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ウイスキーみたいに、熟成するほどおいしくなるの? 焼酎の熟成のメカニズム

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ウイスキーみたいに、熟成するほどおいしくなるの? 焼酎の熟成のメカニズム

Text & Illustration : SHOCHU NEXT

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おいしい焼酎づくりにおいて「熟成」は重要な行程のひとつ。ふだん皆さんが飲んでいる本格焼酎は、だいたい熟成しているんです。ほとんどの焼酎はできたての状態で瓶詰めされることはなく、最低でも1~3ヶ月の熟成期間を経て出荷されています。

熟成することのメリットって? 熟成期間には、お酒の中でどんなことが起きているの? 

お酒の味を安定させるための1〜3ヶ月の「初期熟成」と、その期間を越えて熟成する中〜長期熟成に分けて、分かりやすく整理してみました。

熟成は、焼酎の味を決める最後のプロセス

ほとんどすべての焼酎が、蒸留の後に熟成期間を経ています。「熟成」は焼酎をつくる最後の大切な過程なのです。SHOCHU NEXTで「初期熟成」と呼んでいるのが、この、はじめの1〜3ヶ月の熟成期間。初期熟成の役割は、基本的には酒質を落ち着かせること。蒸留したての原酒の荒々しさがとれ、落ち着いた香りの、まろやかな口あたりになるのです。まずはこの初期熟成の役割を主な3つの要点にわけて整理しましょう。

初期熟成の役割 1|蒸留で発生した匂いのもととなる成分をとばす

蒸留したての焼酎は特有のガス臭がします。これはアルデヒドや硫黄化合物といったガス臭のもとになる揮発成分が含まれているから。これらの成分は1~3ヶ月の貯蔵期間を経ることで蒸散して、刺激の強い匂いはほとんどなくなります。

初期熟成の役割 2|蒸留後の焼酎に含まれる油分をとりのぞく

蒸留の過程でアルコール以外にもさまざまな成分が抽出されます。そのひとつが油分。フーゼル油と呼ばれるこの成分は過剰に含まれると、その強い油臭によって原材料の香りを損なううえ、焼酎の劣化の原因にもなります。蔵元で貯蔵・熟成の間、お酒の表面に浮かび上がってくる油分を、丹念に丹念にすくい取る作業をしています。

ただし、油分をとりすぎてしまうと焼酎からコクが失われてしまうのも事実。油とりの加減は焼酎の個性を左右する。職人の塩梅が必要なのです!

初期熟成の役割 3|アルコールと水の親和性を高める

お酒の主成分である「水」と「アルコール」。この2つの関係性の変化は熟成における大切な要素のひとつです。

できたてのお酒に含まれる水分子とアルコール分子はそれぞれのが独自の集団を形成しているため、アルコールの香りが強く、味もきつく感じます。これが、時間が経つにつれて2つの分子の集団が崩れ始め、アルコール分子を水が取り囲むような形になっていくのです。これによって、角がとれたまろやかな口あたりのお酒へと変化していきます。

蒸留したては水の分子とアルコールの分子がばらばらに存在している状態。熟成が進むとアルコール分子のまわりを水分子が取り囲むような状態へと安定していきます。だから口当たりがまるーくなるんですね!

さらに何年も熟成するのはなぜなの? 容器の種類をおさらい!

SHOCHU NEXTが特に注目している“熟成焼酎”は、上に書いてきた「初期熟成」の段階をさらに越えて貯蔵・熟成を行っている焼酎を指します。

法律的には貯蔵期間が3年を越えたお酒が半量以上含まれている場合にのみ、ラベルに「長期貯蔵」の焼酎をうたえますが、SHOCHU NEXTではこの「長期貯蔵焼酎」はもちろんのこと、3年以下の熟成の銘柄や、ブレンドに熟成した焼酎を使っている銘柄などを広く“熟成焼酎”と定義して扱っています。

ラベルに「長期貯蔵」と表示できるのは焼酎の場合、3年以上熟成したお酒を50%以上使用したものだけ。泡盛の「古酒」は全量が3年以上熟成の銘柄に限ります。SHOCHU NEXTではそれ以外も含め、さまざまに工夫した熟成銘柄すべてを「熟成焼酎」と読んでいます!

さてこの「熟成」。貯蔵・熟成する容器の違いで焼酎の味の変化が大きく違います。以前の記事でも紹介したように、焼酎の熟成を行う容器は、主に「タンク」「甕」「木樽」の3種類があります。

焼酎の熟成・貯蔵法 1|密閉性が高く、お酒をまろやかにしてくれるタンク貯蔵

ステンレスとホーロー(琺瑯)のタンクはほとんどの蔵元で採用されている貯蔵容器です。温度管理のしやすさや高い密閉性から、酒質自体に影響を与えることが少ないのが特徴。

一度に貯蔵できる量も多く、効率的な生産ができることも大きなメリットです。タンクの香りが移ることもないので、焼酎本来の香りを楽しむことができます。

容器からの影響は少なく、焼酎自体が時間をかけてゆっくりゆっくりとまろやかになっていく感じ。ただしその密閉性の高さから、熟成の進行速度はほかの容器に比べると早くはありません。

焼酎の熟成・貯蔵法 2|土の和甕の呼吸を生かした、伝統的な甕貯蔵

和甕(わがめ)による熟成は、昔から行われている伝統的な熟成・貯蔵方法です。和甕のサイズはさまざまで、蔵によっては1000リットル、人の背丈ほどある大きな甕(かめ)を使う蔵元も!

素焼の甕の表面には細かな気孔が無数に開いていて、ここから空気が入り、焼酎に含まれるガスは自然と抜けていきます。ちょうど呼吸をするようにして、熟成が進んでいくというわけです。さらに甕からは、原料の土に含まれるマグネシウムやカリウムといったミネラル成分が溶出します。

長期間、甕で熟成した銘柄の味わいは「ミネラル感」「土っぽさ」などがキーワードとして多いのはこのため。焼酎がまろやかで柔らかい味わいへと変化していくのです。

タンク・で熟成したおすすめの焼酎はこちら!

甕・タンク熟成のおすすめ20本|焼酎の味わい、熟成のうまみを知る! | 熟成を知る、焼酎を楽しむWEBマガジン 「SHOCHU NEXT」

雑誌『Dancyu』の焼酎特集をはじめ、書籍や雑誌などで焼酎・日本酒を中心とした記事を執筆するライター、金関亜紀さん。この数年は焼酎の世界にどっぷりとつかり、数々の蔵元を訪れて知識と人脈を深めてきたうえ、鹿児島酒造組合認定の「焼酎マイスター」も取得。のんべえライターなこの人に、熟成焼酎・泡盛のおすすめを聞きました。樽熟成編に引き続き、こちらはタンク・甕(通称・白モノ)の熟成編。焼酎だけの力でうま味を深めるタンク・甕熟成には、底知れない力があるんです……。おすすめの20本をクリアする頃には、あなたもどっぷり焼酎通?!

焼酎の熟成・貯蔵法 3|木の香りや色とのコンビネーションが新しい味わいをもたらす樽熟成

ウイスキーやワイン、ラムなどと同じく、焼酎を木樽で熟成する試みも、60年以上にわたって、さまざまな蔵が行ってきました。樽熟成の大きな特徴は、お酒に含まれるアルコールによって、タンニンなど樽由来の成分が溶出すること。

タンク熟成の場合、容器から溶出する成分がないので、焼酎の色は無色透明のまま。木樽熟成の場合は、樽の色が移って、液体はどんどん濃い琥珀色になっていきます。

木樽からはさらに、香りの成分であるエステル類もお酒へ移っていきます。時間が経つにつれ、芳醇でまろやかな味わいが生まれていくというわけです。

木樽となる樹種はさまざま。オーク材を中心に、桜、ミズナラ、栗などいろんな樹種による新樽のほか、ウイスキーやバーボン、シェリーなどの熟成に用いられた古樽を使う例もあります。

芋・麦・米・黒糖など原料のバリエーションの豊富さに加え、麹や酵母の種類も数多い焼酎。これをさらに、いろんな種類の木樽に熟成することで、組み合わせは無限大です。どんな焼酎がどんな木樽に合うのか、そのブレンドは……と、各蔵がチャレンジを続けている最中。個性豊かな焼酎が続々と生まれています。

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樽熟成焼酎・泡盛のおすすめ20本|ウイスキーに負けない奥深き銘柄たち! | 熟成を知る、焼酎を楽しむWEBマガジン 「SHOCHU NEXT」

樽熟成焼酎は、ハイボールブームもあり、幅広いお酒好きが気になりはじめているジャンル。しかしはたして、どれを飲めばいいのか……。ここでは、雑誌『Dancyu』の焼酎特集をはじめ、書籍や雑誌などで焼酎・日本酒を中心とした記事を執筆するライターにして、鹿児島酒造組合認定の「焼酎マイスター」を取得し、数々の蔵元を訪れ、日々酔っ払いながら知識を深めている金関亜紀さんが、樽熟成の焼酎・泡盛のおすすめ銘柄を厳選しました。初心者向けの一本から通好みの一本まで、原材料別にご紹介します。

透明の熟成、琥珀色の熟成。熟成焼酎には2つの色がある

タンク熟成と甕熟成の銘柄は、熟成年数が長くなっても色の変化はほぼありません。このため業界的には“白モノ”と呼ばれることも。これに対して琥珀色になっていく樽熟成ものは“色モノ”と呼んだりします。

なお、焼酎には色の規制があり、出荷時点での色の濃さの限度が決まっているため、濾過などを行って色を薄く調整する必要があります。

焼酎の色には決まりがあるって知ってます? 「色規制」と色の秘密が知りたい! | 熟成を知る、焼酎を楽しむWEBマガジン 「SHOCHU NEXT」

樽で寝かせた熟成焼酎を語るときに欠かせないひとつの要素が焼酎の「色」のこと。ほんのり薄い琥珀色をした焼酎の銘柄、皆さんもいくつか思い出せるのではないでしょうか? あの色合い、実は法律で濃さが決まっていることを知っていますか? 何年もの間木の樽で寝かされた液体は、木から染み出した色が移って、かなり濃い茶色になっています。これを決められた濃さの範囲内に調整しているというわけです。

まだまだ謎の多い熟成のメカニズム

このように熟成を経て、焼酎はさらに豊かな香りや味となっていきます。昔から行われ続けているこのプロセス、実はその仕組みは、科学的にまだ解明できていない部分も多いそう。 焼酎の長い歴史にも関わらずまだまだ分からないことがあるなんて……。ロマンを感じちゃいますよね。

ほかに、瓶に詰めたあとでも熟成が行われるという話もあります。実際、余剰な旨味成分を取り除くことなく出荷される新酒を適切な温度管理や紫外線の遮断などをしっかりと行ったうえで寝かせてあげると、焼酎が丸くなる、しっかりとした香味のある焼酎になるという意見もあるんです。

こだわりを持ってつくられた焼酎をさらにおいしくする「熟成」。まだまだ探検のしがいがありそうです!

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