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再注目の下北沢が今、焼酎の発信地に⁉︎|クラフト焼酎が飲めるシモキタの新世代酒場「下北六角」&焼酎バー「BAR くらげ」

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再注目の下北沢が今、焼酎の発信地に⁉︎|クラフト焼酎が飲めるシモキタの新世代酒場「下北六角」&焼酎バー「BAR くらげ」

Text : Kentaro Wada(SHOCHU NEXT)
Photo : GINGRICH(SHOCHU NEXT)

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2018年、小田急線の駅舎のリニューアルを皮切りに、街並みががらりと新しくなった東京・下北沢。今や若者だけではなく国外からの注目も熱く、2019年には「世界で最もクールな街」第2位に、2022年も第7位に選ばれるほど。もちろん従来の下北沢のにぎやかな雰囲気は健在。古着、劇場、ライブハウスなど、サブカルチャーがしっかりと息づいていて、新旧さまざまな文化が織り混じる街になっている。そんな注目の下北沢、実は今、焼酎シーンでもアツい。焼酎にフォーカスしたいい飲食店が登場しているのだ。「若者の街」下北沢に、果たしてどんな焼酎が待っているのだろう? 昼夜問わず大賑わいの下北沢で、新時代の焼酎酒場をハシゴした

シモキタ駅前から徒歩10秒! クラフト焼酎ペアリングが楽しい「下北六角」

平日昼間にもかかわらず、多くの若者でごった返す下北沢駅。そのちょうど目の前、京王井の頭線高架下に店を構える「下北六角」は、今回お目当ての場所のひとつ。噂に聞けば、2022年3月末のオープン以来、連日予約の立て込む人気店だとか。木製の引き戸を開けると、店内は落ち着いたしつらえ。8席のカウンターに、テーブルが3卓、外にはテラス席も見え、キッチンの奥には色とりどりの焼酎の一升瓶が並ぶ。「こんにちは!」と声をかけてくれたのは店長の内田大喜さん。副店長の粕谷佳さんとともに、料理の考案から焼酎のセレクトまでの全てを行う。誤解を恐れずにいうならば、これまでの“焼酎が飲める店”とは正反対とでもいうほどに、しゃれた雰囲気の「下北六角」。なぜ焼酎を扱うことになったのだろう?

「焼酎をメインに打ち出したきっかけは、九州に縁のあるスタッフが多かったから。僕は熊本出身で、粕谷も鹿児島に縁がある。自分たちにとって焼酎はなじみ深いお酒なのに、新しい飲食店で焼酎に特化するところはまだまだ少ない。それなら、焼酎で新しい食事の提案をしよう! と決めたんです」

「下北六角」の店長を務める内田大喜さん。

芋、麦、米、黒糖と各原料の焼酎が揃う「下北六角」。焼酎のストックは基本的に1銘柄1本だけ。なくなるごとに新しい銘柄を入れ、メニューも毎回つくり直すそう。「銘柄ごとに味が異なるのが焼酎の面白いところだから、色々な焼酎を試してもらいたい」と語る内田さん。都内だけではなく、九州の酒店からも仕入れを行うほか、自ら焼酎蔵に足を運んでつくりを確かめることもあるという。

メニューには、それぞれの銘柄におすすめの飲み方が書かれているため、初めて飲む人も試しやすい。

アイデア満載! 「下北六角」の創作料理とクラフト焼酎ペアリング

平日のランチには行列ができるほどに料理のクオリティも確かな「下北六角」。メニューを見ただけでお腹が鳴りそうな料理がずらり。「下北六角」を訪れたら必ず試してもらいたい、とびきりのペアリングを内田さんに聞いてみた。

最初に登場したのは、「カラスミ大根唐揚げ」と芋焼酎〈なかむら〉を前割りした「究極の水割り」。出汁が染み染みの大根とカラッと揚げ、上にカラスミ敷き詰めた濃厚な旨みの一品が、前割りした〈なかむら〉のまろやかな口当たりと相性抜群。角の取れた優しいペアリングで、乾杯の一杯目にはもってこいだ。

〈なかむら〉の前割りと「カラスミ大根唐揚げ」

「焼酎は常に銘柄を入れ替えているのですが、〈なかむら〉はあまりのおいしさに定番銘柄になりました(笑)。なにより、前割りした時の口当たりが段違いにいい! 焼酎6:水4と少し濃いめに割っているものの、アルコールの強さは全く感じません。『焼酎=強い酒』のイメージを持っている人への導入としてもおすすめしたい一杯。優しい味の食事と合わせてもらえれば、その旨さをより感じてもらえるはずです」

副店長の粕谷佳さん。

次は「下北六角」の名物です! と副店長・粕谷さん。出てきたのは皮を香ばしく焼き上げた、ボリューム満点の鶏料理。「藥酎鶏(やくちゅうどり)」と、どこかおっかない響きのこの一皿、なんと地鶏を丸ごと豊永酒造の〈カルダモン TAKE7〉とスパイスに一晩漬け込んでいるそう。がぶり! と一口かぶりつけば、〈カルダモン TAKE7〉の甘みとスパイスの香り高さ、炭火でじっくり焼いた鶏の旨みが一気に押し寄せる。もちろん合わせるのは、〈カルダモン TAKE7〉のソーダ割り。スパイスの香りを目一杯に楽しめる、贅沢なペアリングだ。

〈カルダモン TAKE7〉のソーダ割りと名物「藥酎鶏」

「中華料理の海老や蟹の紹興酒漬けから着想を得た『藥酎鶏』。色々な焼酎で試してみた結果、いちばん相性がよかったのが〈カルダモン TAKE7〉でした。カルダモンの華やかな香りと、米焼酎の甘みが鶏の旨みをより引き立てる。迷ったら必ず頼んでもらいたいぺアリングです!」

〆までぬかりないクオリティのペアリングが楽しめるのもまた、「下北六角」の自慢だ。鹿児島の郷土料理「鶏飯」を熱々の石鍋と鶏白湯でアレンジした「六角の鶏飯」は、超濃厚でほろ酔い気分の胃に最高! 度数高めの芋焼酎のソーダ割りと合わせれば、大満足の〆が楽しめる。

鶏白湯スープを入れるとグツグツ煮えたぎる「六角の鶏飯」

コーヒー×焼酎×烏龍茶⁉︎ 「下北六角」はアレンジ焼酎も必飲

ペアリングだけではなく、焼酎のアレンジも豊富な「下北六角」。焼酎初心者はもちろん、焼酎好きも思わずうなるメニューが揃う。そのひとつ「季節のフルーツサワー」は、その名の通り、焼酎に旬の果物を漬けた爽やかなサワー。一升瓶分を漬け、なくなるたびに違う果物を漬けるため、何度来ても新しい味が楽しめるのが嬉しい。ちょうどこの日は、新しいサワーの仕込み。完熟いちぢくをたっぷり使ったサワーを仕込んでいた。

焼酎一升分を豪快にフルーツ漬けに。3日以上寝かせてメニューに出すそう。

「変わったアレンジといえばこんなのもありますよ」と持ってきてくれたのは、黒糖焼酎〈あまみ長雲〉にコーヒー豆を漬けたコーヒー焼酎。

「ロックでも美味しいですが、一押しは烏龍茶割り。苦みは控えめに、香ばしさが増して、ぐっと飲みやすくなります。甘いお酒があまり得意じゃないお客さんには迷わずおすすめしています」

「コーヒー焼酎」の烏龍茶割り

コーヒー×烏龍茶×黒糖焼酎とはなかなか異色の組み合わせ。若干訝りながら飲んでみたところ、想像をはるかに超えたうまさ&飲みやすさ! 〈あまみ長雲〉の爽やかな香りはしっかりと残り、後からコーヒーと烏龍茶のビターな香ばしさが追いかける。食中酒としても楽しめそうな一杯だ。手間のかかるアレンジレシピを豊富に揃える理由には、焼酎の伝え手としての内田さんたちの信念がある。

「焼酎の飲み方がわからないから飲まない人も多いはず。僕たち飲食店がちゃんと飲み方まで提案することが、焼酎を広める第一歩。もちろん、割り方だけではなく、料理との相性も大事だと思っています。オープン当初は年齢層が高い方が多かったですが、おかげさまで今は20~30代の方にもたくさん来ていただけるようになった。少しずつですが、焼酎が広まっている実感を持っています」

自分たちももっと焼酎のことを知って、お客さんに還元したい! と意気込む内田さん。バラエティ豊かなアレンジや、遊び心あふれる料理で焼酎を堪能できる「下北六角」。若者の街、下北沢で焼酎を広める旗振り役として活躍すること間違いなしだ。

下北六角
住所 東京都世田谷区北沢2-11-15 ミカン下北 A街区 205
営業時間 ランチ:11:30〜14:30、ディナー:17:00〜23:00(フードL.O.22:00、ドリンクL.O.22:30)
定休日 なし
公式Instagram →

下北線路街に誕生した、新時代の焼酎バー「BAR くらげ」

とびきりの焼酎ペアリングに大満足の「下北六角」を後にし、2軒目に向かうは東北沢駅方面。小田急線の地下化によってできた線路跡地「下北線路街」に、焼酎バーができたとか。日が傾きかける昼下がり、イベントスペースや真新しい施設を横目に遊歩道を進むと、ウッドデッキテラスが印象的な「マスタードホテル下北沢」が現れる。その角に光る「BAR」の黄色いネオンサイン。このバーこそ、下北沢に新しく誕生した焼酎バー「くらげ」だ。早速中に入ると、小気味よいハウスミュージックが品のある空間を包む。「どうもっ!」と元気よく迎えてくれたのは、店長の飯塚航さん。2021年9月に開店した「BAR くらげ」。オープン1年を機にリニューアルし、飯塚さんをマスターとして再スタートを切った。

「この場所でバーをはじめたのは、ホテルから声がかかったのがきっかけ。海外からの観光客も多く宿泊するため、オープン前はメキシコの蒸留酒メスカルを中心にしたバーにしようという考えもありました。でも蒸留酒ならば、日本には焼酎・泡盛がある。オーナーが焼酎や泡盛に熱心なこともあって、焼酎バーとしてオープンすることになりました

明るく笑顔を絶やさない「BAR くらげ」店長の飯塚さん。

「BAR くらげ」が特に注目しているのは、黒糖焼酎と泡盛。バックバーに目をやると、普段なかなかお目にかかれない銘柄がずらり。「はじめのコンセプトも残してるんです」と飯塚さん。バックバーの上段には厳選されたメスカルが並ぶ。焼酎、泡盛、メスカルと、南国の蒸留酒で満載だ。

「黒糖焼酎や泡盛にこだわる理由は、タイ米を使っているものが多いから。タイ米にしか出せない独特のキレや甘みがある。この複雑な味わいはアガベを原料にしたメスカルにも感じられるもの。メスカルが人気なのであれば、焼酎だって海外の方に絶対に届くと思うんです」

上:音楽関係の仕事にも携わる飯塚さん。DJブースも完備するほど、店内のBGMにはこだわりあり。
下:焼酎、泡盛、メスカルが並ぶバックバー

焼酎バー「くらげ」が薦める、珠玉の焼酎&泡盛

50種類以上のクラフト焼酎や泡盛がリーズナブルに楽しめる「BAR くらげ」。さあ、どれから飲み始めようか……と悩んでいると、飯塚さんがおもむろに「黒糖焼酎カフェラテ」を出してくれた。黒糖焼酎〈あまみ長雲〉にコーヒー豆を漬けたものをベースにしたカクテルだ。

「コーヒー豆は同じくホテルに併設している『BAR くらげ』の系列店のカフェで焙煎したもの。無加糖ですが、オーツミルクで割るとカフェラテのように甘みがぐんと伸びるんです」

「黒糖焼酎コーヒー」のオーツミルク割り。黒糖ピーナッツとの相性は言わずもがな抜群。

「こちらもぜひ飲んでもらいたい!」と飯塚さんが薦めてくれたのは、「BAR くらげ」の名物「黒糖焼酎レモンサワー」。無農薬のレモンピールを漬けた樽熟成黒糖焼酎〈高倉〉に、特製シロップとソーダを加えたもの。甘さは控えめ、黒糖焼酎の爽やかさも相まって、ゴクゴクと飲める。下北散歩に歩き疲れた後にピッタリの一杯だ。

「BAR くらげ」特製の「黒糖焼酎レモンサワー」

おつまみにもこだわりあり、と意気込む飯塚さん。中目黒にある居酒屋「みのる」から取り寄せる「BAR くらげ」オリジナルのおつまみは、焼酎や泡盛に合う気の利いたものばかり。「せっかくなので、タイ米を使った焼酎・泡盛とのペアリングでいきましょう!」と飯塚さんが出してくれたのは、「レバースモーク」と宮崎県・岩倉酒造の麦焼酎〈三段じこみ〉の水割り。米麹にタイ米を使った〈三段じこみ〉は、麦とタイ米由来のビターな香ばしさがたっぷり。「レバースモーク」のまろやかな燻香と相性はいわずもがな抜群だ。

〈三段じこみ〉の水割りと「レバースモーク」

「ちょっと変わり種を」と次にカウンターに置かれたのは、沖縄県の蔵元、多良川による〈IMUGE(イムゲー)〉のソーダ割りと、「肉味噌のクリームチーズ和え」。甘藷と黒糖、タイ米麹でつくる“イムゲー”は、明治時代に沖縄の家庭でつくられていた蒸留酒。その昔、泡盛が高貴な人々のお酒だったのに対し、イムゲーは庶民が親しむお酒だったというが、長く文化が途絶えていた。

泡盛のつくり手3社が、このお酒を約100年ぶりに復活したのが〈IMUGE〉だ。泡盛でも芋焼酎でもないこの興味深いお酒は、味わいも独特。芋の華やかな甘み、黒糖のミネラル感を追いかけるようにタイ米のキレがやってくる。濃厚な肉味噌にも負けない、パンチのある味わいが広がる。

まったりした味わいの「肉味噌のクリームチーズ和え」を「IMUGE」のソーダ割りがさらっと流してくれる

最後の一杯に悩んでいると、「大トリは断然これ!」と飯塚さん。グラスに注いでくれたのは、泡盛蔵、山川酒造の古酒〈やまかわ 甕フィニッシュ〉のソーダ割り。「古酒のやまかわ」と呼ばれるほど、泡盛の熟成を得意とする山川酒造。出してくれた〈やまかわ 甕フィニッシュ〉は、2013年に仕込んだもの。

アルコール度数30度の〈やまかわ 甕フィニッシュ〉。長期熟成を経て角がとれてまろやかに。

「泡盛=強い・臭いというイメージを持つ人は多いと思うけれど、実は僕もその一人でした。その偏見を完全に払拭してくれたのが〈やまかわ 甕フィニッシュ〉。アルコールの強さはないものの、味は超濃厚。ソーダで割っても味が崩れない、完成度の高さに衝撃を受けました。ヴィンテージによって味わいも違ってくるので、ぜひ飲み比べしてもらいたい銘柄です」

アテには、「BAR くらげ」特製の「燻製ベビースター」。泡盛と交互につまむことで、濃厚な味わいが口いっぱいに広がる。最後の一杯にふさわしいペアリングだ。

黒糖焼酎・泡盛のほかにもバラエティ豊かな焼酎が揃う。

楽しく焼酎を伝えることが若者を取り込むきっかけになる

「BAR くらげ」の魅力は、焼酎・泡盛への熱量はもちろんながら、とにかく楽しく飲めるところにある。「ウイスキーバーのようなしっぽりしたバーの雰囲気もいいけれど、南国の蒸留酒は肩肘張らずにわいわい飲むのが一番だよ!」と笑う飯塚さん。焼酎に触れるきっかけを多くつくることが、若者や海外の人に伝える糸口になると語る。

「焼酎飲まない人が焼酎バーに来ることってなかなかない。だから、うちはクラフトビールやナチュラルワインも扱って、できる限り色々なお客さんに来てもらえるようにしています。はじめに飲むのがビールだって構わない。次に一杯焼酎飲んでみようかなと思ってもらえるようにアピールすることが大切です。安くて酔えればいいっていう人もまだまだ多いけれど、焼酎や泡盛だってクオリティの高さに比べれば、全然リーズナブル。せっかく日本にこんなにいい蒸留酒があるのだから、わざわざ安酒を飲む必要がないと思うんです(笑)。とはいえ、頭でっかちに焼酎の良さを伝えるだけでは面白さは伝わらない。良いお酒で楽しく飲める場所をつくっていきたいですね」

飯塚さんが作り出す明るく賑やかな雰囲気で、焼酎のオールドファッションなイメージを覆す「BAR くらげ」。今後はバーにとどまらず、焼酎や泡盛の蔵元も巻き込んだ取り組みも企画しているそう。これからの動きにも目が離せない、新時代の焼酎バーだ。

BAR くらげ
住所 東京都世田谷区北沢3-9-19 Mustard Hotel 1F
営業時間
水-金/ 17:00〜24:00 (23:00 LO)
土日/ 15:00〜24:00 (23:00 LO)
定休日 月・火曜日
公式Instagram →

たっぷりといい焼酎を楽しんで「 BAR くらげ」を出ると、すでに日は暮れ、夜の賑わいに。「下北六角」に「BAR くらげ」と趣向を凝らした焼酎の伝え手が続々と登場する下北沢。次世代の焼酎の発信地は、このクールタウンなのかもしれない。


*飲食店・バーでのフルーツ漬け酒の提供は、租税特別措置法(酒類関係)の特例措置に基づき、20度以上の蒸留酒を使用し、混和後、アルコール分1度以上の発酵がないもののみに限られます。

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