クラフトスピリッツを再発見するWEBマガジン

蔵元が太鼓判を押す、都会の焼酎伝え人。「焼酎ダイニング だけん」| 熟成焼酎が飲める店 #02

飲める店・買える店

蔵元が太鼓判を押す、都会の焼酎伝え人。「焼酎ダイニング だけん」| 熟成焼酎が飲める店 #02

Text & Photo : SHOCHU NEXT

  • Twitterでシェア
  • Facebookでシェア
  • Lineで送る

九州各地の蔵元に「熟成焼酎を飲むならどこのお店がいいですか?」と聞いてまわると、必ずと言っていいほど名前の挙がる店がある。「焼酎ダイニング だけん」。その名からして九州の店……と思いきや、なんと東京のオフィス街のど真ん中にあるという。蔵元たちからこれほどに信頼を集めるのには、何かわけがあるに違いない。さっそくその店を目指して、八丁堀へ向かった。


ゆっくりと熟成焼酎を楽しむ、大人の空間。

東京メトロ八丁堀駅から徒歩3分、東京駅にもほど近いオフィス街にのれんを掲げる「焼酎ダイニング だけん」。奥に長い店の主役はダウンライトの優しい光が照らすカウンター。まるでオーセンティックバーか寿司屋にでも来たような雰囲気だ。カウンターの席に腰をかけると、バックバーにびっしりと並ぶ一升瓶が目に入る。「蒸留酒はゆっくり飲むもの。ウイスキーやブランデーに限らず、焼酎もゆっくり楽しめる場所をつくりたかったんです」と話すのは、オーナー・井上亮さん。

カウンターは13席。奥にはゆったりくつろげるボックス席も備える。

八丁堀に店を構える以前は東京・月島にあった「焼酎ダイニング だけん」。当初は従業員として働いていた井上さんが店の移転に合わせてオーナーを引き継ぎ、現在のかたちになった。「つくり手の顔が見えるものを提供したい」という井上さん。自身の目と舌で確かめた、よりすぐりの本格焼酎と泡盛は200種類超。蔵ごとのこだわりや焼酎に関する知識を正しく伝えるために、蔵元とのコミュニケーションは欠かさない。

「顔の見える、仲のいい蔵元の銘柄を積極的にお薦めしています。焼酎も料理も信頼できるものを提供することが第一。蔵はもちろん、畑や牧場にもできる限り足を運んで、どのような環境で焼酎や食材がつくられているのかを確かめます」

「焼酎ダイニング だけん」のオーナー、井上亮さん。生まれも育ちも東京、実家は寿司店を営む生粋の江戸っ子。

こだわりの九州料理とペアリング

そう、「焼酎ダイニング だけん」がこだわるのは焼酎だけではないのだ。料理の食材ひとつひとつまでしっかりと自分の五感で見極める。「九州はなんでもおいしい!」と九州の食材も豊富だ。 宮崎県尾鈴山でのびのび育った鶏のたたきや、球磨焼酎〈武者返し〉の仕込み米を使った炊きたてのごはん、手づくりのさつま揚げ……。産地ごとの食材を生かした料理が揃う。

そんなとびきりの料理の数々に、合わせる焼酎も悩まずにはいられない。芋、麦、米……。さてどれがいいものか。熟成の銘柄も多数揃っていて、甕、樽、タンクなど熟成方法の違いを加えたら選択肢にキリがない! これはますます決めきられないぞ……。悩んだらプロに尋ねるべし。井上さんにお薦めのペアリングを尋ねてみた。

まずは軽いおつまみを、とカウンターに出されたのは、「豆腐の味噌漬け」と球磨焼酎〈武者返し 長期貯蔵古酒〉。熊本県人吉市の寿福酒造が手がける米焼酎だ。

「〈武者返し 長期貯蔵古酒〉の、この米の甘い香りを生かすには、豆腐の味噌漬けのようなまったりとした舌触りのものと合わせるのがベストです。飲み方は蔵元が薦める燗ロックで。“ガラ”という球磨焼酎独自の酒器で、アルコールが飛ばないくらいの温度まで温めて、氷を入れたグラスに注ぐ。温めることによって米焼酎特有の油分がうまく混ざり合って、味に深みが増すんですよ。氷がほどよく溶けて、飲みやすくなるのもポイントですね」

ロックグラスから沸き立つ湯気が新鮮な驚きを持つ飲み方“燗ロック”。温度やアルコール感も絶妙で、〈武者返し 長期貯蔵古酒〉本来の優しさに磨きがかかる。豆腐の味噌漬けと合わせれば、コクのある熟成感が口いっぱいに。何杯でも飲み進めてしまいそうな、飽きのこない組み合わせだ。

熊本の名産を合わせたペアリング(上)と、ガラをゆっくり温める燗ロック(下)

次に出てきたのは、豚とねぎのうまみたっぷりな「じゃがじゃが鍋」!インパクトあるネーミングのこの鍋、「焼酎ダイニング だけん」の看板メニューのひとつだ。合わせるのは、宮崎県の麦焼酎〈山猿〉。〈山猿〉は、〈百年の孤独〉や〈中々〉でよく知られる黒木本店の別蔵、尾鈴山蒸留所による本格麦焼酎。2年ほど寝かされ、優しい口当たりのなかに麦の香ばしさがしっかり際立つ。

「黒木本店は、焼酎のもろみを肥料や飼料としてリサイクルしている。環境的にも無駄のない焼酎づくりを行っているのが特徴です。じゃがじゃが鍋で使う豚も、黒木本店の焼酎のもろみを食べて育ったもの。臭みがなくて、肉質も柔らかい。鴨頭ねぎは同じく黒木本店が運営する農業法人でうちだけのために育ててもらっています。色も鮮やかで、しゃきしゃきとした食感も楽しめる。焼酎は基本的に土地ごとの恵みでできるお酒だから、同じ環境でつくられた焼酎と食材のペアリングなら間違いありません」

じゃがじゃが鍋の名前の由来は、「そうだそうだ」という宮崎県の方言から。鹿児島の黒豚だったら「ですです鍋」になっていたかも?

さらに、しっかりとした味を楽しみたい時には、鹿児島の名物・黒豚の味噌漬けステーキと本格芋焼酎〈古八幡〉のペアリングを。これぞ鹿児島料理!と思わせてくれる濃厚な味のかけ合わせは、芳醇な熟成焼酎だからこそ。角がとれ、まろやかな味わいが特徴の熟成焼酎は、まったりとした料理にとりわけよく合う。

黒豚の味噌漬けと高良酒造の〈古八幡〉は、メインの一品としてもお薦めなペアリング。

つくり手と飲み手をつなぐ架け橋として。

焼酎の世界に飛び込もうと思い立ったのは、蒸留酒への興味がきっかけだったという井上さん。「じつは醸造酒はあまり飲めなくて(笑)。今まで蒸留酒一筋なんです」と話す。しかし井上さんが「焼酎ダイニング だけん」で働きはじめたのは2000年代半ば、本格焼酎のブームが下火にさしかかる頃だった。業界全体が伸び悩み、焼酎をに特化した飲食店も減っていく……。
「焼酎ブームは終わりかけなのに」と物珍しげな目で見る人も少なくなかったというが、井上さん自身は絶好のタイミングだと感じていたそう。

「今も焼酎と向き合っていられるのは、蔵元との信頼関係があるからこそ。ブームや流行りに関わらず、ひたむきに焼酎を扱ってきたことで、たくさんの蔵と関わることができました。コロナの感染拡大で休止してはいるものの、その繋がりを生かして蔵元だけが集まるイベントも開催できるようになった。持ち寄った新酒を飲み比べたり、どんな飲み方がベストなのかをみんなで考えたり……。そうやって集まる情報はお客さんに還元できるし、蔵元にとっては新しい焼酎づくりのきっかけにもなる。これまで培ってきた経験や知識をステップに、今後は焼酎の魅力をさらに広めていきたいですね」

これまでの10年はたくさん焼酎に教えられてきた。だからここからの10年は焼酎に恩返しをしたい!と話す井上さん。各地で開催される焼酎フェスの運営に携わったりと、焼酎の啓蒙活動にも勤しんでいる。蔵元の声を聞き、その思いをお客さんへダイレクトに伝えていく。井上さんの焼酎に対する熱意をみれば、蔵元がとにかく薦めるのも頷ける。「焼酎ダイニング だけん」は、焼酎のつくり手と飲み手を繋げる架け橋のような存在だ。

焼酎ダイニング だけん
住所:東京都中央区八丁堀2-19-10 秦昌堂ビル 1F
営業時間:17:00~23:00(食事L.O.22:00)(飲み物L.O.22:30)
定休日:日曜・祝日
※緊急事態宣言中により、営業時間に変更がある場合があります。

Share

  • Twitterでシェア
  • Facebookでシェア
  • Lineで送る