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行きつけのカレー屋にも置いてほしい!|焼酎の新しい扉を開いた豊永酒造の〈カルダモン TAKE7〉

蔵元

行きつけのカレー屋にも置いてほしい!|焼酎の新しい扉を開いた豊永酒造の〈カルダモン TAKE7〉

Text : Sawako Akune
Photo : SHOCHU NEXT

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カレー店やエスニック料理店で、近頃よく見かけるようになった焼酎があるのを知っているだろうか? その焼酎は、隣の席で飲んでいても“ガン見”してしまうほど香りが豊か。そのうえ、香りに誘われて飲んでみても裏切らない味わいだ。スパイシーな料理を軽々と受け止め、すっきりと流し込んでくれる。“そうそう、焼酎ってホントに食事に合うんだよね!”と改めて思わせてくれる、圧巻の出来栄えだ。

その焼酎とは、球磨焼酎の豊永酒造による〈カルダモン TAKE7〉。米焼酎にカルダモンを漬け込んだ、酒税法上では“リキュール”の部類のお酒だ。カルダモンのピリッとした苦味と辛味を米焼酎がまあるく包む…それまで焼酎の扱いのなかった飲食店や、焼酎になじみのなかった若い世代からの反応が抜群によく、新しい飲み手を獲得しているというのも納得だ。

焼酎の新しい扉を開いたこの〈カルダモン TAKE7〉背景と蔵のものづくりを知りたくて、球磨盆地の奥を目指した。

豊永酒造の敷地内にある「都鶴」と書かれた煙突

米焼酎にこだわる蔵を訪ねて、球磨盆地の最奥へ

豊永酒造があるのは、熊本県球磨郡湯前町。球磨焼酎の蔵元が集中する人吉市を抜けて、球磨川沿いに上流へと上っていった先、球磨盆地の東の端辺りだ。盆地を見下ろす市房山の西側はもう宮崎県。熊本城下の熊本市内へは車でもゆうに2時間はかかるこの辺りは、古くから独自の文化を編んできた土地柄だったと、蔵で迎えてくれた豊永酒造の豊永史郎さん、遼(はるか)さん親子は話す。

「豊永蔵」の看板の前で話す豊永酒造四代目、豊永史郎さん
豊永酒造4代目・豊永史郎さん。

「この辺りは球磨盆地のいちばん奥。阿蘇山系と霧島山系に囲まれた球磨盆地は、昔は湖だったとも言われます。険しい山々に囲まれてポツンとある土地で、美しい水にも恵まれ、気候も稲作に適している。そんなところから、相良藩の配下の“隠し田”も多く、米作を盛んに行ってきました。それが現在の米焼酎へとつながっているんです。夏の気温と湿度が高すぎて日本酒づくりには向かないけれど、うまい蒸留酒ならつくることができる。現代では焼酎というと芋が主流ですから、鹿児島に近いエリアなのになぜ芋焼酎をつくらないのかと聞かれることがあります(笑)。でも球磨で焼酎をつくるならば、やっぱり土地に根ざした米を使った米焼酎に軸足を置き続けたいと思うんです

仕込み中の豊永酒造の豊永遼さん
豊永遼(はるか)さん。京都で過ごした後に蔵に戻った。
二次仕込み中のもろみ
取材時、蔵では麦焼酎が二次仕込みに入っているところだった。

米焼酎ベースの新しいリキュールが切り開く、焼酎の可能性

米焼酎の伝統にこだわる豊永酒造。その蔵が〈カルダモン TAKE7〉のような、スパイスの香りいっぱいのとんがったリキュールをつくっているのは意外な気がしなくもないが、「お客さんの反応を探るなかで生まれた銘柄です」と遼さんは話す。

「米焼酎は苦労しているんです。酒屋さんや飲食店へ営業すると、『ウチは米焼酎はいりません』と言われることが本当に多くて。特に県外では、米焼酎といえばすっきりして味わいが少ないものと印象が固まってしまっているんですよね。豊永の焼酎は一般にイメージされる米焼酎とは違うんだといくら言っても伝わらない。それがすごく残念で……。

米焼酎というカテゴリーではなく、“おいしいお酒”かどうかで判断してほしいなあと思い続けてきました。そんな思いで始めたのが、〈カルダモン TAKE7〉の先駆けでもある〈試製〉と銘打ったシリーズです

豊永酒造「試製Ⅳ号」のボトル画像
〈試製Ⅳ号〉はシナモンを漬けた焼酎!こちらもかなりいい香りと味わい。スパイスと焼酎の相性のよさに驚かされる。

「実はこれ、僕がパソコンの自作が好きなことがきっかけで始めたシリーズなんです(笑)。ヤマダ電機に“玄人志向”という製品シリーズがあります。これが、ブラインドパッケージで必要最低限な情報だけしか書かれていないのですが、非常に高品質な商品のシリーズなんですよね。ブランドにとらわれず“分かる人には分かる”と。これにヒントを得て、常圧/減圧といったつくりの話はあえてせずに、つくりは秘密だけどおいしいです、というやり方にしてみたんです。そうしたらかえって面白がっていただけて、手応えを感じることができた。〈カルダモン TAKE7〉は、そうやって展開してきた米焼酎をベースとした〈試製〉リキュールの発展形です」

焼酎ベースのリキュールといえばまず思い出すのは梅酒。ほかにも柑橘などが思いつくけれど、スパイス ✕ 焼酎はなかなか珍しい部類ではないか。スパイスを使ったリキュールに着手した背景にも、客先からの提案があったのだそう。

壁の前で話す豊永酒造の豊永遼さん
コロナウイルスの感染拡大で今はなかなか叶わないが、遼さんは飲食店への営業やイベントなどへ積極的に出かける。「直接お客さんの声を聞けることは本当にうれしい」と話す。

現代的な食卓に合う、カルダモンが主役となるモダンな焼酎

「焼酎の各蔵元がすでにいろんなリキュールを手がけられているなか、うちはリキュールでは後発。梅酒はもちろんのこと、柑橘系も各蔵が出していますから、出すならば少し変わったのを出さないと勝負にならないだろうとは思っていました。

そんななかでスパイスを使うきっかけになったのは、うちの焼酎を使ってくださっている、大阪『和DINING 春夏冬』『スパイスカレー 旬香唐』のオーナーから、スパイスカレーに合う焼酎をつくれないかという提案をいただいたことです。さっそくいろんな種類のスパイスを試して、いちばん相性がよかったのがカルダモンでした。

“TAKE 7″は、文字通り7回は試作をしていることからです(笑)。使うスパイスをカルダモンと決めて以降も、つくりの面で工夫を重ねました。もろみの段階で漬けて一緒に蒸留したりもしましたが、いちばん香りがよかったのが蒸留したあとに漬け込む方法。さらに原酒もこのリキュールのために仕込んでいて、ワイン酵母の一種を使っています。この酵母がかなり個性的で、特徴のある従来の吟醸香とは違う香りを醸すんですよ。これじゃないとカルダモンにマッチしない」

豊永酒造のスパイス焼酎「カルダモンテイクセブン」のボトルとそのソーダ割りが並んだ写真
蔵元のお薦めが炭酸割り。香りがふわっと立ち上り、炭酸の泡と一緒に弾けるよう。手前にあるのが実際のカルダモンシード。

味に影響のない微量の食物繊維以外、主原料は米焼酎とカルダモンのみ。ボトルを開けるとカルダモンの香りが押し寄せる。甘味料などは一切使用しない、かなり思い切った構成で、遼さんも「はじめは商品として受け入れられるのか分からず、試飲用のミニチュア瓶をたくさん持って、飲食店を回りました」と振り返る。結果は、想像以上の好反応だったそう。

「今までお付き合いしていた飲食店さんだけでなく、意外なところでも広がっているんです。YouTubeやSNSで紹介してくださる方もいて、これまで焼酎を飲まなかった層に届いているという実感があります。飲み方は1:3か1:4の炭酸割りがいいと絞ったのもよかったのかもしれません。“焼酎はいろんな飲み方があります”ではなく、あえて炭酸割りでいったことで、より受け入れやすくなったのではないかと思います」

豊永酒造のリキュール「シナモン梅酒」のボトル画像
〈試製〉シリーズから生まれたリキュール第2段が、発売されたばかりのこちらの〈シナモン梅酒〉。なんで今までなかったの?と思うほど、バチッと味が決まっているので見つけたらぜひお試しを!

日本の食の日常は、この数十年で相当に進化・変化している。フレンチ・イタリアン・中華だけでなく、インド料理にタイ料理、コリアン、ベトナム料理、パキスタン料理……と世界各地の食が外食の選択肢に挙がるのは、もはやごくごく普通だし、家庭のキッチンにパクチー(コリアンダー)やシナモン、クミン、カルダモン、ローズマリーなど、スパイスやハーブがあるのも珍しいことではなくなった。

そこに、お酒の選択肢がまだまだ追いついていないような気がしていたのだ。なんとなくビール、なんとなくウイスキーハイボール、ワイン……と慣れたお酒に行きがちだったけれど、「これでいいのかな?」と思わなくもない。〈カルダモン TAKE7〉はそういうところへピタリとハマる。どんな料理にも合うし、何よりおいしい。食中酒としての伝統ある焼酎が、現代用に生まれ変わったような、モダン焼酎の新定番だ。

〈カルダモン TAKE7〉は豊永さんたちすらも想像しなかったハネ方をした。「新規の飲食店やお客様からのお問い合わせがとても多いんです。定番の〈豊永蔵〉、そして麦焼酎〈麦汁〉の売上に迫る勢いです」と遼さん。現代らしい食事に合う焼酎は、それほどに求められているのだ。

テロワールを表現する豊永酒造の焼酎たち

客先の声に耳を傾けて新しい挑戦にフットワーク軽く乗り出す一方で、伝統のつくりを守り続けているのも豊永酒造の大きな特徴。それは材料づくりにも及んでいて、豊永酒造は、まだ“オーガニック”という言葉が根づくずっと以前の1986年から有機栽培の米での酒づくりを始め、2000年からは自社田での栽培も行っている。

豊永酒造の自社田の写真
自社田ではEMという有用な微生物の力を使った農業を行っている。タニシやおたまじゃくしがたくさんいる美しい水田。

「安全安心はもちろんですが、やっぱり焼酎の醍醐味はその土地(テロワール)をお酒で表現できること。だとしたら、土地の力をいただいた原料でつくるのはごく当然のことだと思うのです。現在の社長(史郎さん)は4代目ですが、初代のときには自社でお米をつくっていました。それを復活させたかたちです。

有機栽培は最初の頃は本当に苦労しましたが、20年ほどが経ち、現在では農薬も一切使わず、雑草も生えないとてもきれいな田んぼになりました」

自社田はもとより、契約農家で育てる米も100%有機農法によるもの。こうして地元の自然の恵みを目一杯に享受して育てられたお米は、蔵の大定番〈常圧豊永蔵〉や、日本唯一の有機玄米焼酎〈有機玄米完がこい〉といった焼酎になる。

最近になって、個性的な銘柄での手応えも感じるようになってきた、と史郎さんも話す。

豊永酒造の製品が並んでいる写真手前から「完がこい」「麦汁」「奥球磨」「豊永蔵」「常圧豊永蔵」
左から有機玄米を使った〈有機玄米完がこい〉、麦の香ばしさが押し寄せる麦焼酎〈麦汁〉、シェリー樽で7年熟成した米焼酎を、そのままの色で出したリキュール〈奥球磨〉、そして定番の〈豊永蔵〉25度と、〈常圧 豊永蔵〉25度。それぞれに粒だった個性を持つ焼酎が揃う。

「米焼酎でメジャーなものはスッキリと淡麗といった印象。でも私たちが古くからつくってきた常圧の焼酎は全く違います。この個性を消すことなく、なるべくそのままに伝えたい。そのために、やはりお客さんの声を聞きながら、同じ銘柄でも少しずつ新しくしてきています。

〈常圧 豊永蔵〉は、発売当初と比べるとずっと個性を出しています。でもこれが、若い方に案外受け入れられているんです。先入観を持たずに飲んでくださる層が増えているのはとてもありがたいですね。

〈有機玄米完がこい〉も、玄米というだけでなく、有機の玄米でやってほしいのというお客さんの声を拾ってのことですし、ほかに〈超にごり ゆ乃鶴〉のような濁りの銘柄も、ある酒屋さんのご希望からつくり始めたものです。蒸留後に浮いてくる油は、劣化成分になるので通常はすくい取りますが、そこには実はうま味も凝縮されている。『油をなるべく残したギトギトの焼酎をつくってほしい、絶対そういう焼酎を求めている層がある』と。はじめはおそるおそるでしたが(笑)、好評をいただいて徐々に酵母なども変え、濃くしていきました」

豊永酒造敷地内にある石づくりの麹室に入っていく豊永遼さん
石づくりでひんやりとした麹室。壁には米の籾殻が挟まれているなど、自然の恵みを生かしたつくり。
木造の天井と大きな緑色のタンク
大正時代につくった建物を、増改築しながら使い続けている。
樽熟成に使う樽が並んでいる写真
〈奥球磨〉を始め、樽熟成の銘柄にも定評がある豊永酒造。樽貯蔵庫にはシェリー樽を始めとするさまざまな素材や来歴の樽が眠る。ここからどんな銘柄が生まれるのだろうか。

飲み手や小売店、飲食店の声に真摯に耳を傾け、それをすぐにつくりにいかす。豊永酒造ではそのサイクルがとてもテンポよく回ることで、蔵の個性がより強固で、はっきりとしたものになってきているようだ。史郎さんが話す。

「うちの蔵は、私と遼と杜氏と、合わせて4人の本当に小さな蔵。だから意見を聞いたらすぐに動いてみることができるし、逆にいえばそれが生命線です。つくりの側だけでは絶対に思いつかない意見をいただけるから、とてもありがたいですよ。

〈カルダモン TAKE7〉のようなリキュールから本格焼酎に興味を持つのでも、その逆もいい。私たちは真面目につくり続けるだけ。お客さんがどこに入り口を見つけるかは、本当に自由だと思います」

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豊永酒造「カルダモンテイクセブン」のボトル写真
カルダモン TAKE7
ラベルには見ると幸運をもたらすと言われる白蛇があしらわれている。この銘柄ができあがって、蔵で豊永さんたちが試飲していたとき、小さな白蛇の子どもがでてきたのだそう。

【リキュール】
度数 25度
原材料 本格米焼酎、カルダモン、食物繊維
蒸留 減圧
豊永蔵「完がこいシェリー樽貯蔵」のボトル画像
完がこい シェリー樽貯蔵
球磨地方の契約農家でつくる有機オーガニック米を100%使って醸した〈豊永蔵〉の原酒を、シェリー樽で貯蔵。やさしく甘やかな口当たりはクセになる。

【米焼酎】
貯蔵 3年以上
度数 25度
原材料 米、米麹(白麹) 
蒸留 減圧
バックプリントに墨字で豊永蔵と書かれたTシャツ
豊永酒造
熊本県 球磨郡 湯前町1873
WEB https://toyonagagura.sakura.ne.jp
創業 1894年
蔵見学 不可
ショップ あり

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