2023年も実にたくさんの焼酎を飲み、多くの方々にお世話になりました。何よりお礼を申しあげたいのは読者の皆さま! あちこちでいただく反響に励まされながら取材を続けることができました。ご愛読誠にありがとうございます。
焼酎はこれから新しい時代を迎えるに違いないーー。編集長である中山大希の予感によって3年前に蒸留酒専門メディアとして誕生した私たち「SHOCHU NEXT」。当初、編集部内では毎日のように連絡が行き交い、月に数回はミーティング。コロナ禍にもめげず、生まれたてのメディアをそんな風に皆で育ててきたわけですが、今年は編集長をあまり見かけていない気がする……。
「中山さん、◯日の予定はいかがですか?」
「すみませんー。その日はシンガポールなんです」
「では、◯◯日は?」
「そこは台湾でして」
……。あ、そうか。編集長の本業は、輸出商社の経営者なんだった。特に、今年は海外出張が多かったこと。コロナが落ち着き、本業が格段に忙しくなった編集長を目の当たりにし、商社マンってこんなにも飛び回るのかと、改めて知ることになりました。
今年国内外を動きまくった編集長に、海外での焼酎の動き、そして現在思うことを改めて聞いてみようと思います。
ーー今年は編集長の予定を押さえるのが難しかった! いつも海外出張に出ていましたね。
中山 「SHOCHU NEXT」の立ち上げ時は、毎週のようにオンラインで会議していたし、何泊もかけて九州の蔵元取材に出かけたりと、蜜月状態でしたからね(笑)。
出張に出られなかったのはやはりコロナ禍が大きかったからで、本来は今年程度の頻度で海外・国内出張に行く案件やイベントがあるんですよ。今年は試しに行けるだけすべて対応してみようと。採算度外視で(笑)。僕一人じゃさすがに身が持たないので、出張は3名で今年はまわしました。今年のスケジュールを見返してみると、コロナが落ち着いた2月頃から毎月のように海外に出たり、海外からのゲストを国内各地にお連れしたりしています。
ざっと振り返ってみましょう。なお、焼酎だけではなく、地方の日本酒蔵元にも足を運んでいるのですが、書ききれないので割愛しますね。
2月
アメリカのバイヤーと九州へ。
別チームはバイヤーと東北の日本酒蔵元へ。
3月
アメリカ出張、蔵元と展示会参加、飲食店でのプロモーション実施。
4月
台湾で蔵元と展示会に参加、大手飲食グループと来年の企画打合せ。
タイのバイヤーと九州へ。
5月
中国とタイで別チームに別れ、複数の蔵元と展示会に出展。
アメリカのバイヤーと九州へ。
6月
日本の食品輸出エキスポ(東京ビッグサイト)に複数の蔵元と共同出展、各国のバイヤーとミーティング。
7月
インドネシアの展示会に蔵元と参加、飲食店営業も実施。
ソウルサケフェスに蔵元と参加、飲食店営業も実施。
8月
蔵元のピンチヒッターで香港の商談会とイベントに参加。
9月
海外バイヤーと九州へ。
別チームは、オーストラリア展示会に単独出展、かつバイヤー商談。
10月
四国の輸出商談会に参加。
11月
蔵元と台湾出張。
蔵元と中国の展示会に出展、参加。
九州で輸出商談会に参加。
シンガポール出張、現地飲食店営業。
12月
フィリピン出張、新規バイヤーと商談、小売店で試飲販売。
それぞれ弊社(南山物産)でお取引のあるお酒を持っていったり、あるいは蔵元にバイヤーをお連れしたり。焼酎業界を見回しても、ここまで活発に動いているのは大手蔵元でも数えるくらいではないでしょうか。「蔵の規模など関係なく、おいしい焼酎を売るためにこんだけ頑張ってます!」というのは、正直もっと知っていただきたい……(笑)。
ーーものすごい回数ですねえ。商社の規模が大きくなるとさらに増えたりするんですか?
中山 ありがたいことに取引先や輸出案件が増えれば増えるほど、出張機会は比例していくとは思います。ただ実情では、他の役員からは厳しい意見がでました。「来年はこのペースは無理です」と。つまり、輸出市場が開花する前の段階で、単独で出張に行くにも限界があります。道半ばで力尽きない方法を模索する必要があると、社内で深く議論をしているところです。それは中小の蔵元も同じ悩みを抱えているのではないでしょうか。
最近、蔵元を応援する新事業を考えています。海外でのプロモーションや販売支援、多言語の商談など、多方面からサポートするもの。特に小さな蔵元の場合、海外に行くリソースは限りがある。そこを支え合って、WinWinの持続可能な関係を構築していきたいと考えています。
ーー今年、とくに印象的だった出張はありますか?
中山 3月のアメリカ出張は鹿児島県の濵田酒造さんと一緒でした。アメリカの方の、〈DAIYAME〉の香りへのリアクションがとっても前向きで、蒸留酒は香りから楽しむお酒なんだなあと再認識する機会になりました。焼酎は世界で通用する、喜んでいただけるという実感を得られて、焼酎全体にとって希望の光になるだろうと感じましたね。
それから全体的に言えるのが、各国の酒類関係者の方々がすでに焼酎については知っているということ。焼酎を試したいと、私たちのブースを目がけて来てくださる方が少なくなかったんです! 2018年~19年辺りは、まだまだ韓国のソジュとの違いを説明し続けていましたから、それに比べると焼酎の認知度はじわっと上がったんだなという感触がありました。
ーー東京ビッグサイトで6月に開かれた「日本の食品輸出EXPO」には編集部も伺いました。長く滞在するバイヤーが多いなという印象でしたが、商談はうまくいきましたか?
中山 2019年の参加がコロナ前の最後で、今年は4年ぶりの参加。2019年と比較すると、正直言って商談数は減りました。おそらく、来場者数自体もまだ以前の水準まで回復していないと思います。しかし、中国やベトナムなどアジア圏のバイヤーとはとてもいい商談ができましたね。新たにいいインポーターとの出会いもあった。すでに取引のあるインポーターと旧交を温めることもとても大事で、そういう意味では韓国、台湾、米国、カナダやシンガポールなどからも旧知のお客さまが来られ、再会できたのは嬉しかったです。夜には弊社主催で懇親会を行って蔵元とより深い話をしてもらったり。お酒の仕事ですから、お会いするという接点を増やしていくことはやはり大切ですね。
ーー業界に目をやると、酒造組合やJETROなどを中心にした輸出促進イベントも増えてきていますよね。
中山 確かに。コロナ禍の中で苦肉の策としてはじまったオンラインの海外商談会も、今はずっと慣れてスムーズになってきていますし。
ただし、現地のバイヤーや消費者に振り向いてもらうための施策かというと、まだまだ遠い道のりだと感じています。買う側の動機を作ることが大切で、そこをどうするかは自分も含めての課題ですね。
やはり焼酎は、まだまだ世界でのマーケットが小さいんですよね。日本酒程度の市場規模があれば、現地の飲食店でもいろいろな銘柄を置かないわけにはいかなくなるのですが、焼酎はまだまだ、有名どころをひとつ置いとけばいいという程度で……。
政府が掲げた食品などの輸出政策で、焼酎が重点項目の一つに選ばれたことは追い風ですが、現状は輸出額は15〜20億円ほど。政府目標と推定される50億(2025年)、100億(2030年)まではまだずいぶんと距離を感じます。僕たち南山物産はまだまだ小さな会社ですが、それでも本格焼酎の輸出総額の5%強のシェアがあるくらいですから。
ーーここ数年の和酒の輸出額増を牽引してきたのは、ウイスキーと日本酒でしたが、2023年は全体的に鈍いようですね。
中山 実は南山物産でも、今年は輸出がなかなか厳しい。どうやら要因の一つは、インバウンドで日本に来る観光客が増えたことのようです。特にアジア圏が顕著で、彼らにとって日本に来ることはバーゲン状態。為替感覚でいうと3割くらい安く感じるようですね。だから自分の国で日本のものを購入するより、実際日本に行った方がお得という感覚みたいですね。これは酒類だけでなく、ほかのジャンルでも同じ。でも、食品は税率がせいぜい2倍程度ですが、お酒の場合は日本国内と現地では軽く3倍、4倍になってしまう。内外格差の大きい商品なんです。だから日本へ行って実際に飲んだり、買ったりした方がいいと。これはジレンマですよ。
ただし、アメリカ向けの輸出額の落ち方などをみていると、それだけではなく、根本的な経済事情も大きいのだろうと思います。
ーーそんな状況も手伝って、中山さんは、これまでに築いてきた海外のネットワークに、価格的にも魅力なオリジナル焼酎を届けていくためのプロジェクトを進めていますね。そのプロジェクトについてもお話しください。
中山 詳細についてはもう少ししたら発表しますが、南山物産オリジナルというよりは、どちらかというと、各蔵元の海外専用ブランドというイメージの銘柄ですね。4蔵元4銘柄の焼酎・リキュールを2024年の春頃に輸出をメインとして、一斉リリースする予定です。共通のブランド名はもう決まっていて、<SHOCHU REPUBLIC>といいます。焼酎の多様性と楽しさを伝えられたらなと。自由な発想でやってみます。
以前に、豊永酒造さんの<麦汁>を韓国向けにリブランディングして販売したことがあるんです。韓国のバイヤーの協力を仰ぎ、マーケットインした商品になって、海外の売り上げがすごく伸びたんですよ。さらにその銘柄は、韓国用だけではなく、グローバル版の<麦汁>になって。蔵元にも私たちとしても、とても満足のいく結果になりました。
今回もそういう意味合いが強いですね。僕らが勝手につくる、のではなく、“みんなで一緒につくる”。蔵元からすれば、海外輸出専用ブランド共同開発プロジェクトかもしれません。それを南山物産に預けてみるという感じでしょうか。製造側はやはりプロダクトアウトから抜け出せない部分が強いですから。今回のプロジェクトは、マーケットへの橋渡し役になっている私たちの役割を、より強く押し出す感じです。
海外向けのPB銘柄はいくつかありますよね。その多くがハイエンド向け、高価格帯で出していますが、僕らはそこには今回は行きません。高級路線を否定するわけではありませんし、業界としての価格の底上げは将来的には必ず必要だと思っています。ただ先ほど話したように、税率もあって、国内で2,000円の銘柄が海外で1万円を超えてしまうなんてことはざらですから。そういった方向性は<SHOCHU REPUBLIC>として、現段階では採用しないと議論の末に決めました。やはり僕らは「手頃な価格でおいしい」というのが焼酎の大きな魅力でもあると思います。多様性については、本格焼酎ベースのリキュールも含めての魅力を伝えていき、“焼酎のゲートウェイ”として、とにかく“ひと口目”を海外に届けたいと考えています。
ーー 中山さんは、本当に海外に焼酎を届けることが好きなんですね。
中山 ははは、そうですねえ(笑)! コロナが明けてシンガポールに行った時に、それを実感しました。昔から繋がりのある現地バーの常連さんたちと久しぶりに再会を果たしました。彼らは六調子酒造さんの焼酎が大好きなので、お土産に持っていたんです。「やっぱりこのお酒はおいしいねえ!」と、それを本当に喜んでくれている顔を見ているのがうれしくて。結局、こういう一人ひとりのファンづくりが大切なんだよなと改めて思いましたね。森を描くのもいいけれど、木を植える作業を怠ったらいけない。各国に焼酎の伝道師を増やしていくには、相当な情熱を持った現地インポーター・ディストリビューターはもちろん輸出商社含めたサプライヤーや蔵元自身が、現地の人々に伝えていく作業が必須なんですよね。
反対に、もしも自分が輸出商社ではなく海外で輸入・販売する立場だったら、そういう一人になるんだろうな、いつかやってみたいなという思いも芽生えました。自分の信じた商品を一体どれくらい地元に根づかせることができるのか、やってみたい気がする。とはいえ今はまだまだ、輸出商社として、現地にそういう人々を増やしていかないといけない。各国にいいパートナーを持てたらと思っています。