帰仁酒造
沖縄県国頭郡今帰仁村字仲宗根500番地
TEL 0980-56-2611 
創業 1948年創業
蔵見学 あり(現在は感染防止のため一時中止)
ショップ あり
WEB https://nakijinshuzo.jp
昭和居酒屋北山食堂
沖縄県国頭郡今帰仁村字仲宗根500番地
TEL 0980-56-1555 
営業 17:00〜01:00
定休日 無休
WEB http://e-hokuzan.com
Restaurant L LOTA
沖縄県国頭郡今帰仁村古宇利466-1
TEL 0980-51-5031 
営業 
12:00〜16:00
定休日 

WEB https://www.llota.okinawa.jp

取材協力:
今帰仁村観光協会
https://www.nakijinson.jp

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