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鹿児島の全蔵元の焼酎銘柄が揃うオーセンティックバー「礎」| 熟成焼酎が飲める店 #03

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鹿児島の全蔵元の焼酎銘柄が揃うオーセンティックバー「礎」| 熟成焼酎が飲める店 #03

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堂々とした長いカウンターの中で、忙しく立ち働く制服姿のバーテンダーたち。適度なボリュームのジャズと磨き上げられたグラス……。鹿児島いちばんの繁華街・天文館にあるバー「礎」(いしずえ)。オーセンティックな佇まいのそのバーで傾けるのは、ウイスキーでもワインでもなく、そう、焼酎。ここは、鹿児島にある114の全蔵元から集めた本格焼酎1500以上の銘柄を揃える焼酎専門のバーなのだ。焼酎への深い愛情と知識を持ったオーナーやスタッフが、本格焼酎の楽しみを惜しみなく教えてくれる「礎」。このバーから焼酎の旅を始めてみるのはどうだろう?


バックバーには地域ごとに分けられた本格焼酎の1升瓶がずらり。

鹿児島の焼酎を見て知る、飲んで知る

ドアを開け、オーナー・池畑裕一さんの笑顔に迎えられて上着を預けてからカウンターに腰を下ろす。すっと出てきたおしぼりで手を拭き、ふっと一息ついたところへ、絶妙のタイミングで「何にしましょうか」の声。……うーん、何にしようかな? どんなお酒があるんだろう、ほかのお客さんは何を飲んでいるのかな。確かめようとバックバーと店内をぐるりと見まわしたところで、「礎」のすごみがじわじわと見えてくる。

バックバーを埋め尽くすのは焼酎、焼酎、焼酎。よく見れば棚ごとに“伊集院地区”“鹿屋地区”“奄美地区”……と鹿児島県内のエリア名が書かれている。カウンターと反対の壁には、鹿児島県の大きな地図。県内114の蔵元すべてがプロットされ、それぞれの蔵の代表銘柄のラベルも分かるようになっている。さらに客席の一隅には……小ぶりの木桶の蒸留器?! 

「資料館みたいでしょう」と池畑さんがやわらかく微笑む。「天文館という土地柄、観光や出張の方も多いんです。だから鹿児島の焼酎に興味のある人が、もっと知りたくなるようにしておきたい。知ると飲むのがさらに楽しくなる。自分たちが提供するお酒をより好きになってもらうための手段です」

鹿児島県内の全蔵元がプロットされた焼酎マップ。
店内の一隅には木桶の蒸留器が鎮座。つくりの過程も説明されている。

土地の記憶と強く結びつく、地元のお酒を届ける

今や鹿児島の全蔵元の銘柄を網羅し、多くの蔵元も訪れる「礎」のオープンは2008年。開店する前は蔵元の手伝いに入っていたという池畑さん。さらにその以前は旅行代理店に働き、イタリアを始めとする世界各地を飛び回っていたという。

「世界のどこへ行っても、おいしい食事の傍らにはおいしいお酒がある。食もお酒も、土地の記憶と強く結びつくものだという思いが本格焼酎の世界への入り口でした。生まれ育った鹿児島で飲食店を……と考えたときに、どんな飲食店にせよ鹿児島ならば焼酎を知っておかなきゃいけない、と。すぐに蔵元の手伝いに入って勉強させてもらい、そこから勉強を続けて今に至ります」

ごく当然、という風に池畑さんはそう話すが、その勉強がただごとではない! だって1500銘柄である、毎日5つ飲んで覚えたとしても1年かかるじゃあないの……。池畑さんはもちろん、「礎」に働くスタッフは全員、蔵元名と銘柄、味わいなどがすべて頭の中に入っているという。

「うちの店に入ったら最初に覚えてもらうのがあの蔵元地図(笑)。蔵元の名前を言われたらさっと地図で示せるようになってもらうんです。とはいえ現在のスタッフは焼酎業界で働いていた者も多く、僕より新しい情報に詳しかったりしますよ」

前割りした焼酎を黒千代香で燗づけする、伝統的な飲み方。

だから「礎」でのオーダーはとっても気楽だ。銘柄を全然知らなくたって、気分を伝えればいい。濃いのがいい、さわやかなものがいいといった味の傾向はもちろん、「食事の後だから、デザート気分でもう少し飲みたい」とか「明日はけっこう緊張する仕事があるからガツンと気合の入る一杯がいい」とか。漠然とした言葉から、バーテンダーたちがお薦めの銘柄を提案してくれる。一人で訪れても居心地がよくて、バーとの心地いい付き合い方も知れるはず。

さらに「礎」では、飲み方やサーブの仕方も、昔ながら焼酎のスタンダードから何歩も進んでいて驚く。

「お湯割り、水割りなどノーマルな飲み方はもちろん、薩摩焼酎ならではの黒千代香(くろじょか)でお出しすることもできます。通常のお湯割りは、焼酎と水を1:1で前割りしたものを日本酒でよく使う燗付け器で温めてお出ししますね。お湯に焼酎を注ぐ通常のお湯割りのつくり方だと、お湯と焼酎が当たるところで香りが飛んでしまう。だから時間が経つと水っぽくなる気がするんですよね。それから、数を揃えているワイングラスもすべて焼酎用です。ワイン酵母を使ったような華やかな焼酎など、香りを楽しんでいただきたいときに使います。焼酎をワイングラスで飲むのはとてもお薦めなんです。それだけで、焼酎に合う料理もシチュエーションも、ぐっと幅が広がります」

サーブの際に、焼酎のボトルを持ってきてくれるのもうれしい。バーなら飲んでいるウイスキーやジンのボトルがさり気なく席の前に置かれるのはいつもの光景だけれど、そういえば焼酎で同じ経験はあまりなかったな……。ラベルをためつすがめつしながら飲むのは、お酒好きにとってはたまらない時間だ。

ワイングラスで飲む焼酎の香りのふくよかなこと!ぜひスタンダードにしたい飲み方だ。

お薦めの熟成銘柄と、初心者向け銘柄

鹿児島の焼酎の全体像を知る池畑さんに、熟成の銘柄をいくつかお薦めしてもらった。

「芋焼酎からは大山酒造の〈手造り伊佐厳撰長期貯蔵 伊佐大泉〉と田崎酒造の〈薩摩たなばた 長期貯蔵〉。黒糖焼酎は山田酒造の〈あまみ長雲〉、天星酒造の麦焼酎の30年古酒〈泣いたり笑ったり〉をお出ししてみました。どれも味わいが全く違いますから、飲み方は相談しながら決めていただければ! 芋焼酎はもともと、毎年収穫した芋を仕込んでつくってきたお酒。だから季節ものの側面も強くある。熟成年数に関わらず楽しんでいただけたらうれしいですね」

〈手造り伊佐厳撰長期貯蔵 伊佐大泉〉の水割り。
〈薩摩たなばた 長期貯蔵〉はハイボールで!

焼酎に詳しくない人や、慣れていない人にも出しやすい、かつおいしい焼酎も増えてきた、と池畑さんはつけ加える。

「国分酒造の〈安田〉、濵田酒造〈だいやめ〜DAIYAME〜〉、小正醸造〈蔵の師魂 グリーンラベル〉など、軽くフルーティーな飲み口の芋焼酎が増えてきたのはこの4、5年の大きな傾向。芋焼酎の固定概念にとらわれない、初めての人にも飲みやすくておいしい銘柄が増えてきました。ひと昔前ならば『芋焼酎らしくない』なんて言われていたのかもしれないですが、どれも出来がいいし、僕は大いにいい傾向だと思います。間口が広くなってきているのをもっと多くの方に知っていただきたいなあ」

何よりもバーとしてクオリティが高く、鹿児島の焼酎のことならどんなことでも教えてくれる「礎」。焼酎好きにはたまらない場所だろうが、焼酎にまだまだ詳しくない人や、焼酎を飲むきっかけをつかみかねている若い人こそ、なるべく早く出会ってほしい場所だ。バーも焼酎も、こんなに楽しいのだから!


居心地のいいバー。鹿児島に立ち寄る機会があればぜひ!

本格焼酎Bar 礎
住所:鹿児島県鹿児島市千日町6-1 天文館フラワービル4F
営業時間:20:00~3:00LO 不定休

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