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焼酎の色には決まりがあるって知ってます? 小正醸造で「色規制」と色の秘密を聞いてきた!

コラム

焼酎の色には決まりがあるって知ってます? 小正醸造で「色規制」と色の秘密を聞いてきた!

Text & Photo : SHOCHU NEXT

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樽で寝かせた熟成焼酎を語るときに欠かせないひとつの要素が焼酎の「色」のこと。ほんのり薄い琥珀色をした焼酎の銘柄、皆さんもいくつか思い出せるのではないでしょうか? あの色合い、実は法律で濃さが決まっていることを知っていますか? 何年もの間木の樽で寝かされた液体は、木から染み出した色が移って、かなり濃い茶色になっています。これを決められた濃さの範囲内に調整しているというわけです。

焼酎の色の濃さって、どうやって調整するんだろう? そして一般的に焼酎の色規制”ともいわれるこの酒税法の決まりはなぜあるんだろう? 直接蔵元を訪ねて、焼酎の色の決まりや、色の調整方法などを聞いてみようと思います!

樽熟成のパイオニア、鹿児島県の小正醸造で聞いてみる!

樽熟成焼酎の色の秘密を教えていただくために訪れたのは鹿児島県の小正醸造。レギュラー銘柄〈小鶴〉や、手仕込みの〈蔵の師魂〉などの本格焼酎が知られ、最近では米焼酎をベースにしたクラフトジン〈KOMASA GIN〉や、新たに設立した「嘉之助蒸溜所」でのウイスキーの製造・販売に乗り出したことも話題の小正醸造は、実は本格焼酎の木樽熟成を初めて手がけた蔵元でもあるんです!

その銘柄とは、米焼酎を樽熟成して1957年に発売した〈メローコヅル〉。なんともう60年以上にわたって樽熟成を行っている蔵なのです。

現在も、〈メローコヅル〉から進化した〈メローコヅル エクセレンス〉や〈メローコヅル 磨〉のほか、麦焼酎を樽熟成した〈樽の呼吸〉など、小正醸造は樽熟成の銘柄が豊富。焼酎部門の酒質管理の責任者である同社生産本部次長の枇榔誠(びろうまこと)さんにお話をお聞きしました。実際に色を測定するところや色調整の工程も見せていただきましたよ!

小正醸造 生産本部次長の枇榔誠(びろう・まこと)さん。小正の味の番人です!

編集部 たとえば〈メローコヅル エクセレンス〉のように、樽熟成の焼酎は大抵、うすーい琥珀色をしています。同じ年数のウイスキーやラムなどと比べると格段に色が薄いのですが、本来は焼酎も、樽から出たときにはもっと濃い色をしているんですよね? 考えてみれば当然のことなのですが、ただ好きで飲んでいる間は、そんなこと思いもしませんでした(笑)!

小正醸造 枇榔誠(以下枇榔) そうですね、木樽で熟成すると、木の香りや風味と一緒に木の色素も溶け出して、液体はどんどん飴色になっていきます。色や香りのつき方は、寝かせる年数はもちろんのこと、周囲の気温や、個々の木自体の性質などでも違います。度数を調整するために水を加える過程でも、ある程度色は薄くなりますが、焼酎の場合はさらに、酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達で琥珀色の限度が決められているので、その色の範囲内に収めるために色調整を行うことがほとんどだと思います。

編集部 酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達の、樽熟成焼酎は「吸光光度分析通則に従い、430ナノメートル及び480ナノメートルの吸光度をそれぞれ測定し、その着色度がいずれも0.080以下となるもの」という文言のことですね。

枇榔 そうです! “吸光度”とはつまり、液体がどれだけ光を通すか、を指します。無色透明の液体ならば光を遮ることなくほぼそのまま通しますし、真っ黒の墨のような液体だったらほとんどの光を遮るのが想像できますよね? つまりこの通達は、ある決められた波長の光が透過する色の液体にしてください、というもので、焼酎の場合は0.080以下が指標なんです。業界ではこの決まりのことを一般的に、“着色度規制(色規制)”あるいは“光量規制”と呼びますね。

吸光度とは = 液体などがどれだけ光を通すかの指数。焼酎の場合、430nmと480nmの光を通して0.080以下と決められている。ちなみにスピリッツ類は0.190以下。

編集部 なるほど! 吸光度とは光の遮り方を現す指数なんですね。ではなぜ、焼酎の色は、濃さの限度が決められているのですか? 

枇榔 この色規制について記述され、施行されたのは1962(昭和37)年頃のようです。私たちの初めての樽熟成銘柄である〈メローコヅル〉の発売が1957年ですので、その5年後ということになります。当時は焼酎とウイスキーを比べると税率にかなりの差があり、焼酎にかかる税率が低かった。おそらくウイスキーの側にしてみれば、税金の安い焼酎で、樽熟成した色の濃い銘柄がどんどん出てくるのは困るといった背景があったのではないでしょうか。焼酎をウイスキーなどと区別するために、色の濃さに限度を設けたと聞いています。

左が、3年以上の長期熟成の米焼酎と麦焼酎をブレンドした〈メローコヅル 磨〉。右はテスト用のサンプルで、色の濃さは「0.080」以上。色が濃すぎるため、焼酎としての出荷はできない。

編集部 えっ、色規制が決まった背景には〈メローコヅル〉の存在があるかもしれないということですか⁉ 

枇榔 いえいえ、あくまで「かもしれない」のレベルですよ(笑)。単純に時系列に並べると発売の数年後に基準が創設されている、というだけです。

編集部 なるほど(笑)。では「430ナノメートル及び480ナノメートルの吸光度をそれぞれ測定し、その着色度がいずれも0.080以下となる」という文言ですが、これは具体的にはどういうことを指すんですか? 

枇榔 分光光度計という機械で、液体に430ナノメートル(nm)と480ナノメートル(nm)の波長の光を当てて、その数値を測定するんです。数値はそれぞれの蔵元で測定し、出荷時点で吸光度0.080以下を厳守しなくてはいけません。その測定のために欠かせないのが「分光光度計」という機械。弊社ではこの機械を自社に持っていて、瓶詰め時から出荷時まで、液体の色を日々測定しています。

編集部 0.080以下に色を調整した液体を瓶詰めしているのに、さらに出荷時点まで何度も測定するんですか?

枇榔 実は、瓶詰めしてからも少しずつ色が濃くなることもあるんですよ。0.080を超えて濃くなってしまうと出荷ができなくなるので、瓶詰め後のチェックは特に厳しく行っています。弊社では、瓶詰めの時点では0.080よりぐっと低く抑え、日々、色の変化をモニタリングしています。度数が高めのものは瓶詰め後の変化が少ない傾向が見られますね。逆に暖かい時期は変化が大きいですし、瓶が小さくて空気に触れる面が大きい場合は、色の変化が大きい傾向にある。変化の要素はいろいろあるように思いますね。

分光光度計で〈メローコヅル 磨〉の吸光度を測定中。

編集部 何年間もの樽熟成を経た焼酎の原酒は、実際には、私たちが目にする製品よりずっと濃い飴色をしているということでした。これを吸光度0.080以下という色規制の範囲内に収めるには、どうやって調整するのですか? 

枇榔 度数を調整するための加水や、樽熟成をしていない透明な原酒、いわゆる“白モノ”をブレンドすることでも色は薄くなりますが、多くの場合、色を調整するための工程が必要ですね。
多くの蔵元さんで、濾過して色を抜く作業を行っているのではないでしょうか。弊社でも、主に濾紙を通すことで濾過を行っています。ちょうどコーヒーフィルターのようなものと考えていただければいいでしょうか。といっても、何千、何万リッターの規模での濾過作業ですので、あれよりずっと大きな濾過器ですけど(笑)

色の調整 = 色の規制の範囲内にするために、各蔵が工夫していろんな工程を行っている。一般的なのが濾過して液体の色を抜くこと。無色透明な白モノとのブレンドで色を薄めることもある。

こちらが濾過器。紙の厚さや性質の違う濾紙をセットして液体を通す。濾紙の番手によって、焼酎の澱(おり)を取り除いたり、色を抜いたりといった作業ができる。

編集部 焼酎の色の決まりを守るために、それぞれの蔵によって、さまざまなプロセスや品質管理を行っていることが分かりました。では、ちょっと意地悪な質問ですが、「色規制がなかったらもっとおいしい焼酎がつくれるのになあ」と思ったりしますか?

枇榔 確かに日々、吸光度をチェックする作業はけっこう大変なので、この作業がなくなったら楽だよなあとは思います(笑)。でもだからといって、焼酎を樽熟成すればなんでもおいしくなるとは限らないとは思いますね。色が濃ければおいしい、なんてことはないです。
そもそも樽熟成を前提とした原酒じゃないと、それこそウイスキーなどと対等に戦える樽熟成銘柄にはならないと思うんです。

逆に、色の規制があったからこそ生まれた味わいもある。たとえば私たちの〈樽の呼吸〉は、樽熟成ものと透明な“白もの”2種類という、3種類の原酒をブレンドしてつくっています。色はもちろん、香りや味わいも違う原酒のブレンドによって、とても満足のいく銘柄になりました。ああいうブレンドは色の規制があったからこそ思いつけた側面もあると思うんです。どういう味のお酒をつくりたいか。そのためにはどういう原酒が必要か。大切なのはそのコンセプトだと思っています。

焼酎の“吸光度”を測定する“分光光度計”はこちらです!

さて、ここまで知ると分光光度計ってどんな機械だろう? 吸光度ってどうやって測定するの? って気になってきませんか? というわけで枇榔さんにお願いして、分光光度計と、実際の測定の様子を見せていただきました! 研究室に置かれた分光光度計は、家庭用のプリンターより少し大きめかな? といったサイズ感。セルに液体を入れてセットすると、設定した波長の光が出て液体を照らし、“吸光度”を測定してくれます。まず最初のテストサンプルは、瓶詰めされた〈メローコヅル 磨〉。「いざ測定するとなると緊張しますね(笑)」と枇榔さん。

分光光度計に液体をセットして、ここに決められた波長(焼酎の色規制の場合、430nmと480nm)の光を通して数値を測定する。これが0.080以下であることが焼酎の色の決まり! オフィスなどでも見慣れたコピー機やスキャナーみたいな感じですね。小正醸造では、瓶詰めから出荷時まで自社で細かく色を測定し、品質管理を行っているそう。

①こちらが分光光度計! 右側上部が開いてセルをセットできる。

②〈メローコヅル 磨〉を使って試しに測定!  液体を測定用のセルに入れているところ。

③セルに入った液体。ここに光を通す。

④セルを分光光度計にセット。ここに430nmと480nmの光を通して吸光度を測定する。

⑤430nmと、480nmの波長を通した吸光度の数値がこちら! こちらの分光光度計のセルは長さ5cm。1cmあたりの数値を見るので、この数値を5で割った値がそれぞれ0.080以下にならないといけない。0.385÷5=0.077、0.157÷5=0.0314。色規制の範囲内の色であることが分かる。

というわけで、〈メローコヅル 磨〉の測定結果は0.080の規制以内に収まっていました! 「大丈夫なのは分かっていましたが、ほっとしました(笑)!」と枇榔さん。ではもうひとつ、目測でも明らかに色の濃いサンプルを使ったらどんな数値が出るか試していただきましょう。

⑥ふたつめのテストサンプルはこちら! 「明らかに色規制の基準値を超えてますね」と枇榔さん。

⑦結果がこちら! 1.195÷5=0.239、0.809÷5=0.1618。枇榔さんの言葉の通り、430nm、480nmいずれの波長でも0.080を大きく超えているため、この色のままでは焼酎としては出荷ができない。これを出荷するには、濾過をかけるなどして色を抜く必要がある。

枇榔さんに見せていただいた、瓶詰めした銘柄の吸光度の推移表。樽熟成の原酒を使ったすべての銘柄について、こうやって瓶詰め以降も吸光度の推移を測定している。0.080以下で出荷する必要があるので、色の変化には気を使うそう。数値が0.080に近づいた場合は、特に細かくチェックする。

まだまだ聞きます! 色を抜く濾過器ってどんなもの?

さてさて、では“色を抜く”ってどういう作業なんでしょう? まだまだ粘って、そのひとつの方法である“濾過”の作業も見せていただきます! 枇榔さんの案内で向かったのはつくりの蔵の中。「こちらです!」と出てきたのは何やら大きな機械?! 分厚いステンレスが何層にも重なった、極太のホースのような形といえばいいのでしょうか……。

「これが濾過器。ステンレスの板の間に濾紙を挟み込んで、ここに液体を通すんです。濾紙にはいろいろな番手があって、それぞれ厚みや性能が違います。この濾紙を変えてることでいろんな作業ができるんですよ! 液体の色を抜く作業にも使うのですが、液体の澱(おり)や微細なゴミ、焼酎をつくったときに出る油分などを取り除くことにも使う。樽熟成の焼酎以外にも使う品質管理のために欠かせない機械です」

①こちらが濾過の機械。金属板の間にさまざまな濾紙を入れ、澱を取り除いたり、脱色したりといった濾過作業を行う。小正醸造にはこの濾過器が何台もあるのだそう。

②大きなドーナツみたいな形のこちらが濾紙! 濾過の目的によっていろんな番手のものを使い分ける。色を抜くための濾紙もさまざまで、型番によって色を落としやすい濾紙がある。「たとえば特に色が濃くて色落ちが不十分な場合は、原酒を冷却して、液体に粘性をつけるとさらによく色を落とせます。濾過を行っても落ちないような濃い色の場合、液体の色だけを落とす助剤を使う例もあります。さらに脱色力が強いのは炭による濾過ですね。色はただ落とせばいいのではない。色と一緒に樽熟成ならではの味わいが抜けすぎてしまわないようにも気を使います」と枇榔さん。

③板と板の間に濾紙を機械に挟み込んでセットする。濾紙には裏表があり、正しくセットしなければきちんと濾過できないので注意が必要!

④タンクから出たお酒が濾過器の端部から入り、中央のパイプを通りながら染み出して濾紙を通る。こうして濾過された液体が上のパイプから吸い出されていく仕組み。

⑤濾紙を正しくセットしたらきちんと締めておかないと大切な焼酎が漏れ出してしまうのだとか……。 余計な油分や色をとるための「濾過」のプロセスがこんなにも大変だとは知りませんでした!

すべてのプロセスに、蔵人のクラフトマンシップあり!

樽熟成銘柄を手がける蔵元が焼酎の色規制を遵守するために行っている作業は、予想以上に大変! その一方で、「樽熟成すればなんでもおいしくなるというものでもない」という枇榔さんの言葉はとても印象的でした。色規制があったからこその銘柄も生まれているという点も新たな発見です。魅力的な銘柄の背後にはそれぞれの蔵元の工夫とクラフトマンシップがあることを改めて知る経験ができました!

小正醸造の樽熟成銘柄はこちら!

60年以上の樽熟成の経験を持つ小正醸造。今も魅力的な銘柄がいくつも見つかります。薄い琥珀色のむこうに込められたつくり手の努力と工夫が、一層焼酎をおいしくしてくれそうです。

メローコヅル 磨
【麦・米焼酎】
貯蔵 3年以上
度数 25度
原材料 麦・麦麹・米・米麹
蒸留 減圧と常圧のブレンド

蔵元 小正醸造  ストアサイト →
所在地 鹿児島県日置市

樽の呼吸
【麦焼酎】
貯蔵 3年樽貯蔵と、半年〜1年のステンレスタンク貯蔵のブレンド
度数 25度
原材料 麦・麦麹
蒸留 減圧と常圧のブレンド

蔵元 小正醸造  ストアサイト →
所在地 鹿児島県日置市

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