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世界に着物を売った男から、焼酎の海外輸出へのアドバイス|ICHIROYA創業者・和田一郎

コラム

世界に着物を売った男から、焼酎の海外輸出へのアドバイス|ICHIROYA創業者・和田一郎

Text : Ichiro Wada
Edit : SHOCHU NEXT

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日本の清酒やウイスキーはこの10年で輸出金額が大幅にアップしている反面、焼酎は残念ながら横ばい。世界全体では醸造酒よりも蒸留酒のほうが消費量を大きく伸ばしているにもかかわらず…。どうにももどかしい状況が焼酎業界を覆うが、突破口はどこにあるのだろう? 今回、少し視点を広げて、“日本文化としての焼酎”を世界に伝えるためのヒントを探るべく、海外向けECをいち早く導入しアンティーク・リサイクル着物を世界に販売してきた和田一郎氏に寄稿いただいた。


写真提供:ICHIROYAのブログ

もっと、舌が肥えていたら、人生はもっと楽しみが多かったはず。何度、嘆いたでしょう。でも、こればかりはどうしようもありません。正直なところ、焼酎の味も、ワインの味も、良し悪しが全然わかりません。結婚してしばらくした頃のことです。喫茶店でのアルバイトが長かった僕は、妻に珈琲の味はわかる的な話をしていました。ある時、妻が淹れてくれた珈琲が美味しいような気がして、「ドリップで淹れたこの豆は美味しいね」と褒めました。が、それはインスタントでした。その時のトラウマが、四十年近く続いています。

さて、焼酎の輸出について、なにか参考になる話をというお題です。上記のような僕なので、お役に立てる話ができるか、はなはだ心許ないです。が、着物(といっても、アンティークやリサイクルの着物ですが)を20年近く、海外に向けて販売してきたので、なにか、話があるだろうと思って頂いているようです。なので、ひょっとして役に立つかもっていう話を、絞り出してみようかと思います。ヒントになるかもしれないし、ヒントにならないかもしれません。なんせ味音痴なので……。

世界中に日本文化のファンがいる!

僕らが海外向けにネット販売を始めた時、僕自身、海外にマーケットがあるのかと思っていました。が、当時、すでにある程度のマーケットが存在していて、ebayで恐ろしいほど売れました。その後、徐々にわかってきたのですが、たとえば、お茶の海外普及を長年続けておられる団体もあるし、アニメファンのコスプレイヤーもいる。あるいは、日本に染織品でファッショングッズを作っている人もいれば、コレクターもいるし、日系二世、三世の方も多数おられる。

その総数はわかりません。でも、たしかに、日本文化のファンは、世界中に多数おられるのです。僕らがこの仕事を始めた当初、南アフリカやブラジルなどはるか遠方からの注文に、わくわくが止まりませんでした。

感覚的で申し訳ないのですが、そのマーケット規模は、たぶん、日本の国内マーケット規模に匹敵すると思います。世界の人口77億人のうちの、1億人ぐらい。70人に一人ぐらいと考えると、長年の実感と合致します。

日本での伝統的な使われ方をいったん頭から捨てる!

古い着物を海外に売っていると、想定した使い方をしないお客さまに多数出会いました。たとえば、羽織を洋服の上に羽織る。打掛をリビングルームの壁面に飾る。帯をテーブルセンターにする。黒留袖をバスローブ替わりにする、などなど。

焼酎の場合、どうなのか、僕にはわかりません。ただ、海外の寿司の食べられ方を聞くにつけ、きっと、作り手、売り手の想像を超えた飲まれ方、使われ方が出てくることも容易に想像できます。

飲み方などを紹介するのは大切ですが、伝統にこだわらない勧め方もまた、突破口になりそうです。

写真提供:ICHIROYAのブログ

トップ&ボトムを狙え!

海外になにかものを売る時、値段は安ければ安いほど良いと思ってしまいがちです。でも、僕らの着物でも、両極端の顧客が存在します。安いものはたしかに数が売れます。でも、トップのものも確実に売れます。アンティークの着物の世界でも、日本のコレクターを上回る値段で逸品を落とすお客様が、海外にある一定の人数でおられます。

そのため、そういうお客様を何人か知ってからは、ある種類のものは、僕らが日本で一番に高く買ってくれると評判になりました。

食の世界でも、きっとそれは同じで、最高のものの価値をわかる人が絶対に存在します。海外のマーケットを狙うためには、トップとボトムの両方を一緒に攻めるほうがやりやすいように思います。

行動を変えてもらうには、英語のWebだけではダメ

英語版のWebを作れば、待っているだけで海外から注文が入る、なんて思っておられる方は、もうおられないとは思いますが……。ともかく、Webだけでは売れません。自社の英語のWebページの制作は、ある程度のお客様をみつけてからでもいいように思います。

海外にネット販売をして痛感したのは、「行動を変えてもらう」ためには、静的なWebだけではとても難しいということです。着物でいえば、「普段着物を着ない人に、着物を買ってもらい、着方を習ってもらい、着てもらう」ということですが、いくつもの乗り越えるべき「行動」の壁があります。

海外の人の食卓に、あるいは、バーやレストランのメニューに加えてもらうめには、同じようにいくつもの行動の壁があります。英語のWebを作るだけでは、その壁は乗り越えることができません。

あなたがインフルエンサーになって!

日本のアイテムをよく売っておられる海外のセラーの中には、たいてい、その分野のインフルエンサー的な人物が存在します。日本の焼き物ならこの人とか、着物ならこの人とか、お弁当箱ならこの人とか、日本酒ならこの人とか…… 

焼酎にはそういう人はおられるでしょうか? 僕は知りませんが、もし、おられないなら、あなたがその役目を果たすのはどうでしょうか? あるいは、誰かがそうなりかけているとしたら、焼酎の業界で一緒に支援するとか……。

インフルエンサーが必須です。

ビジネス誌などでも連載の多い和田一郎氏。著書も人気が高い。

新しいプラットフォームができた時はチャンス

僕らが商売を始めた2001年は、ネット販売がようやく規模の拡大を始めた頃でした。海外に売っても、受金する方法は郵便為替しかなく、売ったお金の回収に滞り困りました。それでも、お客様は「海外向けのネット販売」あるいは「ebay」「Yahoo Auction」などの新しいプラットフォームでの買い物に夢中になり、想像を超える売れ行きでした。

今、新しいプラットフォームはなんでしょうか? YouTube? インスタ? 

たぶん、たった現時点では、YouTubeですね。すでに遅いかもしれません。誰か、焼酎の業界でYouTubeを使って、海外に熱心に発信されている方はおられますか?

また、次のプラットフォームになりそうな芽がどこかにあるでしょうか?

流暢な外国語はMUSTではない

言わずもがなですが、海外に売るのに、流暢な外国語は必要ありません。「下手な相手国の言語で一生懸命に丁寧に対応する」、実は、これが、海外向けEコマースのキラー・コンテンツ(?)と言ってもいいかもしれません。

僕の知人は、英語がまったくダメですが、翻訳ソフトを使いこなして、「英語は下手だけど愛すべき人」として、顧客から圧倒的な支持を得ていました。

それにしても、英語もマスターできないうちに、中国語もある程度勉強しなくてはならなくなりましたね。大変です。でも、今後、20年、50年とビジネスを続けていくためには、中国語の触りぐらいはマスターする必要がありそうです。

さて、偉そうな話になってしまいました。少しでも、参考になれば幸いです。

僕自身は、現在、61歳で、最近、ビジネスは辞めてしまいました。

海外のマーケットは相変わらず存在したのですが、リーマンショック以前ほどの規模には戻りませんでした。国内のマーケットは、中古着物のマーケットの縮小が著しく、コロナ禍に追い打ちをかけられました。

借金はなく、会社にはある程度キャッシュがあったので、あと10歳若ければ、ビジネス上の次のトライアルを試みるところでした。が、死ぬ前にどうしてもやり残したことがあり、従業員と相談の上、ビジネスを閉じることにしました。

そんな僕が言うのも変かもしれませんが、焼酎の海外向け販売には、大きなチャンスがあると思います。ぜひ、日本酒に続き、日本の伝統のリカー・焼酎の輸出で、世界の食通を唸らせ、伝統の継承発展に尽くして頂けたらと思います。上手く道ができれば、国内向け以上に豊穣な、利益のある商売になるのは、間違いありません。


和田一郎
Ichiro Wada/1959年大阪府生まれ。京都大学農学部卒業。大手百貨店に19年勤務したのち独立。当時まだ一般的ではなかった海外向けECを2001年より導入し、アンティーク・リサイクル着物の販売を始める。2003年に有限会社ICHIROYAを設立。著書に、『僕が18年勤めた会社を辞めた時、後悔した12のこと』(バジリコ)、『僕が四十二歳で脱サラして、妻と始めた小さな起業の物語』(バジリコ)など。

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