5年で輸出金額約100倍! 国産クラフトジンが、世界から熱い視線を受けています
世界的にクラフトジンが大ブーム……なのは、日本にもクラフトジン専門のバーができたりしているから、愛飲家ならとっくに知っているはず。じゃあ、国産ジンの輸出の伸び率は知ってますか?
世界的なブームに後押しされて、なんとこの5年で輸出金額は100倍以上、輸出量は約470倍の伸び!! 蒸留酒としては焼酎を追い抜き、ウイスキーに次ぐ輸出の稼ぎ頭になっているんです。「えっ、焼酎抜かされちゃったの……」と悲しまなくても大丈夫。
焼酎でクラフトジンができるんです!
日本のクラフトジンの特徴のひとつが、原料のお酒に焼酎や泡盛を使っている銘柄が多いこと。そう、焼酎蔵が手がけるジンは日本のクラフトジンの主力のひとつなんです。SHOCHU NEXTで取材してきた、工夫やこだわりを持ってお酒をつくる蔵元も、クラフトジンに挑んでいます。
そんなわけで、熟成焼酎を手がける蔵元によるクラフトジンのお薦めを6銘柄+1つ選んでみました。どれも焼酎はもちろん、国産蒸留酒のグローバルマーケットへの挑戦を牽引する可能性を秘めた銘柄。見かけたらぜひ飲んでみてください!
まずはじめにジンの定義をおさらい!
ジン・トニックやジン・フィズなど、なじみ深いカクテルも多い「ジン」。まずは一体どういうお酒か整理しましょう。
もっとも簡単に言うと、ジンとは、穀物などを原料にした蒸留酒をジュニパーベリーで香りづけしたお酒のこと。
日本の酒税法上では「スピリッツ」に分類されますが、たとえばEUでは、一般的なジンは“蒸留ジン(Distilled Gin)”のカテゴリーに入るもの。こんな具合に定義されています。(2019年4月発行のEUにおけるアルコール飲料の分類→)
・農作物を原料としたアルコールを、ジュニパーベリーやその他の天然原料と一緒に再蒸留して、ジュニパーの味や香りをつけたもの。
・再蒸留後にさらに香りづけや着色をするのも可。
・アルコール度数は37.5度以上。
これを大枠として、ロンドン・ジン(London Gin)、ドライジンと表記できる場合も細かく決まっています。
ジュニパーベリーを含む植物などの原料=“ボタニカル”や、原料となる蒸留酒などがジンの味を決めていて、クラフトジンの銘柄はどれも、それぞれに特徴的なボタニカルの組み合わせで、個性を出しているのが大きなポイント! これが国産クラフトジンを理解する手がかりにもなります。
ちなみにジンの起源は17世紀のオランダ。熱病の特効薬として、ジュニパーベリーをアルコールに漬け、これを蒸留してつくった薬酒がはじまりとされています。
ジャイアントが乗り出し、マイクロが続いた、国産クラフトジンの動向
国産クラフトジンが海外で陽の目を見る火付け役になったのはサントリースピリッツの〈ROKU GIN〉。墨字で「六」と書かれたボトルに見覚えがある方も多いのではないでしょうか。当初は〈ROKU〉が輸出の約9割を占めたといわれます。酒類業界のジャイアントが国産クラフトジンの飛躍の道筋を切り拓き、マイクロディスティラリー(小規模蒸留所)がこれに続いているというわけです。
さて前置きが長くなりました。というわけで、熟成焼酎を手がける蔵による国産クラフトジンのご紹介です!
おすすめ国産クラフトジン1|jin jin GIN (高田酒造場・熊本県)
【ボタニカル】
ジュニパーベリー、熊本産柑橘類(晩白柚、不知火柑、甘夏、晩柑、はるか、ゆず)の皮、天草産ローズゼラニウム
東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2021(TWSC)の「洋酒」部門で、世界の錚々たるウイスキーやブランデーと並んで最高金賞に輝いたことも話題のクラフトジン。
手がけるのは、樫樽熟成の米焼酎〈Oak Road〉がよく知られる球磨焼酎の蔵元・高田酒造場です。ベースのスピリッツに、野生の撫子からとれる花酵母を使った華やかな味わいの米焼酎〈あさぎりの花〉を使っているのも特徴。メインのボタニカルには県産の柑橘類の皮を使い、蒸留の最初と最後を切ることで、クリアで華やかな飲み心地の1本です。
「クラフトジンはとても地域性を出しやすい蒸留酒。だから自分でジンをつくるなら地元産の素材にこだわりたかった」と話すのは、高田酒造場の高田恭奈さん。学生時代からジントニックが大好きで、世界的なクラフトジンの大ブームを体感していたそう。蔵に戻り、念願かなって手がけたのがこの〈jin jin GIN〉だったとか。
「家でつくってもおいしいジントニックが仕上がるようなクラフトジンを目指しました」と高田さん。甘さをほんの少し加えたソニック(ソーダとトニックを同量)割もお薦めだとか。熊本県がぎっしり詰まった1本は、県の郷土料理、辛子蓮根のピリッとした辛み、とろりとしたお醤油の甘さも引き立ててくれそうです。
jin jin GIN |
---|
度数 47度 蔵元 高田酒造場 オンラインショップ → 所在地 熊本県球磨郡 |
おすすめ国産クラフトジン2|HINATA(京屋酒造・宮崎県)
【ボタニカル】
ジュニパーベリー、日向夏(宮崎産)、ヘベス(宮崎産)、キンカン(宮崎産)、シナモン、カルダモン、コリアンダーシード、カモミール、レモンバーム、クローブ、スペアミント、山椒、ピーマン(宮崎産)、八角、ローズマリー、フェンネルシード、ショウガ(宮崎産)、黒ごま
宮崎県初のクラフトジン〈油津吟 YUZUGIN〉もよく知られる京屋酒造によるクラフトジン第2弾。総合監修を務めた蛯原三奈さんは、ザ・ボタニストカクテルコンペ2016最優秀賞、World Class 2017 ジャパンファイナリストなど、今もっとも注目を集めるバーテンダーの一人。ボトルデザインを手がけた画家の入江万理子さんと共に宮崎在住の女性二人の感性が生きたジンは、とにかく完成度高し!
キーボタニカルである柑橘類の甘みや苦味を、奥に潜むカルダモンやカモミール、クローブといったスパイスが包み込むのか、柑橘の香味はしっかり感じられるけれどするすると柔らかい! アルコール度数47%ながら、度数を感じさせないので、ロックでもするすると飲めてしまいます。
ボタニカルのスパイスが橋渡しをするので、ソーダやトニックで割ってスパイス料理とも合わせても楽しめそうです。
フレーバーとして感じることはできなかったのですが、気になったボタニカルが宮崎産ピーマン! “日向”の国宮崎の、太陽の降り注ぐ“ひなた”を感じる1本です。
HINATA |
---|
度数 47度 蔵元 京屋酒造 オンラインショップ → 所在地 宮崎県日南市 |
おすすめ国産クラフトジン3|OSUZU GIN(尾鈴山蒸留所・宮崎県)
【ボタニカル】
ジュニパーベリー、山椒、金柑、日向夏、ゆず、生姜、榊、椎茸
プレミアム熟成焼酎としてトップを走り続ける麦の樽熟成焼酎〈百年の孤独〉、芋焼酎〈㐂六〉、麦焼酎〈中々〉などをつくる宮崎県の黒木本店が、1998年に開いた別蔵「尾鈴山蒸留所」によるクラフトジン。
ベースは、同蒸留所でつくられる芋焼酎〈山ねこ〉と同じ原酒。ここに、地元・宮崎の柑橘類である金柑、日向夏、ゆずなどの素材をかけ合わせてつくられています。
“大地の香水”を目指したとの蔵のコメントの通り、香りの高さは出色。一口飲むと訪れるのは、柑橘類の華やかな香りと少しの苦み。口の中で味わい続けると、その奥に芋焼酎らしいとろみと甘みが見つかるのがすごい!
味わいが変化していくこの感覚は、いくつもの名焼酎を手がける蔵元によるクラフトジンならでは。
キャップまで透き通った洗練されたボトルでデザイン度も高し! 国内屈指の人気焼酎蔵によるクラフトジン、ギフトにもよさそうです。
OSUZU GIN |
---|
度数 45度 蔵元 尾鈴山蒸留所 オンラインショップ → 所在地 宮崎県児湯郡 |
おすすめ国産クラフトジン4|KOMASA GIN(小正醸造・鹿児島県)
日本で初めて焼酎の樽熟成を商品化した小正醸造。2017年には「嘉之助蒸溜所」を立ち上げ、国産蒸留酒の次なる挑戦ともいえるジャパニーズウイスキーの製造にも乗り出した彼らによるクラフトジンは、これまた個性的。
ボタニカルの複雑な組み合わせで個性を競うクラフトジンが多いなか、ジュニパーベリー以外のボタニカルの数を絞ってキーボタニカルの味をドンと前に押し出したジンが、存在感を放っています。ベースが米の本格焼酎なのも、ボタニカルの風味が生きる秘訣なのかな? と思います。
発売順に「桜島小みかん」「ほうじ茶」「いちご」と、地元・鹿児島の特産品をキーボタニカルにしていますが、今回お薦めするのは「桜島小みかん」「ほうじ茶」の2種類!
〈KOMASA GIN SAKURAJIMA KOMIKAN〉
【ボタニカル】
ジュニパーベリー、桜島小みかん、コリアンダー
“桜島小みかん”はその名の通りに、鹿児島のシンボルともいえる火山・桜島で栽培される直径4~5cmの小さな小さなみかん。地元でも収穫期の12月にしか出回らないみかんですが、小さい分甘みが濃縮されていて本当に美味。
さてジンは、ボトルを開けた瞬間、甘~いみかんが溢れてくるようなインパクトある香り。蒸留しているのでもちろん味自体はドライですが、この香りの印象が最後まで続きます。ほかの柑橘類にありがちな苦みがほとんどなく、甘い香りがフワッと口の中に広がる。コリアンダーのかすかな風味は最後にやってきて、トトンと舌の上に甘さを定着させる感じ。オレンジジュースで割って大人の夏のドリンクにもよさそうです。
〈KOMASA GIN HOUJICHA〉
【ボタニカル】
ジュニパーベリー、ほうじ茶、ヒノキ
鹿児島県は、生産額で全国トップに躍り出た茶葉の生産地。世界的なクラフトジンブームのなかでも、茶葉、それもほうじ茶をジンのボタニカルに使うのは、お茶文化の浸透した日本ならではのアイデア! 日常的に飲むほうじ茶がオシャレなクラフトジンに潜んでいるのは、ちょっと不思議な感じがしますが……。
こちらも香りがすごくいい! ほうじ茶の香ばしさと、隠し味に使われたヒノキのウッディな香りがよくマッチしています。
海外では蒸留酒を温めて飲むことはほとんどありませんが、ほうじ茶ラテに垂らして飲んでもおいしそう。
抹茶や緑茶とは違う、ほうじ茶ならではの香味とジンの出会いを楽しんでください。
KOMASA GIN |
---|
度数 45度 蔵元 小正醸造 オンラインショップ→ 所在地 鹿児島県日置市 |
おすすめ国産クラフトジン5|JIN7(大山甚七商店・鹿児島県)
続いても鹿児島から。鹿児島県の薩摩半島の最南端、指宿市宮ヶ浜で和甕仕込みの芋焼酎を手がける〈大山甚七商店〉による、その名も〈JIN7(じんしち)〉です。服についている製品タグのようなものにボタニカルが表示されるデザインが楽しい! 飲む前からなんだかワクワクさせてくれますよね。
こちらも2種類、「series 00」「series 01」をご紹介します。
〈JIN7 series00〉
【ボタニカル】
ジュニパーベリー、芳樟(指宿産)、木頭柚子(指宿産)
白麹仕込みの芋焼酎をベースにした〈JIN7 Series00〉のボタニカルで目立って特徴的なのが、クスノキの一種の芳樟(ほうしょう)。蔵元と同じ指宿にある、1941年開園と日本最古のハーブ園「開門山麓香料園」がつくるオーガニックハーブの中でも、国内ではここでしか栽培されていない希少なハーブです。ここに合わせるのがやはり指宿産の木頭(きとう)ゆず。ゆずの中でも特に香りが高い品種だそう。
香りから飲みごたえ、後味まで一貫してインパクトがある1本。芳樟に含まれるリナロールの鎮静効果でゆっくり眠れそうです。
〈JIN7 series01〉
【ボタニカル】
ジュニパーベリー、辺塚だいだい
〈JIN7 Series01〉のキーボタニカルは辺塚(へづか)だいだい。辺塚だいだいは、地理的保護制度(GI)にも登録された品種。名前の由来である辺塚集落は山と海に囲まれた、かつては周囲から隔絶したエリアで、古くから自生するだいだいを、今も守り育てているというわけ。通常のだいだいよりも小ぶりで、ライムにも似た独特の香りがあります。
希少な果実を使った、柑橘系の甘みとキレのある爽快感が特徴の一本です。
度数 47度 蔵元 大山甚七商店 オンラインショップ → 所在地 鹿児島県指宿市 |
おすすめ国産クラフトジン6|ORI-GiN 1848(瑞穂酒造・沖縄県)
【ボタニカル】
ジュニパーベリー、ピーチパイン、レモングラス、コリアンダーシード、シークヮーサーリーフ、ヒハツモドキ、ショウガ、ゲットウの葉、紅茶、ミント(イエルバブエナ)
焼酎ベースのジンがあるのだから、泡盛ベースだってあるんです! 琉球泡盛をつくる沖縄にも、クラフトジンがいくつも見つかります。
こちらの〈ORI-GiN 1848〉を手がけるのは、1848年創業と首里最古の蔵元と言われる瑞穂酒造。べースは日本一早い桜祭りで有名な沖縄県本部町の桜から分離したさくら酵母仕込みの泡盛です。
ボタニカルで特徴的なのは、高級パイナップルとして知られる、西表島「アララガマ農園」の“ピーチパイン”! ほかにもシークワーサーリーフやイエルバブエナなど、沖縄らしいボタニカル9種類を使っています。
さらにつくりもとても特徴的。
通常のジンはボタニカルを一度に蒸留したり、ジュニパーベリーを入れて再蒸留したお酒にボタニカルを浸漬したりするケースが多いのですが、〈ORI-GiN 1848〉は、ボタニカルごとに抽出・蒸留したうえで、これをブレンド。ひと手間もふた手間も多い複雑なつくりで、こだわりの強さを感じます。
ジンに甘い香味をもたらす香味は柑橘系が多いなか、〈ORI-GiN 1848〉の場合、パイナップルがその役割を担っているのが個性的。苦味が少なく甘さが際立っていて、これがトロピカルの芳醇さだなあと感じます。
ちなみに、上で紹介した高田酒造場の高田恭奈さんと、瑞穂酒造の仲里彬さんは大学の同級生(で飲み仲間)なのだとか。競い合っておいしいジンをつくっているのは、なんだか素敵ですよね。
ORI-GiN1848 |
---|
度数 48度 蔵元 瑞穂酒造 オンラインショップ → 所在地 沖縄県那覇市 |
番外編:おすすめ国産クラフトジン7|COMMON GIN(虎ノ門蒸留所・東京都)
最後にご紹介するのは東京のクラフトジン! これまでの蔵元と違い、焼酎ではなくクラフトジンに特化した蒸留所ですが、焼酎ベースということで番外編でご紹介。
ベーススピリッツに地元のお酒、ボタニカルに地元の素材を使うことで個性を発揮した地方色の強いクラフトジンがとても多いなか、こちらの〈COMMON GIN〉は東京産。シティ&ローカルを体現するジンに仕上がっています。
手がけるのは都心も都心・虎ノ門ヒルズ内にある「虎ノ門蒸留所」。
東京都の島酒である〈情け嶋〉(八丈興発)や〈嶋自慢 羽状浦〉(新島蒸留所)といった麦焼酎をベースに、奥多摩沢井の湧き水で仕込んでいるそう。
虎のラベルが目印の〈COMMON GIN〉は、地名の虎と門(こもん)にかけた「Common(ベーシックな、普通の)」の名前通り、かなりスッキリとシンプルな味わい。いろんな人にとっての飲みやすさがあって、だからこそ都会的です。
この〈COMMON GIN〉を基本に、季節ごとの国産ボタニカルを使って蒸留するほか、東京の名店とのコラボレーションを行うといった展開もとても東京っぽい。“東京のキンモクセイ”や人気店“ダンデライオンチョコレートのカカオ”など、洗練されたボタニカルを採用したバージョンもあって、目の離せない銘柄です。
COMMON GIN |
---|
度数 45度 蔵元 虎ノ門蒸留所 オンラインショップ → 所在地 東京都港区 |
というわけで7種9本を飲み比べてみました! それぞれの蔵がつくる焼酎・泡盛と同じくらいに、蔵の個性と職人魂が詰まっていますよね。奥の深いクラフトジン、次回は飲み方をいろいろに試してみたいと思います。どうぞ皆さんも楽しんでください!