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蔵元が考える本格焼酎の世界への伝え方 in 宮崎

インタビュー

蔵元が考える本格焼酎の世界への伝え方 in 宮崎

Text & Photo : Kumi Kohno

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今年できたばかりの芋焼酎が店頭に並び始める晴れやかな11月末、宮崎県酒造組合の通常総会が宮崎市内のホテルで開催された。宮崎は、本格焼酎を南九州の地酒から全国に拡大させた一大産地の1つ。一方、200年に1度の活況に沸く世界の蒸留酒マーケットにおいて、本格焼酎は、まだわずかしか流通していない。日本酒と比べてもその世界的な知名度はまだまだ低いのが現状である。

消費者の好みは日々変化し、競争が激しいマーケットにおいて、本格焼酎を世界の蒸留酒の一員にするためにどのようなスタンスで取り組んでいくのか。総会直後、国内に多くの商品を出荷する一方で輸出にも力を入れる宮崎の焼酎蔵の皆さんにお話を伺った。

対談メンバー:
姫野建夫氏(姫泉酒造)・古澤昌子氏(古澤醸造)・柳田正氏(柳田酒造)・渡邊幸一朗氏(渡邊酒造場)・宮田健矢氏(宮田本店)・月野千治氏(宮崎県酒造組合)

聞き手:河野久美(SHOCHU NEXT編集部)

本格焼酎の輸出の現在地。これからどう取り組む?

——皆さん、本格焼酎の輸出の手応えはいかがですか?

姫野建夫(姫泉酒造、以下姫野) 本格焼酎の輸出は、まだまだこれからですよね。ワインが世界に広まったのも歴史や文化を背負ってやっているんです。それがないと重みがないんですよ。日本の歴史や文化を背負って焼酎を売り出していかないとワインのようには広がらないんです。ただね、歴史と一緒に日本の焼酎の飲み方を海外に持って行くのは時間がかかると思っています。

姫野建夫さん

渡邊幸一朗(渡邊酒造場、以下渡邊 確かに。難しいですよね。

姫野 ウイスキーとは違う本格焼酎の旨み・風味をどうやって表現していくか難しいところですよね。

月野千治(宮崎県酒造組合、以下月野) 付加価値と価格ですよね。

月野千治さん

柳田正(柳田酒造、以下柳田) 価格については、本格焼酎の輸出には理想と現実のギャップがあって、理想は「高い原材料を使っているんだから高く売らなくてはいけない」でも、「なかなかそう高いと入っていけない市場もある」っていう難しさがありますね。

右から渡邊幸一朗さん、柳田正さん

月野 米、麦、芋と原材料の価格が違うのに、20度、25度と度数によって商品の価格帯が同じであることに「疑問に思わないの?」って感じています。原料特性を強く打ち出してほしいです。

姫野 海外では、ここを変えられる気がするんですよね。原材料の違いによる焼酎の価値は、焼酎文化をこれから伝えていく海外の方が分かってくれる気がします。10年以上前、ヨーロッパでは芋に対する価値意識が低いと感じていましたが、今は変わってきている気がします。日本に来て、芋焼酎の膨らみのある香りやコクのある味わいを覚えて帰国するヨーロッパの方々が現地で本物の良さを広げてくれている印象を持っています。

月野 最近、消費のトレンドって、「フランス発信のニューヨーク、ジャパン」という順に動いているってセミナーで学んだんです。「焼酎とはなんぞや?」っていうか本格焼酎というカテゴリーを海外の方にいまだに認識されていない現状の中、アメリカでは、ハードリカーの販売における法改正があったばかりです。色々と難しさはありますが、ヨーロッパやアメリカで賞などを通してネームバリューをあげて、別のチャンネルで情報発信を続けて世界に拡散し、本格焼酎の消費に繋げていきたいですよね。宮崎の焼酎蔵の半分ぐらいは輸出をしていますし、本格焼酎づくりにおいてもこの意識は重要だと感じています。

柳田 今は、海外プロモーションをするのにいい時期なんですよね。この時期を逃すと、本格焼酎が世界に広がるのがずっと後になるかもしれないので、ここは手にしたい時期ですね。

日本酒は、ヨーロッパやアメリカでも人気があるんです。宮崎の焼酎蔵でニューヨークに行ったときに、ブルックリンにある日本酒専門店に行ったんですけど、現地の若いカップルが来るんですよ。「今日は何を買おうかな?」って選ぶんじゃなくて、お目当ての商品があってお店に入ってパッて商品を手に取ってレジに行く。

渡邊 試飲コーナーにわれわれが焼酎を持って立っているのに、見もせず通り過ぎちゃうんですよね。

柳田 本当に!ぜんぜん見てくれない。
ニューヨークでは、日本酒は市民権を得たお酒になっていて、日本酒の上をいくところにジャパニーズ・ウイスキーがいるじゃないですか。そうなったら、同じ日本人が作るスピリッツで、麹(こうじ)を使っているっているだけでも次の興味は、本格焼酎に向くといいなというのは、少し楽観的な見方ですかね?

世界の誰かのツイートでトレンドのビックバンが起きる時代なので、こんなビックウェーブが期待できる時期もそうそうないから、今頑張らないといけないなって思いますね。

姫野 最終的には、宮崎の本格焼酎だけが売れればいいっていう問題ではないんです。全国の焼酎を造っている蔵が一体となって売らないと。

月野 プロモーションはひとまず広い地域で手を組んで、世界で本格焼酎を飲んでもらって、各メーカーで個性を出して行くのがいいですよね。
飲んでもらうという意味では、宮崎では、最近、焼酎専門店が新しくできています。
ある店舗は、1,500円で好きな宮崎の本格焼酎を30分間、いくらでも飲んでいいんです。炭酸水は、1本300円プラスだったかな。他にも頑張っている飲食店があって、いろんな本格焼酎を自分で手に取って飲めるようになっています。仕掛けは色んなところで生まれていますよね。

「焼酎黎明期」として、新しい愛飲家を発掘するために、今まで飲まれてない人たちに飲んでいただこうというのが、組合としても進めていきたいところで、ワクワクした仕掛けを作っていきたいですよね。

姫野 「これ焼酎入ってるの? 美味しいじゃん」ってなるのがカクテルだから、日本でも外国でもこのスタイルをうまく利用できるといいですよね。それから徐々に伝統的なスタイルを伝えられればいいので、今まで焼酎を飲んだことがない人にもいい入り口になりますよね。

渡邊 最近、ニューヨークで古澤さんの焼酎って色んなところにありますよね。現地の販売価格は、うちの蔵の焼酎より高いんですけどすごく売れていますよね。やっぱり値段じゃないって感じる部分です。アメリカ向けの魅せ方とか、味が大事になってきますね。

柳田 西海岸でも見ましたよ。女性オーナーと女性店長が運営している大型リカーショップで、すごく目立つところに古澤さんの商品が並んでいて、女性客を意識した本格焼酎が動いているんだなって感じました。

古澤昌子(古澤醸造、以下古澤 そうですね。海外向けにデザインした着物の襟と帯をまとったような麦焼酎のボトルは、日本の女性らしさを表現しているんです。女性を意識しています。

渡邊 そういうのが手に取りやすさにつながるんでしょうね。見た目から商品を手に取って、それから味も良くってリピートにつながっていますよね。

柳田 若い方は、海外で本格焼酎が受け入れてもらえるためにどう考えているか聞いてみたいなぁ。

宮田健矢(宮田本店、以下宮田) 自分のところの焼酎を韓国に送ったことがあります。インポーターさんから直接「黒こうじの焼酎が欲しい」という電話があったんです。だけど、その時は黒こうじの焼酎を造っていなくて、別の商品を出しました。今は韓国への本格焼酎の輸出が増えているらしく、値段高めでお話をいただきました。

柳田 それが、理想だよね。

宮田 高い焼酎なのに、なぜかがわからないまま、商品を韓国に送ったんです。

柳田 そういう宮田くんが、若い世代に焼酎を飲ませるためには何が必要だろう?

宮田 難しいですよね。やっぱり、若い女の子に飲んでもらえると、男性がついてくるんじゃないかなぁと。時代に合わせていかないといけないな、と。
その一方で、蔵を引き継いだからには、やっぱり看板商品の「日南娘」を売っていきたいんです。小さい蔵が原材料にこだわると、どうしても販売価格が割高になってしまうので、国内では、若いお客さんより年配層の方に好まれています。なので、価格帯は少し高くても新しさが伝えられるように、いろんな芋の品種で新しい味わいを造っていくことから始められればいいなと思います。

そして、私は、お湯割りの焼酎が好きなので、やっぱりお湯割りで飲んでもらえるように頑張りたいです!

古澤 輸出は簡単ではないですよね。だって日本酒だって30年以上かかったし、まだまだこれからです。ただ、次の世代にタスキを渡すまでに広げておきたいマーケットですから、これからも夢ある本格焼酎づくりを目指していきたいですね。

右から古澤昌子さん、宮田健矢さん

厳しい現実の中にも、希望と熱意あふれる古澤さんのひとことでインタビューは締めくくられた。

姫泉酒造 合資会社 7代目 姫野建夫
高千穂のお隣の日之影町で、天保2年(1831年)に創業。姫野さんは、酒造組合の需要開発委員長を務め、焼酎の海外プロモーションに長年従事している。ワイン酵母を使用したり、高アルコールの焼酎を樽貯蔵するなど、新しい消費者向けに商品を揃え、現在6カ国に輸出している。

古澤醸造 合名会社 5代目 古澤昌子
明治25年(1892年)に創業し、上質な米のコクと芋の甘み、そして華やかな香りが楽しめる本格焼酎「八重桜」を初代より受け継ぐ古澤醸造。昌子さんが当主となって最初にプロデュースした「YAEZAKURA -SEN-」は、「女性に手に取ってもらえる焼酎。友達に贈りたくなる焼酎」をコンセプトに軽やかさとスッキリ感を目指した。

柳田酒造 合名会社 5代目 柳田正
1902年、都城で最初に焼酎づくりを始めた柳田酒造を受け継ぐ柳田さんは、元エンジニア。工具を手に、蒸留機にオリジナルの改良を重ねながら生み出した「青鹿毛」は、2023年、フランスを中心とするヨーロッパの審査員が選ぶ「Kura Masterの本格焼酎・泡盛コンクール」で最優秀となる「コンクール プレジデント賞」に選ばれている。

有限会社 渡邊酒造場 4代目 渡邊幸一朗
渡邊酒造場の創業者は、明治時代に渡米して林業の技術を学び、帰国後の1914年に焼酎蔵を買い取り、今に繋がる製法を生み出した。それ以来、原材料はほとんど自家栽培。近年は、インターネットで原材料の芋の品種を選んでもらう「お芋総選挙」を実施して、一般消費者参加型の焼酎づくりに取り組んでいる。

株式会社 宮田本店 8代目 宮田健矢
約220年前に大阪でタバコ入れを拾った宮田本店の初代が、持ち主からそのお礼に酢の醸造法を伝授され、それから醸造技術を発展させて焼酎づくりをスタート。1993年生まれの宮田さんは、大学で醸造学を学んだ後、山形の出羽桜酒造で2年間修行し24歳で蔵に戻ってから徐々にこうじ造りに変化を加え、自分の味づくりに取り組んでいる。

宮崎県酒造組合 専務理事 月野千治
税務署職員を退官後、地元である宮崎の酒造組合に入り、38蔵の焼酎蔵が加盟する酒造組合の運営実務を担う。税務署と各蔵のパイプ役を務めるとともに、宮崎の本格焼酎の消費拡大に向けた組合としてのプロモーションを行なっている。

輸出を続ける中で見つけた本格焼酎の選択肢

続いて、組合長への単独インタビュー。

——本格焼酎の海外輸出に取り組み始めたきっかけは?

渡邊眞一郎(宮崎県酒造組合 組合長、以下渡邊 ウイスキー大国のイギリスから「焼酎の酒税が安いからウイスキーが売れない!」という話が出てき、1997年に日本政府が、WTOから酒税を変えるように勧告を受けた後の2003年からだから、20年前になりますね。

知り合いに「日本酒の蔵が、数十年前から、パリでソムリエに『日本酒とはこういうもんだ』っていう講義をやっているんだよ」という話を聞いて、その現場を見た直後に、慶應大学時代に一緒だった日本酒の蔵の連中が、ロンドン大学のキャンパスで「試飲会を開催するから一緒に参加しないか?」と誘ってくれたんです。それに参加したんです。それが最初。

渡邊眞一郎さん

——その時の手応えは?

渡邊 ヨーロッパの人は、意外と相手を否定しないんですよ。「焼酎美味しいね」って反応をたくさん聞いて、「これはいけるかも!」と手応えを感じて調子に乗っちゃったんですよ。「ロンドンやパリで自分の蔵の商品を飲んでもらえると楽しいじゃない?」ってノリでそのままニューヨークにも焼酎を持ち込んだんですよ。

それから、本格焼酎が海外に売れるようになるまで「10年ぐらいかかるかなぁ」と思っていたのですが、現実的には、いまだに売れてないですね。

——現在の輸出の取り組みは?

渡邊 ニューヨークとカリフォルニアで法改定(*)があって、アメリカで難しかった本格焼酎の販売のハードルが解消されましたよね。そこで今、「本格焼酎というカテゴリーが初めてきちんと認識される時代になるかな」と期待しています。「どの蒸留酒にもない焼酎だけがもつ香りや味わい」を欧米で理解してもらうことがグローバルなブランティングになると信じてプロモーションを続けていきたいですね。

——工夫していることは?

渡邊 本格焼酎の輸出に、あの手この手と取り組む中で気づきがありました。日本の伝統的な飲み方も紹介するし、世界的に親しまれている蒸留酒の楽しみ方も紹介していかなくてはいけないですよね。カクテルベースとかオンザロックとか。

そこで2017年、地元の漁港の名前からインスピレーションを受けて開発したのが「油津吟 YUZU GIN」です。スタンダードのジュニパーベリーとコリアンダーシードに加え、山椒、グローブや地元特産の柚子、へべず、日向夏、きゅうり、生姜など日本らしさを表現するボタニカルをセレクトしました。蔵の看板商品である「甕雫」と「空と風と大地と」をベースに複層的なアロマと繊細で膨らみのある和柑橘の柔らかな余韻を演出しています。

——今後の輸出に向けては?

渡邊 最初は、本格焼酎をカクテルなどのマゼモノにするのは僕も抵抗があったんです。だけど、たとえばテキーラの歴史を見てみると、カクテルのベースになって、メキシコから世界に広がったんですよね。それは、メキシコの酒造メーカーがシステムを組んで、国と一緒になって動き、「テキラー検定」を作ったり、「ハリウッドの人脈」を使ったりして付加価値をつけてテキーラのグレードをグッと上げてきたわけです。国との協力がうまくいった例で、フランスも農産物の加工品としてワインを国と企業が一体的にプロデュースしています。そいうのを本格焼酎でもやっていかなきゃいけないですよね。

宮崎県酒造組合 組合長
京屋酒造 有限会社 渡邊眞一郎
1948年生まれ。慶應大学卒業後、6年間の銀行勤めを経て、当時、東京の北区滝野川にあった国税庁の醸造試験場で1年間焼酎づくりを学ぶ。30歳を前に蔵に戻り、当主として取り組んだ20年間の輸出経験の中で、海外で通用するグレードの本格焼酎を探し、クラフトジンを2種類プロデュース。アルコール40度の本格焼酎を含め、現在は、3商品を海外輸出している。

*米国ニューヨーク州のアルコール飲料管理法(ABC法)が2022年6月30日に改正され、アルコール度数が24%以下の焼酎が、飲食店などにおいてソフトリカーライセンスでも販売・提供できることとなった。また、 米国カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(民主党)は2023年10月10日、「アルコール飲料規制に関する法律」の改正案(AB416:Sales of Shochu)に署名した。これにより、カリフォルニアでもワインの販売ライセンスを有するバーやレストランなどは、アルコール度数24%以下の焼酎も販売できることになった。

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