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島の小さな港町に最強の酒店があった!|黒糖焼酎が全銘柄“以上”揃う「瀬戸内酒販」・鹿児島県奄美大島

飲める店・買える店

島の小さな港町に最強の酒店があった!|黒糖焼酎が全銘柄“以上”揃う「瀬戸内酒販」・鹿児島県奄美大島

Text : Kentaro Wada (SHOCHU NEXT)
Photo : GINGRICH (SHOCHU NEXT)

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黒糖焼酎の産地・奄美群島。その島のひとつ、奄美大島は、2021年に世界自然遺産にも登録され、旅行先として注目を浴びています。せっかく黒糖焼酎のホームタウンに来たからには、お土産に黒糖焼酎を買って帰りたい! スーパーや空港のショップもいいけれど、地元の酒店でとっておきの1本に出会えたら、旅の思い出はさらに大充実間違いなしです。島の人におすすめの酒店を尋ねると、口を揃えて同じ店が出てきます。それが「瀬戸内酒販」。中心地から離れた土地にあるにも関わらず、訪れる人が絶えない“すごい店なのだそう。果たして、どんな黒糖焼酎に出会えるのでしょう。奄美の旅を締めくくる最高のお土産を探して、「瀬戸内酒販」へ行ってきました!

のどかな港の暮らしが息づく、奄美大島瀬戸内町

ここにない黒糖焼酎はない! 歴代の黒糖焼酎が眠る「瀬戸内酒販」

奄美大島の中心地・名瀬から車で南に走ること1時間半。たどり着いたのは、奄美大島南端に位置する瀬戸内町古仁屋(こにや)。大島海峡の先に加計呂麻島を望み、民宿や居酒屋が点在するのどかな港町です。海沿いへ進むと見えてくる赤い屋根が、評判の「瀬戸内酒販」。ドアを開けると、広々とした店内にずらりと並ぶワイン、おつまみ、地元のグッズが目に入ります。

お目当ての黒糖焼酎を探して店の奥に進むと……うおお、予想をはるかに超える数の黒糖焼酎! 壁一面を黒糖焼酎が埋め尽くすその光景に、思わず声がもれてしまいます。口をあんぐり開けていると、声をかけてくれたのは店主の義永卓也さん。奥さまの貴子さんと二人で店を切り盛りしています。

「現行で出ている黒糖焼酎は、全銘柄揃えています。数は正直数えきれないね(笑)。黒糖焼酎の品揃えに関してはどこにも負けない自信がありますよ!」

棚の上から下までを黒糖焼酎が埋めつくす!

1957年創業の「瀬戸内酒販」。義永さんのお父さまが地元の酒卸店として創業して以来、代々この瀬戸内町で酒販店を営んでいます。品揃えはもちろんのこと、黒糖焼酎の知識も圧倒的な義永さん。27軒ある黒糖焼酎蔵全てに足を運び、つくりや蔵の様子を確かめる、まさに黒糖焼酎の伝道師です。

瀬戸内酒販の店主を務める義永卓也さんと貴子さん。

全銘柄と聞くだけでも圧巻ですが、「瀬戸内酒販」の品揃えはこれだけではありません。店の倉庫には、廃盤になった銘柄や、蔵元にすら残っていないかつての銘柄など、往年の黒糖焼酎が眠っているとか。「うちにしか残っていないような銘柄もあるけれど、さすがに貴重過ぎて非売品なんです」と笑う義永さん。全銘柄“以上”の黒糖焼酎があるのは、義永さんの知る限り、おそらく世界で「瀬戸内酒販」だけ。もはや酒販店の域を超えた、黒糖焼酎の博物館のような存在です。

上:「瀬戸内酒販」には黒糖焼酎に関するグッズや地元もおつまみも揃う。
下:ゆっくり買い物ができる広々とした店内

120種類以上の試飲ができる! 飲んで見つかるお気に入りの黒糖焼酎

さて、今回の目的はお土産なんだった。あまりの数の多さに選びきれずに悩んでいると「実際飲んでみなきゃわかんないですよ!」と義永さん。なんと「瀬戸内酒販」では試飲も可能。約120種類以上、取り扱うほとんどの銘柄を、全て1杯200円で試すことができます。

「20年前から始めて、好評いただいている試飲。お客さんのなかには、黒糖焼酎を飲み慣れていない方もいらっしゃいます。できれば、お土産で一度買ったきりにならずに、黒糖焼酎を好きになって愛飲してもらいたい。そのためには、それぞれの好みの味を聞いて、合う焼酎を提案することが大事。一人ひとり丁寧に黒糖焼酎を伝えるようにしています」

店の奥の棚に並ぶ試飲用のボトル。車で訪れる際は必ずハンドルキーパーをつけること!

迷ったならば聞いてみよう! ということで、さっそく義永さんに選んでもらいます。「熟成した黒糖焼酎がいいなあ」というリクエストへの最初のお薦めは沖永良部島にある新納酒造がつくる〈水連洞 秘蔵酒〉。長期熟成酒の〈水連洞〉をさらに熟成した古酒で、40度と飲みごたえのある度数となめらかな口当たりが特徴です。

「樽熟成を導入していない黒糖焼酎蔵は、実はわずか。新納酒造は、そんな珍しく樽熟成を行わない蔵のひとつで、代々『仕次ぎ』で熟成を行っています。〈水連洞 秘蔵酒〉は、黒糖の爽やかな香りと深みが詰まった、黒糖焼酎本来の味わいが感じられる貴重な熟成酒です」

新納酒造の〈水連洞 秘蔵酒〉。

樽熟成ならばこれ! と義永さんが持ってきてくれたのは、喜界島の朝日酒造の〈神喜の目醒め〉シリーズ。オーガニック黒糖で仕込んだ黒糖焼酎〈陽出る國の銘酒(せえ)〉を6種類の樽で熟成。樽ごとに異なる味わいが生まれる、チャレンジングな樽熟成黒糖焼酎です。

「樽熟成は各蔵元が試行錯誤している真っ最中。黒糖焼酎の樽熟成はまだこれからどんどん進化していくはずです。そのなかでも〈神喜の目醒め〉は面白い試み。樽が違うことでこんなに味に変化があるんだ! と気づかせてくれます」

朝日酒造の〈神喜の目醒め〉シリーズ。6種類全て試飲ができた。

「興味のあるお客さんにはこんな焼酎も紹介しています」と棚から出てきたのは、〈千枝子〉と書かれた見慣れない焼酎。奄美大島の西平本家がかつて手がけていた黒糖焼酎で、現在は廃盤。「瀬戸内酒販」でも終売品となった、貴重な焼酎です。

「黒糖焼酎で初めて無濾過仕込みを行ったのがこの〈千枝子〉。杜氏、小俣都美夫さんが手がけた、傑作と誉れ高い1本です。名前は当時の社長、中村千枝子さんからつけたもの。25度にもかかわらず、黒糖の旨みが凝縮した、濃厚な味わいが広がる、唯一無二の黒糖焼酎です」

廃盤となった西平本家の名作〈千枝子〉。

「日常のお酒」を超えた黒糖焼酎の魅力を伝えていく

昼夜問わず、常に客足の絶えない「瀬戸内酒販」。黒糖焼酎はもちろん、晩酌用のビールやおつまみを求めて地元の方も訪れる、地域に密着した酒店でもあります。「でも意外に遠方からのお客さんのほうが熱心ですね」と笑う義永さん。黒糖焼酎を広めるには、“日常のお酒”というイメージを超えることが必要だと話します。

「奄美の人にとって黒糖焼酎は、日常のお酒。飲む銘柄も限定的なのが実情です。もちろん食中酒としてさらりと飲めるのは黒糖焼酎の良いところ。でも、ハードリカーとして、他の蒸留酒に引けを取らない高いポテンシャルがあると思うんです。黒糖と麹だけでこれだけバラエティ豊かな香りや味わいが生まれるんですから。黒糖焼酎のファンを増やすには、食中酒にとどまらず、黒糖焼酎単体でも楽しめることを伝えていくことが必要だと感じています」

蔵の特徴から銘柄のつくりや味わいまで一つずつ丁寧に紹介してもらえるのは、リアルなお店だからこその体験。いろんな黒糖焼酎を試してもらい、話が弾むのが一番楽しいと義永さんは話します。銘柄数だけではなく、黒糖焼酎に関する圧倒的な知識がその評判の高さを裏づけます。

黒糖焼酎の未知なる世界に夢中になって、気づけば夕暮れ。またいつでも来てくださいね! と明るく見送ってくれた義永さんと貴子さん。とっておきのお土産を引っ提げて、奄美大島にしばしのお別れ。奄美の小さな港町にある酒店には、黒糖焼酎への愛が詰まっていました。

瀬戸内酒販
住所 鹿児島県大島郡瀬戸内町古仁屋大湊3
営業時間 10時~20時
定休日 火曜(日・祝・祭日も休まず営業)
公式Instagram →
WEB →

「瀬戸内酒販」で見つけた最高のお土産はこれ!

義永さんにさまざまな黒糖焼酎を紹介してもらったなか、お土産に選んだのは〈花おしょろ〉! 奄美大島に蔵を構える山田酒造の〈花おしょろ〉は、定番銘柄〈長雲〉よりも熟成が増した黒糖焼酎。度数は30度と飲みごたえも良く、黒糖由来のみずみずしい香りが鼻を抜けていきます。奄美の言葉で「ご祝儀に一献お上げしましょう」という意味の「花おしょろ」。その名前の通り、特別な日に飲みたいたっぷりとした味わいが広がる1本です。

花おしょろ
【黒糖焼酎】
度数 30度
原材料 黒糖・米麹(タイ米)
蒸留 常圧

蔵元 山田酒造 
所在地  鹿児島県大島郡龍郷町

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