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六調子酒造・池邉道人さん、焼酎の熟成やブレンドのこと、もっと教えてください!|SHOCHU NEXT オンラインイベント キャッチアップ

インタビュー

六調子酒造・池邉道人さん、焼酎の熟成やブレンドのこと、もっと教えてください!|SHOCHU NEXT オンラインイベント キャッチアップ

Text : SHOCHU NEXT

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GWさなかの5月6日に行った、SHOCHU NEXT主催のオンラインイベント『六調子酒造✕南雲主于三 焼酎テイスティング&ブレンド体験セミナー』。球磨焼酎の人気蔵元・六調子酒造の全面協力のもと、参加者の方々へはあらかじめ焼酎のサンプルキットをお送りし、イベントではまず銘柄名を伏せた4銘柄をテイスティング。さらにこれを使って焼酎同士をブレンドをし、味わいや香りの変化を体験してみる2時間弱のイベントとなりました。

六調子酒造を率いる池邉道人さんと、トップミクソロジストの南雲主于三さんが惜しげもなく教えてくれるテイスティングやブレンドのコツに深く納得し、自分の手元で起きるブレンドの魔法に驚く……。お酒好きにはたまらない時間になったのではないでしょうか。定員いっぱいにご予約いただいた参加者の皆さんからの反応もとても喜ばしいものばかり! 編集部一同、うれしさしきりでした。

イベント中、またイベント後にいただいた六調子・池邉さんへのご質問を、編集部が代表してお聞きしてきましたのでまとめて掲載します! 


また、こちらのイベントを追体験していただけるアーカイブ動画をSHOCHU NEXTのYouTubeチャンネルにもアップしています。ご参加でない皆さんも、「もう一度見たい!」という参加者の皆さんもぜひご覧くださいね!


家で市販の焼酎をブレンドしてみてもいいの?

Q 市販の焼酎を家でブレンドしてもおいしくなりますか? もしおいしくなるとしたら、どんな組み合わせがおすすめですか?

A 最初のうちは苦労されるかもしれませんが、おいしくならないことはないと思いますよ! はじめは米焼酎と米焼酎、麦焼酎と麦焼酎というように原料が同じもので練習してみて、次に同じ穀類の米焼酎と麦焼酎のブレンドといった具合に進んでいくといいかもしれませんね。ブレンドする数も2種類から、だんだんと数を増やしていく方がいい。お酒自体は、圧倒的に熟成した銘柄がお薦めです。ブレンドすることによって新しい味の広がりや複雑さが生まれるのは、熟成酒ならではだと思います。一足飛びには上手になりませんから、コツコツといろいろやってみられたら面白いと思います。

Q 焼酎をブレンドする際には、どんな室温がいいのでしょうか。

A 基本的には、ご自分がよっぽど不快な暑さ/寒さでなければ気にされなくて大丈夫です。

Q 今回のイベントでは、熟成焼酎のブレンドを体験しました。池邉さんご自身がいちばん得意な風味の方向性はどんなものでしょうか?

A ブレンドはとてもクリエイティブな作業だと思っています。モーツァルトが音を組み合わせた音楽で自身の世界を表現するように、ランボーが言葉を組み合わせた詩で自分を表現するように、ブレンドも創造だなと。そういう意味では、あまり得意不得意とかは意識したことはないですね。

Q 焼酎のブレンドする際はどこから始めるのですか?

A まずは頭の中で設計図をつくるところから始めます。それが味や香りの方向性というときもあるし、こういうシーンに合うお酒をつくりたいというようなこともある。目指すべき完成形がクリアになっていると、ブレンドはしやすくなります。

Q 今回のイベントでブレンド体験をしてみて、いろんなお酒を混ぜることで、個々の焼酎の味わいがより増幅されるような印象を受けました。味わいのフルーティ感を引き上げるブレンドのコツってありますか? 

A “フルーティー感”がどのようなものを指すかによって変わりそうですね。たとえば日本酒のような吟醸香は、とても飛びやすい香りなので、熟成酒ではあまり出ません。熟成酒の香りはどちらかというと中から湧いて出るような香り。同じフルーツでも、熟成酒のフルーティーさは、新鮮な果物のそれというよりは、熟した果物、あるいはドライフルーツのような風味だと思います。これがぐっと引き立つお酒とは、つまりは多種類のお酒をブレンドして複雑な香味が出ているものではないかと思います。そのためには甘みも大事ですが、好ましくないような苦味・渋みも実は大切な要素です。それらすべてがバランスし、作用し合って、えもいわれぬ香味となるのかなと思います。

せっかくの熟成の“色”を抜いてしまうのはもったいない?

Q ウイスキーなどの洋酒と比べた場合、せっかく熟成で色づいて、味わいに深みが出た原酒の色を、光量規制のために薄めてしまうことはもったいないと感じてしまいます……。

A 六調子酒造では、色を薄めることはしていないんですよ。ブレンドして味をつくった後で、色抜き専用の特殊な活性炭で濾過することで、色だけを抜いて色を調整しています。「色を抜くとうま味も一緒に抜ける」とおっしゃる方もいらっしゃるのですが、僕はそうは思いません。確かに一時的には、風味を持っていかれるような感覚はあるのですが、落ち着くまで置いておくと、きちんと戻ってくるんです。

Q 樽熟成の色モノと、ホーロータンク熟成による白モノのブレンドは行うのですか?

A うちでは、ホーロータンクで熟成した無職透明の熟成酒=白ものと、樽熟成した色のついた熟成酒=色ものをブレンドすることは一切ありません。ホーローでの熟成と樽での熟成は、同じ「熟成」でもその熟成の仕方がまるで違う。ホーローは基本的には熟成に作用するのは空気のみ。樽は木から抽出されるいろんな成分が熟成に関わっていきます。私は、この全く異なるふたつのブレンドは、上手くいかないと考えているんです。だからうちの銘柄は、白ものと白もののブレンドか、樽と樽のブレンドのみです。

焼酎の瓶熟成はありうるか?

Q 六調子さんではホーローと樽熟成がありますが、比率はどのぐらいですか?

A 数量的にはホーロー7:樽3程度。ところが金額ベースだと比率はずいぶん変わって、6:4か、ひょっとすると半々くらいまでいきます。

Q 六調子酒造が持っている熟成酒のうち、いちばん古いものはどれくらいの年数ですか?

A ホーロータンク熟成のものにもかなり古いものもあるのですが、量はありません。製品にしているものでは、11年もの、14年もの辺りが古いほうですかね。樽だといちばん古いのが30年ものですが主にブレンド用。シングルカスクだと金額が高くなりすぎて商品にはなりそうもないです(笑)。あまりに熟成が進みすぎたもののシングルカスクがおいしいかどうかは、ちょっと考えるべきかなあと僕は思います。うんと古い原酒の深みと、10年ものくらいの若い原酒とのブレンドで、柔らかいうま味のなかにパンチ力が生まれる気がするんですよね。

Q 市販の焼酎をそのまま置いておくと瓶熟成が進みますか?

A 瓶内熟成はあるにはあると思います。ただし、味がまろやかになるというだけ。焼酎内の水とアルコールのクラスターがどんどん小さくなって、最終的にはアルコール分子2つを水分子5~6個で取り囲むところまでいくと、ひじょうに柔らかな味になるんです。とはいえ、味がまろやかになることだけが熟成ではないんです。味、香りが時間とともに変化していくというような本当の意味での熟成は、瓶詰めした時点で止まりますね。

Q すでに封を開けてしまった焼酎でも瓶内熟成はしますか? どのくらいの期間でまろやかになるのでしょうか。

A 封を開けた開けないに関わらず、瓶内熟成は1年程度では結果は出ないでしょうね。最低でも数年はかかるかと思います。前のご質問の答えの続きにもなりますが、お酒の熟成とは、空気に触れながら緩慢に酸化していくことだからです。さらに言うならば、空気に触れさせるために液体に振動を与えたり、強制的に空気を吹き込むのもよくないんですよ。とある泡盛の蔵元で、熟成を早めるために、水槽などに使うエアストーンをタンクに入れて空気をお酒に吹き込んだことがあるそうです。そうしたら味も香りも全部飛んでいってしまったのだとか(笑)。インスタントに熟成させるのはみんなが考える夢ですし、僕も若い頃にはいろんな人工熟成の実験をしてみたのですが、上手くいきませんでしたね。熟成の酸化は緩慢に緩慢に起きるもの。瓶熟成だとそれはさらに遅くなるとお考え頂いた方がいいと思います。

Q 焼酎を家でおいしく熟成させる方法はありますか?

A お酒用のミニチュア樽をつくって販売している会社があるので、そういうものをひとつお買い求めになって、市販の焼酎を入れてみたら面白いかもしれませんね。

ほかに、白モノの熟成を本格的にやろうと思うなら、漬物や味噌などを保存しておく小さいホーロータンクを使うといいですよ。そこに常圧蒸留の焼酎を入れて、容器の口をラップで覆い、その上からフタをする。それを冷暗所に置いておくと、それなりに熟成すると思います。

焼酎に賞味期限はないってホント?

Q 焼酎には賞味期限はないと考えてよいのでしょうか? 

A 僕自身、ずっと「蒸留酒なのでありません」とお答えしていたのですが、ある経験をして以来、ちょっと気をつけるようにしています。というのも、ある時お客様から「封を開けずに置いておいた焼酎を飲んだらとんでもない薬品のような味がする」とクレームをいただいたのです。青天の霹靂でとても驚いて、お客様に焼酎本体と封を送っていただいたら、確かにお客様のおっしゃる通りの異臭がある。ただ、瓶詰めした日付を見ると詰め てから14年も経っていました。すぐに外部組織で分析をしていただいたら、なんとナフタリンの成分が検出されたのです。どうやらクローゼットや押入れなど防虫剤のある環境で長期間保存されていたようで、防虫剤の成分がキャップをすり抜けて入ってきてしまっていたんです。焼酎自体は腐りませんし、ガラス瓶も外気を吸い込むようなことはありませんが、キャップはありうる。さらに、メーカーによるとキャップの耐用年数は7~8年だそうです。ですからもし長く置いておくならば、密閉容器などに移し替えられた方がいいかもしれません。

Q 最近の焼酎で散見する、柑橘類やマスカット香などが主体の酒質は、熟成に耐えうると思いますか?

A やってみたことがないので断言はできませんが、僕個人の予想では飛びそうな気はしますね。これらの香りは減圧蒸留したときに出てくる軽い成分がほとんどなので。熟成酒の香りは、熟成するなかで出てくるもの。蒸留から得られる香りとは全然違うものだと考えています。

Q 芋の熟成焼酎はあまり多くないような気がするのですが……?

A もちろんゼロではないですし、おいしいものもある。でも僕は、芋焼酎は基本的にはフレッシュなものがおいしいと思いますね。芋の香りは5年も経つとかなり弱くなる気がします。とはいえ、それは弱点だとは思いません。むしろ、蒸留したてのフレッシュな状態がおいしい蒸留酒なんて世界でもほかにありませんから! それは芋焼酎のすごい強みだと思います。

Q 六調子酒造では、原酒をブレンドしてからどの程度の期間落ち着かせてから出荷するのですか?

A あまり時間はかからないですね。熟成したお酒同士のブレンドですので、意外と上手く交わってしまうんです。1週間、場合によっては1〜2日ほどで瓶詰めして出荷できます。

Q 今後どのような熟成焼酎を商品化したいとお考えですか。

A いろいろ試行錯誤しながら、どんなものがいいのか探しています。ブレンドの組み合わせは無限。まだまだいろんなものがつくれるなあと、自分でも楽しみです。

文学の素養はお酒のブレンドに生きますか?

Q 池邉さんは学生時代にフランス文学にも傾倒されたのとのこと。現在のお仕事に何か影響を及ぼしているものはありますか?

A ひょっとして……くらいのことですが、酒質を表現する分野では役立っているかもしれません。お酒の評価は、表現力がものを言う世界ですから。

Q 今後さらに海外へは進出されますか? 

A さまざまな国や地域との商談はあるのですが、“蒸留酒なのに食中酒”というところで、いつも苦労しますね。スコッチやコニャックと対抗しうる焼酎をつくりたいという気持ちは、僕を熟成酒のブレンドに駆り立てたひとつの要因。でも、食事に合わせるお酒だという強みも捨てたくないという気持ちはあります。まだまだ道半ばですが頑張ります!

Q 休肝日はありますか?

週4日を目指して頑張っています。1週間や10日続けて飲んでしまうこともあるのですけどね(笑)!


池邉道人
Michito Ikebe/六調子酒造 代表取締役。1958年生まれ。大学時代はフランス語科に在籍し、フランス文学にも傾倒。東京での出版社勤務を経て家業である球磨焼酎の蔵元・六調子酒造に。六調子酒造の焼酎のラベルは芹沢銈介によるもの、熊谷守一によるものなど美しいデザインのものも多数! http://rokuchoshisyuzou.sakura.ne.jp/

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